第六十二話:地下墓地
「ここが、女将の言っていた墓地か」
「墓地というより、洞窟だね」
「地下墓地ですね、石材などの採掘跡を墓地として再利用したもののようです」
「気味悪いべな」
『ラッチモ』という聖騎士の話を女将から聞いた僕達は、廃墟群となった村から少し離れた場所にあるかつてのこの村の共同墓地の前にいた。
「いかにもって感じだな? ここにヒントがあればいいんだけど」
「なんかこう、ワクワクするよね!!」
「微かに魔力の流れを感じます。怪しいですね」
女将が言うには、十数年前に村を流行り病が襲い多くの死者がでたという。残された村人だけでは村の存続は難しく、各々別の村や町へ移っていったらしい。
結果あの廃村が生まれたわけだ。ラッチモはその村の出身で、将来を誓った恋人も病で亡くなりこの墓地とは名ばかりの洞窟に埋葬されたとのこと。
『ラッチモはいつか騎士の位を返上して、村に教会を建てそこで恋人と一緒に暮らしたいとよく言っていたわぁ。でも教会の命令で何かの仕事をしていた時に村を流行り病が襲って村はあんなことになったのよ、その時恋人も亡くなったらしいわ……それからは大事な時に帰れなかった自分を責めるように教会の仕事に没頭して聖騎士の位と【クラス】を得たのよ。それが何で今更デュラハンになったのかしら』
やるせなさそうにそう言う女将は、とても悲しそうだった。
ちなみに女将がなぜここで温泉宿をしているのか疑問に思い聞いてみたが『乙女の秘密よ』とはぐらかされた、何か事情があるのだろう。
何はともあれ、あのデュラハンについての疑問は尽きず女将にここいら一帯で怪しげな場所を聞くとこの場所が挙がったというわけだ。
「まぁ、確かに怪しいとすればここだよな」
「というか、騎士団の人も多分お墓を探していたと思う。ここが一見するとただの洞窟だから見つけられなかったんだと思う。私は馬車の中にいればいいって言われていたから詳しくはわかんないけど」
聖女様も意外と制限が厳しいらしい、まぁ騎士達の立場上墓地を調べさせるわけにもいかないか。
叶さんは、やる気十分で高そうな杖を握りしめて今にも走りだしそうだ。
その叶さんを諫めるようにファスが質問する。
「サクラギ……さん。ラッチモという方が死んだ、あるいはデュラハンになった時期はわかりますか?」
「叶でいいよ、ファスさん。これから長い付き合いになるかもだしね。ラッチモさんがいつ死んだのか詳しいことはわからないけど、少なくとも一年前までは生きていたらしいよ。デュラハンのことが話題になったのは最近らしいけどね」
「ありがとうございます。……カナエ、私のこともファスと呼んでください。時期的には地脈の影響があることは間違いありませんが、ラッチモについては現状何があったかはわかりませんね」
「難しいこと考えるより、入ってみればわかるべ」
(ソウダ、ソウダー)
トアとフクちゃんが急かしてくる。フクちゃんは叶さんに対して人見知りしているのか念話も控えめにファスのローブに隠れている。
「同感だな。中は暗そうだしランプを点けて入ってみるか」
この場合はランタンの方が呼び方として正しいのか? とにかく魔石で光るという便利アイテムを取り出そうとすると、ドヤ顔の叶さんが手で止める。
「ふっふーん、必要ないよ【光玉】」
そう言って、杖を振るとソフトボール大の光源がフワフワと浮かぶ。おおぅ便利。
「クッ、魔力の流れは視ました。後で練習します」
ファスさんが悔しそうにしていらっしゃる、見てできるもんなのか。
叶さんが出してくれた明かりを頼りに洞窟に足を踏み入れる。
微かに風が抜けているのがわかる。空気は通っているようだ、少し入っただけなのにどこかかび臭い。
慎重に進んでいく。洞窟の中は少し下がったかと思ったら、次には少し上がり、そしてまた下がる。そんな道をしばらく行くと、石材を取っていた跡なのか通路の両側にいくつもの部屋がある場所へでた。
白壁に雑にくりぬかれた部屋がいくつもある。入り口には乱雑に文字が彫られていた。
「ファス、何が書いてあるんだ」
「見たところ、採石場のころに書かれた仕事の注意と、その後に書かれた死者への祈りのようです『彼らの苦しみに終わりが訪れ、彼らが救われることを願う』……ここからが墓地のようですね。各部屋に死体が置かれているようです」
「一部屋ずつ見てみるか」
「いえ、その必要はありません」
「だべな、明らかにおかしな匂いがするべ」
(オクノミギガワ)
「全然、わかんないんだけど……とりあえず加護をかけるね【星光鱗】、これで多少なら呪いとか攻撃からも守ってくれるよ」
僕と叶さんはわからないが、どうやらファス達は異様な気配を察知したようだ。
光の粒がうっすらと僕らの周りをまわる。少し温かい。
「ありがとう、行ってみるか」
「ご主人様は下がってください。先頭は私が行きます。私ならこの場所でもしっかり見えますし、何があってもご主人様なら回復できますから」
いつもなら大人しく前に行かせてくれるファスが今回に限って止めてきた。
叶さんに対抗意識を持ってるのか? ファスの力が劣っていることなんてないと思うんだけどな。
「いや、一番丈夫な僕が先に行くべきだ。ファスの言うことも一理あるだろうけど、僕が行きたいんだ……なんていうか男、だし」
じ、自分で言って恥ずかしい! いやでも嘘ではないし。
「……わかりました、気を付けてくださいね」
「あぁ、わかった」
「うぅ……真也君、今のはずるいよ」
「オラは後ろの通路を警戒しとくべな、旦那様なら大丈夫だべ」
(イチオウ、イト、オイテル)
退路はフクちゃんとトアが確保してくれるらしい。こういう時パーティってのはありがたいよな。
「頼んだ。じゃあ、行ってくる」
叶さんの光源を連れて(新しくもう一個出してくれた)部屋に入る。ムッっと漂ってくる異臭に顔をしかめる
部屋は思ったよりも広い、ちょっとしたガレージほどある。石材を掘っていた跡なのか入り口とは比べ物にならないほどに几帳面に削られた壁には無造作に骨が積み重ねられている。布切れもある。
そして、正面には両手を組んで伏したまま、首が落とされた死体があった。
周囲の骨と違いその死体はまだ肉がついていて、部屋の異臭の正体はこの死体のようだ。
男が伏すその先には、枯れた花束が一つだけ置かれている。
僕の後に入った、叶さんが息を飲む、ファスは冷静に周囲を観察しているようだ。
「……この人がラッチモさんなのかな?」
叶さんが質問してくる。杖を握りしめ少し震えている。
「多分ね、そんで正面だけ不自然に死体がない」
「おそらくはそれがあのワイトでしょう、この死体を見るにどうやらあの鎧の下に体はないようですね。……ご主人様、何か気づきませんか?」
ファスが冷静に返してくる。その目線は横の壁に置かれた白骨に注がれているようだ。
「いや、わからないけど」
普通にガイコツだ、強いていうならかなり激しく損傷しているようだけど。
ファスはしゃれこうべを一つ持ち上げ明かりにかざす。
「あっ、わかった。病気で死んだって話なのに壊れてるんだ」
「カナエの言うとおりです。見てください。これなんてまるで牙で穴があけられたようだとは思いませんか?」
「確かにそうだな」
明かりに照らされるガイコツを観察してみる、最初は年月でそうなったものかと思ったけど、周囲の白骨を見ても損傷しているものがほとんどだった。
「となると、病気で廃村になった、って話が疑わしくなるな」
「一度戻って、女将に確認する必要があるかもしれません」
「一回戻るか」
「よろしいのですか? この死体からは魔力を感じます。この死体をどうにかすれば、デュラハンにダメージを与えられるかもしれませんよ」
ファスの提案を受けて、もう一度ラッチモと思われる死体に向き直る。
一心に謝っているような、後悔しているような、そんな死体を見ながらあのデュラハンを思い返す。
ワイトを守る騎士、その姿が浮かぶ。
どんな事情があるのかはわからないが、少なくともラッチモという騎士がしていること、したかったことはわかる。
守れなかった存在への懺悔、後悔、そして自分自身を許せないという気持ちがその死体から痛いほどに伝わってくる。
彼は自ら望んで『そういう存在』になったのだ。生涯を捧げた信仰を捨てても、あの首無しの騎士になりたかったのだ。
その気持ちをないがしろにする気にはなれなかった。
僕だって、自分の首に縄をかけたのだから。
「いや、これ以上この場所を侵すのは止めよう」
「……わかりました。ご主人様…ご主人様は生きています。ここにいます、だからそんな辛そうな顔をしないでください。貴方が悲しむことなんてないのですよ」
ファスが僕の目じりに手を当てる。自分でも気づかなかったが僕は泣いていた。
それに気づいて、慌てて涙をぬぐう。感傷的になりすぎだ。
叶さんもいるってのに何やってんだ。そんな僕を見て叶さんは思いつめた表情で口を開く。
「……真也君。あの日……転校の話を聞いた日。私、先生に確認したの。そうしたら真也君の転校の話なんて聞いたこともないって言われたわ……でも真也君の様子が冗談だったようにも思えないし……あの日、貴方に何があったの?」
そう言った叶さんは泣き出しそうだ。ここでそのことを聞くということは何か連想したのだろう、聡い彼女のことだ、大まかなことは想像できているに違いない。
「聴きたいなら、後で話すよ。情けない話だけどね。ここにいたらどうにも気持ちが引きずられそうだ」
「そ、そうだね。私ちゃんと聴くから、ちゃんと話してね」
パァンと自分の頬を叩く。気持ちを切り替えよう、あの日のことを話すことは正直まだ少し抵抗があるけど、ファスやトア、フクちゃんのおかげで少しだけ向き合えるようになったと思う。
部屋の外で待機していた、トアと合流しそのまま来た道を戻り洞窟から出る。時間は昼をちょっとすぎたくらいか、食欲はまったくわかないが。
宿へ戻る道すがら、トアに部屋で何があったかを大まかに話しながら、ファスや叶さんとデュラハンについて話をする。
「とりあえず、女将に確認だな。それ以外に情報を得たいなら教会から聞くしかないけどどうすればいいかな? あのお爺さんとか優しそうだし話してくれないかな」
「えーと、バルさんのことかな、あの人は信仰心がとても強いから教会のマイナスになるようなことは話さないと思う、どっちかというと騎士の人たちの方が口は軽そうかな」
「聖女の御威光でなんとかならない?」
「うーん、ちょっとなら何とかなりそうだけどなぁ」
何か良い方法はないもんかとファスを見ると、こっちを見て首を傾げていた。
「あの、ご主人様。失礼ですが何を悩んでいるのか理解できません」
「んだべ、もっと楽な方法があるでねぇか」
(カラダニキクノダ)
「……なるほど」
……いや、フクちゃん。何不穏なこと言ってんの!? ファスとトアもうんうんと頷かないで!? というか叶さんもその手があったかみたいな風にリアクションするんじゃないよ!!
過激なことを言い始めたファス達を止めようとすると、道の先から誰かが馬に乗って走ってきた。
意識を取り戻した騎士さんかな、ダメだ。今この場所は危ないぞ(主に僕のパーティが)。
「貴様ら! 下賤な冒険者の分際でよくも聖女様を連れて行ったな! 特にそこの小汚い男! 穢れが移ったらどうするつもりだ! 金ならくれてやるからとっとと失せろ!」
金髪のナイスガイ君が馬に跨ったまま怒鳴ってきた。小汚いって……まぁ確かに墓地の探索で少し汚れているけど。
「こいつにしましょう」
「異議なしだべ」
(カル?)
「私も賛成」
心の中でナイスガイ君に合掌する。
次の瞬間、フクちゃんにより悲鳴すら上げる間なくナイスガイ君は気絶させられるのだった。
次回予告:ファスさんの尋問
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