第六十一話:聖女はオカルト好き
倒れた騎士達は女将が開放してくれた宿の宴会場に運び入れた。
運んだ騎士は意外にもほとんどが若く、僕と同じ年かそれ以下と言った感じだ。
ちなみに全員イケ面です。女子が好きそうな甘いマスクとでも言えばいいのかホストでもすりゃ一儲けできそうな者が多くみられた。いや別に妬ましくなんてないんだからね!
「これで全員だな、二十人くらいか?」
「十八人ですね。お疲れ様でしたご主人様」
「ファスが騎士達の体重を軽くしてくれたから、楽だったけどな」
騎士達(中には神父のような恰好をしているものもいた)をフクちゃんの糸で何人かごとに固定して、ファスの【重力域】で軽くしたおかげで数往復程度ですんだのだ。
さてと、部屋に置かれた騎士達を見てみる。傷を負ったものワイトにやられたのか呻き声を上げているものと症状は様々だが、死にそうな人はいないようだ。
ということでトアが運んでくれた桜木さんのダメージを先に【吸傷】で引き受ける。
頭に手を置いて、傷や疲労を引き受ける。
「んっ……ここは?……吉井君?……」
ダメージを引き受けていると、桜木さんの意識が戻った。
「おはよう、もうちょいでダメージを引き受けきれるから、待っててくれ」
「引き受けるって……体が軽い、て、ていうか頭、私ナデナデされてる!?」
桜木さんのコロコロと表情が変わっていく、ホント表情豊かな人だな。
「悪いとは思うけど動かないでくれ。大丈夫、ちゃんと手は洗ったから」
「そ、そういう問題じゃないよ。あっでも本当に身体が楽になってる」
「ご主人様のスキルです。相手のケガや疲労を引き受けることができるのです」
目深にフードを被ったファスが桜木さんに説明する。ちなみにフクちゃんはファスのローブの中で多分寝ているっぽい、トアは僕等と騎士達に食事を振舞うべく女将と炊き出しの為の準備をしにでている。
トアの手伝いに最初は渋った女将だが、今は人手不足の為受け入れたようだ。
十分にダメージを引き受けたと判断して頭から手を放す。桜木さんはファスを見て首を傾げている。
「えーと、貴方は闘技場で会った吉井君の……」
「ご主人様の一番奴隷のファスと申します」
「あぁ……うん。千早ちゃん達から聞いたよ。異様に魔力の高い子が吉井君の奴隷をしているって。吉井君? 理由があるんだよね?」
捨て犬のような目をして桜木さんが尋ねてくる。千早ってのは、小清水のことか。草原で襲ってきた侍ガールだ。
そういや白星教会へ行くって言ってたな、合流していたのか。
「小清水達と会ったのか」
「へぇ……吉井君。小清水さんのこと呼び捨てにしてるんだ」
一転してニッコリと笑みを浮かべているが、その目はまったく笑っていない。
冷や汗が背中を伝うのを感じる。
「い、いや。なんていうか流れで」
「じゃあ私のことは桜木ってよんでよ、ううん、叶のほうがいいかな」
「待って待って。桜木さん落ち着いて今はそれどころじゃないだろ。とにかくあの場所で何があったのかを話してくれ」
「…………」
うわぁ、顔を全力で背けて無視された。黒髪から覗いている耳は真っ赤なあたり自分でも恥ずかしいこと言っていると思っているのかもしれない。ここで突っ込むのは野暮か、というかさっきからファスが無言のまま圧力を強めている気がするんだけど。
「あー、叶……さん」
いや、名前の呼び捨ては無理だ。元の世界の感覚がでてきてどうにもこっぱずかしい。
「うーん。まぁいいか、じゃあ私は真也君って呼ぶね」
「それでいいよ。なんていうか、こっちの世界へ来てこんな思いをするとは思わなかったよ」
「フフ、真也君あんまり女子と話すタイプじゃないもんね」
それはスクールカースト低いだけだからという言葉を喉で止める。
なんだか調子乱されっぱなしだ。
「……そろそろ、お話を進めてもよろしいでしょうか?」
まるで冷気を伴っているかのように静かにファスが僕と叶さんの間へ入ってきた。
「そ、そうだな。なんでアンデッドに強いはずの聖職のクラスで固められた叶さん達がやられたんだ?」
「えっと、それはね……その前に【星癒光】」
叶さんの杖から舞い上がった淡い水色の光が、部屋で寝かされている騎士たちに降り注ぐ。
「これでケガは大丈夫かな? 騎士さん達が目覚めると面倒だから、別の場所で話したいんだけどいい場所あるかな?」
「じゃあ、僕等の部屋に来ればいい」
「『僕等の』ってのが気になるけどね、じゃあ案内してよ」
「それでは私がご案内します」
ファスさんから怒りのオーラを感じるんですけど……。とりあえず、宴会場を出て僕らの部屋に戻る。
朝焼けに照らされる庭園は夜の雰囲気とはまた違う雰囲気でいい感じだ。
「わぁすごい!」
「すごいよな、なんでこの宿を使わなかったんだ?」
「ライズさん、えーと騎士団の人に護衛の問題があるから、馬車の中にいて欲しいって言われちゃったんだよね。でもこの光景を見たら泊まりたくなっちゃうな」
「温泉もよかったぞ」
「あ~いいなぁ。私も入りたかった。一応あの馬車の中にお風呂とかあるんだけどね」
あの馬車もいつぞやの竜車のように中の空間が広げられているらしい。
「さて、座ってくれ。それで何があったんだ?」
「私的には真也君に何があったのか知りたいんだけど? 手紙を読んだけど、貴族達に注意しろって書いてあるだけで、私、心配したんだからね。闘技場から出てお屋敷に向かうと真也君が死んだって聞かされて本当に悲しかったんだから」
「僕のことはまた今度話すよ。まずはあのデュラハンのことを教えて欲しいんだけど、今晩また戦うかもしれないし」
やっぱり僕は死んだことになっているのか、のんびりと冒険者生活したい身としてはその方がいいから別にいいけど。
「そう言われても実は私もよくわからないんだよね。騎士の人たちに半ば無理やり連れてこられたし」
「そうなの? 聖女様なんだし、融通利きそうな立場かと思った」
「聖女様って呼ぶのマジで止めてね。慣れたと言えば慣れたけど、そんな柄じゃないの私が一番わかってるし…それであのデュラハンなんだけどね、ここだけの話、教団でも相当高位の聖騎士が魔物になってしまった存在らしいの」
桜木……叶さんは、割とコアなオタク(主にオカルト)だし確かに聖女って柄じゃないかもな。
僕の横に正座しているファスが叶さんに質問を投げかける。
「聖職がアンデッド化したという話は聞いたことがありません。聖職のクラスを使うアンデッドというのも初めて見ました。よほど特別な事例なのでは?」
「普通はありえないって聞いたわ。それに教会って魔物を女神さまの敵として目の敵にしているから、その聖騎士の人がアンデッドになったことが公にばれたら不味いってことで秘密裏に討伐したいみたい。それこそ【聖女】を使う許可が下りるほどにね。私のスキルってアンデッド相手ならほとんど抵抗なく倒せるから。あのデュラハンには全く効かなかったけどね。私のスキルも他の聖職のクラスの人たちのスキルも完全に防がれて、その隙にワイトの絶叫や呪いで少しずつ削られて……もう駄目かと思った。真也君ありがとう、助けに来てくれた時本当に嬉しかった」
「間に合ってよかったよ。それにしても転移者のスキルを防ぐほどの魔物か、厄介だなぁ」
ゲーム風に言うなら『アンデッド特効』とか持ってそうな叶さんが手こずる相手にどうやって立ち向かえばいいのか……。
「疑問なんだけど、なんで聖騎士はアンデッドになったんだろうな?」
「それについては教えてもらえなかったんだよね、なんとか聞き出したのはあのデュラハンを『ラッチモ』って騎士達が呼んでいたことと、ここに来る途中に廃村があったでしょ? そこの出身だってことくらい。ねぇ、気にならない?」
叶さんがグイっと身をこっちへ寄せてくる。その目は玩具を前にした子供のように輝いている。
「一応聞くけど、何が?」
「もちろん、教会が何を隠しているかよ! 本来神の加護があるはずの聖騎士がなぜ首無しの騎士になったのか、なぜワイトがその首を持っているのか、二体の魔物の関係は一体なんなのか、まるでTRPGをしてるみたいじゃない?」
「叶さん、そういうの好きだもんね」
都市伝説の裏話とか怪談の背景とかの話をすると止まらない人なんですよこの人。
というか、異世界に来てTRPGも何もないと思うんだけど。でも確かに気になる。あのデュラハンは確かにワイトを守っているように見えた。
「倒れている騎士さん達には悪いけど、今がチャンスじゃない? 明日一緒に調査に行こうよ真也君!」
「ファス、どう思う?」
ファスにもお伺いを立てると叶さんがプゥと頬を膨らませる。あざとい表情なのに様になるあたり、器量が良いって得だよな。
「私としても興味ありますので、調査をすることは賛成です。フクちゃんやトアも交えて皆で調べてみましょう」
『皆で』の部分を強調してファスが宣言した。というかファスさんがさっきから目を合わせてくれないんですがどうすればよいのでしょうか? ダメだお腹が痛くなってきた。
ファスのお許しも出たし、とりあえずこの場はお開きにしようとすると勢いよく部屋の扉が開かれた。
「話は聞かせてもらったわ!!」
女将がクネクネと気持ち悪いポーズをとってそこに立っていた。
「き、気づきませんでした……」
「……びっくりしたぁ」
「いつからそこに?」
ファスが横で驚愕している様子を見るに【精霊眼】をすり抜けたのかあの女将。
「盗み聴きするつもりはなかったのよぉん。ただ、乙女達の戦場に踏み入るのは大人のレディとしてマナー違反かと思ってね。安心して女将としてお客の秘密は絶対に喋らないわ」
バチンとウインクをしてくる。夜通しお爺さんや騎士達の世話とかしていたはずなのにタフだな。
「えと、そうしてもらえると助かります」
女将にドン引きしながら叶さんが返答する。そりゃ教会が公開したくない情報かなり喋ってたからな。
女将は扉を閉めると、シナを作るのを止めて真剣な表情で近寄ってきた。
「今の話に出てきたラッチモなら、よく知っているわ」
「えっ?」
「私が昔冒険者をしている時に何度か共に戦った男よ。清廉潔白で信仰心の強い奴だったわ……」
女将がやりきれないといったような悲し気な表情を浮かべる。
「女将、冒険者だったんですか」
「ええ、こう見えて、昔はそれなりに名の知られた冒険者だったの『鬼喰らいのバーサーカー』って呼ばれてたわ、フフッ意外でしょ?」
「いえ、びっくりするくらいしっくりきます」
即答した僕に女将の殺気が突き刺さった。
更新が遅れて申し訳ありません。環境が変わってしまい少し戸惑っております。
次回予告:首を差し出した騎士と受け取った娘
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