第五十六話:ゴブリン狩りは冒険者の基本
森に入って四日目、しばらく森でゴブリンを狩りながら(無論チンパン人形は装備してます)進んでいたが、どうにも量が多すぎる。森にいた他の冒険者からの情報もあり、もしかしたら大きな巣ができてるのではと僕らは考え、ファスの索敵でとにかくゴブリンが多い場所を目指し巣を見つけた。
木々を組み合わせた簡易なベースキャンプのようなものが広がっており、中には人間の死体のようなものもある。ギルドへ戻って応援を呼ぶ選択肢も考えたが、まだ【威圧】を習得してない以上帰りたくはなかった。振り返ると、パーティーの皆もやる気十分のようだ。
「さぁ、来いっ!! こっちだ!!」
人形の尻尾を摘みシャンシャン音が鳴り始める。
それにつられて群がってくるゴブリンに対して大声を上げて威嚇し注意を引く。
……頭にチンパン人形を乗せてなので全然締まらないけどな。
「弓を持っている奴は、任せるべ【飛斧】!!」
「やっぱり、巣があるようですね。ついでです。全滅させましょう【魔氷杭】【生命吸収】」
(コロス)
トアの斧がゴブリンを巻き込みながら轢き殺していく。あの斧、最初は一体に当たったらそのまま止まっていたのだが、スキルのレベルが上がるにつれ(大体ゴブリン100体ほど狩ったあたりかな)、対象に当たっても止まらず延々と回転し飛び続けるようになった。
まるで小さな竜巻だ。複数体のゴブリンがミンチになって宙に舞っている。なんて凶悪な……。
一方ファスは、これまた新スキルだろう。飛び掛かってきた爪の長いゴブリン(ホブゴブリンとかレッドキャップやソーサラーゴブリン等、種類が多すぎて何のゴブリンかわからない)達に地面から飛び出た氷の杭が刺さっていく。
しかも死にそこなったゴブリンもしっかり【生命吸収】で命を刈り取っています。ゴブリン視点だと、もはや死神に見えているんじゃなかろうか。
そして、真打のフクちゃんです。戦闘モードの1.2m(前見た時よりかなりでかくなっている)の巨蜘蛛となって、八本の足を使い縦横無人に森を駆け抜ける。
設置した糸、操り動かす糸、どちらかに捕まれ、運が良ければ切り刻まれて即死。運が悪ければ糸に染み込んだ毒で倒れていく。周りには骨まで食い込んだ糸に絡まり毒で苦しみもがくゴブリン達が散乱している。そんなゴブリンを鋭い脚先で貫きキル数を稼いでいる。
何よりも、糸を駆使したバリケードで、僕らが囲まれないように敵を誘導してくれるのが本当に助かる。 フクちゃん……恐ろしい子!!
さて、僕は……。
シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン
「あ”あああああうるせええええええ!!」
絶え間なくシンバルを叩き続ける人形に辟易しながらもゴブリン達を殴殺し続けていた。
目を血走らせて、襲ってくるゴブリン達を時には新技の手刀で切り伏せ、抜き手で貫き、頭を【掴み】握り潰す。パーティーの中ではダントツで血みどろです。病気とか大丈夫だろうか?
ほとんどがマドモンキーよりも弱いとはいえ、数は力だ。皆が頑張ってくれているといえ、いつ押し切られてもおかしくはなかった。それでもパーティーとして機能し続けれているのは、フクちゃんの誘導と……悔しいがこのチンパン人形だった。
直情的なゴブリン達はとにかく僕(というよりチンパン人形)を狙ってくれるので、僕の周りに集まる雑魚をファスが的確に魔術で打ち抜き、魔術を抜けたゴブリンをトアが減らし、全体のフォローをフクちゃんが行う。
引っ掻かれたり、噛まれたり、時々やけに素早いゴブリンに足を切られそうになったりしたが。
【拳骨】で防御を高め【自己快癒】で回復していくので、狙いが集まることに関しては望むところだった。
僕が立ち続けられる限り、このパーティーはしぶといぞ!!
「ファス、敵はあとどれくらいだ?」
「半分も残っていません。今見えているゴブリンで最後です」
「トア、まだ戦えるか?」
「……このペースならまだいけるだ。でも、もしもの為に、逃げる力は残しておいた方がいいと思うだ」
(ニゲミチ、ツクッテルヨ)
「助かりますフクちゃん。ご主人様は大丈夫ですか? 返り血ですごいことになっていますが……」
「問題ないよ、さっさと掃討して水浴びでもするかな。トア、何度も言うけど無理しないようにな」
トアはゴブリン狩りのおかげでレベルが上がってはいるが、僕等のパーティーの中ではまだ戦闘経験は少ないからな。
「旦那様に言われたくねぇだ、危ないと思ったら、すぐに逃げるから大丈夫だべ」
「よーし、じゃあもうひと踏ん張りだ! 行くぞ皆!!」
ゴブリン達を迎え撃ちながら、敵の注意を引くということの意味がだんだん分かってきたような気がしていた。
常に殺気を浴びながら、気勢を保ち、最前線で己とパーティーを鼓舞し続ける。
【威圧】というスキルではなく、戦士としての立ち振る舞いが求められている。そんな気がする。
熱くなる気持ちに引き寄せられるようにゴブリン達がより多く集まってくる。
「これだけ引き付けてもらえれば……ご主人様、派手なの行きますよ! 合図したら引いてください。【魔水喚】【重力域】、すぅうううう……今です!! 【魔氷弾】!!」
フクちゃんの誘導とチンパン人形のおかげで僕の周りに集まったゴブリンに、上空に召喚した水球が槍の形で凍り付き【重力域】により加速され振りそそぐ。集まったゴブリンはもちろん、木に登っていたゴブリンもまとめて貫く。
……ちょ、あの、ガッツリ、ゴブリンが減ったんですけど。なにその合わせ技。
「おまけです『ガァアアアアアアアアアアアアアアアア』」
咆哮一発【息吹】によりファスから飛び出した黒い炎弾はボウリングのピンのようにゴブリン達を爆散させる。
「魔力を少し使いすぎました。あとは皆に任せます」
「というか敵がほとんど残ってないだ……おっそろしい技だべな」
(ムー、アトハ、ボクガ、ヤルノー)
「いやいや、一応僕の【威圧】の訓練だからね!?」
明らかに、皆の方が成長著しいんだけど!? もうファスさんが転移者でいいんじゃないかなぁ……。
咆哮により、戦意すら打ち砕かれたゴブリンを処理していき。
ついに――。
「はいっ。周囲に敵はいないようです」
「匂いもしないべな」
(イトニモ、ダレモイナイ)
「終わったぁ~」
ゴブリン達の殲滅に成功した。いやぁ、途中とんでもない量のゴブリンが襲ってきたときはどうなるかと思ったよ。
「あれ? ご主人様。お猿さんの人形鳴りやんでませんか?」
「えっ? そういやそうだな」
「尻尾引っ張ってないのに止まっているべな」
(カクニンー)
「……その前に水浴びと火の準備させてくれ」
「剥ぎ取りもあるべ」
「勘弁してくれ……」
ゴブリンの死体から最低限の部位を剥ぎ取り、近くの沢で血だらけの身体を皆で洗い(僕とフクちゃん、トアとファスで別れて) 、フクちゃんが糸を張り安全が確保された場所で暖をとる。
指先からじんわりと温まってきていい感じだ。
「やっと、一息ついたよ」
「釜戸用に石も組み終わったし、ご飯作るだよ」
「待ってくださいトア、その前に鑑定をしましょう」
「そうだな、この三日でどれだけ上がったか気になるし」
というわけで久しぶりの鑑定タイムだ。まずは僕から。
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名前:吉井 真也 (よしい しんや)
性別:男性 年齢:16
クラス▼
【拳士LV.32】
【愚道者LV.31】
スキル▼
【拳士】▼
【拳骨LV.30】【掴むLV.28】【ふんばりLV.30】
【呪拳(鈍麻)LV.15】【手刀LV.10】【威圧LV.1】
【愚道者】▼
【全武器装備不可LV.100】【耐性経験値増加LV.20】【クラス・スキル経験値増加LV.19】
【吸呪LV.31】【吸傷LV.25】【自己解呪LV.24】【自己快癒LV.24】
【呼吸法LV.5】
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おおぅ、前鑑定した時と比べると、10レベルほども上がっているのか、ダンジョンマスターを倒したのが大きかったのかな?
スキルの方は、新たに【手刀】と【呼吸法】が入ってるな。【手刀】はそのまんまだな、手刀に魔力でできた刃を付与するスキルだろう。
そして【威圧】を習得していた。レベル1ということはさっきの戦闘で習得したのか。
頭の人形を引っ張ると、スポンと取れた(なんだか馴染んでいて取るの忘れてた)。
皆にもみせると、ファスが首を捻っていた。
「どうしたんだファス?」
「えと、違うかもしれませんが、【クラス・スキル経験値増加】のスキルって前は【クラス経験値増加】じゃありませんでしたか?」
どうだったっけ? 覚えてないな。前の鑑定の結果をメモしとくべきだったか。もしファスの言う通りスキルが変わっているなら、かなり良い変化なのではないだろうか。
「そうだったっけ?」
「そうだったと思います。そして【威圧】の習得おめでとうございます。さすがご主人様です」
「すごいべ旦那様、【威圧】を持ったなら近接職として一人前だべな」
(マスター、エライ)
うん、嬉しいもんだ。この猿にも世話になったな。人形をアイテムボックスに入れて、紙に視線を戻す。
「他には……この【呼吸法】ってなんだろうな?」
「すみません。知らないスキルです」
「オラも知らねぇべ」
(ワカンナイケド、マスター、スゴイ)
うん、フクちゃんに褒めてもらえるなら嬉しいよ。僕のステータスに関してはこんなところかな。
「じゃあ次、ファス」
「はい! ……なんだか緊張します」
チョコンと、よって来るファス(防具は脱いで薄着)に鑑定紙を置いて、文字が浮かび上がるのを待つ。
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名前:ファス
性別:女性 年齢:16
クラス▼
【魔導師LV.18】
スキル▼
【魔術師】▼
【精霊眼LV.15】【耐毒LV.20】【耐呪LV.50】
【同時詠唱LV.10】
【竜魔法(黒竜)】▼
【息吹LV.18】【恐怖LV.8】【生命吸収Lv.5】
【闇魔法】▼
【闇衣LV.4】【重力域LV.15】
【水魔法】▼
【魔水喚LV.18】【魔水弾LV.18】【魔水壁LV.11】
【巻込泥沼LV.1】
【氷魔法】▼
【魔氷弾LV.10】【魔氷杭LV.5】【氷雨LV.1】
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ファスさん、この前まで1レベルだったのにこの短期間で18レベルなのか。
新しいスキルも選り取りみどりだな。ファスは紙を見ると驚いたように声を上げる。
「18レベルですか!? 上がりすぎです、やはりご主人様のスキルはパーティーにも適用されると考えるのが自然ですね。スキルについては、正直これが普通なのかどうなのか私にはわかりません。お婆さんからは魔術については習いませんでしたから……。アマウさんに聞いてみようかと思います」
「そうだな、それにしても、頼もしいステータスだな。さっきも敵を一掃していたし、これからも頼むな」
「はい、お任せください!」
多分普通ではないと思うけどな。そしてなんつうスキルの量だ。
やっぱり魔術師としての素養は尋常じゃないようだ。パーティーとしてはありがたい限りだけど、負けてられないので少し焦っちゃうな。
「次はフクちゃん」
(キョヒ)
えっ!? プイっとフクちゃんはファスの頭に逃げる。なぜだフクちゃん?
ショックで茫然としているとファスがフォローを入れてきた。
「あー、えーと、フクちゃんは今習得しようとしているスキルを、ご主人様に見られるのが恥ずかしいのだと思います」
「恥ずかしい? どういうことだ」
(シークレット)
「実際、どこまで進んでいるんだべ?」
(モウチョット)
どうやら、ファスとトアはフクちゃんの新スキルについて知っているようだ。
むぅ、少し寂しいな。なんで僕は見ちゃダメなんだろう?
「まぁ、強制はしないけど。フクちゃんの新しいスキル楽しみにしとくな」
(ウン、マッテテネ、マスター、アノネ、アノネ、ボク、ガンバル)
精一杯ジェスチャーで頑張ると伝えてくるフクちゃんを見ていると、なんか考えるのが馬鹿らしくなった。フクちゃんのお腹を撫でて抱き寄せる。
「あぁ、待ってるからなフクちゃん。でも無茶しちゃダメだぞ」
(リョウカイ)
というわけでフクちゃんが鑑定を拒否したので、最後にトアだ。
「確かに、なんだか緊張するだ」
そっと紙を頭に当ててみると、文字が浮かび上がってきた。
――――――――――――――――――――――――
名前:トア
性別:女性 年齢:19
クラス▼
【料理人LV.19】
スキル▼
【料理人】▼
【解体LV.15】【味覚強化LV.19】【栄養増加LV.16】
【毒耐性Lv.6】【高速調理LV.14】
【片手斧】▼
【飛斧Lv.11】
【黒犬】▼
【腕力強化Lv.5】【嗅覚強化LV.5】【痛覚耐性LV.4】
【???】
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多分新しいスキルはないようだ。でもレベルはかなり上がっているし、これなら少し安心できそうだ。
というわけで紙を皆に見せる。
「ファスのに比べたら地味だべな」
「でもすごく成長が早いと思います。生産職はレベルを上げるのが大変だと本で読んだので、やはりトアはすごいです」
(トア、スゴイ)
「旦那様のスキルのおかげだ、しかし成長を早めるスキルってとんでもない話だべ」
「そうですね、このことは内密にしましょう。よろしいですねご主人様」
「ああ、それでいいと思う。これで皆のステータスの確認ができたな」
「それじゃあ、メシだべな」
「手伝います」
「じゃあ僕も」
「「ご主人様(旦那様)は座って(いるべ)いてください」」
と二人に言われ、ショボンとフクちゃんを撫でてご飯を待ったのだった。
別に雑用とかしてもいいんだけどなぁ。今度料理とか作ってみようか。
というわけで、ステータス回でした。
ゴブリン達の中には色々な亜種がいたようです。
次回予告:温泉回です
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