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【コミック二巻4月15日発売!】奴隷に鍛えられる異世界生活【3000万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第十三章:海と船乗りと転移者編

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第五百話:風読む料理人

 ガスが噴出するような音がして岩石が複数の巨大な亀から発射された。


「真也っ!」


「大丈夫だ。叶がいる」


 千早が見張り台から身を乗り出して、紬が服を引っ張って飛び出すのを止める。発射された岩は魔力による制御下にあるらしく不自然な軌道でブレながら帆船に向かっていた。


「お手並みを拝見させてもらうか【死線】よぉ」


 横で獲物に手を置きながら、ニヤニヤと笑うグバを千早と紬が睨みつける。

 文句を口にする時間はもうない。だが、すでに頭は落ち着いていた。あの船には防御に関しては転移者の中でも最強格である叶がいる。あの程度の岩石なら問題ないはずだ。


「え、何でっ!?」


 だが、叶は結界を張るどころか動く気配すらない。ファスもゆっくりと杖を取り出しており真也に至っては目の前に岩石が迫っていると言うのに手甲を締め直していた。



※※※※※



 周囲から船が消えた時点で何かあるとは思っていたがまさか警告なしに攻撃されるとは。後ろでは水底から鎖が浮いて来て完全に退路を塞いでいるし……。


「僕等って新しい場所に到着するたびに手荒い歓迎を受けている気がするなぁ」


 ギチギチと手甲あいぼうを締め付けながらため息をつく。どうして平和的にならないんだか。


「ご主人様。言っていることと表情が伴っておりません」


(マスター、笑ってる)


「おっと……」


 ジト目のファスに注意される。つい、感情が出てしまった。霊食によって目覚めた直感と武人としての経験によってこの位置からでもはっきりとわかる。

 千早、強くなったんだな。僕も色んな事を経験したんだ。すぐにでも拳と剣で語らいたい。

 だが、まずはあと数秒も経たずにこちらへ直撃する岩への対処が先か。といっても、僕ができることはすでにない。


 岩石が発射される前にはすでに対応されていたのだ。

 眼前に迫りくる岩が宙で止まる。否、それは押し返す動きの前にそう見えたに過ぎない。

 

 唐突だが、この船旅で最も成長したのは誰か?

 魔術核を使った魔獣を生み出し、創生魔術を一段階上に引き上げたファス。

 時間に干渉するとかいう、禁忌の領域へ笑顔で押し入った叶さん。

 海の魔物をたらふく腹に収め、その【スキル】や【毒】を簒奪したフクちゃん。

 武の極みに指をかけ、皆との修行を経て少しずつ道を得つつある僕。

 日々の生活の中で、家族を想い不安と戦いながら本来の笑顔を取り戻したポカルだって大きく成長したと言えるだろう。


 しかし、最も成長したメンバーと言えば……。


「【飛竜斧:獣駆】」


 次の瞬間には大気が歪んで見えるほどの暴風が吹き荒れる。見えない爪に切り裂かれたかのように岩がバラバラに引き裂かれ、港を囲む塔や壁に風はぶつかり獣の遠吠えのような音を響かせてながら上空へ昇っていく。その中で一際高い音を響かせるトアが放っていた二本の手斧が船に戻って来る。 

 パシンと小気味の良い音を響かせてトアが斧をキャッチする。

 

「今のは警告だべ。次に攻撃があればオラの風はこの港の全ての壁や塔を食いちぎるだ」


 ……はい、トアさんです。今の言葉は決して根拠のない脅しではない。今の彼女は本当にそれができてしまうのだ。

 船の操縦を一手に引き受けていた彼女は修行らしい修行はしてないと思っていたのだが、フクちゃんに操縦を任せてちょっと模擬戦をしてみるととんでもないことをし始めたんです。これもひとえに僕やファスが無茶振りで航海術を習得させようとしてしまったからだ。


『む、無理だべー、絶対に転覆しちゃうだー』


 と半泣きになりながら、広〇苑数冊分の航海の知識を無理やりに脳に詰めて混んだトア。しかし、異世界の海は甘くない。航海に於いて種族的優位のあるマーマンですら一人前と呼ばれるまでに十年はかかるらしくその道は長く険しい。当然僕だって本気でトアが完璧にできるとは思っていない。ポカルのスキルで船は勝手に動く幽霊船だし、後は皆で支えながら航海をするつもりだったはずだ。


 しかし、トアはそんな僕等の無茶振りに真正面から挑んだ。人一倍責任感の強い彼女は自分が失敗すればパーティーが危険にさらされると必死で知識を脳に詰め込んで、足りない知識と経験を埋めるように風をその耳と鼻で読み続けた。始めは何もわからなかったが料理人として日頃から厨房で熱を計り、時間を測り、重さを量ることで味を捕えて来た料理人はついに大気の流れを読み取るに至る。


『旦那様が言っていた合気や調和の意味がわかっただ。今までのオラの風はただ吹くだけだったんだべ。だけんども風を読んで周囲との調和をすればより大きな風が起こせるようになる。流石旦那様だべ』


『いや、ちょ。別に僕はそんなこと言って、ぎゃあああああああああああ!』


 模擬戦で僕に向かって放たれた手斧はこれまでの風とは何もかもが違っていた。

 手斧が起こす小さな竜巻は綿菓子を作る時のように周囲の風の流れを巻き取り、小さな歯車がかみ合うことで大きな歯車を回すように爆発的に増幅していく。魔力量の少ないトアでは到底起こせなかった規模の暴風は無数の斬撃も健在であった。結果、正面から受け止めた僕は海上でミキサーに入れられたかのように全身を刻まれながら数百メートルは吹っ飛び全身ズタボロにされたのだ。うん、今度からトア(天才)に無茶振りする時は注意しよう。


「ご主人様の薫陶を受けてここまで成長するとは、流石トアです。私も負けてられませんね」


 何もしてないんだよなぁ。


「みなさーん、この人。非戦闘職らしいよーって、絶対に信じてもらえないよねー。バフはかけ終わったし、魔術の常時展開もしているけど。次は私が出ていきたいな」


 叶さんがワンドを構えて笑みを浮かべる。


(次はボクっ! コロスっ!)


「フクちゃん、殺しちゃダメだぞ。それに、ポカルを守って欲しい」


(ムゥ、リョウカイー)


「大丈夫っす。アニキ達、めっちゃかっこいいっす!」


 安全の為に僕等の少し後ろに下がってもらっているポカルは目を輝かせていた。うん、教育上悪いものを見せているような気がするぞ。

 

「ご主人様、強い魔力が近づいてきます」

 

 ファスが、こちらを見る。うん、ボクにもわかるぞ。


「それなりの力がこっちに向かって来ているな。ファス、足場を作ってくれるか? なし崩しに始めたくない」


「かしこまりました」


 ファスが船首楼から飛び降りて水面へ杖を触れさせる。


「【大氷原】」


 その一言で、封鎖された港内の水が凍りつき壁に当たって砕ける波もそのまま氷となる。港で構えていた人たちは逃げ出し始めているな。まぁ、ファスの魔術を見てしまっては逃げたくもなるだろう。

 ……足場を作って欲しいとはいったけどこんな大規模にしなくても……さてはトアに対抗心を出したな。


「んじゃ、のんびりと歩いて行くか。ありがとう、また戻って来るよ」


 幽霊船に声をかけて全員で飛び降りると見張り台から、巨体が飛びおりてきた。派手に氷を割って着地したのは青っぽい肌を持つ巨体のマーマンのようだ。


「グワッハッハッハ。吠え狂う風に波すら凍る氷の魔術! 予想以上だ。御誂え向きに暴れやすい場所まで作ってくれるとはな」


 その手にはすでに戦斧が握られていた。飾りの無い無骨な諸刃の両手斧。笑いながらも打ち込む隙は見られない。できるな……。なんだかしらないけどやる気は十分なようだ。彼の相手は僕がしよう。警戒しながらこちらから声をかける。


「吉井 真也といいます。なぜ僕等は攻撃されたんですか?」


「A級冒険者、グバだ。【死線】……噂の割にはお前自身からは殺気を感じんな。そっちのローブの魔術師はとんでもねぇ殺気だってのに、こりゃ見当違いか?」


 見当違い? その意味を問いただそうとすると、僕等の周囲に魔法陣が浮かび上がる。見たことある特徴的な模様だ。そこから白い金属製の鎧を身に着けた少女が四人飛び出て来た。


「【転移の魔法陣】……これは仕方ありませんね」


 ファスが苦々し気に呟く。


「この騒ぎの元凶はお前だな!」


 黒髪に赤いメッシュの入ったショートカットの女子がこちらに長剣の切っ先を向けて来た。

 うわぁ、絶対に転移者じゃん。ということは……。


「待ちなさいっ!」


「やれやれ、計画が台無しだ」


 グバさんの後ろから額に手を当てながら千早と紬さんが歩いて来た。

 少し見ない内に、二人共なんか……女子っぽいというか、千早は背が伸びているし紬さんは髪型も変わっていて、前は男装の麗人だったのに今は女性らしさが増している。女子ってこんな短期間で変わるもんなんだぁ。びっくりだわ。


「一旦この場は剣を収めなさい。サラ、他の子達も、こいつは説明していた私達の協力者よ。グバ、貴方も斧から手を放しなさいっ!」


「チっ、しらけるぜ。おい、そこの魔術師、この氷は消せんのか?」


「ご主人様の命があれば今すぐにでも」


「んじゃ、消しといてくれ。他の船が入ってこれねぇからな。【死線】お前が本当に【英雄】だってならこの街のギルドに顔を見せにこい。俺はこの騒ぎを静めてくるからよ。野郎共っ! 撤収作業に入れっ! 浮島にいる貴族にも解決したと伝えろ!」


 こちらからの返答は待たずグバさんは去って行ってしまった。忙しそうだし、こうなるとこの場に残るのは悪目立ちしそうだな。


「ファス、氷を消してくれ。ここで戦闘はなさそうだ」


「かしこまりました」


「ちょ、ちょっと勝手に話を進めないでよ」


 ずいっとサラと呼ばれた子が詰め寄って来る。


「千早お姉様! こんな弱そうなやつが協力者って本当ですか? っていうか桜木さん!?」


「あっ、やっほー、赤羽ちゃん久しぶり」


「協力者の話は事実よ。混乱させると思って男子だと伝えてなかったけどね。それと、真也は別に弱くは――」


「「「名前呼びっ!?」」」


 すんごい表情で見られているけど大丈夫かこれ? ま、まぁブラン・ロゼは貴族の男から逃げだした人も多いらしいし。なんなら初対面の時の千早に比べればまだ理性的な反応だろう。なんだろうさっきまで暴れる気満々だったのに今は別種の境地に立たされている。ある意味戦っていた方がマシだったのだが……。すると、紬さんが芝居がかった仕草でこっちに近寄って来る。おおう、助け舟をだしてくれるようだ。


「赤羽さん落ち着いてくれ。彼のことは『幼馴染』である私が保証する。真也、久しぶりだな。……フフ、背が高くなったかな。こうなっては仕方ない、河岸を変えようじゃないか。なぁにこの街の住人は騒ぎにはなれている。すぐに混乱も落ち着くさ」


 そう言って紬さんは自然な仕草で腕をとって抱き寄せて来た。え? ちょ、な、なんか思ってたのと違う! 後、なんかファスさんから冷気感じるから! しかしかなりガッチリつかんでおり振り払おうとすると彼女が吹き飛びかねん。 


「ちょ、紬さん、これは不味いって」


「なんだ、照れているのか? 私達の仲じゃないか。こうなっては開き直った方が役得というものだ」


 あまりの急展開にポカルを含めて皆ポカーンとしている。


「うぉおお、これは雌の戦いっす。村でよく見たっす。流石アニキっ!」


「ふぅ、大事になったけど怪我人が出なくてよかったよ。吉井君ひさしぶり、叶ちゃんも元気そうで何よりだよ」


「ルミちゃんおひさー、会えて嬉しいよ」


 いつの間にか現れていた日野さんが叶さんとハイタッチをしている。


「「「……」」」


 いや、普通に皆で再会を喜んでいる所悪いんだけど、後ろで鎧の四人が凄い顔をしているってば。

 

「認めないわ! そこの軟弱そうな男っ」


「僕?」


「他にいないでしょ。あたしはブラン・ロゼ、戦闘班切り込み隊長の赤羽 サラよ。急に現れて私のお姉様に名前呼びされるなんて……どんな手を使ったのか知らないけど、私がお姉様と紬王子の目を覚ますわ。決闘よ、私と戦いなさい!」


 と宣言されてしまった。いやあの、これどうすればいいんだ?

というわけで500話です! そしてPVが3000万突破しました。

ありがとうございます!!

これからも真也君達の冒険をよろしくお願いします。


【お知らせ】

コミックス二巻の発売日が決定しました!! 4月15日発売です。

よかったら手に取っていただければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
多少実戦経験もあり転移ボーナスも貰ったとはいえ同じ転移者(ほぼ魔王)で二つ名通り【死線】を乗り越えてきたシンヤに挑むのは無謀、、、そいつ対人戦が1番得意でエグいよ(;´∀`)
戦ったらいいんじゃないですかね・・・小指一本で(笑)
サラちゃんが分からされるまで、あと何時間? 千早みたいに号泣するのかな(笑) まあ今のヨシイ君と本気で戦えるのってパーティメンバーくらいだろうけど ヨシイ君、今なら宙野の必殺技も掴んで投げ返すことが出…
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