第四百九十三話:意外な相性
航海三日目。
「うおー、お兄さん。頑張れっす! ヤバイっす! ヤバいっすぅううううう!」
(マスターガンバレー)
「ウォオオオオオオオオオ! くっそ、これ以上は足が沈む……」
魔物の素材を使っているという綱を使って全力で海面に【ふんばり】で立つことで、全力で船を牽いている。舟波が立つほどの速度なのだが、なぜこんなに頑張っているかというと。
「ご主人様っ! ダメです。追いつかれます。迎撃しましょう!」
ファスが額に手をかざしながら頭上を……正しくは斜め60度ほどを見上げながら声を張り上げる。
「トア、舵を頼む。叶さん、結界を張ってくれ!」
「もう張ってる!」
「足場を作ります【氷華:マツリカ】っ!」
飛び上がって、今度は船の背後に回り込んで手甲の留め金を締めあげる。
見上げた先には、半分ほど海に沈んでいる大水球より羽を広げて飛んでくる巨大魚の群れ。それは……。
「ハガネトビウオだべっ!」
はい、ただいま巨大トビウオに襲撃されています。それそものがダンジョンであるという大水球から離れるように航海しているはずなのに、こっちに向かって一直線に飛んでくる巨大トビウオ達。トアが【念話】に会話を切り替えて説明してくれる。
(本で船乗りが気を付けるべき魔物として紹介されていただ。あの羽は正面から当たればマストも切り裂くほどの切れ味らしいだよ。船体に突撃されれば沈没だべっ!)
「了解、僕が引き付ける。かかってこぉおおおおおおい!」
大声と共に【竜の威嚇】を発動。勢いで突っ込んでくるトビウオ達だが、多少は空中でも制御できるらしくわずかにだが僕の方へ寄って来たがほとんどはそのまま飛んで行ってしまう。チッ、やっぱり意識的に変えられる軌道はわずかのようだ。
「迎え撃ちます【氷華:ホウセンカ】っ!」
舟に当たりそうなトビウオを狙い、氷ついた水面から花が咲き氷の種子が発射されてトビウオを肉塊へ変えていく。それでも弾幕を抜けたトビウオがいる。
「カナエっ、お願いします!」
「【不思議の国:トランプ兵『クラブ』】兵隊さん達。船を守って!」
棍棒を持った13体のトランプ兵が浮かび上がり、ひょろりと長い針金のような手足を動かしてトビウオを受け止める。あの創生魔術は元々は壁の魔術らしく。移動する盾として機能するらしい。一応申し訳程度に棍棒も振っているが、空振りしかしていない。ただ、身体を使った圧倒的防御力で船を守ってくれるのは助かるな。あっちは大丈夫そうだ。
「次はこっちだな」
とりあえずもう少し数を減らすか。水面に掌を置いて【掴む】で水の塊を持ち上げる。
そんでこれを思いっきり投げる。
「うりゃあ!」
投げた水の塊はトビウオの羽に当たって相手を落下した。威力は低いけど牽制くらいにはなるか。
幸い弾は無限になる。数発投げて、いよいよトビウオが近づいて来てから。【空渡り】で飛び上がりすれ違いざまに片方の羽を切り落とす。
「援護しますっ!」
「ナイスだファス。まとめて切り落とす!」
ファスが足場を作って来るのでそれも併用して宙帰りをしながら一気に数匹のトビウオの片方の羽を切り落として、墜落させていく。そうして数分かけて水面を真っ赤に染め上げるほどのトビウオを撃退することでなんとか難を逃れた。
「ぷはぁ……ビビった! 急に来るんだもんな」
甲板に戻り、座り込む。びしょびしょだ。ちなみに最初は水に濡れることに気を使って外していた手甲だったが、長時間外すとなんか呪いのオーラをアイテムボックス越しに出してきたので付けたままでいる。なんか、濡れても大丈夫っぽいんだよな。流石ほぼ呪いの装備……。他の軽鎧もフクちゃん曰く。濡れても大丈夫らしいので皆付けている。水中で使っても大丈夫なレベルの防水加工とか巨人族の職人やばいな。
「お兄さん、飛んでたっす! 凄いっす! めっちゃ早くて、お兄さんが消えたと思ったら急にトビウオが落ちて、というか水を投げてたっす。本当に凄いっす!」
フクちゃんを抱きしめたままポカルが興奮した様子で駆け寄ってそのまま突撃してきた。
受け止めて肩車してあげる。声を挙げて笑うポカル。出会った頃よりも警戒が解けたからか年相応の子供らしさが出てきているように感じる。
(出番、ナカッタ……)
フクちゃんは暴れられなくて、ちょっと不満気だ。ポカルを守って後方を警戒していたのだからしょうがないのだが、こんど組手でもしてストレスを発散してあげよう。周囲の索敵を終えたファスも叶さんと一緒にこちらへやって来る。
「お疲れ様でしたご主人様。見事な手刀捌きです」
「ありがと、ファスと叶さんもしっかりと船を守ってくれて助かった」
「防御は私の領分だしね。船酔いも克服したし、任せてよ」
「旦那様~。戻ってきたところ悪いけんど、トビウオの死体を食べる為に他の魔物も来るからまた船を牽いて欲しいだよ。あと、一匹ほどは食材として回収して欲しいだ」
「マジか。わかった、すぐに移動しよう」
風を使って移動することもできるが、緊急時は僕が綱を牽いた方が早いからな。もう一度船を降りて適当なトビウオのを甲板に放り投げると、トアが宙で締めていた。何それかっこいい。
船の前に移動して船首に結びつけてある綱を牽く。これ、いいトレーニングになるな。
「……何度見ても凄い光景っす。人ができることじゃないっす。お兄さん、本当に何者なんすか……」
口元に手を当ててドン引きしているポカル。確かに傍から見ると異常かもしれないけど慣れてくれ。
「ポカル、後でご主人様がどれだけ凄いかを教えてあげましょう」
「はいっス。ファス姉さん。お兄さん達の冒険のお話めっちゃおもろいっす!」
「良い返事です」
振り返るとシャチだか鮫だか蛸だかの魔物がトビウオの死体を奪い合っている。異世界の海、危険すぎるだろ。
その日の晩。夕食を終えてから叶さんが出してくれた灯りを頼りに海図を広げてこれまでの船旅を振り返ることになった。ファスが星見板で位置を測り、海図に書き込んでいく。ちなみに船の周りには人魂が浮いているし、勝手に操縦されているのだが、流石にもう慣れた僕達である。
しかし、この旅を始めて起きている問題については話し合う必要があった。
「航程としては予定以上の速さで進んでいるけんども……海に出てから三日でもう五回も魔物に襲われているだ。しかも、全部あの大水球から落ちてきたり飛んできた魔物だべ……少なくともオラが読んだ本にはそんなこと書いていなかっただ」
夜になって夕日と共に沈んでいった大水球のをトアが見つめる。
「ポカル、これって多い方なのか?」
「オレ、あんまりそんな話しないで村を出たからよくわかんないっす。でも、群れの漁師達は漁場で魔物に襲われるのはあんまりないって言ってたっす」
炙った魚の燻製を子蜘蛛姿のフクちゃんと食べながらポカルが首をかしげる。
「大水球が意思を持って私達に害をなそうとしているのでしょうか?」
「も、もしかしてオレがゴーストみたいに呼び寄せているとか……」
ポカルがションボリとヒレ耳を下げるので頭を撫でて励ます。
叶さんもポカルを撫でて首を横に振った。
「うーん、違うと思うよ。【死霊術士】が引き寄せるのはアンデッドだけだろうし……むしろ、これは私達っていうか……」
叶さんがこっちを見てくる。そんなキラキラした目で見なくとも……。
「僕が原因か……否定できないなぁ」
「絶対そうだよ。竜王の因縁とか浪漫だよねっ!」
僕自身は思い当たることはないが、【竜の後継】であるというこの身に何かが反応している可能性は大いにある。念のため心の中で竜王達に呼びかけてみるが返答はない。こいつ等勝手な時には無理やり夢に出てくるくせにこういう時はスルーだもんな。
「時間があるのならば、直接大水球に乗り込んで原因を探っても良いのですが……今は急ぎの旅です。明日には大水球は浮かび上がって来るでしょうし、警戒しながら進みましょう。流石に普段のルート外れて追って来ることは考えづらいです。他の大水球にも気を付けて進むしかありませんね」
「だべな。しっかし、船での戦いは厄介だべ。船体を守りながら戦うのは中々に気を遣うだ」
この航海の安全を担っているトアはぐったりとしている。前衛としては何とかしないとな。
「船体を守るなら、もっと早く敵を倒したり牽制する技が欲しいな。折角だから水を利用した戦い方とかもっと考えたい。水を【掴む】でぶん投げるとかはできるんだけど、他になにかできるたらいいんだけど……」
敵は今回のように宙を飛んでくるばかりでなく水中からもやってくるのだ。
「はいはーい。それなら私にアイデアがあるよ。えっとね――」
翌日。
「敵襲です! 水中に何かいます!」
「行ってくる!」
「あっ真也君バフかけるよ【星命の完全祝福】」
叶さんのバフを掛けられながら海に飛び込む。【竜人化】とバフのおかげで海の中でもしっかりと周囲をみることができるな。【ふんばり】を使いながら、船に近づこうとする敵前へ移動する。
巨大な……トド? みたいな哺乳類だ。僕の身長ほどの牙が生えているトドが大口を開けて威嚇してきた。叶さんのアイデアを試してみるか。
「水を掴む……」
噛みつこうとするトドに対し僕は周りの水を広範囲に【掴む】。
「【水流天地投げ】っ!」
片手を地、片手を天に見立て全筋力で水そのものを回転するように投げることで水流を生み出した。
「ボギョ! ギョオオオオオオオ!」
トドが海底に叩きつけられ悲鳴を上げる。水中で音を聞くって変な感じだな。まだ元気なようで血走った目でこちらを睨み再度突撃してきた。
水を蹴って腹側に潜り込む。もう一度【掴む】で水を掴むのだが、今度は両手で水が漏れないように全力で握る。昔、風呂場でやったっけ。極限まで力を込めて一か所の隙間から水を噴射した。
「【水鉄砲】」
噴射された水はそのままトドの腹を切り裂いて水面まで飛び出していった。
……思ったよりすごい威力になったな。水という、わかりやすく制御できるものがあるおかげで地上ではできなかったような中距離での攻撃ができる為に非常に戦いやすい。もしかして僕って水中戦と相性いいのか?
血を避けながら水面に戻ると、皆が船から手を振ってくれていた。
「旦那さまー、せっかくだから肉を持って帰るだよ。オラの勘だけど、美味しいと思うだ」
マジか、他の魔物が来る前にさっさと肉を回収しよう。
今日はフクちゃん組手をしながら新技の修行でもするかな。と新技について手ごたえを感じつつ、肉を解体したのだった。
次回は久しぶりに小清水達の視点になります。
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