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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第三章:交易の町編【料理人と恩師】

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第五十二話:手合わせ、剣合わせ。

 翌日、日の光で眼が覚める。うーん、早く起きてしまったみたいだな。

 例によって両腕を二人に押さえつけられている。というか左側のトアの感触(どことは言わないが)やばい、ナニコレ? 凄いんですけど、人体にこんなに柔らかい部位があるのか。

 右側のファスは頭をこっちに寄せているせいで、触れてしまいそうなほど顔が近く良い香りがする。

 まるで精緻に作られた人形のようなその顔は、穏やかな寝息が無ければ本当に作り物だと思ってしまいそうだ。

 ……幸せなんだけど、ある意味生き地獄だぞ。


(マスター、オハヨウ)


 何とか二人を起こさないように起き上がろうとしていると、フクちゃんが気づいたのか挨拶をしてきた。

 腕を外して、撫でる。今日もフワフワだなフクちゃん。


「おはようフクちゃん」

「ン……おはようございますご主人様」


 そのやり取りのせいでファスも起きてしまったらしい。悪いことしたな。

 トアはまだ幸せそうに可愛らしい寝息を立てながら寝ている。


「おはようファス。まだ早いから寝てていいぞ。僕は走り込みに行ってくるよ。今日はギースさんと久しぶりの稽古だしな、体をほぐしときたいんだ」

「それでしたらご一緒します。宝石商のこともありますし警戒は必要です、それに私も鍛えたいので」

(トアー、オキロー)


 フクちゃんがトアの上で跳ねる。昨日遅くまで起きて書きものをしていたんだから勘弁してあげればいいのに。


「……朝だべか、大丈夫、ちゃんと起き……zzz」

(オキロー)


 一瞬起きてまた意識を失ってしまった。結局トアは寝ぼけながら起き上がり、皆で柔軟をした後軽く走って回り宿に帰ってきた。


「ハァ、ハァ、ま、まだ走れますよ」


 今日は本当に軽く流しただけなのでファスもちゃんとついてこれたようだ。


「これから稽古だしこのくらいでいいと思ってな。ファスも大分体力ついてきたな」

「いえ、まだまだです。体力はいくらあっても困りませんから」

「オラもまだまだいけるだよ」


 ファスは強がりだけど、トアは本当に余裕そうだな。息も切らさず余裕綽々だ。

 今度型の手合わせでもしてもらおう。


「そういや、宿どうしようか? 流石に居づらいし引き払うかな」

「そうだべな。それがいいと思うだ」

「……トア、もしあの女将に復讐したいなら手伝うけど?」


 長年虐待をされてきたわけだ。徹底的にやりたいなら僕らは手を貸すだろう。

 トアは一瞬キョトンとして、その後僕の頭をグシグシと撫で、上機嫌に尻尾を振りながら部屋に戻って行く。


「興味ないだ、ありがとうな旦那様。早く荷物をまとめるだよ」


 ニカッと笑いながら振りむいて催促をしてくる。

 頭をポリポリと掻いて、隣のファスを見るとウィンクをされた。


「行きましょうご主人様。トア待ってください」

(トア、ツヨイ)


 そうだなフクちゃん。もしかしたら僕らのパーティーで一番強いかもな。

 野暮なことを聞いてしまったようだ。

 

 その後は荷物を簡単にまとめて宿を引き払い、早朝の市場で簡単に朝ご飯を食べてギルドへ向かった。

 相変わらず、視線が集まってくるがいい加減慣れた。ギースさんはまだ来ていないらしい。

 そういやいつ頃なのか時間を忘れていた。することもないので掲示板の依頼をのぞこうと近くまで行くと草原で出会った、四人組の獣人のパーティを見つけた。

 挨拶しておこうか。というか色々教えてもらったのでお肉を上げようと思っていたんだった。忘れてた。

 リュックの中に入れているアイテムボックスから(周りにばれないように注意して)トアお手製のブルマンの燻製肉を取り出して布に巻いて持っていく。


「すみません、先日はお世話になりました」

「うん? おぉ。あの時の、ポキポキ草は取れたか?」

「こいつ、お前らのこと心配してたんだぞ」

「おい、余計なことを言うなよ」


 相変わらず気持ちの良い人たちだな。


「おかげ様でそこそこ採取することができました。あと運よくブルマンを狩ることができたので、これおすそ分けです」

「マジか、俺たちの心配なんて杞憂だったみたいだな」

「ありがたい、美味そうな燻製だ」


 燻製肉は思った以上に喜んでくれたようで。さっそく四人は食べようと食堂へ行ってしまった。

 あっ名前聞いてなかった。……まぁいいか、また会えるだろうし。


「ご主人様、あの男です」

(イチジノ、ホウコウー)


 一時の方角ってことは入り口か、見てみるとギースさんが入ってきていた。

 昨日とは違い甲冑を着込んでいる。後ろにはライノスさんもいる。挨拶をするために近寄った。


「おはようございます」

「おう、来てたか。さっさと婆さんに訓練場の使用を許可してもらうぞ」

「ガハハッ、弟分とその弟子がどの程度か俺も見せてもらうぞ」


 話はすでに通してあるようで、受付に行くとナノウさんが直々に書類を渡してくれた。

 訓練場は解体場へ行く通路の途中にある中庭のような場所であり、吹き抜けで石畳の場所だった。それなりに広く、二階通路からはよく見渡せるだろう。

 どこから聞いたのかギャラリーが何人かこっちを見ていた。アマウさんもいる。ファス達はナノウさん、ライノスさんと一緒に一階の通路からこっちを見ている


「装備はそれでいいのか?」


 キョロキョロしていると、ギースさんに話しかけられる。


「はい、新調したばかりです」


 新しい手甲のお披露目だ。


「なら行くぞ、あぁ、そういやお前アレを見たことあるか?」


 ギースさんが顎で奥を指す、見てみるが特に変わったものは見えない。

 ――鞘から剣を抜く微かな音が聞こえた。

 【拳骨】を発動、手甲で剣撃を受ける。ギースさんの不意打ちだった。


「せこくないですか!?」

「フン、少しは成長したようだな。今日は手加減なしだ。本気で行くぞ覚悟しておけ」

「望むところです!!」


 気を引き締める。確かに『なら行くぞ』と宣言はしていたな、これはつられた僕が悪い。


「冒険者なら不意打ちなんて当り前さね」

「ガハハッ俺も若い頃はよくやった手だな」

「あの男、卑劣な手を……ご主人様頑張ってください!!」

(マスター、ガンバレー)

「旦那様、楽しそうだべ、怪我しないようになー」


 応援もあるし、今日こそは一本取るつもりでいかせてもらう。【威圧】については二の次だ。

 ただ【呪拳】は使わない。あくまで技で一本を取らなきゃ意味ないしな。


 初撃を受けたが、態勢が悪いのでバックステップで距離をとる。


「【空刃】」


 セオリー通りに飛ぶ斬撃での追撃。受けるとその次が遅れるので【ふんばり】を使い体を反らして躱す。

 やはり、小清水の飛ぶ斬撃とは魔力の練りが違う、みっちりと詰まっているような感じだ。


 スキルの打ち終わりを狙い、一足で距離を詰める。殴りつけるが剣で受けられる。

 数合打ち合い、タイミングを見計らい【掴む】を発動して剣を取る。今の僕の腕力ならこのまま固定して空いた手で一方的に殴れる。


「【重撃】」


 剣を掴んだ瞬間にスキルを使われる。受けたことない技だが、強い魔力を感じ【掴む】を解除して距離をとる。

 

 ドォオオンと音がする。その剣撃は石畳を砕き剣身を半分ほど地面にめり込ませていた。


「マジかよ……」

「チッ、そのまま掴んでいたら捻り潰せたんだがな」


 殺す気か! あのスキルはやばい、そりゃ勇者のスキルほどではないが、正面から受けるのは危険すぎる。

 攻めることを躊躇していると、ギースさんの追撃が来る。


「ボサっとするな! 【疾風刃】!」


 横なぎの飛ぶ斬撃。しゃがんで躱す。なに止まっているんだ。所詮僕には接近戦しかできない。

 【重撃】は脅威だが躱せないことはない。踏み込み、懐へ。

 僕に合わされた一太刀の側面に手を当て逸ら――


「そうだ、それでいい、だが簡単ではないぞ【角切り】」


 逸らそうとした斬撃の軌道がカクンと方向転換するように90度横に動き、結果剣撃は僕の正中線をとらえる。


「そんなのありか!!」


 正面から手甲で受け止める。ついさっき正面から受けるのは危険だと思ったばかりだというのに。

 次に来るのは当然――。


「【重撃】」


 ですよねー。縦に圧し潰すような軌道の為、下がって躱すこともできない。

 【拳骨】を全開にして、歯を食いしばり、零コンマ数秒後の衝撃に備える。


「オラァアアアアアアアア!!」


 腕を十字に組んで受けたが、その衝撃は想像以上だった。レッドブルマンを受け止めた時よりも強い力が上から降ってきた。

 膝が地面につき石畳がその膝でひび割れる。限界を超えた力を出しプチプチと腕の血管が切れる音が聞こえる。

 今ギースさんが振っているのは真剣であり、腕を弾かれたら頭がカチ割られてしまう。

 なんとか……なんとか、耐えて。距離をとる。


「耐えたか、やるじゃねぇか」

「……ハァ、ハァ」


 軽口の一つでも返したいが、余裕がない。腕が折れてないか確認する、手甲の下は真っ青になっている自信がある、でも多分折れてはいない。手甲のおかげだ。


 ……強い。僕も少しは強くなったはずなのに、まるで歯が立たない。

 多分通常時の腕力なら僕の方が上の気がするのだが、スキルを使われたら向こうの方が上になる。

 そしてなにより、戦いに対する経験が違う。懐が深く、容赦がなく、それでいて柔らかく、こちらの攻めを受け潰してくる。


 どうする? どうすれば……。


『真也。武術とは教わってばかりでは身につかん、自分で相手から技を盗み、工夫し使いなさい。そうして初めて学んだと言える』


 爺ちゃんの声が走馬灯のように刹那の時間に通り過ぎる。盗む、ギースさんの技を、そうだ僕は散々見て来たじゃないか。ギースさんが見せてくれたじゃないか!!


 ギースさんの追撃が来る。圧縮された時間の中で切っ先が迫る。

 拳を開く、右腕を剣を担ぐように振りかぶり、懐に飛び込みながら、掴むのでもなく、逸らすのでもなく、叩き切る(・・・・)

 

 ギィンと音がして剣と剣が打ち合ったように弾き合い再び距離が取られる。

 構えなおす、ギースさんは僕の構えを見て楽しそうに笑みを浮かべた。


「フッ、フハハハハ。下手くそが」


 そう言って、ギースさんも構えなおす。それは初めてあった時から同じ構え。

 剣を担ぐように構え剣身を隠す左半身の構え。

 そして、下手くそと言われた僕の構えは、ギースさんとよく似た、両の手刀を振りかぶる左半身の構えだった。 

ギースさんとの戦闘は書いていてとても楽しいです。……【威圧】は次のお楽しみと言うことで(目を逸らしつつ)

次回予告:ヨシイ君の新技(地味)が炸裂。


ブックマーク&評価ありがとうございます。

感想&ご指摘いつも助かっています。



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― 新着の感想 ―
[一言] なぜ自分が学んできた古武術は使わない?古武術は実戦向けだと思うけど。
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