第四百八十七話:久しぶりの眠り
※※※※※
『ポカル……来てはダメっ!』
ネーネの首が胴が腕が脚が、刺股で拘束されていきます。オレはやつらの馬車を追いかけたんす。
足の鱗が剥がれるまで、ずっとずっと走って……でも追いつけなくて……。それからはアイツ等を追って、夜から夜へゴースト達と村々を回ったんす。そうしてやっと手がかりを見つけて、でも誰も助けてくれなくて……オレが【死霊術士】だから、生きていては……いけないから。
だから、オレは相手を利用してやろうって思ったんす。ネーネは怒るだろうけど。
いかにも人が良さそうで、いい装備を身に着けている冒険者のお兄さんを騙して幽霊船を占領している海賊の霊に引き合わせたんす。
オレは悪い子っす。それなのに。
『これまでよく頑張った、後は僕達に任せてくれ』
どこまでもお人好しな【英雄】が来てくれました。
ネーネ、オレはこの人達のことを信じてもいいんすかね?
あんまりにも都合のよい出来事に混乱するオレを置いてけぼりにして、お兄さん達は動き始めたっす。
「まずは飯だべっ! お前さん。少しやせすぎだ。オラの名前はトア、ご主人様の専属料理人だべ。よろしくなっ!」
とってもかっこいい獣人のお姉さんがオレの身体をペタペタ触って来るっす。
顔に傷跡があるけんど、それでもとんでもねぇ美人っす。
「んじゃ、買い出しだね。旅の消耗品も買わないと。ポカルちゃんよろしくね。私は桜木 叶。『かなえ』って呼んでね~。ハグー」
こっちの黒髪のお姉さんもめっちゃ綺麗な人でドキドキするっす。
「拠点はここでいいよな。なんか居心地いいや。ポカル、ここ使っていいか?」
お兄さんがこっちを見てくるっす。
「オレも勝手に使ってるだけっす。ここは夜にゴースト達がいるから、街の人は近づかないっす」
「では、皆が買い出しに行っている間に私はポカルを洗いましょう。フクちゃん、一緒に来てくれますか? ポカル、こちらはフクちゃんです。私の名前はファス、ご主人様の一番奴隷です」
(マスターのニバンドレイ、フクだよ)
「頭の中から声が聞こえるっす。なんすかこれっ!?」
「細かいことは後で話します。ポカル、こちらへ」
フードを被って杖を持っているお姉さん? がオレの肩に手を置きます。この人、さっき水の蛇をだしてたっす。実は死霊達も怯えていたし、ただもんじゃねぇす。
オレは、お兄さんに見送られてからフードのお姉さんに連れられて廃船の中にある隠れ家からでて造船後の石造りの少し広い場所まで連れてこられました。このフードのお姉さん、ファスって名乗ってましたけど。なんでここの道を知ってるんすかね?
「お湯を作るので、少し待ってください」
「え? オレ、マーマンなんで冷たい水とかで平気っすよ」
「貴方、もうずっとまともに寝ていないのでしょう? 体を温めて休む必要があります【魔水喚】」
「うわぁ!」
一瞬で凄い量の水がでて宙に浮かび出した。こんなの見たことねぇす。
「ガァアアオオ」
「うわぁああああ!」
なんか白い火を噴いたっす。なんなんすか!?
(ウッサイ)
いつの間にか頭に乗っていたフクちゃんさんにポンポンと叩かれます。
「いや、お姉さん。一体何者っすか?」
「先程名乗りました。一番奴隷のファスです。さぁ、お湯もできました。服を脱いでください」
「え? わかったっす?」
ボロ布を巻いているだけなんですぐに脱げるっすけど、と思っていたらファス姉さんフードを外してローブを脱ぎます。金髪が零れて、長い耳が出てきて……。
「え、エルフっす……」
「見るのは初めてですか?」
「……っす」
大山脈の向こうに住んでいると言うのは聞いたことがあるっすけど、初めてみたっす。
キラッキラっす。はへー、とか言っている間にどんどんファス姉さん脱いでるっすけど、大丈夫っすか。同じ女とはいえ、申し訳なくなってくるっす。精霊様とか女神様とか言われた方がしっくりくるっす。あんまりにも綺麗で見惚れていると、脱いだ服を畳み終えたファス姉さんがこっちにやってきました。
「脱ぐのを手伝いましょう。鱗はピンクなのですね。髪は……汚れていますが藍に近い色でしょうか?」
「だ、大丈夫っす。汚れるっすよ」
「?……だから洗うのです。同じ、女性なのですから恥ずかしがらなくても大丈夫でしょう」
いや、無理っす。体もめっちゃ美しいっていうか直視できないっす! 近くで見ると本当に輝いているっす。なんなんすか、こんな生き物いていいんすか!?
思えず目を閉じてしまうと一瞬で服を脱がされてしまいました。容赦ないっす!
(あわあわー)
フクちゃんさんが泡を出してくれて、水球から温かなお湯がシャワーとなって振ってきます。
き、気持ちいいっす。ファス姉さんは毛先の柔らかいブラシでオレの身体を洗ってくれました。
体を滴る水が茶色になるほど汚れていて、ブラシも汚れるのにファス姉さんは優しくオレの身体を洗ってくれました。
「綺麗になりましたね。次は髪です。ポカル、目を閉じてください。後で櫛を入れてあげましょう。髪は女の子にとってとても大事なものですから」
「は、はいっす」
うぅ、緊張するっす。ファス姉さんめっちゃ冷静っす。こっちも手で頭をマッサージするように丁寧に洗ってもらって……うぅ、もう自分が何されているのかよくわからんす。
「……身体を温めましょう【魔水牢】」
残ったお湯がオレとファスさんを包み込みます。ふえぇ、これ、めっちゃ気持ちいいっす。
フクちゃんさんはお湯の中を泳いでいるっす。というか、普通に泳げるんすね。
「……」
首から下はお湯に包まれ、正面にはファス姉さんがこっちを睨みつけてきます。
え、えと、やっぱりゴースト達と戦わせたことを怒ってるっすかね。あんまりにも綺麗な顔で睨みつけられると、怖いっす。喋ってくれないとネーネが話してくれたおとぎ話の精霊様みたいっす。
「……あ、あの」
「私は生まれた時から呪われていました」
「え?」
きゅ、急に話し始めたっす。
「醜い姿で育ち、私を見た人が悲鳴を上げるほどでした」
「……想像できないっす」
「唯一の家族であるお婆さんが亡くなった時、私には世界の全てが敵に見えました。夜の闇さえ恐ろしくて、眠ることができなかったのを覚えています。ポカル、貴方が私達をまだ信用できないことは理解できます」
「ファス姉さん、あの、オレは……」
何を言えばわからないオレをファス姉さんは抱きしめてくれました。
「例え信じられなくとも、人は人と寄り添わなければ倒れてしまいます。孤独の闇を前に私達が寄る辺となりましょう。大丈夫です。……これは秘密ですが、ご主人様も大事な人を失い眠れぬ夜を過ごされていたのですよ」
ファス姉さんが初めて笑ってくれました。この人、笑うと反則的に可愛くなるっすね。
「お兄さんもっすか?」
「ええ、きっとご主人様も貴方の辛さをわかっています。だからこそ貴方の力になってくれることでしょう」
(ボクもー)
「もちろん、頼りにしていますよフクちゃん」
フクちゃんさんがピョンと跳び出して前脚を挙げます。
「なんでっすか? 何でそこまでしてくれるんすか?」
オレの問いかけにファス姉さんは首を傾げます。
「……ポカル。貴方はなぜ私達に声をかけたのでしょうか?」
「え? えと、それは装備品が良くてお兄さんがいい人そうだったから……」
「正しいです。ご主人様は『いい人』なのです」
「え……それだけっすか?」
「他にも色々あるのでしょうけれど、最終的にはその結論になってしまいますね」
ポカンと口を開けるオレにファス姉さんはクスクスと笑い続けるでした。
夢見心地のお風呂が終わって、隠れ家に戻るとトア姉さんがデカい鍋で何かを作っていたっす。
即席の囲炉裏もできているし、一体いつの間に……。
「おかえりだべ。メインはもう少しかかるから先にスープを飲むだ。薬膳を応用した体を落ち着かせるスープだべ」
「ポカル、綺麗になったな。髪拭くの手伝うよ」
「あっ、私も手伝うー」
「お願いします。私は櫛の準備をしますね」
「じ、自分で拭けるっす」
「いいからいいから」
お兄さんとカナエ姉さんがタオルで髪を拭いてくれます。トア姉さんのスープは甘じょっぱくてとてもいい匂いがして……なんだかとっても眠たくて、気が付いたらオレはお兄さんにもたれ掛かるように寝てしまいました。一人になってからあんなに寝るのが怖かったのに、なんにも怖くなくて、ゆっくりと寝ることができたんす。
優しいまま、強くなること。それが真也君の進む道です。
ブックマーク&評価ありがとうございます。更新頑張るのでポチっていただけると嬉しいです。
感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






