第四百八十六話:海賊船と背伸びした名乗り
その後、とにかく今は話を聞こうと全力で説得した僕の努力により進むことができた。危ないところだったぜ。現在進行形で何かが進行している可能性については目を逸らそう。
「こっち、こっち。なんだ、意外とあんた等動けるんすね」
廃船場の洞窟の中、ポカルは身軽に廃材や腐ってほとんど沈んでいる船を飛び跳ねて移動していく。
大した身のこなしだ。レベルというより運動神経がいいのだろう。それともマーマンは元々運動能力が高いのかもしれない。
「それにしても、意外とこの洞窟広いんだな」
振り返るとレベルアップによる身体能力の向上かファスや叶さんも割とアクロバットな動きができているな。
「今は廃船場のようですが、昔は造船場だったのでしょう。水中や壁にその名残があります」
「へぇ、砂漠の時みたいに難民が居たりするのかな?」
「いいえ……生きている者の気配は感じませんね」
「それって――おっと」
ファスの言い回しに引っかかりを覚えたが、ポカルが急に止まった。
折れたマストが中心にある広場。かなり大きな船の甲板がそこだけ浮いている感じなのだろうか?
「すみません。ご主人様、気づくのが遅れました。これは罠のようです」
「……そうか、残念だ」
ポカルからあんまり悪意は感じなかったんだけどな。トアと叶さんもそれぞれの武器を取り出している。前方に立つポカルは振り返ってポリポリと頭を掻いた後にガバリと頭を下げた。そして後ろ手でランタンを取り出した。
「罠じゃねぇっす。本当に、ノーツガルに行ける船があるんす。ただ、船長というか船員が厄介で……お兄さん達ならきっと大丈夫っす。ネーネを救うため、本当にダメだったらオレが逃がしたげるんで、勝ってくださいっ【死霊術:幽世の行灯】」
ポンとポカリが持つランタンに蝋燭ほどの小さな灯が点く。
「裏切ったわけじゃないのか。よかった」
例え罠でも何か理由があるなら気が楽だ。
「いや、そこで信じるんだ真也君。なんか魔力が集まっているけど……」
「この感じ、覚えがあるだ」
ゆらりと青い火が灯る。一つ、二つ、三つ……僕等を囲むように人魂が浮かび上がった。
『酒はどこだ 金はどこだ。この船にはないぞ、手ぶらで港にゃ入れねぇ』
曲刀を打ち鳴らすリズムに乗せて歌が流れる。
『酒は向こうに、金は向こうに、あの船にあるぞ、さっさと襲わにゃ奪われる』
「なるほど、これは……」
(ワーイ)
面白くなってきた。ジャンジャンと曲刀を叩き合わせるリズムは早くなり、フクちゃんも楽しくなってきたのかピョンピョンと跳び跳ねている。
『潮と血が俺らの酒よ。いざゆかん、我等っ!』
歌が途切れ、人魂が渦巻きバンダナを巻いた骸骨が甲版に降って来る。そして、下から半透明の巨大船が浮かび上がり、髭だらけの生首が目を爛々と輝かせて口を開く。間違いない、幽霊船。それも海賊船だっ!
『大海賊団、ガンド――』
「【星涙光の浄化域】っ!」
恐らく船長と思われる髭の生首の名乗りが言い終わる前に、【聖女】による無慈悲……いや、慈悲に満ちた強制成仏が炸裂した。人魂なぞ比べ物にならない圧倒的な光量に周囲が染められていく。
『『『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』』』
「いつもより多めに送っています。……最後に土地の浄化もしてっと。うん、これで終わりかな。そこの幽霊船は見逃したげるね。え、何その表情?」
「……」→しょぼーん。僕。
(……)→ショボーン。フクちゃん。
「……」→驚愕の表情で口をパクパクと開け閉めしているポカル。
いやまぁ、そりゃそうなるだろうけど、久しぶりのちゃんとしたファンタジー風の敵だったじゃん。登場シーンも凝ってたし、せめて名乗りくらいはさせてあげようよ。
「流石カナエです。さて、残る問題は……この子どうしましょうか?」
「わわ、許してつかーさい。これには訳がー、訳があるんす」
水でできた大蛇に巻きつかれたポカルが全力で命乞いをしてくる。
とりあえず、一息つける場所で話すこととなり、ファスが透視して見つけた本当のポカルの隠れ家で話を聞くことにした。なお、物騒なランタンはトアが預かっています。
「いや、流石っす。傷の治療といいそこの黒髪のおねーさんが【聖】職系のクラスだとは思ったっすけど、あんなの見たことねーす。ネーネ以上っす。本当に何者っすか? あと、この蛇さんそろそろどかしてくれると……」
いつでも締め上げる体制を取っている大蛇に冷や汗を垂らすポカル。
「貴方が私達にしたことを説明してからです。私達に隠し事はできません。包み隠さず言う事です」
薄っすらと【恐怖】を発動しながらファスが問いかけると、ブンブンと首を縦に振った。
「改めて名乗らせてもらうっす。オレの名はポカル。クラスは【死霊術士】っす」
「転移者の子の中にもそのクラスを持っている子いたよ」
興味深いと叶さんが笑みを深める。
「へ? 【死霊術士】はマーマンに出現するクラスのはずっすけど『テンイシャ』族ってのは知らないマーマンすね。それよりも、お兄さんがた、オレのことが怖くないっすか?」
「現状は別に。不意打ちみたいなことをされたのは気になるけど怖くないよ」
「……オレを怖がらないヒトはネーネ以外だと初めてっす。四歳の時の職決めの儀式でオレが【死霊術士】だってバレた時は村の皆がオレを殺そうとしたんす。とおさまが槍でオレを突き刺そうとして、そしたら死霊達が勝手にオレを守ったんす。オレは必死に逃げて、そこからは動物の霊を使って食べ物を盗んで生きてきました。でも、ある時捕まって【死霊術士】は邪な魂を持っているから殺さないといけないって色んな奴らに言われて……オレは生きていることが罪だと言われて、そんな時ネーネに会ったんす。ネーネだけは、オレにパンをくれて、生きててもいいって言ってくれたんす」
ポカルは泣いていない。聞いているこっちが辛い話をしているはずなのに涙は流さなかった。それは話の内容が嘘だとかそういうことじゃない。やらなければならないことがあると覚悟を決めた強い意志を秘めた目だった。
「三か月前、ネーネは【赫竜の宿願】っつう、怪しい奴らに【竜の巫女】として攫われたんす。必死で探してノーツガルにそいつらがいることがわかって、だから、オレはネーネを助けたいんすっ! そのために船を呼び出したけどあの幽霊が邪魔で、だけど、お兄さんが船長を倒したからあの船は使えるんす。お、お兄さん達はマーマンじゃないからもしかしたら【死霊術士】であるオレを助けてくれるとか思って、あ、あの」
意思はあってもまだ子供だ。話している間に内容がちぐはぐになり感情的な訴えだけが残る。
ファスに合図して拘束を解いてもらい、ポカルの頭に手を乗せて撫でる。
「あ、あの、金はきっと払うっすから、オレの命なら好きにすればいいし、【死霊術】でどんな悪いこともするっす、だから、ネーネを……」
「落ち着いてくれ。怖がらなくていい。よくわからないけどネーネさんていう人を助けたいんだな?」
「……はいっす」
「君の依頼を受ける。これまでよく頑張った、後は僕達に任せてくれ」
ファスが杖を小脇に挟んで優しくポカルを立たせる。
「あの、お兄さん達はいったい?」
……大森林で授かったこの称号が今の僕に相応しいとは思わないけど、それでもここはかっこうをつけないといけない。ポカルの手をとって片膝をついて見上げる。
「僕の名前は吉井 真也。大森林では【英雄】と呼ばれた冒険者だ」
この子が少しでも安心してくれればいいと精一杯の背伸びをして【英雄】を名乗った。
ヒーロー見参。
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