第四百八十五話:新たな出会い
(どんな奴だ?)
(薄い布で口元を隠していますが……ヒレ耳が見えるのでマーマンでしょう。背も低く、子供のようです)
(コロス?)
【念話】でファスから尾行している情報を教えてもらうが、敵意のようなものは感じない。
(泳がせた方がいいだ。誰かの指示でオラ達を付けているなら、その方がわかることが多いだ。フクちゃん、こっそり糸を撒いて戻って来れるけ?)
(ヨユウ)
(警戒するに越したことはないから、結界の準備はしとくね)
と言うわけで【念話】での会議により様子をみることにした。フクちゃんがこっそり戻って来るのを待って船探しを再開する。
「んじゃ、船を探すか」
「だべな。木札に金額と行先、それに船の印が書いてあるからこれを頼りに探していくべ」
トアが出した札を覗く、隠れ里での修行のおかげで異世界チート無しでも普通に文字が読める。
『行先:ノーツガル自治領
B級冒険者の護衛在り
大水球迂回
浮島接近有り
航程:一週間、料金:金貨一枚』
みたいなことが書かれている。中には酒がついていたり、食事在りとか色々オプションがあるようだ。
「へぇ、お金には余裕があるし、いい船が取れるといいな」
「船旅……うぅ、女神様……早く私に船酔いを防ぐ【スキル】をください……」
乗り物酔いをする叶さんはすでに祈りを捧げていた。いや、それでもし【スキル】がでるなら女神様甘すぎだろ。
「僕も疲労は受け取るから頑張ろう」
「うぅ、シンヤーぐーん」
両手を広げて抱き着いてくる叶さん。旅は大好きなのに、乗り物酔いだけは嫌なようだ。
横からトアが肩をつつく。
「まだ、オラの番だべよ、カナエ」
「皆で甘えればいいのです。行きましょう」
通りかかる人から凄い目で視られているが、まぁこれくらいは慣れたもんだ。
そうして、叶を叱咤激励しながら船を回ったのだが。
『うちはもう一杯だよ。木札は回収しないから。そのまんま酒場に置いてんのさ』
『マーマンと獣人以外は乗せねぇんだ。倉庫ならいいぜ』
『悪い。人族の船はさっき出たんだ。割増料金を払えばいいよ』
『別にいいが、うちの船は臭いぞ』
尾行されている状況で、船を回ったのがまさかの全滅である。ちなみに最後の船は発酵食品を運んでいるらしく、ガチで臭すぎた。
一旦停泊所から街のメインストリートに戻って皆で話し合う。
「まさかここまで船が無いとは……」
「宿も聞いて回りましたが、断られましたね」
「真也君。こうなったら陸路だよ。私達なら河なんて突破できるよっ!」
(オドス?)
「いや、まぁ、割増し料金使ったり冒険者証を見せるとかやりようはあるけどさ……」
横にいるトアを見ると耳が横を向く飛行機耳になっている。
「割増料金を払うのはいいと思ってたけんど、木札に書かれていた船賃の十倍を請求されたら流石に腹に据えかねるだ。何より旦那様を軽んじられるのは我慢できねぇだ」
「まったくです」
我がパーティーの財布係がカンカンです。ファスも大いに頷いている。元々船旅に反対している叶さんもこれ幸いと陸路を進めてくるし僕等、船旅に向いてないのかもしれない。そういや砂海でも遭難したっけ。
「中には良心的な船もあるんだけど、そういう船はそもそも満員になったら木札を回収しているし、人気だから予約しないと難しいんだよな……」
マーマンによる差別もあったりなかったりで、エルフみたいに種族全体に嫌われている印象はないのだが、質の悪い船は身内で固めている感があって、利用を断られるのだ。蛸詰めのような船もあるのだが、そんな船に乗ったことで砂漠で遭難した身としては抵抗がある。あの不味いサソリ生活本当に辛かったからな。
「A冒険者証やアナスタシア姫の後援の印を出せば無理やりにでも開けてくれそうじゃない?」
「まっとうに乗っている人を押しのけるのはちょっとなぁ。対応の悪い船に無理やり乗ってもいいことにならなさそうだし」
見知らぬ誰かに迷惑かけるのはちょっと気が引ける。ここは陸路も検討するかなぁ。
聞いて回った感じ、ノーツガル行の船は多いらしいし。しばらくこの街に滞在して良い船を待つのもありだろう。
「……ご主人様。先程からつけている者が近づいてきます」
「おっ、やっとか。忘れそうになってたよ」
ファスがジロリと後ろを睨みつけると、背後から手もみしながらターバンと汚れた布で口元を隠した子供が近づいて来た。ボロキレを纏っていて、下は七部ほどのズボンを履いて素足だった。ターバンから覗くヒレ耳は端が破れていて少し痛々しい。
「ヘヘヘ、お困りのようっすねぇ」
かすれたハスキーな声だ。男の子か女の子か判断が難しいな。
「……どうも、こんにちわ」
挨拶は大事。それなりに長い時間付けてきたのだから敵意がないならしっかりと話そう。
「ほえっ!? え、こんちわ」
「何か御用ですか?」
並べく警戒させないように注意しながら話しかける。
後ろでヒソヒソとファス達が話し始める。
「真也君……基本的に怖がられるから圧倒的下手に出てる……プクク」
「ご主人様はお優しいのです」
「オラとしてはこん子が、雄なのか雌なのかによって警戒度が変わってくるだ」
聞こえているからな。とりあえず横は無視してしゃがんで目線を合わせる。
なんか挙動不審だが、顔布をずらしてこっちを真っすぐに見て来た。
「船探してんだろ? オレの船に乗りなよっ! 安くするからさ! 泊まる所がないなら船に停まってもいいっすよ」
全員で顔を見合わせた。とりあえず話を聞こうとその子に付いて行くことになった。
一人称がオレだから男の子だろう。露出している肌は汚れているが褐色のようだ。
停泊所に行くのかと思ったが、どんどん離れていく。
「あ、あっちにも船を停めるところがあるのさ」
うーん、罠とは思えないけど。一応ファスに目線で確認してみる。
(確かに船がありますが……これは……)
何やら不穏な感じだ。そうして案内されたのは。
「船を停めるっていうか、捨てられてるな」
街をぐるっと回った所にある洞口に案内されたのだが、そこには船の残骸が詰め込まれるように廃棄されていた。
「つ、使える船もあるっす。宿の変わりにだってできるんだ」
誤魔化しているが、正直こういう光景嫌いじゃない。ちょっとワクワクしてきたぞ。
「なるほど、ところで君の名前を教えて欲しいんだけど」
「オレ、ポカルっす。見ての通り魚人族っす」
「ありがとう。僕は――」
「まずは、船を見てくれっ! 綺麗にしてんだよ」
自己紹介を遮られて、手を惹かれる。ヒレのある手はざらざらして瘡蓋だらけだ。
「待ってくれポカル。叶さん、頼む」
「うん、任せて」
「何だよ? お、オレを襲っても金なんかねぇぞ」
水筒を取り出して、手に水をかける。意図を察してくれた叶さんがワンドを取り出す。
ポカルは警戒して手を解いて逃げようとするが、傷つけないように優しく取り手で動きを封じる。
「【星癒光】」
「魔術……え? これって」
掌を確認したが、瘡蓋が自然に剥がれて傷が治っている。傷ついたヒレ耳も治ったな。
一応、触って確かめとくか。おぉ、意外と柔らかい。
「ふみゃあぁああ! な、何すんだよ! うわっ、耳も治ってら。すっげーな! ありがと!」
「「「……」」」
目をキラキラさせているポカルだが、うちの女性陣の反応は何かおかしい。
ファスは目を閉じて眉間に皺を寄せているし、トアは天を仰ぎ、叶さんは笑顔でこちらを見ているが目は笑っていない。なんなんだ? 目を開けたファスがポカルにツカツカと歩み寄る。
「あなた、女性ですね?」
「は? 急になんだよ。オレは海の男だっ!」
「フクちゃん。お願いするだ」
(あいあいさー)
「わひゃ、フヘッヘヘヘヘ、く、くすぐったい」
ファスのローブから飛び出したフクちゃんがポカルの身体を這ってズボンの中に入り込んだかと思うとスポンと飛び出して着地。そして前足を挙げた。
(メスっ!)
「「「あぁ……」」」
綺麗にため息が重なり、ジト目でこっちを見てくる。
「いや、これは僕悪くないじゃん!!」
洞窟の中に空しい叫びが響いたのだった。
訳ありでないわけがない。本年もよろしくお願いします!!
次回:大海原は前途多難。
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