第四百八十三話:ノーツガルで起きていること
「大変申し訳ありませんでした! まさか本当に【死線の英雄】様だとは露ほども思わず!」
「とりあえず頭を上げてください。あと、酒場で何を聞いたのかを教えて……ん?」
怒り心頭といった具合のファスをなだめながら、声をかけると足止めをくらっていたマーマンもこちらに近寄って来た。少し離れた場所に止めてある馬車の後ろから他のマーマンも顔をだしてこちらを見ている。
「貴方が人族の英雄……私はマゴンと申します。南にあるクワン村で漁師をしています。馬車に乗っているマーマンも皆、漁師です。どうか、私の話を聞いてはくれないでしょうか?」
浅黒い肌に黒髪で彫りの深い顔。ヒレ耳がなければ横にいる二人と同じマーマンには見えない。
「貴様、英雄様に何をっ! ヒッ!」
食って掛かる青肌のマーマン達はファスに杖を向けられて慄く。
「貴方達は黙っていなさい」
「魔物が発生する逆巻き河が出るこの時期は毎年、村の特産品を持って街へ仕事探しに来ているのですが、今年に限ってこんな場所で通行料を取るというのです。金が無く仕事を探す者がどうして金貨など払えましょうか? 私にはこの者達がしっかりとした役人はどうしても思えないのです」
「なんだとっ!」
「貴様、俺達が偽物だと言うのか!」
二人のマーマンが置いていた二股槍を持つ。一歩踏み出したその瞬間。
踏み出したその足が地面に着く前に二人の間に滑り込んで手を掴み、重心を制御して二人を正座の姿勢で座らせる。傍から見れば、一瞬で二人が正座をしたように見えるだろう。
「そこまでにしてください」
「はふぇ?」「な、なんだ!?」
卵を握るように優しく二人の手を取り、動こうとする度に微かに重心をずらして動けないようにする。
太極拳の達人は手に小鳥を乗せ、小鳥が飛び立とうと踏ん張る瞬間に脱力をして飛ばせないようにしたというが、これもそういった抜きによる技術だ。まぁ、僕の場合はレベルによる思考の加速と反射に頼ってはいるがそれでもこれまでと比べて成長を感じるな。隠れ里で学んだ技術は確かに力になっているようだ。
「え? 真也君なにそれ!? マンガとかで見るやつじゃん!」
「力を全く使っていません……ご主人様の言う【活人の領域】なのでしょうか? お見事です」
「そこの二人。気が短すぎるだ……それにそこのおっちゃんの言うことが正しいならここは金を払えねぇモンばかりになるはずだべ。だけんど、オラ達はこの一本道で追い返された人を見てねぇだ。なぁ、ファス」
「そうですね。この眼にかけてすれ違ってはいません。この道以外は河がありますし、となれば……」
全員で正座している青マーマン二人を睨みつける。
「あ、いや」「こ、これにはわけが……」
数分後。
フクちゃんの糸で縛り付けた青マーマン二人が馬車のさらに後部から牽かれている。
結局、青マーマン二人は役人を騙っていただけの偽物というわけだ。話を聞けばこの二人も海から遡った河とそこにいる魔物達のせいで河で漁をができなくなった周辺の地元民らしいが、街で仕事をするよりも楽な『仕事』として詐欺をしたらしい。
「ありがとうございます。助かりました。それどころか食料と飲み水まで頂いて……なんとお礼を言えばいいのか」
旅は道づれ世は情け。聞けばまともな食料も水もないというマゴンさん達に手持ちの保存食と水を分け与えるとさっそく水をガブ飲みして何度もお礼を言われてしまった。河の水は海水交じりだし困っていたのだろう。手綱を牽きながらのんびりと歩きつつ会話を続ける。
「いえ、僕等は水には困らないし、食料も河の魔物を捕まえられますから。それよりも、こんな人達がいるなんてこの辺りは治安が悪いんですかね?」
「時期が悪いのかもしれません。逆巻き河は私のような弱者には脅威ですが、戦闘に優れた【クラス】を持つ船乗りや冒険者にとっては稼ぎ時です。この辺りは冒険者と騎士団が治安を守っているのですが、忙しいのでしょう。それに、最近は……よそ者も多くいますから、あいつ等も土地のことを知らない者を騙そうとしたのでしょう」
糸で縛れて引きずられている二人を見ながらマゴンさんはそう言った。
「よそ者が多いというのは気になりますね。大森林で聞いた竜信仰が復興しつつあること関係あるのでしょうか? ご主人様、折角ですしお話を聞いてみては?」
フードを被り直したファスが提案してくる。自分で言えばいいと思うのだが久しぶりに主従としてのムーブをして楽しそうなのでよしとしよう。というわけでファスが言ったことをそのままマゴンさんに改めて言うと、口をモゴモゴさせて僕と叶さんを交互に見ている。
「あの、英雄殿とそこの人族の少女は星の女神様を信仰しておられますよね?」
「えと、僕は別にそういうのじゃないけど……」
「私についても気にしなくていいです。魔物ばっちこい」
どうやら、気を使っているらしい。こっちの世界でも宗教の話題には注意が必要なようだ。
僕らが気にしないことを再三確認してマゴンさんは説明してくれた。
「詳しいことは知らないのですが、かつて魚人が自らを竜人と呼んでいたころの古い宗教が広まっているようなのです。噂によればノーツガル領にいる『竜の後継』というお伽話の竜王の力を継いでいる存在が現れて巫女として竜信仰を復興させているとか……巫女は魚人に【竜の祝福】という特別な力を授けてくださるようです。ノーツガル領にいるようなのでそこへ行く船があるこの先の街にマーマンが集まっているようです」
「……なるほど」
さて、なんだか色々わかって来たな。皆にも【念話】で情報を共有するとすぐにファス達から反応があった。
(興味深い話です。チハヤ達が教えてくれた情報を裏付けるものですね。加えてマーマン達の竜信仰の中心には【竜の後継】を自称する巫女という存在がいるようです。ノーツガル領で何かが起きているのは間違いないでしょう)
(ダンジョンが活発になっていることと、『竜』が無関係とは思えないよね。結晶竜も竜王の力によって生み出されたっぽいし、何が待っているのかドキドキするねっ!)
(宗教ってのは民衆を利用したり商売する上で何かと都合がいいだ。カルドウスが絡んでることも考慮して慎重に行動した方がいいだな。特にファス、さっきみたいに先走るのは止めるだよ。しっかりと情報を集めるだ)
(……反省しています。しかし、ご主人様の名誉は一番奴隷として守らなければなりません)
(やり方があるってだけだべ。オラも旦那様の名誉を守るのは賛成だべ)
(街、みえたー)
「おっ、着いたか」
フクちゃんの【念話】を受けて顔を上げる。河をさけた丘から見下ろす形で街が見える。
見るからに港町で、石造りの停泊所があり沖を見れば海に浮かぶ大水球から伸びた虹の柱を辿って船が昇っていくのが見える。明らかに重力を無視しているけどどうなってんだろ?
「あの水の塊に船が昇っていってるんだけど……」
口をあけて驚いている僕を見てマゴンさんはクスクスと笑う。
「英雄様は海を見るのは初めてのようですな。あの大水球はこの辺りの海においてなくてはならないもので、それ自体がダンジョンなのです。海より三日浮かんで三日かけて沈む。水球の表面には危険な魔物が多く潜んでいますが貴重な魚や素材が取れますし、高値で取引されるのです。なので船乗りは冒険者を乗せて大水球へと船を出すのです」
「中を泳いだりするんですか?」
「危険ですが、高レベルのマーマンは泳いで魔物と戦うこともあるそうです。また、大水球は海に潜っている時は海底にある別のダンジョンへの通路に変わります」
「はいはーい、質問です。船が昇っている横にある虹の柱ってなんなの?」
叶さんが我慢できないと言う風に手を上げる。
「虹柱は特殊な力の流れがあってそれを利用すればあのように船が空を進むことができるのです。優れた船乗りだけがあの虹へ船を乗せます。さて、英雄殿。我等はこの不届き者を騎士団に差し出して仕事を探そうと思います。助けていただき本当にありがとうございました」
「騎士団に引き渡すまで僕等も付いて行きますよ」
「そこまでしてもらうわけにはいきません。それでは……セイレーンの祝福があらんことを」
最後に村の特産品だという乾燥した海藻を貰う。何度も頭を下げながらマゴンさん達は丘を降りて行った。
「じゃ、僕等も行くか。ノーツガル行きの船が見つかるといいけど……」
「んじゃ、フクちゃんの次はオラが旦那様と一緒に回るってことだべな」
トアが僕の腕をとって腕を抱いてくる。ファスやフクちゃんが移動する時に引っ付いて来た時の続きなのだろうか? 胸当て越しなので柔らかさは無いが、それでもトアの顔が近くてドキドキするな。なにこの美人さん。
「ぐむむ、あえて街まで待っていたということですか。やりますねトア」
「こういう所トアさんってソツないよね。何気に街デート率高いし……はっ、でも次私ってことは夜は真也君を独占できると考えればありかも!」
「ずるいぞー」
なんだか他メンバーの視線が冷たいのだが、トアは僕の腕を離すつもりはないらしい。
今度はアナさんの印もしっかりと使うことができて、僕等は街へ入ることができた。
書きたいことが多すぎますが、とりあえず……水着回はやりたい。
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