第四百八十話:水辺の魔物達
目覚めてテントの外へ出ると、巨大なウツボのような化け物が氷の杭に貫かれた状態で朝日に晒されていた。
「うわぁ……」
思わず変な声がでる。一応気配を感じて起きたのだが【念話】で見張りをしているファスに確認すると「問題ありませんので、もうしばらく寝ていてください」と返って来たし、ほとんど音もしなかったから二度寝に勤しんでいたのだがまさかこんな大物だったとは。
「おはようございますご主人様。ここはよい場所ですね、見張りの時も退屈せずにすみます」
フードを脱いでこちらに笑顔で駆け寄って来るファスはいつものようにこの世の物とは思えないほど、神秘的で可愛らしい。出会った頃よりもよく笑うようになったなと思う。それはそれとして、やっていることがエグい。血の滴る氷杭の前で立つ姿はまさに歴戦の魔術師と言っていいだろう。僕もああいう、派手な場面を作りたいもんだ。
「戦う時は僕も手伝うぞ、遠慮せずに起こしてくれればいいんだからな」
「もちろん少しでも異変があればお呼びしますが、この魔物はマジックキャンセルすらできない雑魚ですしお呼びするほどのこともありません。ご主人様も見張り当番の際は細々した魔物を倒し続けていたじゃありませんか」
「僕の時はもっと小さいトビウオみたいな魔物だったし、弱かったからな」
河の近くにキャンプを張ったのだが、夜になると一定間隔で河から上がって来た魔物が襲ってきたのだ。始めは逃げようとも思ったのだが、叶さんの結界やフクちゃんの糸を突破できる様子も無かったし僕等も隠れ里で学んだ技術の振り返りをしたかったので場所を変えずに見張り番が戦うことにした。暗闇での戦闘はいい訓練になるしな。意外なことに叶さんまでも戦闘したいと言い出していたからな。
「お早う~、わー、すごいことになってる。大物だね」
(トアー、オキロー、ゴ飯作レー)
叶さんも起きて、その後ろではトアの上でピョンピョン飛び跳ねるフクちゃんの姿が見える。
ちなみにフクちゃんは昨晩ほとんど寝ずに見張りの手伝いや狩りをしていたようだ。テントの横に戦果を残すように何かの骨やらなにやらが積み重なっている。一トンは食べてるだろうけど……大丈夫? いくら魔物が危険な存在とはいえ生態系破壊してない?
「むにゃ……おぉーこれは大物だべ。ファス、血抜きは……」
「すみません、串刺しにした後も暴れたので強めに攻撃してしまいました」
「そんなら、早いとこバラすべ……わふ~。旦那様、捌くの手伝って欲しいだ」
「任せとけ」
というわけで今日の朝食はウツボの香味焼きとなった。昨日用意した釜戸の上に置かれた網の上で固まりで焼かれていく白身を見ながら全員で昨晩の振り返りや今後について話し合う。
「いい匂いだな。とりあえず僕の時は襲撃が三回ほどで羽部分が刃になっているトビウオみたいなやつばかりだったな。倒すと稀に死体がこんな姿になったんだ」
懐から白い櫛をとりだす。櫛のように見えるではなく、ちゃんと加工された感じの櫛で歯にあたる部分は柔らかくかなり質がいい様に見える。
「ドロップ品ですね。本来ダンジョンで見られる多く現象ですが……基本的にドロップ品は高値で売れる傾向があるのでとっておきましょう」
「モグ太達もツルハシに姿を変えたりしてたな。何か条件があるかもしれないけど、冒険者の心得にはなんも書かれて無かったと思う」
あの本は思考加速の訓練で何度も開いたから、読みぬけは無いはずだ。そろそろ白身焼けてない?
とんでもなくいい匂いがするんだけど?
「あの本、量は凄いけど基本的には野営の方法や命を守ることが中心だからね。私の時は発光するヒトデだったよ、回転しながら襲ってきたから。兎さんや過回復で倒したけど……特にドロップとかはなかったよ。ほとんどフクちゃんが食べちゃったし」
「オラはハズレだべ。なんの襲撃もなかっただ。というか、フクちゃんが河に入って全部食べたんでねぇのけ?」
ファスから話を振られると、フクちゃんは少女姿に変身する。本日の髪型は前髪パッツンのショートボブです。
「新しい【スキル】集めてた。新しい毒もいっぱい集めた。後で、マスターに注入して耐性つけてもらうの。皆にも毒を弱くして耐性をつける」
ポスンと僕の膝の上に乗るフクちゃんを撫でる。フクちゃんさんはこの一晩でまた強くなったようだ。留まるところを知らないぜ。
「ありがとうフクちゃん。僕等に影響ある毒があったのか?」
「マスターに効く毒は無い。でもこいつら、毒の種類は色々ある。薬にもなる。トアー、お腹へったー」
「海のモンの毒は質の悪いもんが多いと聞くだ。早めに耐性をつけとくのはいいと思うべ。もうちっと待つだよ。あと少しで焼けるだ」
「旅に影響が出ない程度に食後に毒を入れてもらいましょう。【竜人化】の影響も試せますし、私達にはやることがたくさんあります。トア、そろそろ焼けたのでは?」
話し合いもほどほどに食欲に支配されてきた僕等をみてトアはため息をつく。
「まったく、カニのガラスープもつけるつもりだったけんど皆我慢できそうにねぇべな。先に出すべ。ほれ、焼けたから皿を持ってくるだ。いいとこは旦那様がどうぞ」
トアが網から白身を外す。最後に別の釜戸で温めていたニンニク油をかけて完成のようだ。
「やった。いただきますっ!」
淡泊な白身にフォークを入れるととふわっと白い湯気が立ち昇る。ニンニクと胡椒、それにトアが用意した香草の香りが交じり合う。めっちゃいい匂いだ。口にいれると身がホロホロと崩れ程よい塩味が身の旨味を引き立てている。白身ヤバイ。これ美味しいな。
「昨日のカニも素晴らしかったですが、この焼き魚もとても美味です」
「皮はあんなに固いのに身は柔らかいんだもんな」
(ウマウマ)
「昨日余ったカニでスープも作ってるから、ゆっくり食べるだよ」
「毎日思うけど、トアがいてくれて本当に良かったよ」
「感謝しかありません」
「神、ゴッド、女神だね。トアさんの料理を食べ始めてから体の調子がめっちゃいいんだよね」
聖女がそんなこと言っていいのか?
「おいしー」
「オラは料理人でその仕事をしているだけだべ」
残った食材は腐らせるのもあれなので、本当に美味な部分を厳選してアイテムボックスに入れて残りはフクちゃんが全部食べてしまった。
「じゃあ、マスター。チュー」
歯磨きをした後に少女姿のフクちゃんがキスをしてくる。まぁ、実際は毒を流し込まれているのだが。噛みついて毒を注入するのもできるのだが、今の僕の肌は頑丈すぎてこっちの方が手っ取り早い。……決して他意があるわけではないのだ!
「うーん、凄い絵面。犯罪だね」
「気にしているから言わないで……」
しばらくしてなんか喉がイガイガしてきた。ちょっと指先も痺れるかな。
「あんまり毒を感じないな。ちょっと違和感があるくらいだ」
普段の模擬戦闘でフクちゃんに使われる毒に比べると無毒といってもいいくらいだ。
「ご主人様が体に違和感を感じるなんて……この辺の魔物の毒は侮れませんね」
冷や汗を掻いているエルフが一名いるんだけど。
「ファスは僕をなんだと思ってるのか一度聞きたいんだけど」
そこまで人間離れはしてないだろ。
「そうだよ。普通なら死ぬ」
「そうなの!」
「そりゃ、大概の毒は効かないと言われている【聖女】の私より毒耐性あるのが真也君だし」
「……」
「流石ご主人様です」
「大丈夫だべ旦那様。オラ達も似たようなもんだべ」
いや、まぁ自分が人間離れしつつあることに対しては皆が【竜人化】を受け入れてくれたこともあって納得はしているんだけどさ。なんか僕が思っているより周囲と違いがあったりするのだろうか。この旅では久しぶりに他の【転移者】にも合うだろうしその辺も確認しないとな。うん、まだまだ僕は人間の範囲のはずだ。きっとそう。そう考えて己の心を平静に保つ。
他のメンバーには子蜘蛛姿でフクちゃんが毒を注入していき、念のため叶さんの回復を受けて朝の作業は終わる。手早くテントを片付けて出発だ。
「マスター、見てみてー」
出発前にどこかへ行っていたフクちゃんがなんと白スク水姿で出て来た。恐らく自分の糸で編んだんだろうけど、横で叶さんがサムズアップしている。なんて良い仕事をしているんだ。
「どう? すごいでしょ。流石フクちゃんだよね」
「えっへん」
「可愛いぞフクちゃん! 僕も水着が欲しいな。昨日は水上を移動するだけだったし、泳ぐのもいいかも」
「マスター、作ってあげる」
というわけでフクちゃんに水着を作ってもらった。魔物もいるので一応肌を保護する為にピタリと張り付く長袖シャツと短パンのような形にしてもらう。この上から一応胸当てとかもつけれるな。
「安全な場所なら私も水着になりたいなー」
「防御に不安がありますが、ご主人様が喜んでくれるなら是非着たいです」
「水中で戦うのは想像したくねぇけんど。街に着いたら水に濡れてもいい服を探すだよ」
皆の水着姿か……めっちゃ見たくはある。今度フクちゃんさんに相談しよう。
「というか真也君、改めて明るい場所で見てみると……凄い体だね」
叶さんが僕のシャツをペロリとめくって来る。恥ずかしいんだけど。
「鍛えてるけどあんまり太くならないんだよな」
「太さよりも密度が凄いよね。これもうギッチギチって感じだよ。腹筋もボコボコだし。……ジュルリ」
叶さん……一応学校では清楚で通ってたはずなんだけどな。
「実際ご主人様の身体は大変美しいと思います。鍛え上げられた刀剣のようです。背も伸びられましたしね」
「え? マジ? 全然実感なかった。どのくらい伸びたかなぁ」
最後に身長を計ったのはいつだったか……恐らく170㎝ほどだったはずだ。
自分の身長って中々違いとかわかんないよな。
「今は175はあると思うよ。というか、最近ずっと思っていたんだけど顔つきもずっとかっこよくなったし、立ち振る舞いも完全に……うーん、これ不味いかも」
むむむと眉間に皺を寄せる叶さん。それを言うなら叶さんも日々綺麗になっているけどな。
化粧はしていないはずなのに、少女らしさの中に艶っぽさというか大人の女性が持つ魅力を感じる瞬間が増えているような気がする。
「不味いって何が?」
「ううん、こっちの話。ほら、水着着て河に潜るんでしょ? 私達は横を歩いているから」
「う、うん。じゃあフクちゃん行くかっ!」
「おー」
なんか気になるがこういう時はそっとしとくのが吉だと僕も成長しているのだ。
というわけでフクちゃんと一緒に河へ走りだしたのだった。
真也君は見かけの倍くらいの体重があったりします。
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