第四百七十七話:大森林の空に
プリちゃんからの従魔契約のお誘いであったが、フクちゃんが猛反対。
現在、少し離れた場所でフクちゃんとプリちゃんで会話をしている。蟻塚の頂点をみれば、頂上にリングができており、ちょっとした装飾のようなものも付け足されている。
「ディティールにもこだわっているのか……」
「不思議だよねー。ところで真也君はプリちゃんに対してどう思っているのかな?」
「私も気になりますね。是非、お考えを聞かせて欲しいです?」
ファスさんが無表情で顔を寄せてくる。そう言われてもよくわかんないんだよな。
叶さんは興味津々というか仲間に引き込みたくてしょうがないって感じだ。
「うーん、この蟻塚のこともあるし一緒に旅は難しいだろ? どうなるのかわかんないんだよな。プリちゃんとも出会ったばっかりだし……」
「モグ太みたいに【眷属化】のスキルで配下に加えるのでいいんでねぇか? 全力で反対しているフクちゃんのこともあるけど、最後は旦那様が決めることだべ」
「そうだな。フクちゃんとプリちゃんが戻ってきたらしっかりと話を聞いて判断しよう」
トアが皆がお茶に配ってくれた。うむ、癒される。
「かなり異常事態なのだが、呑気なものなのだ。ズズ、アチーのだ」
「アイツ等はいつもこんな感じだ。ふむ、いい香りだ」
イズツミさんとナルミもお茶を飲みながら、のんびりしている。
そんなこんなで待っていると、フクちゃんとプリちゃんが戻って来た。
「話し合いはどうなったんだ?」
尋ねると、フクちゃんが少女の姿になってプリちゃんを持ち上げる。
「【従魔】はダメー、でも手下ならよしっ! マスターの加護をあげればいいの」
「ふむ、それはどういう状態なのですか?」
「モグ太とおんなじ」
そういえば、モグ太が宙野に襲われた時も繋がりを感じたっけ、あれがフクちゃんの言う【加護】なのだろうか?
むふーと鼻息荒く力説するフクちゃん。横からイズツミさんがニヤニヤ笑いながら寄って来る。
「シンヤは【契約】系のスキルを持っておるのだ?」
「契約ってのが何かわからないけど【眷属化】ってのがあります」
「フィオーナが図書館から持って来た禁書によると、かつて白竜姫は竜以外の魔物も己の配下として力を与えることで魔力が滞るのを防ぎ世界の循環を担った。お前にも同じ力があるのかもしれないのだ。どちらにせよ、クイーン・アントが他の女王のいない群れから離れることはない。大森林に生態系の乱れがあることも事実なのだから、いっそ配下にして大人しくするように命令でもしてくれればこの辺りも安全なのだ」
「そう言われても……モグ太にだってどうやったかわからないし」
うーん、モグ太としたことか。そういえば一つだけお呪いをしたっけ。
拳を合わせる友達のお呪い。なんとなくだけどあれが正しい気がする。
「皆、プリちゃんを【眷属化】の影響化にいれてもいいかな?」
「ふむ……スキルの影響がどの程度かわかりませんが、やってみてもいいかもしれません」
「オラも賛成だべ。同じ飯を食った中だけんな。ただ、フクちゃんが気にしているように群れの序列は守ってほしいだ」
「私は大賛成っ!」
「わかった。プリちゃん……」
握った拳を突き出すとプリちゃんは触覚をピトリと拳に当てる。すると、確かに僕の中に力を与えるような感覚がある。【スキル】に逆らわずに魔力を流すと奴隷紋が浮かび上がり、小さくなりながらプリちゃんの王冠に吸い込まれていった。
「これで、こいつはマスターの手下。しょうがないなー、特別だからなー」
フクちゃんがプリちゃんの触手を手でつつくとプリちゃんは感謝するようにお辞儀を繰り返している。
「私は特に変化がありませんね。ご主人様はどうですか?」
「全くないな。モグ太の時も特になかったしな」
「それなりの魔力の移動が見られたが……まっ、前例がないのでこのクイーン・アントに関しては【魔尾の旅団】の方で観察をしていくのだ」
「おい主、完成したみたいだぞ」
ナルミが蟻塚の天辺を指さすと巨大な輪に角を付けたような建造物が出来上がっていた。その中心から緑の葉が噴き出して道を作っていた。
「見るのだ。開通の呪文も無しで『精霊の小道』が開いている。……あれを見たのは十数年ぶりなのだ。さぁ、アグロが貴様等を小道の先まで運んでくれるのだ」
「クエェエエエエ」
大鷲が翼を広げると風が巻き起こり、飛ばされそうになるプリちゃんをナルミが抱え込んだ。
いよいよ出発の時らしい。
「さらばなのだ。大森林の英雄達。シンヤ、忘れるでないぞ。答えとは問いかけることにこそ意味を持つ。考え続けるのだ」
「はい、教えてくれたこと忘れません」
僕等がボートに乗り込むと、今にも飛び立つ前にイズツミさんがファスを抱き寄せた。
「フィオーナの娘、ファス。お主の名をナゴに伝えたのは吾輩なのだ。死にゆくお前に何もできなんだ……許せよ」
ファスも杖を置いてイズツミを抱き返す。
「あなたのおかげでお婆さんやご主人様と出会い、冒険をすることができています。感謝します」
「……うむ、よき出会いであった」
「マスター、泣いてる?」
うぅ、僕ってこういうのに弱いんだよ。特に家族の話は涙が止まらなくなる。
「おい、我が主」
「ん、ングッ」
唐突にナルミにキスをされる。果物の香りがした。
「ナルミ……」
「必ず会いに行く。ミナと一緒にな。それまで精々……無事で……いろ」
驚いて何も言えなくなる。ナルミは泣いていた。ここまで飄々していたのに、抑えきれなくなったかのようにポロポロと涙をこぼしている。
「……」
「ミナのことを笑えん……こんなはずじゃなかったんだ。適当に送り出すつもりだったのに……色々思い出して……砂漠で私を救ってくれたこと、私の故郷を救ってくれたこと。決して忘れない! だからお前も私を忘れるなっ!」
「あぁ絶対に忘れない! ありがとう」
「そうですね。少しはエルフの国も好きになりました。ナルミ、貴方が私が出会った最初のエルフで良かったと心から思います」
「ダイジョブ、ボク等は繋がってるの」
「まだまだ大森林の食材を知りたいだ。オラのレシピも使ってけろ」
「本当っに楽しかった。連絡用の魔道具ができしだい必ず届けるよ。ナルミさん、私達もう家族みたいなものでしょ」
「あぁ……さらばだ我が主っ! そして我が友よっ!」
全員のお別れが済むと、風が巻き起こり少しずつアグロが牽くボートが浮かび上がっていく。
イズツミは手を組んでこちらを見送り、ナルミは最後まで手を振り続けた。
「ご主人様見てください……」
「あぁ……綺麗だ」
顔を上げると荒地の向こうに緑の大森林が見える。一際高いあの木は図書の樹だろう。
本当に色んな事があった。ボートのへりにしがみついて、下を見て声を挙げる。
「また会おうっ!」
ボートが進み、魔蟻達が見送る中。僕等は『精霊の小道』中に入っていった。
想定より5万字ほど字数が増えましたが、次回より海を舞台にした新章になります。
転移者達との邂逅に竜族を自称するマーマン達。大森林の戦いを経て大きく成長した真也君達の冒険をこれからもよろしくお願いします!
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追記:すみません。テンション上がって時間間違えて投稿しちゃいました……。






