第四百七十六話:試験の終わり
トアの料理を食べ終えて簡単にストレッチをする。……うん、いい感じだ。
対岸にあるキノコに覆われた洞窟を見据える。
「じゃあ、行くかっ!」
(おー)
フクちゃんを肩に乗せて一歩踏み出そうとすると、トアに肩を掴まれた。
「何しているんだべ旦那様?」
「え? いや、あのキノコの群れの奥に敵のボスがいるんだろ。だから倒す為にわざわざキノコの耐性がつく料理まで食べたんじゃないのか?」
これからそこへ行って、戦う気満々だったんだが。
「旦那様……必要もねぇのにわざわざ相手の懐に入る必要はねぇだ。耐性をつけたのは保険の一つに過ぎねぇだ」
「へ?」
「まずは黒蟻達をここから避難させるだよ。フクちゃん、プリちゃんに伝えてくれるだか?」
(ハイハーイ)
フクちゃんを叶さんに抱きかかえられているプリちゃんの前に持っていくと、爪と触覚で身振り手振りで会話し始める。
「きゃあああ、可愛い! お話してる!」
(カナエ、ウルサイ)
しばらくするとプリちゃんがピコピコと触覚を動かし始め、黒蟻達が下がっていく。
統率の精度が上がった黒蟻達はゾンビ蟻達にも有利に立ち回れているようだ。
「んじゃ、ファス。ここって地上から遠いだか?」
「いいえ、岩盤は固いですが地上からはそう遠くないです」
「そんなら、あの洞窟の上らへんに穴をあけて欲しいだ。周囲を巻き込んで崩れないように旦那様にも手伝って欲しいべ」
「穴? まぁ、穴掘りなら得意だけど……」
いまいちトアの考えがわかんないな。兎に角指示通りに地下水脈を【空渡り】で越えて、キノコがうっそうと生えている洞窟の上らへんの岩盤に対して【ツルハシ】を打ち込み。切れ込みを入れては拳で砕いて穴を掘っていく。
「ご主人様。その位で十分です……ガァアアアアアアアアアアアアア!!!」
ファスの黒い【息吹】が炸裂する。相変わらず加減が難しいのか僕が掘った穴を砕かんばかりに天井をぶち抜いた。地上までは30mほどだろうか? かなり分厚い岩盤だっけど一発で貫いたな。……威力上がってない? 落ちてくる砕けた大岩を交わしながら皆の元へ戻る。
「おぉ、大したもんだべ。これで空気穴もできたしおあつらえ向きに手前には河もあるだ。旦那様、ファス、白い【息吹】であのキノコ共を焼き払うだよ」
「なるほど。確かに、あえて行く必要も無いか」
「確かに、これの方が確実ですね。私の【息吹】では閉所での制御に不安があります。合わせ技でいきましょう」
「えー、せっかくなら。私考案の新技で行かない? あれなら一帯を殲滅できるよ」
叶さんがプリちゃんを掲げながら物騒なことを言っている。
「地上ならまだしも地下であんな『ヤバイ技』使ったら周囲にどんな悪影響があるかわかんねぇだ。一度制御に成功している旦那様とファスの合わせ技の方が安全だべ」
「私もそう思います。白竜の炎はご主人様が纏えば燃やす対象を制限できるので、この場合はそうするべきでしょう」
「まだ、技にいまいち自信ないんだけどね」
図書の樹のダンジョンで【枯れ柳】に放った一発こっきりだし。
「せっかくなんだし、ちょっと工夫しようよ。そうだね……トアさんの風も使ってみたらどうかな?」
「……いや危ないだよ。オラの風は振れたものを切り裂くべ」
「大丈夫だぞ。今の僕ならトアの風があっても合わせられると思う」
というわけで、最終確認と想定される相手の動きを話し合って持ち場に着く。
「ご主人様、トア。準備はいいですか?」
「いつでもいいぞっ!」
「本当に大丈夫だか?」
「いきますっ! ヴゥウウウ……」
ファスが歯を食いしばると白い炎が口から溢れるように広がる。
それを見て前に飛び出て両の手刀を振りかぶる。
「【飛竜大旋風】っ!」
「ガァアアアアアアアアアアアア!!!」
拡散する白い炎と斬撃を宿した風が洞窟の光を塗り替えるように激しく発光しながら僕に向かって放たれる。トアの豪風とその炎を【掴み】体に纏い一気に収束させ、目の前のキノコの洞窟に意識を集中。
「【竜の双風翼】っ!」
振り下ろす手刀は翼のように広がり、目の前のキノコの壁を薙ぎ払う。
風を受けた炎は意思を持ったようにキノコを飲み込みながら燃え広がっていく。火が風を呼び、風が火を奔らせる。切り刻まれたキノコが宙に舞ってすぐに燃やされていた。
「速い……というか、思ったよりヤバいなこれ」
一応燃やす対象は指定しているものの、炎以外の部分はどうしようもない。固いはずの岩盤すら削りながら風と炎がすぐに洞窟の奥まで行ってしまった。空を蹴って皆の元に戻る。
「大丈夫ですかご主人様?」
「僕は大丈夫。今回もヤケドは無いし、どちらかと言うとあっちのほうが大変なことになっているけど……」
対岸は吹き荒れる暴風と白い炎でまさに地獄絵図になっている。叶さんが興味深そうにその光景を眺めながら口を開いた。
「興味深いね。あれって普通にトアさんの【スキル】が合わさったとかじゃなくて、新しい現象が起きているよね。トアさんの【スキル】も『竜』の字があるし、真也君を起点に合わせ技にすることで強化されているのかな?」
それを聞いたトアは冷や汗を出しながら、苦し気にうめく。
「うぅ……魔力を吸い取られているだ……風が展開している間はずっと魔力を使ってるみたいだべ……オラはここまでだべ……ふへぇ。マタンゴまで炎は届いただか?」
トアが息を吐くとキノコとゾンビ蟻を刻んでいた風が収まる。
「必死でこちらに向かっていますよ。奥の行き止まりではあのまま焼かれると思ったのでしょう」
ファスが言い終わらない内に、奥から白炎に焼かれたゾンビ蟻達が飛び出してきた。その体は風で刻まれたせいか原型を保っていない。
「うわぁ」
自分でやったことだが、あまりに無残すぎる。どれだけいたのか知らないが数百匹のゾンビ蟻が飛び出そうとしては燃やされていく。そのゾンビ蟻達を盾に炎を防ぎながら小山ほどの巨大なキノコが飛び出してきた。
「あれがマタンゴか」
斑の毒々しい傘を持つちょっとしたビルほどの巨大なキノコには木の根を無理やり手足にしたような四肢がついており、わかりづらいが顔のようなものも確認できるな。皆の前に出て、構えを取りつつ警戒する。
「というか、ちょっと燃えているね。プリちゃんもいるし一応結界張るね。【星涙光壁】」
叶さんが結界を張り、様子を見ているがなんかおかしい。どうやらゾンビ蟻を盾にここまで来たが、傘の一部が燃えているようだ。半狂乱のままに河に飛び込む様子はどことなく間抜けだ。
しかし、河の中でジタバタともがいているがマタンゴについた白炎は全く消える様子がないどころかさらに燃え広がっている。
「あの炎はまだ私とご主人様の制御下にあります。私達の魔力が続く限り、水中であろうと決して消えることはありません」
「そうなのっ!?」
「なんで真也君が驚いているの? 【呪拳】が場に残る性質といい。少しでも動かれたら後はもう不利になり続けるのゲームならクソゲーって言われるボスだよね」
確かに珍しく魔力が減っている感覚があるな。他を燃やさないように意識も継続しているし。それにしても連鎖して爆発し続ける黒竜の炎の派手さに隠れがちだったけど、白竜の炎も大分ヤバイ性質しているな。
(マスターのアホー、ボクの出番がナイー)
フクちゃんが頭に乗ってきてピョンピョンと跳ねる。
いや、流石にこれで終わりってことは……。水中のマタンゴを見守るが、しだいにもがくことも無くなっていき。水の中にも関わらず燃やしつくされ跡形もなくなってしまった。
「え? 本当に終わりなのか!?」
「そのようですね。魔力の流れも消えました。ご主人様、白炎を消しましょう」
ファスの言葉に合わせて意識して白炎を消していく。焼け残った後には黒い煤と茶色の壁があるのみだった。
「なんか、釈然としないというか……」
まさか合わせ技一発で終わるとは……実は生き残りがいてラウンド2とかないのか?
せっかく武の感覚が馴染んで来たというのに、不完全燃焼感がある。
「まぁ、流石にオラもこれは予想外だったべ。相手を自分の陣地から引き出さればいいと思っただが、竜の力というものは恐ろしいもんだべ。ファス、他にマタンゴはいないだか?」
「……この辺りには見当たりませんね。ゾンビ蟻の様子はどうでしょうか?」
(動かなくなったっテ)
フクちゃんがプリちゃんに確認した所、ゾンビ蟻達も死体に戻ったらしい。
叶さんの腕の中でプリちゃんが触覚を動かす。
(お礼、スルって)
「お礼? そういえば小道を開けてくれるんだっけか」
退避していた黒蟻達がやってきて、僕等を背中に乗せて群れで移動し始める。
壁を登って、地上に出ると蟻塚に向かっているようだ。五つある巨大な蟻塚の中では一際高い真ん中の蟻塚まで来ると、黒蟻達は僕等を地面に下ろして塚を登り群がっていく。
「何しているんだろう?」
「酸を吐いて蟻塚の形を変えているようです」
登頂部分を溶かして何か別の形にしているようだ。その様子を眺めていると、上から鳥の鳴き声が響く。
見上げるとアグロが紐をで持ち上げているボートにのったイズツミさんとナルミが降りてくる最中だった。アグロを警戒したのか黒蟻達が寄って来るが、プリちゃんが退けてくれた。
「どうやら、マタンゴは始末したようだな。ふむ、これが次代のクイーンアントか……魔力が大分強いように感じるのだ。何かあったのか?」
「主、蟻の群れに飲まれるのを見た時は寿命が縮んだぞ」
イズツミさんが指先でプリちゃんを突き、ナルミは不機嫌そうに小言を行ってくる。
「随分、イジワルな最終試験でしたね」
かなり回り道をさせられた気がする。のでナルミに謝りながらイズツミさんに愚痴を吐く。
「吾輩はクイーン・アントを倒せとは一言も言っておらんぞ。蟻塚を攻略せよと言ったのだ。見事に試験は達成したな。暴走したマタンゴが倒されたなら、雨期を経て再びマタンゴは生まれ調和された生態系に戻るはずなのだ。己の力に飲まれることなく、よく考えたな。今の貴様等なら先のように奇襲に迷うこともないのだ。各自に足りない物は授けた。後はお前達しだいなのだ」
「……ありがとうございます。確かに僕等は強く成れたと思います」
「当り前なのだ。……シンヤ、ファスをフィオーナの娘を頼んだぞ。そろそろ、小道も開きそうなのだ」
イズツミさんと蟻塚を見上げると再形成された蟻塚の頭頂部は大きな輪となっていた。
「おぉ、あれが小道なんだ。あれ、プリちゃん?」
叶さんが抱えていたプリちゃんが、その腕をすり抜けての僕の元へくる。
そして触手で僕の手をツンツンと突いて来た。
「これってもしかして……」
叶さんが目を輝かせてこっちを見ている。プリちゃんは僕の前にきて頭を垂れるような仕草をしている。
「うむ、従魔にして欲しい様だぞ。仮にも魔王種であるクイーン・アントが自ら従魔に志願するとは記録にないな」
イズツミさんがそう言うと、フクちゃんが飛び出してくる。
(ダメー! マスターの浮気モノー!)
頭が震えるほどの強い【念話】が響くのだった。
次回で章が変わると思います。やっと新章だー(自業自得
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