第五十話:見たことある顔
楽し気にライノスさんは食堂の方へ行った。ご機嫌だったな。
「今日、来られる方はー。ライノスさんがまだ帝都の騎士団にいた時の知り合いみたいですねー、冒険者としてもCランクで、ライノスさんが言うには実力はBクラス程度は余裕である手練れだそうですー。ライノスさんは人を見る目はありますからー、会ってみるのは良いかもしれませんねー」
「ライノスさんは騎士だったんですか?」
書類を書き終わったのかトントンと紙をまとめるアマウさんに聞いてみる。
「そうですよー、結構偉かったみたいですけど、なんでか辞めて冒険者をしているんですー、いつも下げている剣は武勲を上げて授かったものだとかー」
なるほどなー、人に歴史ありとはよく言ったもんだ。
依頼の達成証明書にサイン(ファスに代筆してもらいました)して納品の為に解体場へ行く。
ポキポキ草もここで見てもらえるみたいだ。幸い人はあまりおらず、すぐに解体場の主であるマジロさんの元へ行くことができた。
「おう、坊主。アマウ嬢ちゃんから聞いたぞ。ポキポキ草とブルマンの納品だな」
何かしらの通信機器で連絡が先に行っていたようだ。アイテムボックスのことは秘密にしたいので奥の部屋で見てもらう。
「おうおう、大量だな。まずは草から見てみるかね……フム、良くこれだけ見つけれたな。アイテムボックスのおかげで状態もかなりいい、色付けて全部引き取るぜ。次が問題だな。ブルマンか……」
とりあえず、並べるのは皮と角だ。肉はそれこそ限界までアイテムボックスに積んでいるからな。
マジロさんはかなりじっくり皮の状態を確認している。手で触ったり裏面を見たり、素人目には何をしているかさっぱりわからない。横をみると解体担当のトアは少し緊張しているようだ。
「これはレッドブルマンの皮だな、解体したのは……そこの獣人の嬢ちゃんか?」
「は、はいだべ」
「……良い仕事だ。うちの若い衆にも見習わせたいよ。高値で買い取ろう、ちょうど打楽器でブルマンの皮を使いたいという話があったからすぐに商業ギルドに連絡するよ」
「ありがとうございますだ」
ホッとトアが息をつく。背中を叩いて祝福する。
ファスも面白がってポンポンと叩く。ダメだぞファスこういうのはバシッと行くのがよいのだ。
「痛いだ旦那様、アハハ」
「さすがトアです」
「次は僕もちゃんと手伝うよ」
(イイシゴトー)
実際こういった作業をこなしてくれるのは本当に助かった。もしかしたら僕は逸材を引き入れたのかもしれないな。
「作業場でいちゃつくんじゃねぇ。ったく。ギルドのポイントもそれなりに入るだろう。ポキポキ草と合わせてEランクへの昇格はできるんじゃねぇか」
作業の手は止めずマジロさんがそう言う、そんな簡単にあがるもんなのか?
「一回の依頼で上がるようなものなんですか?」
「そりゃあおめぇ、Fランクなんて冒険者の見習いみたいなもんだからな。採集を何回かすりゃあがるもんさ。魔物の素材なんて納品すりゃその日のうちにあがるよ。自分で狩ったならな。おっと忘れてた、依頼にあった装備が来てるぞ。後ろの箱にあるから開けてみろ」
マジか!! 思ったより早くできたな。様々な解体道具が並べられている棚の下の方にある箱をとりだし開けてみると装備が入っていた。手甲、手甲はどれだ?
「皆、見てみろよ」
「ありゃ、もしかしてオラの分もあるだか? 随分仕事が早いだな」
「材料が余っていたからな。アマウの奴が発注してきたんだよ。追加分の料金はギルドから出ているぞ。なんでも、宝石商の襲撃の詫びだそうだ」
「へぇ、助かります」
あの宝石商についてはギルドが動いてくれたのだろう。僕としてはトアの分の防具まで手に入って嬉しい限りだ。
中にあったのは、胸当てと太ももを守るような腰巻が三人分とそれぞれの脛当て、そして手甲が入っていた。それぞれサイズは調整しているようだ。
男性と女性でデザインが違うらしく、特に腰巻は僕のは前が開いているがトアとファスのは前が重なるように留められるらしくちょっとおしゃれだ。
胸当ても腰巻もカースモンキーの皮が毛がついたまま使われており、主要な部分に邪魔にならない程度に金属の板がはめられている。
取り付けようと今のボロボロの胸当てを脱ごうとするとファスが手伝ってくれた。
さすがにもう一人で脱いだり着たりできるんだけどな。
「一人でできるぞ」
「ご主人様は私の楽しみを奪うつもりですか?」
「……好きにしてください」
「はい、では後ろを向いてください」
なんか最近ファスにまったく逆らえないな。いや最初から逆らえなかったか。
鎧を着ると、キュキュと自動で締まってサイズが調整される。そういやギースさんの所で付けていた重たくなる手甲も付けたら自動でサイズが微調整されたっけ。
あの手甲、鍛錬に最適だったよなぁ。今度余裕があったら防具店に探しに行こうか。
胸当てを付け、腰巻を着ける。なるほど着けてみるとしっかりしているんだな。
金属板がついた脛当てをつけ、そしてお楽しみというか僕にとってはメインウエポンの手甲を着けてみる。
「どうですかご主人様」
「旦那様が嬉しそうで何よりだべ」
(ニヤニヤシテル)
「かなり具合がいい。すごく馴染むな、すぐに使いたいよ」
新しい手甲は前腕部分まで覆うものでよく伸びるので、手を動かす上で邪魔にならない。
金属板が細かく部分ごとに取り付けられているのが心憎い。手を開いても拳にしても邪魔にならないようにしてくれている。これを作った人はこの手甲が【拳士】であることを知ってその上で使用に耐えられるようにしてくれたに違いない。
これまで使っていたものとは付け心地も使いやすさも段違いだった。強く拳を握るとギチギチと音がして相手が欲しいと訴えてくるようだ。
「私達はどうですか」
「調整の魔術がかかっていてよかったべ、いい感じだ」
声の方を見るとファスとトアも装備が終わっていた。
ファスはローブを脱いで防具を見せてくれている。ファスの胸当ては上からローブを羽織ることを想定しているのかピタッとはりついていて毛皮がファーみたいで可愛い。僕の装備よりも金属板の設置部位が小さく少しでも軽くしようという工夫が見て取れる。
トアはもともと獣人ということもあってかその高身長と相まって歴戦の猟師のように防具を着こなしている。黙っていれば切れ目の美人なのでかっこいいな。
細かな違いはあるものの基本的には同じデザインのはずなのに着る人間で印象が全く違う。
ファスとの違いは前衛であることを意識しているのか作りが少しゴツいように見えるところか。
「二人ともよく似合ってる、気の利いたことは思いつかないけど、なんていうかすごくいいよ」
「ありがとうございますご主人様。でも私はローブがあった方が落ち着きますね」
「動きやすくていい感じだべ、こうして防具を着けるとオラも冒険者の仲間入りって感じだ」
(ミンナイイナー)
フクちゃんが羨ましそうに見ている。そうか、フクちゃんだけ何もないもんな。
うーん、何かしてあげたいな。
なんて考えているとマジロさんが、検品を終えたのかこっちへやってきた。
「おう、馬子にも衣裳だな。一端に見えるじゃあねぇか。山賊みたいだぜ」
……褒められているんだろうか? マジロさんが言うには食肉も含めて明日には結果がでるとのこと。
後をお願いして、ライノスさんに誘われた食堂へ向かう。
近づくとすでに宴会が始まっているらしく、いつも騒がしい食堂がことさらににぎやかなようだ。
いつもはファスに視線が集まるが今は、皆騒いでいるので注目はそれほど集まらない。
食堂に足を踏み入れると、飲み比べが行われているらしく、どっちが勝つかの賭けが始まっていた。
まだ夕方だってのに自由だな。楽しくなってきた。
「我らが酒豪、ライノスの旦那に賭けるか、それともその弟分というギースの野郎に賭けるかどっちだぁ!!」
「ライノ坊やに金貨一枚だよ」
ナノウさんが賭けていた。それでいいのかギルマス。それにしてもライノスさんの弟分はギースさんっていうのか。
……え? ギース? まさかな。
謝りながら人をかき分け、飲み比べで盛り上がるテーブルの野次馬達の前に出る。
散乱した酒瓶の先にいたのは。
「今日は勝たせてもらいますぜ」
「何をギース、しばらく見ない間に頭が寂しくなったお前に負けるかぁ!!」
「髪は関係ないだろうが!!」
この異世界で僕を鍛えてくれた恩人である。
オークデン騎士団、団長ことギース・グラヴォさんその人だった。
というわけでギースさん再出演です。
次回予告:VSギースさんです。
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