第四百七十話:作戦開始
「さぁ、とっとと攻略してくるのだっ!」
「「「「……」」」」
ビシっと蟻塚を指さすイズツミさんを全員がジト目で睨みつける。
「な、なんなのだその目は?」
「いや、流石にはいそうですか、とはいかないですよ。隠れ里で散々『思考』と『知識』の重要性を学んだばかりですし。これ、なんかありますよね?」
僕がそう言うとナルミも含めて皆がウンウンと頷く。
「イワクラの里でも散々、塩物が産業になっているのを見ているだ。それ以外にも海の栄養素を森に吸収しやすくする役割もあるって隠れ里でも学んだべな。いくら、『小道』への入り口があるとはいえ大森林の生態系を担うクイーンアントを討伐するってのはやりすぎだべ。察するに他に理由があるべな?」
トアの言葉を受けてイズツミさんはしばらく視線を彷徨わせていたが、観念して息を吐いた。
「……まっ、このくらいは自力で考えに至ってもらわないといけないのだ。では、情報を開示するのだ。といっても、状況は簡潔なのだ。クイーンアントが暴走しているのだ。イワクラの里からの依頼や直近の蟻塚の調査によると、群れから離れる『ハグレ』の数が増えすぎている。クイーンアントを中心とする魔蟻種が混乱しているのだ。その原因は……思い当たる者はいるか?」
クイーンアントの暴走か、原因は……ふっ、全然思い浮かばないぜ。とおもって横をみると皆頷いている。……これ、僕だけわかっていないパターンだ。思考速度が上がってもこういう発想は苦手だ。なんとか回答を回避しようと考えていると手を挙げて叶さんが喋り始める。
「イワクラの里で蟻を食べるカエルちゃんが活発って話があったよね。生態系の混乱って意味ではこの森の捕食者の減少があるんでしょ? ズバリ、原因は戦争でリザードマンが減ったせいだよね」
「その通りなのだ。泥蛙を始めとする、中間捕食者は本来リザードマンのような上位の捕食者によって食われることで生態系のバランスが保たれていた。しかし、先の戦争であまりに大量のリザードマンが森から姿を消したために上位の捕食者が激減し蟻を食べる魔物が急増。それに対応するためにクイーンアントが強力な兵隊を生み出し始めた。そこまでならまだ、時間が経てば落ち着くのだが……急激な変化に群れそのものが混乱し強力ではあるが群れとして制御から外れた『ハグレ』を大量に生み始めたのだ。すでに共食いを始めているという報告もある。こうなると自力で群れを立て直すのは無理なのだ。ほっとけば暴走した『ハグレ』が正常な蟻を巻き込んでスタンピードに発展する危険性もあるのだ」
「クイーンアントを殺してしまうのが解決方法になるのですか? スタンピードは防げても魔蟻達は全滅するのでは?」
ファスの質問にイズツミさんは首を横に振る。
「一度女王が死ねば。生き残りの魔蟻の中から新たな女王が生まれる。これまで何度も繰り返してきたサイクルなのだ。本来ならば【魔尾の旅団】で引き受ける依頼だが。丁度良いのでお前等に任せるのだ」
都合よく仕事を押し付ける気だな。とも思うが、良い鍛錬なのも間違いではない。
「わかりました。注意点とかはありますか?」
「お主等で考えるのだ」
どうやら情報の開示とやらはここまでのようだ。これ以上は話すつもりはないとイズツミさんはドテンと横になる。
「とりあえず作戦を考えようか」
「水晶の書庫も使え。【魔尾】のことだ、まだ何かを隠しているだろうな」
「おおかた察しはついているだよ。んじゃ、作戦会議を開く前に筋を通しとくだ。ファス、一番奴隷としてお願いするだよ」
筋? なんだそれ? と思っているとファスが頷き改まって僕の正面に立ち位置を調整する。他のメンバーもそれにならって並んでいる。
「ご主人様。ご命令を」
めっちゃしたり顔でそういうファスさん。なんでそんな嬉しそうなんですかね。フクちゃんは少女姿でカーテシーっぽい姿勢をして、後ろでトアは尻尾を振っているし、叶さんもドヤ顔をしている。……さては、僕に秘密で打ち合わせしてたな。
この大森林で覚悟を決めたとはいえ、こういうのは慣れないな。
しかし、ファスがめっちゃ期待を込めた目でこっちを見ている。ここで日和ったらそれこそ男が廃るぞ。
「命令だ。クイーンアントの討伐をする。力を貸してくれっ」
「おおせのままに、我等の愛しいご主人様」
ファスが胸に右手を当てて礼をすると他の皆もそれに習う。
顔を上げると、皆ニヤニヤしているし……。
「旦那様。もう少し、偉そうでもいいと思うだ」
「真也君にしては頑張ったと思うよ。次は人前でしようね」
「マスター、かっこいい!」
「威厳に欠ける。だが、悪くないぞ我が主」
「もういいから、作戦会議をするぞっ!」
くっそ、なんで一方的に羞恥プレイをしなきゃならんのだ。
「吾輩、何を見せられているのだ?」
後ろでイズツミさんが呆れた表情でこちらを見ているのがわかるが無視して皆で円を描くように座る。
「旦那様。作戦の立案と進行をオラが担当してもいいだか?」
「あぁ、頼む。ファスもそれでいいか?」
一応、一番奴隷であるファスにお伺いを立てとこう。
「はい、トアならば問題はありません。お願いしますね」
「任せるだ。とりあえず、氷で蟻塚と周辺の地形の模型を作ってもらえるだか?」
ファスが杖を掲げると、水が召喚されてうねうねと動きながらカタチを作り氷となって僕等の前に模型となっておかれた。透明な氷の蟻塚は内部まで再現されている。いや、すっごい細かいんだけど。
「【精霊眼】での遠視と透視も反映させました。これでいいですか?」
「十分すぎるべ……こりゃ、慣れたら楽をしちまいそうになるべな。叶、ナルミ、魔蟻種と魔王種のクイーンアントについてわかることを教えて欲しいだ。今回はオラ達が仕掛ける権利を持っている。しっかりと優位性を主張させてもらうだよ」
「うん。任せて」
「すでに検索済みだ」
……サクサク話が進んでいるんだけどさ。情報収集に置いて僕の立ち場が本当にないんだよな。
ファスが索敵して、その情報をトアが整理して欲しい情報を叶さんとナルミが水晶の書庫から取り出す。そして僕はフクちゃんを撫でている。ちゃ、ちゃんと考えて理解を共有できるように努力はしているから!
「クイーンアント自体に戦闘力はあまりないな。精々Bランクの魔物程度だしかし、子供を産むことで群れを強化する特性がある。平時ならともかく、暴走している今なら強化された『ハグレ』を生まれると厄介だ」
「私達の能力に対応した魔物をそう簡単に生み出せるとは思わないけど、危険性は考慮した方がいいかもね」
ナルミと叶さんから敵の情報を色々と確認していく。こういう風に事前に知ることができるってのは安心感あるな。いつも行き当たりばったりだったし。
「大体わかったべ。オラ達が時間をかければ対応される危険性があるだ。下手に戦いを挑むとオラ達に対応した蟻を生み出される可能性があるだ」
「イズツミらしい罠だな……どうする?」
「まずは情報収集をしたいべな。フクちゃん、潜入してちょっかいかけてくれるだか? 群れの中にいる『ハグレ』について情報が欲しいだ。それと蟻達がどうやって情報を交換しているのかも知りたいだ」
「りょうかーい」
ぴょんと少女姿のフクちゃんが元気に立ち上がると、子蜘蛛の姿に戻る。
「おっ、やっと出番か? 隠密なら任せてくれ」
フクちゃんを撫でながらもちゃんと作戦会議に参加していたからな。五本ある蟻塚の情報もちゃんと聞いてたぞ。
「旦那様はまだだべ。今の情報だとこの作戦の肝は旦那様になりそうだかんな。潜入はフクちゃんだけでいいだよ」
「……」
しょぼんである。
(マスター、ナデナデ)
フクちゃんに慰められる。そのまま消えていったフクちゃんだが三十分もたたない間に戻ってきた。
(ただいまー、アイツら【念話】使ってル)
「やっぱりそうだべか。王城でも蟻の魔物が【念話】使ってたもんなぁ。一般蟻は知能は低いから機械的に情報を送っているだけっぽいべな。フクちゃん仕込みはしただか?」
(バッチリー)
そう言って少女姿になったフクちゃんは子蜘蛛姿の時の人形のようなものを持ち上げた。あれは……。
「ラミアのスキルを使ったフクちゃんの分身だべ。こいつで毒を一定間隔で散布することもできるみたいだよ」
(エッヘン)
「かわいい。一つ、いや二つちょうだい!」
(ヤダ)
叶さんがフクちゃんに拒否されていた。実際、フクちゃん人形可愛いからな。
それよりも……。
「そのフクちゃん人形って毒吐けるんだ……」
(糸も出せル、音、見たもの、ちょっとわかル)
「……便利すぎる」
「流石フクちゃんです。私も負けてられません」
フクちゃんの成長が止まらない……。フクちゃん人形を適当に置いとくだけで情報収集と罠の設置のどっちもできてしまうのだが? フクちゃん、恐ろしい子!
「うっし、見えてきただな。んじゃ、旦那様。出番だべ!」
「やっとか。なんでもするぞ」
頭を使うのも悪くはないが、やはり体を動かしたいものだ。
「厳しいけど速い攻略と、時間はかかるけど楽な攻略どっちがいいだか?」
「一番キツイのでよろしく」
里の修行は勉強になったが、個人的にはもうちょい追い込みたいんだよな。
手甲を締め直す。ギチギチと相棒は嬉しそうに応えてくれる。
「オラ達の旦那様ならそういうと思っただ。んじゃ、囮役頼むべ」
満面の笑みのトアにそう言われる。
「トア、作戦を任せるとは言いましたがご主人様をないがしろにするようなことはダメですよ」
ファスが『めっ』ってやってるのだが、むしろバッチこいだ。
「いやファス、いままでも僕って大体肉壁か囮だったから……ベストポジションだから」
皆の前に立てることが誇らしいと今では思っているしな。
「まぁ、真也君って骨の髄まで前衛だしね」
「大丈夫。囮といってもただ、敵を引き寄せるだけじゃ芸がねぇだ。んじゃ、オラの作戦を説明するだよ。せっかくだしカナエとフクちゃん考案の非人道的……もとい、戦略的新技も試してみるべ。人里では発動する機会もなさそうだかんな」
「やったー!」
フクちゃんが喜んでいるけど、僕は知らないぞ。
「フクちゃんが色々考えてくれたから、私が浪漫を詰め込んだんだよ」
「どのような技ですか?」
「えっと、まずはファスさんが水を出して……」
こうして氷の模型を使って説明された作戦は、聞いていて思わず頬が引きつるようなものだった。
説明を受けて、パーティーを分けて所定の位置に向かって移動する。僕と一緒にいるのはファスとフクちゃんだ。
「これ、本当に大丈夫かなぁ」
五つの蟻塚の正面。二千匹の蟻の魔物の前に立つ。
「こうして三人だけで並ぶのは久しぶりですね」
「むふー、マスターとデートなのー」
フードを脱いだファスが気持ちよさげに金髪をかき上げ、少女姿のフクちゃんはピョンピョンと楽し気にスキップをしていた。
「ぶっつけの合わせ技だけどいけそうか?」
「私達ならば問題はありません」
「じゃあ大丈夫だな。フクちゃん、土壌を汚染しないようにな……」
フクちゃん考案、叶さんブラッシュアップの合わせ技はあまりにもヤバいので、横で聞いていたイズツミさんが全力で止めることでややマイルドになっている。
「マスターもだよ?」
「気を付けるよ……」
蟻塚へ近づくと蟻塚から体長二メートルほどの羽蟻達が各蟻塚から飛び立ち、ぞろぞろと他の蟻達もこちらへ寄って来る。
「デートは一旦中止ですね。残念です」
僕等の役目は並べく蟻塚の内部から蟻達を引き出すこと。
文字通り囮だ。無論ただの囮では終わらないが……。
深呼吸して気合を入れる。
「推して参るっ!」
「【恐怖】しなさい」
「コ、ロ、ス」
【竜の威嚇】【恐怖】【女王の威厳】
迎撃の為に巣から出た蟻に対し、三種の精神干渉スキルが同時に発動されたのだった。
こんなのを初手に叩きつけられる蟻達に同情しかありません。次回か、その次で攻略は終わると思います。
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