第四十九話:スタンピードというイベント
数日ぶりに冒険者ギルドに戻ってきた。受付に行きアマウさんに報告を行う。
ファスは後ろでフードを被っているが、トアは顔布は当ててない。堂々と胸を張っている。
「お疲れ様です、ヨシイさん。結果はどうですかー?」
「えーと、ブルマンを数頭とポキポキ草を20束ほど持ってきました」
台に乗って対応しているアマウさんはサラサラ筆を滑らせ書類を埋めていく。
「やっぱりブルマンがでてましたかー。近々魔物の大量発生が予想されていますからねー。それと関係あるのかもしれませんねー」
そういや小清水が魔物が大量発生するからパワーレベリングするとか言ってたっけ? 大丈夫なのか?
「大丈夫なんですか?」
「ん? あ~そうでした。ヨシイさんは知らないんですねー。魔物が大量に発生することによって起きる暴走行為、通称『スタンピード』は冒険者にとっては垂涎のイベントなんですよー。いわゆる稼ぎ時ですねー」
「そうなんですか?」
振り返って、ファスとトアの反応を見てみると、うんうんと頷いている。僕だけ知らないのか。
「今回のスタンピードは魔力溜まりによるダンジョン化のせいで生態系が崩れて起きるのだと推測されますー。ダンジョンの魔物によって棲家を奪われた群れが合流して町を襲ったりー、ダンジョンによっては魔物に食料や魔力を与えて繁殖を促すものもあったりと色々理由はありますが、それは大事なことではありません」
一気にまくしたてるアマウさんはなんだか必死に楽しいことを説明している子供みたいで可愛い。
「スタンピードは、国から軍が出て鎮静するのですがー。人手が足りないことが多々あるので冒険者ギルドに応援の依頼が来るんですー。出来高制ですがしっかりと報酬がでますし、魔物を倒した分だけ昇給ポイントももらえますー。一部のクランではここで初心者のレベル上げをしたり昇給ポイントを稼ぐんです」
「危険ではないんですか?」
メリットがあるのはわかったが魔物が出る以上リスクもありそうなもんだけど。
「そりゃあありますけどー。怪我なら軍の治療術士がお金を払えば見てくれますし、人が集まるので商人もたくさんあつまりますー。ようは援助が受けられる状態での戦闘なので普段よりよほど安全です。本当にお祭りみたいなんですよー。高ランクの冒険者も集まるので実質殲滅戦みたいなもんですしー、ヨシイさんも受けられてはどうですかー?」
なるほどなぁ。お金とポイントとさらに経験値まで貯めれるイベントってわけか、うーんしかし、お約束でいうなら絶対危険なことになりそうだ。
「せっかくですが、今はしっかりと地力をつけたいので――」
「実はすでにレアな魔物が目撃されているんですー。ホッピングゴブリンにブレイズオーガ、あとテントゥ・アラクネとかどれもレアな魔物で素材が高値で取引されていますよー」
(アラクネ!!)
「アラクネですか!」
「アラクネだべ!」
後ろで三人が反応する。なんだなんだ? 個人的にはホッピングゴブリンが気になる。ゴブリンが飛び跳ねているのだろうか? シュールだな。
「どうしたんだ三人とも?」
(マスター、ボク、イキタイ)
ふ、フクちゃんが僕にお願いだと!? 甘えてくることはあるが正面(念話で聞こえてくるだけでフクちゃんはファスのローブの中で隠れている)から改まってお願いしてくるなんて珍しいな。
「フクちゃんはアラクネを食べねばならない、切実な理由があるのです」
「そうだべ、それにオラとしても触ったことがない食材マモノには興味あるべ」
(オネガイ、マスター)
フクちゃんがローブからチロリと顔をのぞかせウルウルとした瞳で見てくる。
ハッハッハこんなん逆らえるわけがない。
「わかったよ。アマウさん僕等も参加したいのですが」
「絶対そのほうがいいですよ。おばあ……ギルド長も昔はよくスタンピードに参加してレベルを上げていたって聞きますしねー。あとでお話を聴いてもいいかもしれませんねー。でもその前にヨシイさんはまだFクラスの冒険者なのでランクを上げなきゃならないですねー」
Dランクから参加か、どの程度かかるのかわからないな。スタンピードまで猶予はどの程度あるのだろうか?
「そのスタンピードってのはいつから始まるんですか?」
「あくまで【占い師】【巫女】の予想や予言なのではっきりしませんが、大体一週間後にここから数日離れた場所にあるいくつかの山が連なる場所のある地点でいくつかの魔物の群れが合流するらしいですです」
一週間!? 間に合いそうにないぞ。
「一週間でDランクまで上がることは可能ですかね?」
「うーん、無理ですかねー」
あっけらかんとアマウさんが告げる。無理なんかい!!
(マスター……)
安心なさいフクちゃん。こうなりゃ依頼が受けられなくてもこっそり討伐隊に潜りこむから。
「大丈夫ですよ。今回のスタンピードは第一波と第二波に分かれるようですから―。討伐隊も二回に分けて送る予定なんです。冒険者皆が行くと本来のギルドの業務に支障がでますからねー。二回目の討伐隊は一カ月後の予定です。ですから、それに間に合えばいいんですよー。先にくる一波は雑魚が多いのでレアな魔物を狙うのであれば後発部隊の方がいいでしょう」
なるほど、それなら準備する時間もあるしいいのか?
「どうする?」
「それでも先にアラクネを討伐されることもあると思います。迷いどころですが、私達はまだパーティとして未熟です。腰を据えて鍛えたほうがいいかもしれません。フクちゃんはどう思いますか?」
(ウーン、ウーン、ワカッタ、シュギョウスル)
「それがいいべ、というか多分旦那様の懸念はオラだべな? 足手まといにならないくらいにはしときたいべ」
まぁ実際一番不安なのはトアで間違いないが、元居た世界のテンプレだとスタンピードに良い印象がないんだよなぁ。慎重になりすぎだろうか?
「じゃあアマウさんあと一カ月でランクをDまで上げますので後発部隊に入れてください」
「了解ですー。と言いたいところですがー、決めるのは私ではないのです」
ありゃそうなのか、じゃあギルマスのナノウさんかな?
「おう、坊主。お前スタンピードの部隊に参加するのか?」
後ろから野太い声で話しかけられる。振り返ると厳つい髭のおっさんが立っていた。
名前は確かライノスさんだっけ? 面倒見の良さそうな人だったと記憶している。
「ライノスさん、ちょうどよかったですー。というかこっそり聞いていましたねー」
「ガッハッハ、俺は耳がいいからな。偶然耳に入ったのさ。坊主、部隊の隊長は俺が務める。入る面子も最低限の力は必要だから試験もあるぞ」
「ご無沙汰ですライノスさん。この前はお世話になりました。試験というとどう言ったものですか?」
挨拶をするが実は内心ドキドキしている。後ろから声をかけられるまでいたことに気づかなかった。
身長は190㎝ほどもありそうなくせになんて軽やかに動くんだこのおっさん。
「何、簡単なことだ。部隊でどのような動きができるか見るために模擬戦だな、まぁ大まかに前衛か後衛か言ってもらえればこっちで相手を用意する。坊主はパーティではどんな役割なんだ?」
役割か、いままでどんな役回りを演じて来ただろうか? 振り返ってみよう。
・ファスやトアの回復。
・ダンジョンで囮&肉壁。
・草原で囮&肉壁。
……三分の二が囮&肉壁だった。回復系のパッシブスキルと【拳骨】という便利な防御スキルを持っているので必然的に前に立って戦うスタイルだよな。というか遠距離攻撃皆無だし。
「パーティでは前へでて、壁になったり囮になったりしています」
「ほぅ、なら【威圧】のスキルは持っているか?」
【威圧】? 持っていないな? ファスを見ると解説してくれた。
「【威圧】とは対象を威嚇することで注意を引いて、自身に攻撃が集まるようにするスキルです。前衛職のスキルではとても重要なスキルだとされています。確か前衛のクラスなら修練でとれることがあると本で読んだことがあります」
「持っていないなら、安定した壁役は務まらんぞ。別に必須というわけではないがパーティに一人いると随分連携が楽になるし、今度の部隊でも必要になる」
ライノスさんはニヤニヤしながらそう言ってくる。その顔は僕の言葉を待っているようだ。
ギースさんといいこの世界のおっさんはお節介焼きが多いな。
「つまり、試験の日までに【威圧】を習得してこいってことですね」
「ガッハッハ。そうだ、よく言った! お前の女共を守る盾になるためには必要になる。ちょうど今日こっちにくる俺の弟分が【威圧】が上手いやつでな、後で食堂に来い。そいつに話を通してやるから習得に必要なことを教えてもらえ」
「ありがとうございます。納品が終わったらすぐに向かいます」
「おう、今日は飲むぞ!!」
長くなってしまったので途中で切りました。
なので今日中には後半部分を投稿します。
……はっ! ということは今なら完璧な次回予告ができるのでは!?
とうわけで珍しく裏切らない次回予告です。前にでたあのキャラが出てきます!!
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