第四百五十七話:反省会①
「ん-、僕の感覚だともう残ってないと思う。ファス、どうかな?」
「はい、私の目でも周囲に呪いはありませんね。ナルミ、森への被害はありませんでしたか?」
「マドフロッグが痺れて倒れていただけで、被害らしい被害はない。まったく、肝が冷えたぞ我が主」
先の戦いの反省をする前に、危うく新たな災害を生み出すところだった。強化された【竜の息吹】といい、強い力を制御する為にもっと鍛錬をする必要があるな。【浄化】をしていた叶さんはニマニマと悪い顔をしながら寄って来る。
「真也君。これはとてーも応用が利く現象だよ。例えば、地面に【浸食】の呪いを流し込んで呪いの場を作って【鈍麻】と【沈黙】で行動を制限しつつファスさんの高重力+氷という真也君なら動ける場所を作って周囲をフクちゃんの【結晶糸】で囲めば、多分転移者でもA級冒険者でも何もできなくなるよっ! あれ? ん……つまりこれってファスさんの【異界創生魔術】におけるダンジョンボスって……」
「エグすぎるっ! というか僕、完全に敵役じゃん!」
叶さんが考え込んでいるけど、我慢できずに途中でツッコム。
「確かにありだべな。今回、オラ達は罠にハメられたけんど逆に相手を誘い込むのはありだべ」
(昔、マスターとやった)
フクちゃんがファスの頭の上で前脚を上げる。
「フフ……最初のダンジョン攻略ですね。確かにあの時は敵のボスを群れから引き剥がす為に罠に誘い込みました」
「あったなぁ」
あの時は生き残ることにガムシャラで余裕なんてなかった。
「横から聞いていてもとても怖い話をしているのだ。さて、【浄化】も終わったことだし腰を落ち着けるのだ」
サイゾウさんのように岩壁に立ったイズツミさんが手を振る。【ふんばり】も無しでどうやって壁をあるいているんだろう? エルフに伝わる秘術かなんかだろうか?
案内されるがまま谷間を抜けると白く染まった平原が現れる。遠くからでも白い塚が何本も立ち並び壮観だ。
「あの手前の蟻塚の中に今回の奇襲の拠点を作ったのだ。さて、お茶でも飲みながら話すのだ【召喚式】」
平原を望める場所でイズツミさんが指を鳴らすと、座布団と鉄製のヤカンにコップが出てくる。
「……転移の魔術に関してはツムギ以上ですね」
ファスも目を丸くしている。うん、これ色んな意味でチートだろ。
「だからこそ【精霊眼】を持つ貴殿等への相手に吾輩が選ばれたのだ。【召喚士】それが吾輩の【クラス】なのだ。お茶は【野風】に淹れて欲しいのだ。吾輩はアチチなのは苦手なので、ぬる目でお願いするのだ」
「わかっただ。皆の分も入れるからちょっと待ってけろ」
座布団に座って皆にトアのお茶が回ると、イズツミさんは耳を斜めに倒しながらお茶を飲み口を開いた。
「美味しいのだ。魔力も回復するし、大したものなのだ」
「お粗末様だべ」
「では話すのだ。【四色】から教わった情報を元に貴殿等への奇襲は困難を極めたのだ……」
※※※※※
【四色の魔女】ファタムからの依頼。それは、【結晶竜】を倒した英雄へ敗北と言う名の教訓を授けること。いくつかの因縁からその依頼を受けたイズツミだったのだが……。
「無理なのだぁああああああああああああ!」
ファタムからの情報を受け取った彼女は涙目で頭を抱えてのたうち回っていた。周囲の半獣人は呆れた目で自分たちの団長を見ている。
「勝利条件はわかったのだ。肉体的に倒すのが困難な【竜の後継】に対し禁書にある【竜殺しの記憶】を【スキル召喚】で再現すればよい……でもその過程が困難すぎるのだっ! いくら吾輩が大森林最強の【召喚士】であろうとも【精霊眼】だけならまだしも空前絶後の高レベルになってしまった【天与】を冠する【料理人】の鼻を騙すのはどうやっても無理なのだ! というかこの『フク』とかいう蜘蛛の魔物に【結晶竜】の特性を持った【糸】を展開されるだけで吾輩の【召喚式】は封じられるのだ! なんなのだコイツ【結晶竜】よりもヤバイのではないかっ!?」
駄々っ子のように手足をバタバタさせるイズツミ。ため息をつく旅団のメンバーだが、そのうちの一人が近寄ってくる。褐色の肌に童顔の半獣人だった。
「ダンチョー。一つずつ解決していこうよ。何も、殺すわけじゃないんだからさ。この蜘蛛に【糸】を展開される前に勝負をつけないとダメってことでしょ。じゃあ超短期戦闘しかないね」
「リョウマ……わかったのだ。考えるのだ……【四色】の見立てではまずこの【野風】をどうにかしないとダメなのだ。事実上の司令塔であるコイツを数秒でもいいから行動不能にできれば隙ができるのだ。逆に、コイツが健在ならば例え奇襲をして相手を崩してもすぐに立て直されるのだ。そもそも【聖女】の回復がある時点で長期戦は無理なのだ」
「じゃあ、まずは司令塔とターゲットである英雄との分断だね。ダンチョーなら【転移】でできるでしょ?」
「高レベルの【魔術師】と【聖女】はマジックキャンセルや元々の耐性で【転移】ははじかれるのだ。【竜の後継】と【野風】なら【転移】の陣を踏ませれば、転送できるけどそもそも魔力を流した段階で【精霊眼】の索敵に引っかかるのだ。グヌヌ……【四色】といいフィオーナといい、【翠眼】は厄介極まりないのだっ!」
「一応【召喚士】であるダンチョーはその天敵だけどね。気休めだけど見破られる前提で魔力を流さないように管理したスクロールを地中や壁に仕込んでおこうか」
「ダミーの陣も仕込んでおくのだ。そして、獣人の鼻を潰す為には催涙と激臭の爆弾が昔からの鉄板なのだっ!」
「爆弾を設置する必要があるね。でも、【精霊眼】に見破られるね」
「それについてはファタムからの情報が役立つのだ。ダミーの転移で意識を分散させて、『魔力を使わない爆弾』……火薬による爆弾を用意すればいのだ」
「あー、無理じゃない? 火薬だと気まぐれな火の精霊のせいで勝手に爆発しちゃうよ」
「ファタムの奴が過去の転移者が考案した魔力を使わずとも安定する爆弾の作り方を教えてくれたのだ。ダンジョントレジャーである爆弾の型を設置してその場で火薬を少量ずつ調合して一定量を超えて火の精霊を刺激しないように細かく区切るように調整すれば可能なのだっ! ご丁寧にも素材も後で送ってくれるそうなのだ。やはり【精霊眼】対策は【精霊眼】に聞くのが一番なのだ」
「設置が死ぬほど面倒だし、お金がかかるね。そもそも、その場所へどうやって相手を誘い込むのさ?」
「そ、それは……これから考えるのだ」
※※※※※
「というわけで、ちょうどマドフロッグの件で依頼を受けていたことからアシキを人質にして誘うことを計画したのだ」
「なんて酷いことを……あと、気になったんだけどこの世界って火薬を使うのが難しいのか?」
話の中でそこが気になったので聞いてみる。
「火薬そのものはあるが、大体が禁制品だぞ、火は気まぐれだから火元から離していても勝手に燃える。火が欲しいなら魔術や魔道具、魔物の素材を使うのが一般的だ。魔力を含んでいる方が安定するというのが常識だ」
「真也君は知らないんだね。一応昔の転移者も火薬を使った簡単な銃や砲弾を作ろうとしたらしいけど失敗したって私は聞いているよ。魔力で制御しないとどうしても暴発しちゃうみたい。特に意識していないけど、物理法則からして私達の世界とは違うのかもね」
「へぇ、普段からファスが吹く火や発火石を使っていて意識しなかったけど確かに火薬はこの世界で見たことないかも」
ナルミや叶さんから説明を受けて納得する。
「アシキには吾輩達が目的を達成した後に、吾輩達を殺さないでもらえるようにお願いするように頼み込んでいたのだ。あやつは英雄殿を襲わないように最後まで叫んでいたがな」
「当り前だ」
ナルミが鼻を鳴して不快感をあらわにするが、イズツミさんは素知らぬ顔で説明を続ける。
「作戦としては、人質を使って『魔力を使わない爆弾』を設置した場所へ英雄殿を誘い込む。【精霊眼】対策に【転移】をふんだんに使い。【転移】後もギリギリまで接近できるようにマドフロッグの中に旅団員を潜ませる。爆弾による催涙煙で【野風】を行動不能にしつつ分断、合流を阻止する為に人質を使って英雄殿を釘付けにしながら旅団による奇襲で他の面子を足止めする。特に蜘蛛の魔物を守備に回すことで10秒ほどでも足止めの時間を作ることを目指したのだ」
「僕視点だと爆発後のファス達のことを知らないんだよな」
「そうですね。ではそこも共有しながら振り返りましょう」
「だべ、旦那様に何があったかも知りたいしな」
「うぅ、私はわりと失敗しちゃったから恥ずかしいよ」
(悔しい)
お茶を飲み置いたコップを置いてファス達に何があったのかを確認することにした。
実はイズツミ視点だとかなりの綱渡りだったようです。
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