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第十二章:北への旅路

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第四百五十六話:魔尾の旅団

 部屋を沈黙が支配する。ファスはイズツミさんを睨みつけ、本人は仮面を外して犬歯を覗かせている。

 先に喋り出したのはナルミだった。


「父上、母上この場は親善大使である私が預かる。イワクラ家としての場は後で設けたい」


「……なんとも、旅はエルフを育てるものだな。わかった。人払いをしておこう。シグレ、アシキ、行くぞ」


 視線を交わしてイワクラ家の三人が退出し、イズツミさんは見かけ通りの少女のようにあざとく小首をかしげる。


「なんじゃ、ハクト坊でなくナルミ嬢が吾輩と遊んでくれるのだ?」


「ふざけるのはよせ【魔尾】。ファスの出生は王族の秘事だ。誘拐の狂言に英雄への暴行、ここまで重なれば貴様と仲間も罪から逃れられんぞ。知っていることを全て話せ」


 貴族としての振る舞いのままにナルミがイズツミさんに冷たい声で告げる。しかし、言われた本人はどこ吹く風と両手をあげる。


「降参はしているので必要とあらば、どうとでもすればよいのだ。ただ……交渉したいのだ。吾輩が提示できるのは【四色】の情報を元に吾輩が実践した貴殿等の弱点を教える。そして、フィオーナのことも伝えたい。もちろん、元々の依頼である北への通行も手伝うのだ。【旅団】も含め我等の力は必要であろう?」


「交渉できる立場だと思っているのか?」


「吾輩達は勝者ゆえ」


 地面から生えた氷柱がイズツミさんの喉元で止まる。


「私達は負けていません。ご主人様は貴方を行動不能にし、他の仲間も私達が捕まえています。地力で言えば私達の方が完全に上でした」


「ファス。氷をしまってくれ、どっちにしろこの人には当たらない」


 ファスを手で制止して告げる。ファスがここまで怒るのはいつだって僕の為だ。

 不甲斐なくて申し訳ない。


「少なくとも、僕は負けを認める。ファスのお母さんのこと。先の戦闘で何をされて、どうして負けたのか教えてもらいたい。アシキさんを人質にしたことについては僕等ではなくイワクラ家と話し合ってくれ」


「私のことを気にする必要はありません」


「あるよ。ファスのことを気にしないなんてありえない。それにこれはファタムさんからの餞別だ。ありがたく受け取ろう」


「ご主人様……」


 円錐帽子を被った魔女の顔が浮かぶ。冒険者らしい餞別だ。負けたことは腹の底から悔しいが、だからこそ次への糧に変えて見せる。


「皆それでいいか?」


「そう言われるのであれば……」


(……むー)


 ファスとフクちゃんは不承不承といった感じだが叶さんとトアは素直に頷いてくれた。


「オラも旦那様に賛成だべ。これからの戦いできっと役に立つことだべ」


「だね、色々聞きたいことが溜まってるよ」


「【旅団】の解放は父上と話し合ってからだ。それ以外は我が主の決定を支持する」


 皆の同意も得て、ファスが氷柱をしまって周囲に展開していた魔力も収める。


「フム、交渉成立なのだ。さてさて、何から聞きたいのだ?」


「ファスのお母さんのことを伝えてあげてください」


 まずはファスにお母さんのことを教えてあげるのが先だろう。と思ったのだが、ファスは首を横に振る。


「いいえ、まずは先の戦闘についてです。私の眼をどうやって欺いたのか、どうすれば私達はご主人様を守れたのか、教えてください。……ご主人様。お心遣いをすみません。でも私はどうしても自分が許せないのです」

 

 辛そうに僕の腕を握るファス。悔しいのは彼女も同じだったようだ。


「ファス……わかった。お願いできますか?」


「吾輩としてもその方が、都合がいいのだ。フィオーナのことは吾輩達のベースキャンプで話したかったからな。では、吾輩の深謀遠慮を包み隠さず話すのだ」


 そう言うとイズツミさんはぴょんと立ち上がった。話してくれるんじゃないのか?


「移動するのだ。実際に戦場を見ながらの方がわかりやすい」


 尻尾を揺らしてしてそう告げた。こうして僕等は騎乗蜥蜴を二匹借りて奇襲された谷間へ再び向かうことになった。

 僕とイズツミさんは走って蜥蜴と並走している。横にいるイズツミさんを見る。軽やかに森をかけるその姿はやはり獣人の様だ。


「ん? なんなのだ?」


 ちなみに揺れる尻尾は黒と茶色でもっふもふです。


「いえ、あの……」


 種族的なことってなんか言いづらいな。変に差別的な部分になってしまわないだろうか?


「大方『エピタン』が珍しいんだろ?」


 蜥蜴に乗っているナルミが話しかけてきた。


「えぴたん?」


「大森林では半獣人はそう呼ばれる。【魔尾】とその旅団はエルフと獣人の混血児のみで編成された冒険者の一団だ」


「エルフと獣人の混血なんてラポーネじゃありえねぇだ」


 ナルミと一緒の蜥蜴に乗っているトアが目を丸くしている。


「ふふーん。優れた身体能力に高い魔力を持つのだ。すごいのだ」


「……魔力はあっても操作が苦手で。魔術を暴走させたり、高い身体能力を持ちながら感覚が鈍かったりと問題が多いと言われているな」


「失礼なのだー。ちゃんと訓練すれば強くなれるのだ」


 後ろ走りだったり、樹を蹴ったりしながらイズツミさんがプンスカーと怒っている。

 可愛いけど恐ろしい身体能力だな。


「この世界で混血の人って初めて見ました」


 それなりに他種族を見てきたけど、ハーフってのは初めてだ。


「他種族で子を為すのは儀式が必要だったりと面倒なのだ。それに混血同士で子を為してもその子は親血筋のどちらかの純血となって生まれるのだ。つまりエピタンは一代だけの変異だからとても珍しいのだ」


「へぇ……」


「し、知らなかったです」


 唐突にこの世界の種族に付いて説明された。ファスも驚いている。


「大森林には獣人とエルフの里もそれなりにある」


「お貴族様はエピタンを嫌うものも多いのだ。でも、イワクラ家は昔から寛容なのだ」


 イズツミさんがそう言うとナルミは鼻を鳴らした。


「フン、塩産業は人手がいる。知識の蒐集と言う意味でも他種族や混血は貴重な研究対象だ」


 とか言っているけど、ナルミやハクトさんを見るに普通に歴代のイワクラ家の当主が良い人だった説を個人的に推したい。種族についてもっと聞きたかったが谷間に到着してしまった。


「着きましたね」


「うっぷ……やっと着いたよ」


 ファスが頭にフクちゃんを乗せて蜥蜴から降りる。叶さんは乗り物酔いでやや顔が青い。さっきの会話でも興味がありそうだったのに入ってこれなかったのは酔いと戦っていたからだろう。

 さて、ここからは気持ちを切り替えて感想戦をしていくか……と思っていたのだが。


「まずは、これをなんとかしないとヤバいのだ。こんなこと【四色】の情報にはなかったのだ……」


 戦場となった谷間にはところどころ陽炎の様に黒いオーラが揺らいでおり、谷間の壁に根を張るように浸食していた。しかもまだ広がろうとしている。急いで壁に手を当てて全てを吸い取り、叶さんも【解呪】のスキルで対応していく。


「【吸呪】っ! こんなこと今までなかったぞ!」


 叶さんが横でオーラを指先でつつく。


「【星涙解呪】うーん、私には効果ないみたい。真也君が気絶してナルミさんの家に運んでいた時はこうじゃなかったから、離れている間にイズツミさんへ放った呪いの余波が【浸食】の効果で土地を介して広まったんだろうね。なるほど【呪拳】発動時の真也君を不用意に倒しちゃうと、制御から外れた呪いが勝手に広がっていくのか……RPGにでてくるキャラにそんなのいたような気がするね。とりあえず、この呪いを浄化してからじゃないと話もできないよ」


 叶さんが【解呪】のスキルで周囲を浄化してくれている。


「……敵側の中ボスくらいにいそうだね」


 吸呪しながら答える。元々が自分の呪いだから、直接触れなくても僕の元へ集まって抵抗なく吸い取ることができる。


「吾輩、良く生きていたのだ。専用の耐呪装備でなかったら即死だったのだ」


 どうして僕の【スキル】ってこう地味かつエグくなっていくんだろう……。


「竜の【息吹】もコントロールできず周囲を破壊してしまいましたが、竜の呪いも制御できないとこうなるのですね。【浸食】の効果のみを無くせば、その場で消えるので安全かもしれません」


「旦那様。次からは【呪拳】の修行も増やした方がいいべ」


(ベンキョウになる)


 というわけで、感想戦の始まる前に谷間中を見て回って【吸呪】する羽目になってしまった。

次回:反省会


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― 新着の感想 ―
両肩の骨砕いてそこを呪って、かつ治療しないくらいはしてあげてもいいと思う。 それか小指切り落とすか(武器を使う武人への効果的な罰)。
これ、重要な場所でヨシイ君と戦うのはお勧めできないね 倒したとしても呪いをまき散らされるのでは以後使えなくなっちゃう エゲツナイ効果のものが多いのは竜の力を受け継いでいるからじゃないかなぁ 竜って大抵…
呪いが延々と侵食してくるのが中ボスだったらそのゲームはクソゲーだよ…どう考えても専用の対策が必要なラスボスか裏ボスじゃねぇか!
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