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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第十二章:北への旅路

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第四百五十五話:襲撃者の正体

 ……全身が砕けそうに痛い。いや、砕けている。肉が裂け、骨は砕かれ、血が吹き出す。

 翼は切り落とされ、角は折られ、鱗も貫かれて……。

 

 意識が引き剥がされるように暗転し、人の形に戻る。座る僕の前にはいつかの竜の墓場のように竜達の頭骨がこちらを見ていた。眼窩がこちらを見据えている。これはお前等の記憶なのか?

 言葉は発せず、返事も無い。だが、その視線からは強い意志を感じる。お前達は一体僕に何を伝えたいんだ? 竜の骸骨達はそのまま塵となり僕の視界はまた暗転し……。


「ハッ! ……ここは?」


 被せられていた布団を跳ね飛ばして起きる。木製の天井、横にはナルミとトアが尻もちをついている。


「旦那様っ。起きたべか」


「いきなり飛び起きる奴があるか……ここは私の実家だ。体はどうだ?」


 ナルミの言葉に身体を確認してみるが、傷一つない。うーん、あの護符を張られた後の痛みからしてそう簡単に回復できるようなものではないと思ったのだけど……。


「びっくりするほど問題ない。てっきり内臓くらいは破裂したのかと思ったけど……」


「冗談でもそんな恐ろしいけど言わねぇでけろ。カナエが言うには旦那様のダメージは精神的なものらしいべ。一応『精霊のブロス』を飲んでもらったけんどどうだべ?」


 トアが手に持った吸い飲みを持ち上げる。中には黄金色の液体が入っている。口の中もほんのり甘い気がする。


「そうか、えっと……確かアシキさんを助けて襲われたんだっけ? ……僕の方は完全にやられたけど、皆に助けられたのか。他の皆は無事か?」


 徐々に記憶がしっかりとしてくると、敗北感に歯を食いしばる。あの時の攻防では完全にしてやられてしまった。


「他の者も無事だ。だが、シンヤにはやってもらいたいことがある。私達を襲った相手が離れにいるから、行くぞ」


「だべ、カナエが粘ってるけどそろそろ限界が近いべ」


「何が起きているんだ? いや、まず行くよ」


 着替えさせられた着流しのような服装を纏い直しながら、ナルミの案内で靴を履いて離れへ向かう。

 見張りの横を通ると、中から青白い光が見えた。中には魔法陣が描かれておりその中心であの強敵が叶さんの【スキル】を受けていた。さらにアシキさんとファスが地面に描かれた魔法陣に手を当てて魔力を流し込んでいる。何が起きているのかわからないが、緊急時のようだ。


「カナエっ! シンヤを連れてきたぞっ!」


「うわぁ、ギリギリだったよ。真也君、早くなんとかしてっ!」


「ご主人様。無事でしたかっ!」


(マスター、オハヨー)


 フクちゃんが天井から僕の頭に落下してくる。


「状況がわからない。何すればいいんだ?」

 

 色々気になるが、まずしないといけないことは何だ?


「この人、真也君の呪いで呼吸すらまともにできなくて今にも死にそうなの。私の【解呪】と二人の協力でなんとかもたせているんだけど限界で……」


「僕のせいかっ!」


「ご主人様、吸い取るのはあくまで呪いだけです。ダメージまで吸いとる必要はありません」


(コロせばいい)


 急いで近づくと、ファスに釘を刺される。人に対して本気で【呪拳】を使ったことはなかったが、まさかこうなるとは……。フクちゃんは殺意マシマシだが、相手のこともよくわからないのに意図しない形で命を奪うのは抵抗がある。襲撃者の頭に手を当てて【吸呪】を発動した。自分の呪いだからか、いつものような倦怠感とかはないな。問題なく呪いを僕の中に戻すことができた。呪いが消えた襲撃者はそのまま倒れたが、寝息が聞こえるし大丈夫そうだ。それにしてもこの人、耳には毛が生えていて基本白毛だが先に行くほど黒くなっていてカラカルのようだ。華奢な体躯や耳の形なんかはエルフのようでもあるのが不思議な感じだな一体どんな動物の獣人なんだろ?


「ふへぇ……疲れた……」


「肝を冷やしました。聖女殿と翠眼殿の魔力で【保存】の魔法陣を維持しなければ【魔尾】様の命は無かったでしょうな」


「納得はしていませんが、この下郎には命を奪う前に聞くことがありますから」


 アシキさんとファスも魔法陣から手を離して立ち上がる。


「結局、何がどうなっているんだ?」


「ガハッ! ……死ぬかと思ったのだ。むぅ、【竜の呪い】がここまで強力とは【四色】からの情報にも図書の本の知識にもないな。大変に興味深いものだ。それに、そこのオリジン種の蜘蛛も是非研究したいのだ」


 ガバリと勢いよく襲撃者が立ち上がる。とっさに構えるが、相手に戦う気はないようだ。

 グリっと大きな瞳が動く。背丈はファスよりと同じ位か。襲われた時は獣のように感じたが、今はおもちゃを見つけた子供のように感じ毒気を抜かれる。実際見た目は子供そのものだ。褐色の肌に銀髪なのはダークエルフの特徴だが、尻尾と毛の生えた耳が獣人だと示している。


(コロス)


「それは後です。フクちゃん……」


 ファスとフクちゃんは怒りを隠そうとせずに魔力を漲らせている。ナルミとアシキさんが顔を見合わせて盛大にため息をついた。


「シンヤ紹介しよう。こいつが北の蟻塚を突破するための協力者であり【魔尾】と呼ばれるA級冒険者……」


「イズツミだ。家の名はない! よろしく頼むのだ【竜の後継】よ。そして……【翠眼】の子よ、君には会わせたい者がいるのだ。そのまえにナルミ、此度のことについて責任は全て【四色】と吾輩にある。拘束されている【魔尾の旅団】は解放して欲しいのだ」


「……はいそうですかとできるか。アシキから大枠の話は聞いたが、詳しく話してもらうぞ」


「ん、まぁいいのだ。久しぶりにハクトの坊主でもからかうのだ」


 破れたポンチョを器用に纏い直してイズツミさんが出ていく。ハクトってナルミのお父さんだよな。え? 見た目中学生くらいにしか見えないが高齢だったりするのだろうか?


「イズツミは禁書の研究の事故で()()()()は精神と身体が若がえっているが、年齢で言えばサイゾウとそう変わらんくらいだ」


「マジ?」


 サイゾウさんってエルフでもかなりの高齢じゃなかったっけ?


「事実だ。百戦錬磨にして理性は子供まま、それ故に己の知識欲に抗えず様々な問題を起こしている。しかし、魔物の研究者としても冒険者としても多くの成果を出している。私達を奇襲したのは奴が率いる【魔尾の旅団】と呼ばれる奴らだ。詳しいことは奴から聞け」


 屋敷に戻り、奥の間へ案内されるとイズツミさんが中心に立っておりハクトさんとその横に和装をしたナルミによく似た人が座っていた。僕等を見ると二人は全力で頭を下げる。


「英雄殿申し訳なかったのだ。此度の件、責任はイワクラ家にもある」


「ナルミの母のシグレ イワクラと申します。なんとお詫びを申し上げればよいか……」


 女性の方はやはりナルミの母親のようだ。若すぎてマジで姉妹程度にしか思えん。エルフおそるべし。


「とりあえず、説明を聞きたいです」


「では、吾輩が説明しよう。なので【翠眼】の子よ、魔力の流れを止めよ。落ち着かんではないか……」


「貴女が生きているのは情報の為です。許すつもりはありません」


 いつでも氷柱が出せるようにファスがスタンバっていたらしい。話が進まないのでとりあえず座ってイズツミさんに話を促す。


「ふぅむ、では話すか。此度の襲撃の件は吾輩への依頼である」


 ペタンと座り込んでイズツミさんが話し始める。


「依頼、ですか?」


「うむ。【四色】からのな。内容は英雄一行へ『敗北』と言う名の教訓を与えて欲しいというものだったのだ。ご丁寧にも奴が【精霊眼】で集めた情報を基にした貴殿達の対応策つきで手紙が送られてきたのだ」


 【四色】って多分、ファタムさんのことだよな。なんでファタムさんがそんなことを?

 混乱している僕等に対してハクトさんが口を開く。


「元々はマドフロッグの討伐をイズツミ様に依頼していたのです。アシキはその確認をする途中で狂言誘拐されたことになる。我が家の依頼を罠に利用されてしまったこと、申し訳ない」


「……納得できません。イズツミはご主人様の呪いで死にかけました。今も罪人となるやもしれません。あれほどの準備をして、そこまでのリスクを冒してまで私達を襲う必要があったというのですか?」


 ファスが低い声で問いかける。確かに、あれほど大がかりな準備をしてまで僕等を襲う必要はあったのだろうか?


「吾輩だって本音を言えばしたくはなかったさ。しかし【四色】には大きな借りがあった……そして吾輩にはもう一つ、捨て置けぬことがあったのだ。【翠眼】の子。いやフィオーナの子、ファス。吾輩の姿は()()()とは違うがこの面は覚えているのではないか?」


 イズツミさんがどこからか仮面を取り出して顔に当てる。ファスは目を細めて睨みつけた。


「えぇ、この眼が覚えています。赤ん坊の私をお婆さんの元へ運んだのは……その仮面をつけた人でした」


「ふむ、久しぶりなのだ。まさか生きているとは思わなかったのだ。フィオーナの子」


 そう言ってイズツミさんは子供のようにニッコリと笑った。

襲撃者の正体は協力者だったようです。ファタムが送った長文の手紙の内容が真也君達の情報でした。


ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけたことが嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
こういう「悪ふざけ」って喜ぶ読者さんは少ないと思うんだけどやっちゃう作者さんわりといるよねえ なんでだろ? 無駄に変化つけなきゃ、とか思うのかな? 読者は「真剣」に読んでても、作者にとってはしょせん命…
賊の正体は正解したけど、目的は予想が外れました。 ファタムの手紙の事をもっと意識できていれば繋げられたのに悔しいです。 ファタムでは出来なかったことを頼んだとはそういうことなんですね。
なんかこの手のテンプレにこの作品も入りだしちゃったか。普通こんなことされて敵意は実はないんだ!で許すわけないけどな。気持ち悪いご都合主義的人間性になっちゃうのかな、やだなぁ。
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