第四百四十七話:モーグ族と再会
鉱山砦にはすでに巨大な足場が組み上がっており、結晶竜との戦いで崩壊した建物部分の修復が行われていた。近づくにつれてはっきりとモグ太の気配がわかり、それはモグ太の方も同様のようだ。
砦の下部にある地下に繋がる穴の前でモーグ族達が出迎えてをしてくれて、モグ太もその中にいた。
「モグ太っ! 無事だったか?」
(ヤッホー)
フクちゃんもモグ太のことを気にかけていたのか、飛び出している。
「モッグモ!」
拳を合わせて挨拶をする。この感じ、やっぱりファスと同じ【位置補足】に似た感覚が働いているな。
「モグ太の居場所を感じますの! 会いたかったですわ!」
「モグッ!」
ミーナも客車から飛び降りてモグ太を抱きしめていた。
「ご主人様。積もる話もあるでしょうが、今は砦に荷物を移動させましょう」
「だべな。オラ達はいいけんど。流石にミーナの立場もあるしこのままではメイド達が大変だべ」
「ご配慮感謝しますファス様、トア様。砦の崩れていない居住部分に用意ができているようですのでそちらへ移動を願います。姫様、儀式の準備や、砦守との面会が控えておりますので準備を致しましょう」
「今晩は【聖宝】への祈りを捧げ、明日には儀式の予定です。近隣の領主との謁見の為のお着替えも必要です」
メレアさんとハルカゼさんがジワジワと圧力をかけてきた。
「えぇ~。折角なのですからモーグ族達とのんびりお話したいですのに」
「儀式が終われば、時間はあります」
「仕方ないですわ。シンヤ殿も行きましょう」
「いや、僕等は地下でいい……いや、一緒に行こうか」
ミーナとはここでお別れだし、最後くらいは近くにいよう。
「はいですのっ!」
「……ミーナさん。押しが強くなったね」
「いいことだべ」
鉱山部分から補強された道を上り、石造りの居住区まで行くとメイド達がすぐに部屋を整えて回る。
ミーナは儀式や謁見の為の準備があるので一旦別れて、僕等はあらかじめ準備されていたであろう一室に通された。旅の疲れはほとんどなく、このまま休憩という気にもならないな。
「ミーナの準備ができるまでモグ太の所に行ってくるよ」
と言うと、ファス達も付いてきたいとのことだったので皆で身軽な格好で地下に戻る。地下はまだ整備中らしく、工員や護衛の為の冒険者が多く行き来していてとても賑やかだった。
「おう、英雄っ!【野風】も久しぶりだな」
巨人族の冒険者であるガビジオさんがこちらにやって来た。
「お久しぶりです」
「ん、おっちゃんも元気そうでなによりだべ」
「お前さん達の活躍は聞いてるぜ……っと、今は王族お付きの英雄様か、翠眼様もいるしかしこまった方がいいか?」
「いや、別に貴族ってわけじゃないし。これまでと同じでいいですよ。僕はあくまで冒険者です」
「私はご主人様の奴隷ですからかしこまる必要はありません」
「ガハハ、そうか。英雄殿はエルフの姫様と特別な友誼を結んだそうじゃねぇか。ビオテコでの活躍といい、お前さんのことは大森林中に広まっているぜ。姫様の詩も酒の肴だしな」
「……ハハハ。あの僕がメイド好きって言うやつですか」
あの詩。どうにかして存在を抹消できないものか……。
「ちゃんと戦いのことも広まってるから安心しろっての。この戦場から森に戻った奴らは皆【死線の英雄】と一緒に戦ったことをを誇りにしているんだぜ。王族のお達しで魔物の料理も祝祭では食べられているしな。エルフと他の種族との軋轢は少しずつ解消している。あんた等は大森林を変えちまったのさ。もちろん、いい方向へな」
バンバンと肩を叩かれる。
「僕等は依頼を受けて仕事をしただけです。それよりも、ここに【勇者】の襲撃があったと聞いていたのでモーグ族も含め心配してました。大丈夫でしたか?」
「おぉ、そのこともあってアンタらの到着を待ってたんだ。悪いんだがよぉ【聖女】様のお力を借りたいんだ。襲撃の時に巻き込まれた者が何人かいてな。ポーションも使い切っちまったのよ」
「怪我人がいるの? もちろん任せて」
叶さんが袖からワンドを取り出して、髪をアップに結い直す。
「こっちだ」
砦の一角の救護室に案内されると包帯を巻いた冒険者が数人横になっていた。
「まずは【星涙纏光域】。……重傷者から順番に治療していくよ。ファスさんとトアさんは真也君を見張っていて」
「了解しました」
「わかっただ」
「何で?」
ちょっと【吸傷】しようとしただけなのに……。室内に青白い光の粒が揺らめき、傷の深い人から順に個別で回復が行われている。うーん、実際これは僕の出番はないな。見た所、そこまで重傷者はいないようだし。
「怪我からの病気を防ぐ薬善料理を振る舞うだ。ここまでの道中でたっくさん薬草を採取したかんな」
その後はトアが料理を振る舞い。ご飯を食べつつガビジオさんから当時の状況について話を聞いた。大まかにはアナさんから聞いた話の通りだったな。
「――って感じだ。正直、俺達じゃあ足止めにもならなかったぜ。どう考えても【転移者】だろうが、証拠も無いしな」
「状況的には間違いなく【勇者】ですけど逃走してますからね」
証拠がない以上、立場のある【勇者】と断定して裁くことは難しいようだ。もっとも、すでに王族への不敬罪に脱獄と十分すぎる罪があるわけだが。この砦を襲撃後はこれまでの雑な逃走が嘘のように足取りも掴めておらず、千早達や他の派閥との会談の件も含めるとまだまだ面倒は続きそうでため息がでる。
「モッグ!」
話しているとモグ太がこちらへやって来た。丁度探そうと思っていたところだ。
「モグ太。話は聞いたよ、大丈夫だったか?」
「モッグモモ」
(マスターに守ってもらったって。ツルハシ、光ったって言ってる)
フクちゃんが翻訳してくれる。モグ太がツルハシを掲げて見せてくれた。
「うーん。これが光ったのか」
見た所いつも通りのモーグ族のツルハシだが……。指先で触れると青く発光し奴隷紋が現れた。
「おっと! なるほど、こうなるのか」
「ご主人様の奴隷紋ですね。モグ太を鑑定紙で見てみましょう」
アイテムボックスから紙を取り出してモグ太に当ててみる。
――――――――――――――――――――――――
名前:モグ太
クラス▼
【モーグ・コボルトリーダーLV.10】
スキル▼
【土竜】▼
【掘削LV.89】【隠密LV.5】【号令LV.3】
【暗視LV.9】
【竜人の眷属LV.測定不能】
――――――――――――――――――――――――
「モグモ?」
「【竜人の眷属】ってのがあるな」
あとやっぱり【掘削】が異常に高い。モグ太の頑張りが反映されているのだろう。
「【従魔】の【スキル】はついていないようです。あくまでご主人様との絆が反映されているようですね」
「モグ太とは友達ってことだな」
「モグッ!」
それはそれで、いい感じだ。
「【スキル】の効果は相変わらずよくわかんないけど、真也君の影響があるってのは確実みたいだね。というか偶然なんだろうけど土竜って竜の文字があるのが運命的だね」
「モグモッグ!」
(仲間、紹介するだってサ)
「おぉ、そっか。ミーナの準備はまだかかるっぽいし、会いに行こう」
「いいですね。ご主人様がモグ太と掘った穴も見てみたいです」
「ん、モーグ族が何を食べているかも興味あるだ」
「モーグ族って文化的だし。可愛いし……ジュルリ」
「モ……モグ!?」
「叶さん、モグ太が怖がってるから」
その後、驚くべき新事実が判明し……。
「モグモっ!」
「「「モグモグ!」」」
「え? モグ太って奥さん三匹もいるのか!」
「まぁ、群れのリーダーなら普通だべ」
「大丈夫、ご主人様も負けていません!」
「流石、真也君のマブ。類は友を呼ぶって奴だね」
(マスターの方が多イ)
地味にモグ太がハーレム持ちであるということが判明したのだった。
5/15日にコミックス発売です! 私の方では短編を書きおろしていますので、良かったら手に取っていただけると嬉しいです!!
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけたことが嬉しいです。
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