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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第十二章:北への旅路

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第四百四十三話:竜の武具(呪)

「「「呪物?」」」


 綺麗にハモってしまった。え? 僕の手甲が? ちなみに、叶さんだけは目をキラッキラにして身を乗り出しています。


「とにかく見てもらえばいいさ」


 分厚い革手袋をはめたライザさんが箱を置いて慎重に開けると、中から見事な朱塗りの手甲が現れる。

 甲虫の外殻のように滑らかで、縁や継ぎ目は黒い。鮮血に塗れたような光沢は無機物というよりも生物のそれで、魔物由来の素材を使っているからか今にも動き出しそうであった。


「……」


 言葉もない。刀剣にも似た機能美を突き詰めた先の美しさ、一瞬で魅入られてしまう。


「素体である渡された手甲を魔王種由来の素材で補強した。フク様が動かしやすさが必要ってんで、継ぎ目は伸びるようなっているよ。それ以外は前と同じ使用感のはずさ」


「完成した瞬間に呪いを放ち始めたのじゃ、素手で触れるだけで動けなくなり、周囲に押しつぶされるような圧迫感を振り撒き始めた。着けてみてくれ」


「……いや、あの、怖いんですけど」


 着けたら取れないとか無いよね?


(マスター、ジシンサク……)


「着けます! ありがとうフクちゃん!」


 涙目でフクちゃんに見られたらつけるしかないじゃん。


「真也君は本当にフクちゃんには甘いよね」


「まぁ、旦那様に呪いは効かないから大丈夫だべ」


「そうですね。確かに異常な気配は感じますが、敵意のようなものは感じませんし」


 ファスもそう言う事だし、意を決して手甲を掴む。


「お? 呪いが消えた」


 霧散するように異常な雰囲気がなくなる。


「異常な圧迫感も無くなりました」


「ご主人様の【吸呪】が発動しているのかもしれません」


 そのまま手甲を取り付けて留め金を絞る。ギチギチと懐かしい音がして吸いつくように固定された。

 鎧は軽かったが、この手甲はしっかりと重みがありそれが安心感がある。念のため、逆に緩めたりして外せるか試したが問題なく外すこともできた。再びつけ直して着け心地を確かめてみる。うん、いい感じ。


「おぉ、荒ぶる気が静まった……主人の元に戻って安心したようじゃの。ライザ、一打ちしてみよ」


「あいよ【重撃】っ!」


「いや、急に!?」


 ライザさんが腰に付けていた槌を振るってくる。だが、恐ろしさはない。まるで、手に付けた手甲が試してみろと言っているようだ。受け流すことなく、正面から受け止める。


 鈍い音がして、ライザさんが弾き飛ばされた。嘘だろ、戦士じゃないとはいえ巨人族の【重撃】だぞ。


「うわっ!」


「あっ、すみません。大丈夫ですか?」

 

 自分よりはるかに大きな巨人族が吹っ飛ばされるという事実に脳がバグりそうになる。身体能力の成長に手甲が合わさって、思ったより強く弾き返してしまった。

 

「イテテ……大丈夫だよ、手甲はどうだい?」


 視線を落とすと、手甲には傷一つついていない。不思議な感覚だった、手甲なのにまるで自分の肌……否、『鱗』で受け取めたような一体感があった。自在に受け流したりもできるだろう。


「凄いです。腕の一部みたいだ……」


 手甲の性能に驚いていると、フクちゃんが少女の姿になって胸を張る。


「マスターの血、マスターの呪い、それがファスの炎で焼き付けられてたの! むふー!」


「フク様はそう言ってんだけど、人族の血ってそんなヤバイのかい?」


 ライザさんがドン引いてた。そんな目で見ないで欲しい。


「あ~、なるほど。真也君の血かぁ」


 叶さんが納得したと言う風に頷いている。ファスやトアも合点がいったというような表情だった。

 

「僕の血がどうかしたのか?」


「旦那様の血と呪いって、言い換えれば【竜の血】【竜の呪い】とも言えるだ。それをファスの【竜の息吹】で焼き付けた装備品を魔物由来の装備で補強したって言われたら……呪いの装備になることにも説得力しかねぇだ」


「【結晶竜】との戦いで、強い呪いを放ったそうですし、同じ戦いで【竜人化】も起きていましたから、そう言われると理解できます」


「ふむ……どういうことじゃ? この手甲を作った者として聞いておきたいの……この眼に見える英雄殿の底知れぬ魔力と関係あるのかの?」


 全員で目線を合わせる。


「話しても大丈夫かな?」


「よろしいのではないでしょうか。この手甲についてもわかることがありそうですし」


「オラもそう思うだ」


「うんうん、製作者が意図しないってのもロマンだよね。折角だし、一緒に考えてもらおうよ」


「うむ、ではワシの工房へ行こう。茶くらいは出すわい」


 というわけで、周囲の巨人族にも挨拶しつつデカい工房に入ってから、お茶(ちゃんと僕等のサイズのマグカップだった)を飲みつつ、ガボ爺とライザさんに僕のステータスに【竜人化】が出たことも踏まえて【竜の後継】と呼ばれていることについても説明する。


「……ううむ」


「とんでもない話だね。御伽噺の翼のある竜が出てくるなんて……どうしたんだいガボ爺?」


「『竜人』という言葉を久しぶりに聞いての、それに英雄殿の手甲についてもなぜ異常な性質を持ち始めたのか大まかに見当がついたわい」


「是非聞きたいです。というか『竜人』について知っているんですか?」


「あっ」


 横でファスがなんか思い出したように、声を上げた。


「ファス?」


「い、いえ、先にガボ爺さんからどうぞ」


「うむ、先に手甲について話すぞい。恐らくじゃが、話によるお主の『血』と『呪い』に竜、あるいは竜に似た性質があると見てよいじゃろう。それに、翠眼殿の【竜魔法】による影響も組み合わされた結果……その手甲はかつて竜王の素材で作られた【竜の武具】に近しい物になってしまったということじゃろう」


「竜の武具……これが?」


 手に付けた手甲を撫でる。確かに、これまで見た竜の武具のような生きている感覚を持っていた。


「そうとしか考えられぬ。よもや、伝説の装備をこの手で作ってしまうとはのぉ……砂漠の小人族に大森林の巨人族の技法も加わったことも縁を感じてならぬ。竜の武具は本来、使い手に祝福ともいえる強大な力を与える。この装備の場合はそれが逆に呪いになっておるのは、お主の【竜の後継】としての性質ゆえか、疑似的な『竜』の再現による歪みか……なんにせよ、それはお主にしか装備できない代物であろうの」


「……なんか、とんでもないことになってるな」


「というか真也君ついに素材まで変なことに……」


「お願いだから、そんな興味津々の眼で見ないで」


「私のワンドとかも真也君の血で強化とかできないかな? 爪とか髪とか!」


「完全にRPGの敵モンスターみたいな感じだよね! やめてよ!」


「マスター、自信作、スゴイ?」


 フクちゃんが褒めて褒めてと寄って来たので、少女姿のフクちゃんを膝に乗せて頭を撫でてあげる。なんにせよフクちゃんのおかげで凄い装備が手に入ったのは間違いないからな。


「ありがとうなフクちゃん。大事に使わせてもらうよ」


「やったー」


 うむ可愛い。もう、フクちゃんが可愛いからなんでもいいや。


「次に英雄殿の【竜人化】についてじゃが、古い魚人族が自らをそう言っていたのを思い出しての」


「え? 最近になって魚人族が言い始めてたんじゃないんですか?」

 

 日野さんの話で、最近の情報だったはずだと思っていたんだけど。すると、ファスが口を開く。


「いえ、実は私も今思い出したのですが、お婆さんの家にあった本に世界の種族に関し竜人という鱗を持つ種族について読んだことがあります。……翼のある竜との関係が結びつかなくてすっかり忘れていました。前にご主人様に、世界にいる種族について人族、エルフ、ドワーフ、小人族、巨人族、獣人族、竜人族とお伝えしたのもお婆さんの家にあった本の知識です」


「えぇ! 何それ、私にも教えてよ!」


「す、すみませんカナエ。すっかり忘れていたのです」


 叶さんがファスに詰め寄る。


「あれ? そんな話したっけ? 全然覚えてないや」


 んー、そういや昔、牢屋生活中で種族につい聞いたことがあったような……。あの時は自分が竜と関係あるなんて考えても見なかったからなぁ。


「あの時は牢屋生活で余裕がなかったですから……」


「ドワーフはこの森にもおるぞ、古くは石人族と呼ばれていた者達よ。体躯は小人族に似ておるがその見た目に反した剛力と丈夫な体を持ち、酒造と鍛冶に優れた種族じゃわい。今も南の火山地帯に多く住んでおる。歴史上、種族名が変化することはままあることじゃ、竜人族に関しても今でいう魚人族が古くに名乗っていた種族名じゃの。彼等は竜信仰を持っていた。しかし、竜王戦争が起きて翼のある竜が滅び、竜に対する悪感情が世に蔓延ったことから彼等は自らの種族の名を魚人族と改めた。竜信仰とは竜へ至る道を探すことであり、竜人とは彼等が目指した一つの到達点そのものじゃ、まさか、竜が滅びた時代にその竜人に会い、装備を作るとは……長生きはしてみるもんじゃのぉ」


「じゃあ、魚人族さん一派が今になって竜人族を名乗ったのは、元々そう名乗っていた種族名に戻ったってことか。【求道者】も竜信仰に関係あったらしいし。これは千早ちゃん達にも共有した方がいいかもね。ガボ爺さん【求道者】という【クラス】は知っていますか?」


「【求道者】? 聞いたことあるやもしれんが詳しくは知らぬのぉ、竜人族もそうじゃが、忘れられた名よ。翠眼殿が読んだという本は余程古い書物か、あるいは……」


「はい。おそらくですが、図書の樹の本であったのだと思います。なぜ、ラポーネに住んでいるお婆さんが持ち出しが制限されている図書の樹の本を持っていたのかわかりませんが……いずれにせよ。竜人に関して貴重な知見を得ることができました。ありがとうございます」


「なんのなんの、爺の昔話よ。伝説の武具を作れたことも含めて、語り継がせてもらうわい」


「横で聞いている私には想像もつかない話だね……ま、そんな話よりも他にも旅の用意をしたんだ。森を旅するなら防具だけじゃなく、色々必要だろうから是非見とくれよ」


「む、それはちょっと見たいだ」


 旅の準備物は大体トアが用意しているので、興味を引かれたようだ。見ていて面白いものが多いので僕も気になる。というわけで、話が済んだ後は巨人族が作った旅用の道具を見て回った。そして翌日、いよいよこの森を出る為の旅立ちの朝を迎えることになる。

真也君は【竜の武具(呪)】を手に入れた! 次回から旅の始まりです。


5/15にコミックス第1巻が発売予定です。素敵な絵で真也君とファスの出会いが描かれているので、良かったら是非手に取ってください!

https://tobooks.shop-pro.jp/?pid=185074487


ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションが上がっていきます。

感想&ご指摘嬉しいです。いつも助かっています。何度も読み返しています。更新頑張ります。

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― 新着の感想 ―
竜の素材は使っていないのに竜の武具 おかしいけれど、ヨシイ君だからね! 他の竜の武具が祝福によって使用者を強化するのに対し、こちらは呪いによって強化する 多分、触れた相手にも呪いを付与するんでしょうね…
素材と加工法を見てそれはもう竜の武具なのでは…?と思ってたら本当に竜の武具(裏)だった。 叶さんウッキウキだしこれは素材剥ぎ取りが捗りそうですねえ。聖女向けの強化素材に適合しなくてしょんぼりしそうだけ…
竜の呪いと言うかもうシンヤ自身が呪いの竜みたいなポジションな気がしてきた。呪いを吸って振り撒く竜とかもうラスボスとか隠しダンジョンのボスっぽくなってきたね!
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