第四百三十九話:スキルスクロール
「……皆さんばかり楽しんでズルいですの。ナルちゃんや騎士団長が中庭で魔物が暴れていたと言っておりました。私も見たかったですわ」
「おかえりなさいませ皆様」
宝物庫から御殿へと帰ってすぐに机にへばりついたミナ姫に恨み節を言われた。横ではメレアさんが出来上がった書類を丸めていた。羊皮紙だとああいう風にまとめても使えるのか。
「そう言われても……あと、その件は本当にごめんなさい」
「ごめんなさーい」
フクちゃんと一緒に謝る。見かけた兵がそれなりにパニックになっていたらしい。まぁ、見ている人もいるわな。ナルミやレイト王子が上手く誤魔化してくれたようだ。
「姫様。論功行賞へ参加する貴族やその代理も城の近くまで集まっているようですから時間はありませんよ。逆にシンヤ様には今のうちに自由にこの城を回ってもらいたいですね」
メレアさんがジト目でミナ姫を睨む。
「私が案内しますわっ!」
「……姫様は式の準備が……といってもどうせ聞かないでしょうね。ここまで予定通りに準備は進んでいますから明日の午後からは自由時間にしましょう」
「流石メレアですわ。よくわかっていますの……午後?」
ミナ姫が首をかしげ、メレアさんが僕等を掌で示す。
「午前は皆様も交えて式での作法についてご説明いたします」
「……僕等もですか?」
「当然です。以前説明した通り、当日はシンヤ様にもそれなりの立ち振る舞いをしていただきます」
「まぁ、できる限り善処します」
できる気全然しないな。聖女として活動していた叶さんやアナさんにマナーを習ったファスに代役を頼みたいくらいだ。
「ヌフフ、メレアは厳しいですわよ」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか……」
明日は式の練習と午後から自由時間か、とりあえず僕等は自分達の部屋に戻るか。
「メレア、折角ですしシンヤ殿とお話してもいいですか?」
「えぇ、後はしておきます」
メレアを書類整理に残して僕等にあてがわれた部屋にミナと一緒に入る。僕等の部屋はすでにフクちゃんが糸を張っている。ローブを脱いだファスがミナ姫の方を向く。
「それで、なんの話でしょうか?」
「城の建築のすばらしさについて、語りたいですわっ」
「おかえりください」
「冗談ですの。私はお姉ちゃんですのよっ!」
「……」
腹違いの姉妹なのだが、ファスは心底嫌そうな顔をする。こうして並ぶと改めて似てるな。
「むぅ、いいですわ。報酬の残りである【竜の後継】に関する情報についてのお話です」
皆と視線を交わす。ファスの出生についてはある程度わかったが、こっちに関してはまったくわからないからだ。
「父が叔父様の研究結果と合わせて必要なものをお渡しいたします。ただ、今は色々と取り込んでいますから論功行賞が済んでからということでよろしいでしょうか?」
ファスが僕を見て頷く。
「問題ないです。僕等ものんびりしたいですから」
「助かりますわ。そうだ、折角ですから明日は城の近くの街へ行きませんこと? 贔屓にしている巨人族の職人を紹介できますわ。装備品の手入れをしてくれますわよ」
「それは助かります。手甲が大分くたびれていた所ですし、防具もモーグ族に調整してもらったきりでしたから」
防具としての性能は問題ないのだが、流石に見かけは雑だから整えてもらいたい。
「でしたら、私もお願いがあります。この城に【魔術士】がいるのであれば研鑽の為に話をしたいのですが……」
「あっ、私も。精霊を信仰するドルイドだろうけど【神官】の人がいれば色々教えてもらいたいんだよね」
ファスと叶さんはそれぞれの【クラス】に関して学びたいことがあるようだ。
「もちろん紹介できますわよ。城には我が国の碩学ともいえるエルフがいますから話を通しておきます」
「オラは料理についてもう料理長と交流してっからな」
皆、それぞれの成長に貪欲なようだ。僕も負けてはいられないな。その後、ミナ姫はメレアさんとハルカゼさんが迎えにくるまで部屋でくつろいでいた。僕等は夕食をすませ、城の地下にある浴室で体を洗った。城の浴室は残念ながら湯につかるタイプではなく、花の香りがする水が壁から流れ出る場所で冷水で体を洗うという感じだった。寝る前に寝間着姿で昼間にできなかったスキルスクロールを広げる。
「ナルミが言うには失敗する可能性もあるということですが、折角の機会ですし、試してみましょう。ご主人様は何か習得したい【スキル】はありますか?」
「欲しいってわけじゃないけど【隠密】はなんとなく習得できそうな気はしているかな」
「真也君はできそうだよね。私も目立つばっかじゃなくて【隠密】みたいな隠れるスキルは欲しいかも。間違っても【空渡り】みたいな恥ずかしいスキルはごめんだからね」
「オラも遊撃として【隠密】系は欲しいべな弓用の【重撃】も覚えれるなら欲しいだ」
「せっかくだし、【魔刃】系のスキルも見てみたいな【炎空刃】とかあるよ」
「おぉ、確かにカッコ良さそう」
炎の刃を飛ばす【スキル】っぽい、千早が似たような【スキル】を使ってたなぁ。
「あっ、真也君は武器を装備できないから使っちゃダメだよ」
「……わかってるって」
あぁ、僕も派手な技が欲しいなぁ。せっかくの異世界なのになんか物理攻撃と呪いばかり強くなってしまっているからな。というわけで、たくさんあるスクロールを使って色々試した結果……。
一時間後。
「……」
カナエさんが打ちひしがれていた。その周囲には文字の消えたスクロールが散乱している。
「と、とりあえず。僕は【隠密】のみ習得できたな。念のため弓のスクロールも試したけど習得はできなかった。……やっぱ武器全般はスキルも含めて無理みたいだ」
「オラは狩人や斥候のスキルである【追跡】を習得しただ。犬族の中には【クラス】に関係なくこのスキルを習得する人もいるから種族的にも習得しやすいのかもしんねぇだ。【隠密】も欲しかったけんど、習得はできなかったなぁ。次は斧のスクロールがあれば挑戦したいだ」
僕とトアは習得できたスキルを発表する。
「私とフクちゃんは習得はできませんでしたね。フクちゃんに関してはスクロールが反応しなかったですから、元が魔物であるとスクロールは使えないのかもしれません」
「つまんない」
そして残った叶さんがゆらりと立ち上がる。
「……私のスキル、もう一回見たい?」
「いや、まぁ、別に……」
習得時に試しにと発動させていたので、すでに見ているのだ。
「【大鐘楼】っ!」
返答を無視して叶さんがワンドを振ると輝かしい光の鐘が現れて、室内で荘厳な音を響かせ、鐘を響かせる叶さんの体はキラキラと後光を放っている。うん、なんかすごいありがたい。思わず拝んでしまいそうだ。
「音量の調整もできるよ……鐘の効果は一切わからないけど……なんでいつも私って光ってるの……【隠密】系は触れるだけで文字が消えるし……」
両手で顔を隠す叶さんに掛ける言葉が見つからない。
「論功行賞では間違いなく役立つと思います」
「スクロールの束に変なのが混じってたんだなぁ。まぁ、もしかしたら有用かもしれねぇだよ」
「いいなー」
鐘は天井を貫通しているし、幻というか光の鐘のようだ。ダメだとは思いつつも、【空渡り】と組み合わせてキラッキラな叶さんを想像するとちょっとおもしろい。
「……真也君。今、笑ったよね」
「え” いや、そんなことは……プクク……近づかれると、ご、後光が……ブハハハハハハっ」
光ったままで近寄られると、表情も相まってめっちゃ面白い。思わず爆笑していると叶さんがワンドを構えていた。
「あ、あの叶さん? ご、ゴメン。謝るから」
「ううん、謝らなくてもいいよ。ファスさん、今日の一番手を譲ってもらってもいい? 私が最初の番の時に譲るから」
「……しょうがありませんね」
「ありがと、ちゃんと順番は回すからね」
目が据わっていた。彼女の逆鱗に触れてしまったと後悔した時にはすでに遅い。
「トアさん、ラクトワームの粉末をちょうだい。一番濃いやつ」
「わかっただ。旦那様、頑張るだよ」
「えっ、さっきのんびりするって……」
叶さんが部屋着を脱ぎ捨てる。
「【星女神の鼓舞】【星涙纏光)】」
バフを己にかけた後にトアから渡された粉末をスタミナポーションにいれて一気のみした叶さん。その手を僕の首にまわす。
「ちょ、流石にバフありは……」
「じゃ、ベッドにいこっか」
とても良い笑顔だった。その夜のことは記憶にないが、今後、この話題で叶さんをからかうのは止めようと誓う僕なのだった。
ある意味真也君にとって一番苦手な戦いかもしれません。
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