第四百三十六話:【ふんばり】の可能性
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「それでナルミ……結局、兄上が持ち出した宝は重りと古びた鍋だけかい?」
城の外の兵舎の脇にある練兵場でワイワイ話している真也達を見ながらレイトはナルミに尋ねた。
「そんなわけにいくか。宝物庫を探し回って何とか数点の装備やら道具を無理やり渡してやった。今はその効果の確認だ。ほら、一覧だ」
エルフ達が使う独特のクセの強い字で真也達が持ちだしたダンジョントレジャーが書かれた書類だった。
「……もう少しマシなものもあっただろう。これを褒美として渡したと論功行賞で発表したらニグライト家は笑いものだよ」
「知るか。あの馬鹿どもに言え。それにしても、お前が城の外に出るなんて珍しいな」
「今までは監視があったからね。下手に外に出れば何をされるかわかったものじゃなかったんだ。僕は父上のような魔術の才も姉上のような逃げ足もないからね」
「これを機にお前も体を鍛えておけ、なんならダンジョンに潜ってみるか?」
「それもいいかもね。でも、その前にやることが盛りだくさんだ。とりあえず、他の貴族に対しても発表できる程度には報酬を考えておくよ」
「……竜の後継についての情報はあるのか?」
「それに関しては父上個人の書架や叔父上の研究結果のものになるだろうね。こちらの報酬に関しても依頼に記した通りに渡すつもりだよ」
「そうか。まっ、のんびりやればいい。面倒になったらあの泣き虫にやらせろ」
視線の先には真也達に混ざってダンジョントレジャーを確認しているミナ姫がいた。レイトは年相応な子供のようにカラカラと笑いながら眦を指で拭った。
「アハハハ、そうだね。そうするよ」
「あぁ、そうしろ……なんだっ!」
地割れが起きたかのように地が裂ける音がして、次に真也の悲鳴が響き渡る。
「シンヤどのぉおおおおおおおおおお!!」
「ご主人様っ!!」
またあの馬鹿が何かをしたのだろう。とナルミは肩を落とす。レイトとナルミは顔を見合わせて地面が陥没している真也達の元に歩いたのだった。
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「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」
凄まじい速度で、下へ下へと沈んでいく。チッ、もう呼吸ができない!
自分が地面へ沈んでいる元凶であるこの手に持ったダンベルへの魔力の供給を停止して【ふんばり】で落下を止める。えっ? これ登るの?
十分ほど時間をかけてなんとか地表へ生還する。
「し、死ぬかと思った……」
「むしろ何で生きていますの……」
ミナ姫がドン引きしていた。いや地面に埋まっただけだぞ。
「ご主人様は私との鍛錬で例え水中でも二十分以上は動き続けることができますから。しかし、驚きました。登って来るご主人様が見えなければ火球で地面を吹き飛ばすところでした」
「城が壊れるから止めてくださいまし」
「真也君、そのうち水中でも平気で呼吸しそうだよね」
「肝が冷えただ旦那様。ほれ、タオルだべ」
「マスターのあほー」
トアからもらったタオルで顔を拭きながら振り狩ると練兵場に大穴が開いてしまった。後で、ファスと協力して直さないとな。
「で、何でこんなことになったんだ」
「兄上随分騒がしいですね」
ナルミとレイト王子がやってくる。ええと、どこから話せばいいものか。
「いや、ダンベルの性能を試そうと魔力を込めたら重たくなりすぎて地面にめり込んだんだよ」
魔力を流さないとただの石の重りであるダンベルを持ちあげる。試しにと魔力を流し込んだら重たくなりすぎて肩が外れるところだった。必死で握ると今度は足場が堪えられなくて地面にめり込んでしまったのだ。
「ご主人様の魔力量は膨大ですから。加減を考えないといけませんよ」
ファスからお叱りを受ける。確かに、下手すればケガすることろだった。
「わかってるよ。今度は【ふんばり】も強めてやってみるか。よいしょっ!」
意識を足元へ集中して慎重にダンベルに魔力を流す。うん、今度は良い感じだ。
「こんな感じだな」
「……足元がミシミシ言っていますわ……。一体どんな重さですの?」
「ご主人様、これ以上は危険です。【ふんばり】の魔力で地面に魔力の杭のようなものを広げて重さを分散していますが、重すぎて城の地盤が割れます」
余震のように足元が揺れ始めた。
「マジっ! 危なっ!」
すぐに重さを戻す。ダンベルを置くと久しぶりの筋肉痛だ。懐かしい痛みに安堵する。そうそう、これだよこれ、最近は筋肉痛を感じる前には治っていたからなぁ。動かなくなるまで走り続けたギースさんとの修行を思い出す。
「むしろこれは【ふんばり】の練習にもなるかもしれません。足場の悪い例えば水上でも沈まないようにダンベルを使いながらの【ふんばり】をしてみてはいかかでしょうか? もちろん【重力域】を使った高重力化での鍛錬も選択肢が増えますね」
「いいなそれ。やっぱウエイトトレーニングは重要だよな」
武道家の中には自重トレーニングのみで素早い動きを目指す人もいるが、うちの道場ではわりとウエイトトレーニングとかも推奨していた。爺ちゃんもジムとか行ってたしな。重さを調整できるウエイトトレーニングは安全に体を鍛えられるので自重トレのように負荷をかける為の前提の筋肉すらない人は逆におすすめだったりする。
「というか真也君の【ふんばり】って立っている地面も強化できるの?」
話を聞いていた叶さんが手を上げる。
「ん~。どうだろ感覚的にやってるからなぁ。昔は単純に地面に引っ付くって感じだったけど今は【掴む】みたいに作用している地面は大きくなっているかな」
「先程言ったように、ご主人様が【ふんばり】強めると魔力の杭のようなものが足を中心に広がっています。木の根が地面を補強するようにご主人様を固定していますから。立っているものを強化しているという認識で間違いないでしょう」
ファスから補足の説明が入る。
「……じゃあさ、空中や水上で【ふんばり】をしていた場合、その効果を広めて操作することってきるのかな? 例えば空気を【ふんばり】で固めて相手にぶつけるとか。ファスさんの水球で敵を閉じこめてから【ふんばり】でさらに水球を固めるとか。私の防壁を強化するとかもできるんじゃない?」
なにそれ、凄い発想だな。流石TRPGプレイヤー。
「面白いな。流石、叶さん。【ふんばり】はその場でふんばるっていう条件っぽいから相手にぶつけるのは難しいけど、動かないなら水球に立って【ふんばり】はできそうかな」
「【掴む】なら空気を掴めるのでは?」
「それならできるな。実際もうしているし」
「そんならオラのスキルと合わせて風を操る合わせ技とかできそうだべ」
「ボクの糸も使う」
「この際だから合わせ技も色々検討してみるか」
この国で学んだ技術を色々組み合わせて派手な新技を作ってみたい。
「お前等、城の宝の確認はどうした?」
「あっ、そうだった。つい……」
よこからハイテンションのミナ姫も拳を胸元でブンブン振り回している。
「そうでしたわ。どんなダンジョントレジャーを選んだのか見せてくださいまし」
ナルミに突っ込まれる。持って出た宝の確認をしていたんだった。最初に触ったダンベルのせいで随分脱線しちゃった。改めて宝を確認する為にアイテムボックスを取り出す。
「ミナ様はそろそろお時間ですよ」
「うわーん。これからいい所なのにー、シンヤ殿ー」
「行ってらっしゃい」
「オーガ、オーガですのー」
「じゃあ、僕もいくよ兄上」
「城を破壊するなよ」
時間が来たのか、いつものようにメレアさんに連れていかれるミナ姫。一緒に王子とナルミも城へ戻っていった。
「じゃあ、改めて装備の確認をするか」
「そうですね」
「ちょっと待つだ。折角だからお茶でも淹れてのんびりしながら見てみるべ」
「賛成~」
というわけで毛皮の敷物を敷いて、トアのお茶飲みながらダンジョントレジャーの確認を再開することにした。
地味ですが、色々性質がおかしい初期技三種。合わせ技も含めてしっかり鍛えてもらいましょう。
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