第四百三十四話:宝物庫で宝探し!
エルフのお城に来て三日目の朝。御殿ではなく、王族の居住区に設けられたテラスで朝食をしている。
「――というわけで父上、兄上が証拠を集めてくれましたので想定より何年も早く決着がつきそうです。兵を動かす許可が欲しいです。論功行賞までに決着がつけば、その後の動き出しが早くなります。ラポーネ国のアナスタシア王女とも足並みを揃えられるでしょう」
「……そうか、シンヤ殿には感謝せねばな。レイト、余の私兵は好きに使うがよい。信頼できるものは引き抜いても構わん。忠義者ばかりだ、しっかりと働いてくれることだろう」
「それは良いですけれど、横領やお父様を暗殺しようとした証拠を私が精査するのは、何でですの。これ以上お仕事はいやですの~。シンヤ殿、こっちも助けてくださいまし」
「……それに関しては門外漢です」
き、緊張する。なんせこのテラスに置かれたやったら長い机には王子やミナ姫に加えて王様も座っているのだ。ファス達は始めは奴隷としてメイド達と同じように立っているみたいなことを言っていたが、全力でお願いして横に座ってもらっている。一人で王族と一緒に朝ごはんなんか食べられるわけがない。
「追加のお料理をお持ちしましただ」
トアが城の料理人と一緒に料理を持って来る。監視がいなくなって、思う存分エルフの厨房で料理人との交流を楽しんでいるようだ。珍しく早起きして調理に行ってたからなぁ。ちなみに、病み上がりの王様は別メニューで体力回復の料理になっている。
「トア殿、大変美味な食事だ。久しく忘れていた食べる喜びを感じている」
「光栄ですだ。王様は最後の皿だべ、小麦粉で作った生地で甘く煮つめたニンジンを包んだものだべ。胃の力を強くする効果があるだ。これはこの城の料理人と一緒に考えた料理だべ」
「ふむ、香りが良い」
食の細い王様の皿は小さく盛り付けられていた。王子にも同じものが並べられる。そしてミナ姫や僕等の前には盛り付けは二の次だと言わんばかりのデカい木製の皿が置かれた。
「旦那様達はこっちだべな。しっかり食べてけろ。前菜の薬膳サラダを食べてから食べるようにするだよ」
固めのずっしりと詰まった粒の荒いパンの上にオムレツとハム、それに焦げ目のついたチーズが乗せられたものが置かれる。横には根菜をふんだんに使ったシチューもあり、トロトロの肉が凶悪に食欲を刺激してくる。最後にパンをつけて食べるのが美味いんだよな……パーフェクトだ。こういうのでいいんだよ、こういうので。昨日は隠密達を捕まえるのに忙しかったし、朝とは言えお腹がペコペコだ。
「最っ高ですの!!」
「質の良いチーズがあるのは助かりますね」
「トアさん、私は半分でいいよ。あとお茶のおかわりをお願い」
「オニクっ!」
フクちゃんも少女姿でかぶりついている。王様の前で無礼かとも思うが、王族であるミナ姫が口の周りに溶けたチーズを付けてホッペをパンパンに膨らませているので問題ないだろう。僕もパンを持ってかぶり着く。チーズのおこげがパリパリしていて旨い。
「具材を並べた後にチーズは炭を当てて焼いているだ。肉は無かったから手持ちのものを使ったべ。皆、サラダも食べるだよー。王様、やっぱり食事の席は分けた方がいいのでねぇですか?」
あんまりな僕等の食べ方に追加でサラダを配りながらトアが王様に尋ねるが、王様は笑って首を横に振った。
「いいや、よく食べる若者を見ると食欲も湧くようだ。これから忙しくなるが、できれば一緒に食べる時間を作りたい。冒険者に混ざって酒場に行ったことを思い出す」
「同感です父上。僕も姉上達が良く食べるのを見ることは好きですから」
王子の視線がミナ姫とファスに向けられる。ファスはパンをちぎりながら上品な仕草で(あくまで他と比べると)食べているがミナ姫はかぶりつきだ。……思い返してみると、ファスとミナ姫って食の好みとか似てるな。
「もが?」
「どうしたましたかご主人様?」
思わず笑ってしまい、ファス達に怪訝な顔で見られてしまう。
「いや、昨日の今日だししっかり食べよう」
テラスから眺める湖と大森林も相まって最高の朝食だった。その後はナルミとも合流し王子に案内されて宝物庫へ向かう。隠密を炙り出す為にファスは何度か訪れているが、僕は始めてだ。幾層もの結界と警備を通り、蔓で塞がれた宝物庫の扉の前まで進む。
「王族であるファス姉様なら開けられると思うけどね」
「不本意ですが、できそうです。戸締りはしておきましょう」
「頼むよ。『エガコ・レイドバル・シムシム』」
王子が唱えると、蔓が蠢き黒く艶やかな扉がゆっくりと開かれる。
「おぉ、広い!」
「有益なものがあれば良いですね」
「オラにはさっぱりだべ」
「クエストクリアの報酬って感じでテンションが上がって来たよ!!」
「ご飯ある?」
中は見かけよりもずっと広い。天井は白い発光する花弁の花が咲いており、光源となっている。宝物庫だというのに大きな蝶が緩やかに飛んでいた。左右に巨大な棚が置かれており、武器や本、他にも様々な物が置かれているようだ。棚がデカすぎて、階段付きの足場が用意されているほどだ。部屋の中央には噴水があり、なんだか甘い匂いがする。その奥にも何かあるようだが、広すぎてよくわからない。
「では兄上、中は自由に見てくれ。国の政策として使いたいダンジョントレジャーは渡せないけど、それ以外ならば自由に持って行ってくれて構わない。目録に関してはナルミに任せていいかな」
「あぁ、水晶の書庫に記録されているからな。ここに入るのは久しぶりだ……」
ナルミは胸元から水晶の書庫を取り出して、中からウィプス達を呼び出す。
「叔父上が数点の宝を持ち出しているから、ついでに記録して置いてたら助かるよ。僕はこれから秘書長官と話があるから失礼するよ。フフフ、楽しみだね。何年も何度も嫌がらせを受けてきたんだ。今は果物の皮をむくような気分さ」
「僕等がいなくても大丈夫ですか?」
なんなら攫ってくることも可能だが、王子が必要ないと言ったのだ。もっと良い方法があるとか……。
「これ以上兄上に働かれると、城の宝の全てを差し出さないといけなくなるよ。僕だって少しは頑張らないとね。今日は戻れないから明日また会いましょう」
ニコリと微笑んで王子は行ってしまった。うん、一瞬男か女かわからなくなるな。王子が出ると宝物庫が閉じられる。
「さて、ゆっくり見ていくか」
「お前等が欲しそうなものを選んでやるぞ?」
「ダメだよナルミさん。こういうのは自分で探すのがいいんだよ。ねっ、真也君」
「激しく同意する。真ん中の噴水は後で行くとしてまずは右の棚からいこうか、なんだかんだこういうの始めてだよな」
ウィプス達を従えながらナルミが提案してくれるが、叶さんの言う通りそれは味気が無さ過ぎる。
「フフっ、ご主人様もカナエも楽しそうですね。時間はありますし、皆で一緒に回りましょう」
「それがいいだ。なんだかここむずむずして落ち着かねぇし……一人でいたくないだよ」
「わーい、なにあれー?」
トアは落ち着かないようで耳をペタンと倒していた。フクちゃんは好奇心旺盛に棚に走って向かっていく。
どんな宝物があるか楽しみだ。
お知らせがあります!! なんと、コミカライズの連載が始まっています!!
日程とか知らなかったのでまさか年末のこのタイミングで来るとは思いませんでした!!
https://to-corona-ex.com/comics/183646580850820
こちらから読むことができますので、よろしくお願いします!! 凄く丁寧に描いていだいています。
後程、活動報告の方でも詳しく、なんなら好きな場面をひたすら語りたいです!!
本年も皆様には大変お世話になりました!!
皆様良いお年をお過ごしください。
追記①:久しぶりに異世界ファンタジーランキングに入っていました!! ありがとうございます。
追記②:総合PVが2千400万突破しましたありがとうございます!!