第四百三十二話:実は有能だった姫様
「……どうしよう」
自分の立ち位置がどんどんヤバくなっていることに、動揺を隠せない。今のメンバーのハーレム主ということだけでも、この国に来てからやっと覚悟を決めたはずなのに……胃が痛い。
「シンヤ殿に野心が無くて助かったと言うべきかな。ともかく、君達への依頼の報酬を渡そうか」
「そうですの。画家を呼んで、肖像画を描いてお城へ飾ったりもしますわ」
「それ、報酬なんですか?」
胃痛の原因の一端であるミナ姫にツッコミいれる。すると、そんなミナ姫の肩がメレアさんに掴まれる。
「では、姫様は式典へ向けて準備を始めましょうか」
「メメメ、メレア……私にはこれから、シンヤ殿に宝物庫のダンジョントレジャーを説明するという任務がありましてよ」
「それは、王子がされることでしょう。式典の日取りが決まった今、姫様の足を引っ張ろうとする者達がいるのです。付け入る隙をあたえるわけにはいきません」
そのままずるずる引きずられていく。
「シンヤ殿ぉ~、たぁすけてぇえええええええ」
「頑張ってください」
とりあえず手を振って見送る。式典への準備に関しては多分僕も他人事ではないんだろうなぁ。
「姉上には頑張ってもらわないとね」
王子が苦笑しながらミナ姫を見送る。
「正直、王子の方が王に向いている感じがするな」
「私もそう思います。仲も良いようですし、二人なら上手くやっていけるのでは?」
率直な感想を告げると、王子はこちらを見て顎に手を当てる。少年のはずなのに、謎の色気があるのはなんでなんだろう。いちいち仕草が絵になるんだよなぁ。
「いや、姉上以上に王へ相応しい人はいないよ。兄上」
「その呼び方は色々問題ありすぎるでしょ!」
「流石に見逃せません」
「真也君に可愛いすぎる弟が……」
「カナエ、ずっと楽しそうだべな」
やいのやいの騒ぐメンバー達を楽し気に眺めながら王子は、椅子に座り直す。
「僕は玉座に座るべきではないんだ。叔父が王位争いから脱落した今、その神輿を担いでいた貴族達は次に誰を掲げるかを探している。それは誰だと思う?……僕なんだ。まったく、節操が無さ過ぎる」
「王子を? なぜ?」
「母の立場が弱いからさ、姉上の母は大森林を収める貴族の中ではもっとも上の立場の家でね。対して僕の母の家は……大した産業もなく、雨期になれば水害に悩まされて借金をしなければならないほどだった。もし、僕が王になっても父上がいなくなれば母親の実家を盾に玉座に縛られるだろう。それに、姉上が王になるべき理由は他にもある。姉上が王位継承権一位になったことにはちゃんとした実績があるんだ。姉上は……普段はああだが、帳面一つから矛盾を見つけて貴族達の不正を暴いたり、民の為に多くの建築物を設計している。これを見てもらえるだろうか」
王子は懐から木箱を取り出すと、どうやらそれはアイテムボックスらしく中から古びた羊皮紙を数枚取り出した。それは設計図のようで、紙の上には乱れた字で『レイトの家の水止め』と書かれている。
「これは?」
「僕の宝物だ。まだ幼かった姉上がメイド達から脱走した先で書き上げたものさ。僕の家は雨期の水害に悩まされていると話しただろう? 雨期の度に法外な値で川を堰き止める木材を購入していたんだ。母と僕はそれをどうにかする為に悩んでいた。すると、天井裏から姉上が現れてね、驚く僕の持っていた請求書を見て『こんなものはおかねがかかりすぎですの、わたくしなら、もっと、おやすく、つくれますの!』といって、数日で王族の小道にいるスライムを利用した水の逃げ場所を作り、巨人族なら誰でも作れるような簡単なダムを複数作ることで我が家の何年にもわたる悩みを解決して見せた。民は大喜び、反して母の家に耐水性のある高級な木材を卸していた貴族は大損だ。こんな風に姉上は失墜した王族の信頼をいたるところで民から勝ち取っているわけだ」
「……そういえば、メレアさんもことあるごとに、姫様はやればできるって言ってたな。本当だったのか」
あの感じで有能なキャラって存在するんだ。僕の発言に苦笑しながら王子は、ダムの設計図を大事そうにアイテムボックスにしまった。そして、僕の手を取る。
「病弱な王族の権威が弱まったことをいいことに好き放題していた貴族達の不正を手遊びで見破り、浮いたお金で民の為に多くの建築物を作っている。芸術に関しても秀でていて、民たちは姉上を認めている。姉上が王になればニグナウーズ国は生まれ変われる。父上は王が正しい政治をする為土台を作り直した。姉上はその上に立つべき人で、僕はそれを支えたいと思っている。母もそれを認めてくれているんだ。だからシンヤ殿、貴方が姉様を助けてくれたこと心から感謝している。なんどでも礼を言わせて欲しい。僕の夢を守ってくれてありがとう」
「王子は凄い人ですね。自分のすべきことをもう選んでいる」
この年なのに、自分の生き方を選びその為に頑張っている。ただ、上目遣いでお礼を言われるとなんかドキドキするな。これが美少年か。
「そういうわけで、論功行賞は成功させないとね。さぁ、報酬を渡そう」
「その前に……このうっとおしい『目』が気になりますね。私達を見張っている隠密は何者でしょうか?」
ファスが周囲を見渡す素振りをする。彼女には、僕等を結界の外から見張っている存在が見えている。
「カジカ派の秘書官が雇った隠密だ。この御殿の外ではまず見られるだろうね。僕や姉上も含め、隙を伺っているのだろうね。姉上にはもちろん気を付けてもらうが、君達も注意してくれ」
「捕まえればいいんじゃないか?」
「彼らはこの国のエルフの中でも隠密に特化した集団だ。捕まえるどころか近づいただけで姿をくらませてしまう。証拠も残さない。悔しいけど、対策がないのさ。いずれ秘書官との権力争いに勝った暁には僕が雇い直すつもりだけどね」
「……なるほど、つまり。捕まえればいいのですね。ついでに、その秘書官とやらが不正に王族を監視していた証拠も集めましょう」
「いや、君達がいくら強くても……隠密に特化した彼等を捕まえるのは難しいと思うが……捕まえたとしてもプロだし、情報を吐くこともないだろう」
「問題ありません。ご主人様、ご命令を」
「そうだな。監視されるってのはあまりいい気分じゃないし、ミナ姫の為にもこういうことをする輩を掃除しよう」
僕の言葉を受けてパーティーのメンバーが立ち上がる。
「レイト王子、すみませんが尋問できる部屋を用意してください。牢獄もお願いします」
「え、えと、それはもちろん用意できるけど……」
「フクちゃん、良かったですね」
(ナニー?)
ファスのローブからフクちゃんが顔を出す。暇だったので寝ていたようだ。
「狩りの時間ですよ」
(ヤッター)
困惑する王子を置いて、僕等は部屋を後にするのだった。
次回、狩りの時間
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけたことが嬉しいです。
感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






