第四百三十一話:二国の姫を奴隷にしてしまっていた話
「あの……今、なんと?」
たっぷりと数秒間静止した後に王子が冷や汗を搔きながら尋ねてくれる。いいぞ王子(多分年下)、僕は今、ファスからの冷気に耐えるので精一杯だ。叶さんは何かを考えながら頷いているし、トアは呆れたようにアナさんをみている。ファスの様子? 怖くて横が見れません。そして鏡の向こう側のアナさんが答える。
『言った通りですわ王子。私もヨシイの下につきます。その方が、ニグナウーズにとっても都合がいいはずしょう? ヨシイの下に私がいるのなら、裏切ることはありません。カルドウスという脅威が両国に迫っているのならば、信頼できる相手に背中を預けましょう。ヨシイなら……ご主人様ならばその信頼を預けるに足るでしょう』
老獪な狐のように、猛々しい猛禽のようにアナさんは言葉を紡ぐ。
「ご主人様を政治の道具にしようと言うのですか?」
ファスが立ち上がり、鏡に映るアナさんに詰め寄る。
『違うわ。あたしこそがヨシイの道具よ』
即答だった。強い意志を秘めた瞳がこちら見ている。
『人知れず暗躍していたカルドウスとその一派が地脈の暴走と転移者の召喚を期に表へ出てきた。ラポーネもニグナウーズからも危機は去っていないわ。敵は権力をすら武器として利用している。目には目を権力には権力を持って戦うしかない。私とミナ姫がヨシイを中心に協力すれば、カルドウスの脅威に対抗する強力な手段になる。ヨシイにとって悪くない話だと思うけれど?』
「詭弁です。私達はカルドウスと戦わず逃げることだってできます。貴方は自分の利益の為にご主人様をカルドウスと戦うように誘導しているのではありませんか?」
「ファス。いいよ、僕はアナさんを信じる」
「ご主人様……」
この人は自由奔放で何を考えているかわからない人だけど。少なくとも砂漠の職人の為に尽力し、民の為の政治ができる人だ。そして……意外と不器用な人だとも思う。
「アナさん。僕は政治はわかりません。手段とか言われてもピンとこない。でも、貴女が砂漠で言ってくれたことは覚えています。【転移者】でも【スキル】でもなく、僕自身に期待するって言ってくれましたよね。僕もそれでいいです。アナスタシアさん自身を僕は信じます。そっちが困っているなら協力するし、僕等が困った時は助けれくれればいい。この方がずっとシンプルだし納得できる。ミナ姫だってそうだ。友達の為に命を懸けた彼女だから力を貸したいと思った。僕にとって利害関係なんてそんなもんです」
今度はアナさんがポカンと口をあける。横でミナ姫がクスクスと笑い始める。
「……人が良すぎですわ。ここまで感情を先に出されると、施政者としてはどうすれば良いのかわからなくなりますの」
『そうね……ちょっと予想外だったわ。まさか、一国の王族相手に肩書きよりも相手そのものを信じるなんて言われるとは思わなかった……私としたことが一本取られたわね。やるじゃない流石私の直参』
「ご主人様がそうおっしゃるのならば、私達はその意思を支えるだけです。ただ、もしご主人様の信頼を裏切るようなことがあれば私は貴方を許しません」
「真也君は権謀術策を練るタイプじゃないもんね」
「実際、損得を考えるよりもそっちの方がわかりやすいべ」
「ふん、いつか足元をすくわれない様にすることだな」
ファスも落ち着いてくれたようで横に座り直してくれた。
『ヨシイがそう言うなら協力してもらうわ。じゃあ、さっさと話を纏めるわね。今回の事件でカルドウスが勇者を使おうとしたように、私達もヨシイを英雄として旗頭に据える。ミナ姫が王位継承権を盤石にする論功行賞の儀にタイミングを合わせてラポーネ国でもカルドウスについての脅威を発表するわ。二国でカルドウスの悪事についてのことを発表することでカルドウスに協力する権力者に対する牽制をする。国内外問わず、潜んでいるカルドウスの支持者は動きづらくなるでしょうね』
なんやかんや言っていたが、やりたいことはそう言う事らしい。まぁ、この件に関しては了承していたようなものだし、詩で歌いあげられるのはアレだけど別にいいと思う。ファスも僕の名誉とか気にしていたし。
「構いませんわ。元より、シンヤ殿は此度の戦の英雄として国中に知らしめるつもりでしたから。レイトもそれでいいですよね」
「もちろんです姉様。戦場に出た森の民はすでにシンヤ殿一行を英雄視しているからね。表向きの依頼主であるイワクラ家の影響力を強められるだろう。そうすれば、伯父上の一派だった貴族達はそうとう肩身が狭いだろうね。国内が混乱している現状を逆手にとって新しい価値観を広める良い機会にしましょう」
「その分、立場を追われかねん貴族達も必死だ。暗殺くらいは平気で手段として使ってくるだろうな。やることは山のようにあるぞ」
王子とナルミもミナ姫の言葉に強く同意し、アナさんがその様子を見て満足そうに頷く。
『細かい発表の予定については、レイト王子に定期の連絡で伝えるわ。後は……私もそろそろカジノの胴元じゃなくて第三王女としての立ち場を取り戻さなきゃね』
アナさんは第二王女に無実の罪を負わされてグランドマロへ逃げ延びていたはずだ。
「大丈夫ですか? 砂賊の戦いもそうだし、大変そうですけど?」
『ニヒヒっ、心配してくれてるの? グランドマロから商人達に色々働きかけてやっと準備が整った所よ。砂海から王都への交流の要所である町をマルマーシュ姉様が抑えているから。王都での借りを熨斗つけて返そうと思うの。国内の争いに冒険者は介入できないから。これから砂賊を交渉して一緒に乗り込むわ。そっちの論功行賞までに要所を抑えて、分断された私の協力者との繋がりを復活させる……間に合わせて見せるわ』
獰猛な笑みが蘇る。砂漠の賊を従えて街に乗り込むとか……めちゃくちゃなことやってるな。
「まっ、アナさんがやられっぱなしだとは思っていませんでした。気を付けてください」
『ありがとう。じゃ、一旦切るわね。……あっそうだ。ヨシイ、それとファス達に伝えておくわね』
「ん?」
「なんでしょうか?」
唐突に話を振られたファス達と顔を合わせる。鏡の向こうのアナさんが背中を見せてメイド服をはだけさせる。何やってんだこの人!? と思っていたら、背中に奴隷紋が浮かび上がる。それはファス達にもある見慣れた僕の奴隷紋だった。
『奴隷としての【スキル】も今から解禁しておくわね。ご機嫌よう、ご主人様』
最後に振り返り唖然とする僕等にゾッとするほど艶やかな表情でそう言って姿鏡から映像が消える。
「え? なんで?……」
「ご主人様!? いつの間にアナ姫を奴隷にしたのですか、こういうことをする時は一番奴隷の私に相談をしてください……」
涙目でファスが寄ってきて、肩を掴み揺さぶる。
「いや、本気で知らない。してないって、僕も今知ったんだって!!」
「旦那様、これで二国の姫を奴隷に落としているだか……生まれが王族のファスも含めると三人。カルドウスよりもやばいんでねぇのけ」
「なんなら聖女である私も奴隷にしているという事実。真也君、本気で世界の覇権とれそうだね」
サムズアップする叶さんを見て頭痛がしてきた。
「なんでこんなことに……」
知らない間に、凄い権力を手に入れてしまいそうになってるんだけど!! どうしてこうなった!!
(ボク、アナのこと、シッテタ)
「そうなのですかフクちゃん!」
(ナントナク)
フクちゃんはアナさんが奴隷になったことを感覚で理解していたらしい。教えてくれよ……。
こうして、アナさんとの予想外の再会は終わったのだった。
もう少しだけ、ニグナウーズでのことを書いて間章に行きたいと思います。
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけたことが嬉しいです。
感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






