第四百十話:ダンジョンの攻略法
「……つまり、旦那様は存在があやふやな料理を食べて、不明瞭な感覚である直感が目覚めたっていいたいのけ?」
枯れ葉を踏む音と通路の向こう側から微かに吹いてくる風のを感じながら、トレントが隠していた通路を進んでいく。先程のことを説明したのだが、トアは半信半疑のようだ。
「そうとしか考えられないんだよな。こうしている今も周囲の気配とか、今まで特に感じられなかった部分がわかるような気がするし」
「私もそう思う。真也君と違って魔力的な感覚だけど、確実に変わっているね」
「直感や第六感。それに類する感覚がトアの料理を食べて未知への味覚を通じて目覚めた……納得できる話だと思います。なんとなくですが、私の場合は木々の特徴というかそういった感覚が変わった気がしますね。エルフとしての直感……ということなのでしょうか? もっとあの料理を食べれば明確になるかもしれません」
ファスと叶さんも僕に同意してくれた。何せ感覚的なもので確たる証拠を示せないが、確実に僕等に変化はあったのだ。
「フクちゃんはどうだ? 何か変わったか?」
ファスの頭に乗っているフクちゃんに話しかけると、ピョンと飛び降りて少女の姿になった。
「んー、わかんない。ちょっと、わかること多くなった……気がする」
目を細めて悩むフクちゃんが可愛いのでとりあえず頭を撫でておこう。
「私は変わりはないぞ。お前等の話を聞くに、恐らく感覚が拡張されることに拒否反応がでたのだろう」
「そんなら、オラも変わりを感じねぇべ。鼻もいつも通りだし、お化け食材も見えるけんどそれ以外はなんもかわんねぇな。……いや、う~ん。もしかして……」
そう言った身をかがめてお化け食材を手に取る。それまで見えなかったキノコが浮かび上がってくるのだが、何回見ても不思議な光景だな。トアはジッとキノコを見つめ、さらにアイテムボックスから薬草らしいものも取り出して匂いを嗅ぐ。
「なんとなく、さっきよりも食材の仕込み方が直感でわかるだ。お化け食材以外の普通の食材もどう調理したらどんな味になるかなんとなくわかるだな。料理人としての勘が広がったみてぇだな。戦闘には役に立たねぇけんども……」
「何言ってんだ。それ凄い能力じゃないか、これでお化け食材も消すことなく仕込みできるだろうし、これから冒険で変な食材見つけても美味しく食べられるんだろ? 最高だと思うぞ。トアの料理が楽しみだ」
料理人としてこれ以上ない利点だ。それなのにトアは僕をみて意外そうに口をつぐみ、プイっと前を向いた。その表情は見えないけど尻尾はぶんぶん振られている。
「はぁ、これだから真也君は……スケコマシ」
「流石ご主人様です。でも、一番奴隷は私ですよ」
「叶、ファス、変なこと言わずにさっさと先行くだよっ!」
「はいはーい」
トアは自分に自信が無さ過ぎだよな。もっと褒めてやろうではないか。
「マスターの方が自信無い」
「うっ” フクちゃん、心読むの止めて」
枯れ葉を蹴飛ばしながらのフクちゃんの一言が刺さる。なんで僕の考えていることがわかったんだ。
「お前等、緊張感がないぞ……風が強くなってきたな。そろそろ通路が終わりそうだ」
ナルミが弓を持って警戒の姿勢をとる。確かに、もし敵がいるなら待ち伏せしやすい地形だろう。
「開けた場所のようですが……何かいるようです」
ファスが何かを見つけたようだ。
「僕が先に出る」
ここはダンジョンだ。何が起きても不思議ではない。
警戒しつつ、通路から出て周囲を見渡してみる。開けた場所はかなり広く数十本の枯れた柳が枝を垂らし地面に食い込んでいた。その陰に身長が一メートル前後の素早い何かがいた。金属同士をすり合わせたような耳障りな音もするな。そして……これまでなんとなくだった殺気をしっかりと感じることができる。やはり、直観的な部分が鋭くなっているようだ。
「【竜の威嚇】で引き付けるっ!」
敵に反応があり陰から魔物が飛び出してきた。見た目は全身トゲトゲの黄褐色のカマキリだ。
牙も大きく、一斉に羽を広げてきた。うわぁ、キモい。
「バフ撒くよ【星光竜鱗】」
「おわぁ……なんだべここ。って今はそれどころじゃねぇか。虫みたいなのがいるだ!」
「わぁ、カマキリ! カマキリだよっ! かっこいいよ!」
叶さんが両手を上げて興奮していた。一応戦闘時なので、気を付けて欲しい。
「リグマンティスだっ! 両腕の鎌に気を付けろっ! 【連打】」
ナルミが放った矢の牽制を乗り越えてマンティスが距離を詰めてくる。
羽が高速で動き、移動もやたら速い。
「シッ!」
【手刀】で切りかかるが、躱される。反撃の鎌を手甲で受けて【掴む】で固定。貫手で一体を倒し、後衛を庇いながら前に出て敵の注意を集める。敵は6……いや隠れているのもいるな。8体だ。手が足りない。
「旦那様っ!【飛竜斧】っ!」
背後から風を纏う二本の斧が飛んでくる。すれすれ飛んでくる斧が周囲のマンティスを切り裂く。
空いたスペースから体をねじ込んで他のマンティスをまとめて殴って叩き落とす。隠れているマンティスについて後ろに伝えようとするが、ファスとフクちゃんが見逃すはずも無く糸と地面から生えてきた根っこに絡めとられ絶命していた。
「制圧しました。他に敵影はありません。……この本による魔術は一手遅いようですね」
ファスがパタンと本を閉じる。どうやら魔本を試したようだ。あの本めっちゃ凶悪なんだろうけど、ファスほどの魔術士になると普通に戦った方が強いのかもしれない。
「リグマンティスがいると言うことは……モルトマンティスもいるだろうな。ダンジョンマスターとして出現したこともある上位の魔物だ」
「なら、ここはダンジョンの奥に近いかもしれないな」
「皆。ちょっと、いいだか? この広間に入った時からビックリしていたけんども、枯れ柳が変なんだ」
トアが斧を腰に着けながら地面に垂らしている枯れ柳の枝に触れる。その瞬間、僕等の目に青々しい柳の葉が出現した。
「うわっ、枯れるどころかめっちゃ茂ってる」
「トアが触れて現れたということは、食材……なのでしょうか?」
「へぇ……なるほど。どうしてこんな場所のドロップがレシピとかなのか気になっていたけど、もしかしてこの【枯れ葉洞窟】っていうダンジョンは……料理人が必要なダンジョンなのかも」
(マズソウ)
叶さんが興味深そうに枝に近づき。トアは枝がめり込んでいる地面をじっと見ていた。
「なるほど、トアが触ってくれたおかげでわかりました。この枝はダンジョンから栄養を集めて、奥へ送っていくようです。つまり深部に行けば行くほどダンジョン中の栄養が集まっているのです。ただ、その栄養の表出がお化け食材のような普通には見えない食材なので、通常ではどこまで行っても枯れ野が続いているように見えるのでしょう。【精霊のブロス】がその栄養の集まりの頂点だとしたら、霊薬と呼ばれるその効能にも納得がいきます」
「……水晶の書庫にそんな知識はないな。高レベル、もしくは特殊なスキルを持った料理人がいて初めてわかる仕組みだとは……そもそも、料理人はダンジョンに潜らないからな」
「つまり、柳の葉やお化け食材が多くある場所に……ダンジョンマスターがいて、そこにブロスもあるわけだ。このダンジョンの攻略法がわかったぞ。でかしたトア」
「た、たいしたことしてねぇだよ」
早速褒めてみます。トアは口をモゴモゴ動かしながら照れていた。えっ、普段あんまり見ない感じ。
めっちゃ可愛い。
「多分、これ正規ルートじゃなくて裏ルートだよね…」
「よくわかんねぇけど。とりあえずオラの直感では、この枯れ柳の葉はお茶にできるべ……飲んでみるだか?」
トアの提案にナルミ以外の全員が手を挙げたのだった。
今日のお昼より、続刊の情報解禁の許可が降りそうなので、夜には活動報告にてお伝えできそうです!!
追記:情報解禁されました。イラストも含め活動報告にて告知しておりますので見ていただければ嬉しいです!!
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