第三百九十八話:VSトレント
不思議なもんだ。こういう時は、不思議とタイミングがわかる。
木々が組み合ってミシミシという音、誰かの呼吸音。
腰落として手刀を構える。微かな空気の揺らぎが産毛を揺らした。
「来ただっ!」
「爆発しました。10秒後に突撃です」
「合図をくれ」
「バフを撒くね【星光竜鱗】【星守竜歌】【星女神の竜舞】」
叶さんから青白い光が降り注ぎ、意識が研ぎ澄まされる。
意識を集中させる10秒の時間。
「今ですっ!」
ファスの声と同時に足先に力を込めて腰を回し手刀を振る。
「【ツルハシ】っ!」
白い壁に手刀を叩き込む。白い火花が洞窟に舞う。
手ごたえはあるが、結界は健在。【ツルハシ】は二度目でより深く刺さり、切り裂く。
「もう一発! 【ツルハシ】っ!」
二度目の【ツルハシ】は【浸蝕】の効果を乗せて白壁にヒビを走らせる。
「結界が壊れました! もう少しです!」
右手刀を振り切った体勢から、体を起き上がらせるように左鉤突きで拳を叩き込む。
壁が壊れる。中は倉庫のようで水甕と乾燥した食料や薬草が並べられているようだ。
「突入するぞっ!」
「結界が消えて中が確認できました。一つ上の奥の部屋に人影が見えます! 敵がこちらに来ています!」
爆発を無視して、こちらに向かってきたのだろう。
「足場を作って天井を壊すだ!」
「【氷華:アヤメ】【氷華:ホウセンカ】」
氷の杭が足場になり、氷弾が天井を破壊する。
「先に行くっ!」
【空渡り】で飛び上がって一つ上の階にいくと、入り口の扉が派手に破壊されて土埃が待っていた。ファスが示した方向を背に【竜の威嚇】を発動。飛んでくる槍や矢を叩き落とす。いや、もう暗殺とかいうレベルじゃないな。普通に謀反だろこれ。
「僕が敵を相手する。皆は王様の方へ行け!」
「了解しただ!」
「ここは任せますご主人様」
「トアさん、もっとゆっくり! ぬわぁああああですわあああああ」
「先に行ってるね真也君。……うっぷ」
トアが【空渡り】で足場を蹴りながら上がって来る。両手には叶さんとミーアを掴み、ファスも【空渡り】と【重力域】で浮かび上がっている。体を軽くしてトアが引っ張っているのだろう。
追加で飛んでくる矢を叩き落とすと、土埃の向こう側から黒衣のリザードマン……魔物化したエルフが突撃してくる。
「ギィアアアアアアアアアアア」
「紫鱗種とどっちが強いかな?」
中段の構えから短刀取り小手返しで手首を極めて投げ、二体目は四方投げで別の敵に投げつける。
敵が重なったところで送り突きから貫手を合わせて二体のリザードマンの心臓を抉る。
……武器の扱いは本物のリザードマンよりも上だけど、それ以外は別に怖くないな。なによりも本家のリザードマン達にあった、自分が死んでも突撃してくるような圧力がない。
「今だ、毒を流せっ!」
しわがれた声と同時に何かが投げられ同時に煙があがる。毒か。
叶さんのバフが反応して鱗のような光の粒子が煙を退けていた。……こんな効果あったのか。知らなかった。
突っ込むこともできるが、今は王様を守るために防御に徹する。毒でも矢でもなんでもくればいい。
強く地面を踏みしめて【竜の威嚇】を強める。黒衣のリザードマンが10体、そして魔物化しておらず弓を構えるエルフが8人、その後ろから薄い緑色の瞳を持つ白髪のエルフが前に出てくる。和装から見える地肌には痛々しい黒い痣が浮かんでいた。
「毒も効かんか……まっこと、カルドウス様の言う通りであった。青白の鱗を纏う人の形をした竜……竜王の呪いこそがこの国を根から腐らせる元凶……貴様こそがその証左だ人族よ」
痣が蠢き、その顔を闇に染める。
「なんのことだ?」
「貴様こそが呪い。王の罪、そして……ぐっ、まだ恩寵が……痛み止めを……」
痣から闇が液体の様に垂れて血の様に地面に落ちていく。懐から出した丸薬を口に含み入っていた瓶を投げ捨てると、片腕をあげて僕に向ける。
「呪い? どういう意味だ?」
「クックック……私が王だ。そうであろう? お前達、カルドウス様の宝玉を与える」
闇が集まり玉になり、リザードマンと後ろのエルフの胸に埋め込まれる。
……どうやら第二ラウンドのようだ。
「時間さえあれば私自らが出たものを……いけ」
リザードマンとエルフ達から触手が……いや、あれは。
「木の枝?」
エルフとリザードマンの顔があつまり木目を持つ。そのまま一体の巨木へと変身して建物を破壊しながら。成長していく、その姿はもはや生き物とは思えない。前に見たトレントをより歪にしたものがそこにあった。
「……王様を襲っているのがわかったら不味いんじゃないのか? 目立ちすぎだろ」
「王を襲ったのは、人族に騙された姫となる。王が死んだ後に私はゆっくりと姿を現すことにしよう。さらばだ竜の後継。……フィオーナ……憐れな君よ。復讐はもうすぐだ……」
「待てっ!」
王弟と思われるエルフは地面に染み込むように消える。ちっ、捕まえたかったな。
残されたトレントは幹に埋められた複数の顔からうめき声を出しながら枝を伸ばす。尖った枝が発射され、躱す前に氷の壁がそれを弾いた。
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「ごめん、王弟に逃げられた。王様は無事か?」
「生きています。呪いで弱り切っていますが叶がスキルで解呪を始め、トアとギルドマスターがフクちゃんの生成する薬や毒を使って一緒にポーション作っています」
「それなら、僕等はこっちを片付けるか」
構え直し、魔物化したトレントを睨みつける。
「はい、すぐに終わらせましょう」
ファスがロッドを構え、氷の華が周囲に咲き誇る。
「ギース・グラヴォが弟子、吉井 真也。推して参る」
「一番奴隷。氷華の魔女、ファスがお供いたします」
僕等の宣言を聞いたトレントは枝が伸ばし、触手のように動き始める。
合図はなく、ファスが氷弾を飛ばすタイミングに合わせて僕は飛び出した。
中ボス戦です!!
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