第三百九十二話:仮拠点
腕の中で震えるファスが顔を上げて、離れた場所をジッと見る。
「ファス?」
「行きましょうご主人様。……私達にはやるべきことがあるはずです。私の答えもその先にあると思います」
涙で揺れるその瞳はそれでもその光を失わない。より強く、意志を湛えている。僕が慰めるよりも先にファスは立ち上がり先に進もうとしていた。それなら、僕がすることは一つ。
「あぁ、王様を助けてファスや呪いのことを調べてもらおう」
「はいっ」
振り返ると、困惑した表情のミナ姫がファスに話しかける。
「……竜の呪いを持ったエルフがこんな所で生まれて、翠眼が国外に連れだされる……この場所は……エルフの王族が治療や療養に使う場所ですわ。無関係とは思えませんの、私の継承権が保証されればきっとファスさんの出生を明らかにします」
「当然です。もともとそれが報酬ですから……それとご主人様、トア達がさきほどから戦闘をしています」
「えっ? マジか?」
すぐに糸の指輪から【念話】を飛ばす。手ごたえがあった、どうやらフクちゃんのスキル圏内のようだ。
(フクちゃん、ファスがそっちが戦闘しているって言っているけど、大丈夫か?)
(問題ない。一人、捕まえる、後で、合流)
(旦那様も、到着したべか。手練れだけんども問題は無いべ。こいつらに加えて適当に衛兵の注意も惹くから、今のうちに王様がいる場所を探るだ)
(穴掘りを始める場所も見つけて、場所は後で【念話】で送ってね。話したいことはたくさんあるけど、あんまり【念話】を使うと虫が反応するからこの辺で、後でね)
そう言って【念話】が中断される。叶さん、めっちゃ楽しそうだったな。
「そういうことらしいから早く探し始めよう。とりあえず大きい建物を探せばいいかな? あの正面の煙突の建物とか」
「警備の手厚い資料館か調剤所が怪しいですわね」
「近い場所から順に探します。結界が張られた場所が複数あるので、近づいて見ることができればある程度中の様子がわかります」
怪しそうな場所を探して、ギルドの敷地内の目ぼしい建物を片っ端から探す。結界が張られて見通せない建物を見つけるとファスが近づき覗くように見つめる。
「ここは違います。薬に関する図書の樹の本が置かれていますね」
「次はあっちを探すか」
「建物が多すぎですわ……」
そうして、探していくうちに意外なほど小さな一つの建物の前でファスが立ち止まる。それは煙突も無い、ドーム状の資材置き場のような質素な作りの建物だった。
「……ここは、強い結界が張ってあります。地下に通路がありますね」
ファスが両手を付けて壁に顔を近づける。そして、バッと顔を離してこっちを振り返る。
「ここです! 明らかに結界の種類が違います。ここに繋がるように通路を掘りましょう」
「わかった。まずはここを離れて拠点になるような場所を探すぞ」
「はい、少し離れた場所にちょうど良さそうな林があるので、そこを目指しましょう」
「ここに、お父様が……必ず助けますわっ!」
ファスとミナ姫を抱えて一度離れる。薬師ギルドから数百メートルほど離れた場所にある小さな林に到着する。地面が隆起していて、身を隠すには持ってこいの場所だ。ファスは、ネムさんからもらった虫を操る薬とその使い方が書かれた巻物を読みながら拠点にできそうな樹を探している。
「表皮が厚く固い……この樹が良さそうです。ご主人様、この樹の内部を砕くことはできますか?」
「任せろっ!」
ファスが示した樹は幹の直径が七、八メートルはありそうな太い木だった。
腰を落とし、呼吸を整え集中し【ふんばり】で地面を踏みしめる。
「ハラワタ打ちっ!」
内部を砕く、渾身の一打。
「じ、地面が揺れましたの」
「完璧ですご主人様。【氷弾】」
ファスが氷の弾を打ち出すと、表面が割れて、中から砕けた木クズが出てくる。
「いい感じだな。待っててくれ、すぐに整えるよ」
【掴む】で木クズを広範囲に持ち上げて遠くに投げる。繰り返すことで内部になんとか人が入れそうな空洞ができた。
「入り口は虫の秘術で隠しましょう」
ファスがネムさんから渡された瓶を入り口に掛けると、枝が絡み合った地面から小さな虫が集まってきて、程なくして入り口が隠される。正直、ちょっと気持ち悪い。
「とりあえず、ここを仮拠点にするか」
「トア達にこの場所を知らせましょう。虫の反応で場所がバレないように、離れた位置から【念話】を飛ばします」
【念話】で場所を伝えてしばらく立つと、巨蜘蛛モードのフクちゃんに乗せられたトアと叶さんがやって来た。覆面の上から糸でグルグル巻きにされた捕虜も一名連れているようだ。当たり前のように掴まえているあたり恐ろしいぜ。
(オマタセ)
「いやぁ、わりと大変だったべ」
「あー、楽しかった」
「無事でよかった。……その捕虜はどうするの?」
「「「尋問」」」
ですよねー。とりあえず捕虜に【鈍麻】の呪いを掛けておく。完全に意識を失っているようだ。
内部をくり抜いた巨木の中に入ると叶さんが光球を浮かべてくれた。子蜘蛛状態になったフクちゃんはさっそく糸を張って、内部を補強してくれている。
「おぉ、凄い。ここなら簡単にバレることはないね」
「仮拠点にこの人連れてきて大丈夫かな?」
目隠しに顔も糸でグルグル巻きにされているとはいえ、普通に入れてしまったけど大丈夫かな? 見た所は完全に気を失っているようだけど。
「フクちゃんの毒で前後不覚にさせているし、真也君の呪いもあれば自分が何されているかもわからないと思うよ。それに色々収穫もあったからね。手持ちの装備も良く調べたかったんだ」
(ドク、イッパイ、モッテル)
「薬師ギルドにいた追手だけあって、持っていた毒の種類が豊富だったべ、フクちゃんが相手の毒の再現をできるから、後でオラ達に毒を注入してもらって叶の解毒を繰り返すことで耐性をつけとくだ。もちろん念のための解毒薬もフクちゃんが作れるべ」
「……相手が毒を使えばすぐにフクちゃんが学習しますからね。毒に長けた敵から得る物は多そうです」
(エッヘン)
なにそのシステム怖っ。淡々と攻略を進める女性陣に内心恐怖する。ちなみに、ミナ姫は途中から、隅っこで体育座りをしながら震えていた。
「まずは、情報共有しないとね。その後、この人から情報を聞き出そう」
ニタリと笑みを浮かべる叶さんを見て捕虜となった敵に同情してしまいそうだ。
更新頻度をあげられなくてすみません。近々、良い発表ができそうです。
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