第三百五十二話:巨蝶の思惑
氷弾に糸を巻き付けて、体を固定し巨大な毒蝶『ミルダ』の元へと飛ぶ。風を受けて、氷弾の勢いが衰えたタイミングで【空渡り】を発動して宙を蹴ってさらに上昇。糸を空間に固定できるフクちゃんの【空渡り】で僕の【空渡り】が途切れるタイミングで足場を作りさらに上に昇る。ファスは僕が背負い、糸で固定している。
打ち上げられた時のまま少女姿のフクちゃんが宙に張る糸が命綱だ。
地上からじゃわからなかったけど、『ミルダ』はかなり高い位置を飛んでいるようだ。
……少し冷えるな。
「ファス、しっかり掴まってろっ! 毒鱗粉の影響を感じたらすぐに言ってくれ」
背負ったファスに声を掛けると、強く抱き返してくれる。
「はいっ、ご主人様。……蝶の群れが風に乗って……」
「マスター、下」
風ではためくマントを抑えてゴーグル越しに下を見ると螺旋状に蝶と花びらが舞い上がり僕等の高度まで追いつく。明らかに異常な挙動だ。
「ファス大丈夫か。凄いぞこれはっ!」
「はいっ、綺麗です……」
横を見れば大森林が見え、上を見れば巨蝶の影、周囲には花と蝶、嵐のような暴風の中ただ上を目指す。こんな状況なのに感動してしまう。それほどにこの空の景色は刺激的だった。
……とはいっても現状、この風じゃあ近づくのは難しいぞ。
(マスター、道ができたよ)
暴風で声が聞こえづらい為にフクちゃんから【念話】が飛んでくる。
「道? どこに?」
「ご主人様、『ミルダ』からの誘いです。毒蝶達が風と風の隙間に入り込んでいます」
ファスが指さした先では暴風から身を守ろうと蝶達の一部が風から逃れた場所を飛んでいる。なるほど、あれを目印にすれば風の流れが穏やかな場所がわかる。
(フクちゃん、糸を蝶達に沿うように固定してくれ)
(イエス、マスター)
蝶達を目印に風が比較的弱い場所を飛んでいく、無論風は強いが力尽くで上に登る。
『ミルダ』との距離を数十メートルまで詰めた時に、蝶の道がどこへ続いているのかがわかった。
「おいおい」
「行くしかないようですね。ここに来てやっとわかったのですが『ミルダ』は風……大気を操る【スキル】を持っているようです」
「アイツ、強い」
蝶の道は羽根の付け根、胴体の部分に続いていた。背中に乗れってか?
風の方から道を空けるように、巨蝶の上に着地した。背中部分はモフモフ毛が生えていて、紫の絨毯のようだ。毒鱗粉も別に影響はないな。
糸を解いてファスを背中から降ろす。蝶と言うのは羽ばたきながら激しく上下していると思っていたのだが、特にそんな感じも無く静かな場所だった。台風の目というのはこんな感じなのだろうか?
「さて、来たはいいものの、どうやって意思疎通を取ろうかな?」
「フクちゃんだけが頼りですね」
(がんばる、でもコイツ、頭悪そう。もしもーし)
フクちゃんがピョンと着地する。
「答えくれればいいけど……」
「先程の蝶の道といい、『ミルダ』が私達を意識していることは明白です。状況を打開するヒントはありそうですが……」
(お返事きたよー)
「おっ、マジか」
「やはり、反応はありましたか。なんと言っているのです?」
(あんまり話できない。竜の王様と星の女神の約束とか言ってる)
「「……」」
ファスと顔を見合わせる。
「トレントが言っていたことに似ています」
「竜と女神の約定か。なんか、ファスが祝福で僕が呪いとか言ってたな」
「騙したとも言っていましたね。それで、『ミルダ』は私達に何を求めているのでしょう?」
(うーんと、わたしたいだって)
「渡したい? 一体何を?」
フクちゃんが答える前に、ぐらりと地面っというか『ミルダ』の背中が傾く。
「おっとファス、掴まれ」
「はい」
踏ん張りで体を固定する、『ミルダ』が体を旋回させたのだ。
「移動してくれるなら助かるけど……これってもしかして」
「……『小道』に入ろうとしています」
それは不味い、今は下手に移動している場合じゃ……。
飛び降りることを考える前に視界が歪み、周囲の景色が暗転した。
当然毒鱗粉は飛び交っているので、一般人ですと即死です。
フェルスドラゴン様より、レビューをいただきました!
物語のいろんな「ここがいい」を紹介してくださっているので是非、読んでください!
本当にありがとうございます。
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけたことが嬉しいです。感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






