閑話22:竜の後継を殺す為に④
焼け焦げ、半壊した王弟の屋敷。ミナ姫からの要請により、虫手紙を受け取ったエルフの兵が調査を行う前の話。真也達が宙野達【転移者】を移送するために離れてすぐ、巨人族とエルフの男二人組の『森賊』が火事場泥棒をしようと屋敷を漁っていた。
「おい、なんかあったか?」
「何かって? 最高だぜ、調度品がそのままだ。こりゃあ金になる」
短髪で複数のピアスをしたエルフの呼びかけに、無精髭で顔に傷のある巨人族が壁を壊しながら機嫌よく答える。
「運がいいぜ、戦場の死体漁りの帰りにこんな宝の山に恵まれるなんてな」
「ゲヘヘ。それにしても、何があったんだろうな? ここは貴族の屋敷だろ、どうして誰もいないんだ? それに……変な匂いがするな?」
「へっ、貴族様はお薬でも決めてたんだろ。おっと、そこの奥の扉を壊してくれ」
「はいよ」
巨人族が木を削っただけの簡素なこん棒で、意味も無く扉を壊すと一室には異様な物が置かれていた。
「……臭ぇ、なんだ? おい、花粉除けのマスクをしろ。毒かも知れない」
「こりゃあ……鉄と……何か混ざったような? 何だあれ?」
パンパンに膨らんだハムのような太い肉の塊が脈動していた。卵の様にも見える。
それは、真也が切り落としたセルペンティヌの尻尾が変化したものだった。
「生きてんのか?」
「おいやめとけ」
巨人族が近づくと、尻尾が裂けて一メートルほどの赤い蛇が飛び出して首に噛みつく。
「ぐぇ! し、痺れ……」
「おい、クソっ!」
エルフが弓を構えるが、蛇は体を捻る形で肉を抉りながら牙を抜き、エルフに向かって毒霧を吐く。
「がぁ……」
毒で動けなくなった二人を前に、大口を開けて蛇は噛みついた。
ほどなくして二人を消化し、少女の姿になったセルペンティヌがエルフの衣服を奪って纏う。自身の体を確認し、怒りに身を震わせた。
「……おのれ、ほとんどの力を喰われた。蜘蛛の分際で……【脱皮】を使う羽目になるとは……」
真也とフクの二体を相手にしたセルペンティヌは命を奪われる前に、【変わり身】【尻尾切り】そしてフクが簒奪できなかった【脱皮】といった【スキル】を駆使して本体を切除した尻尾に移し、生きながらえていた。
しかし、その代償は大きい。百年以上かけて育てた体はフクに喰われ、残った身体も真也達に解体されるだろう。今の自分は魔王種を名乗ることすらできないだろう。
満身創痍の体を引きずり屋敷から離れる。森に入り、数時間かけて歩き、巨大な倒木の前で立ち止まった。
「……カルドウス様にこの姿を見られるわけにはいかない。出てこい!」
セルペンティヌの呼び声に応じて、二匹の大蛇が倒木から這い出る。
少女の姿でセルペンティヌは二匹の大蛇に目を合わせる。この二匹は客車を護衛した後は、屋敷から離れて情報を収集するように指示をされていた。
「私が倒れた後のことを教えなさい」
二股の舌が伸び、蛇がセルペンティヌに自分達の情報を伝える。
「……【勇者】達は連れて行かれたか、【竜の武具】は暴発したと……あの【竜の後継】には【竜殺しの鎖】だけでは足りないかもしれない……使うか……吐き出しなさい」
大蛇がそれぞれ、のたうち回りながらゆっくりと口から黒い球をいくつか吐き出す。
粘液にまみれたその宝玉をセルペンティヌは一つ拾い上げる。
「カルドウス様の宝玉……これを使えば、死体を魔物化して操れる……捕まっていない【転移者】を殺して、【竜の武具】を使える状態にまで強化する。内通者の助けが必要ね……まずは情報を集めましょう。もし、運が良ければ……奴らは私の言葉から王を治療しに【ビオテコ】へ向かう。何年もかかった策が一つダメになるが【竜の後継】を殺せるならおつりが来るわ」
二匹の大蛇を連れてセルペンティヌは森の奥へ姿を隠す。
まずは、逃げ出した【転移者】と接触する必要があった。セルペンティヌが焦っている理由は己の失態をカルドウスに知られたくないだけではない。
「あいつは……やばい。女神の道は違えたはずなのに……【竜の後継】……」
一度対峙して確信した。【勇者】よりも真にカルドウス様にとって危険な存在となりえる化け物。
今のうちに殺さなければ、最悪の事態になりかねない。
「私が……あいつを殺す」
少女の姿のままに殺意を漲らせ、毒婦は策を巡らせる。
yuki様よりレビューをいただきました!! 竹を割ったようなQ&Aのレビューがとても気持ち良いです。是非お読みください!!
次回より新章に入ります。よろしくお願いします。
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけたことが嬉しいです。感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






