第三百四十五話:旅立ちの挨拶
客車を牽いての移動なので、想像よりも移動はゆっくりだ。少し早歩き程度なので会話する余裕もある。あまり揺れないようで乗り物酔いに弱い叶さんもまだ平気そうだ。騎乗蜥蜴に乗るファスに話しかける。
「まず、鉱山砦に寄っていくんだよな?」
「そのはずです。この速度なら昼前には砦に到着するでしょう」
走ればもっと早く到着できるが、この速度ならそんなもんか。
「そっか、モグ太に別れの挨拶ができるな」
この戦いの中でモグ太に何度助けられたわからない。教わった事もたくさんある。
「私たちはお友達ですからね」
反対側でミナ姫が胸を張っていた。こちらも蜥蜴に乗っており、ナルミと二人乗りだ。
「ミーナあまり動くな。それにお前、メイド服で尻は痛くならないのか?」
確かにミナ姫の服装は長めのゆったりとしたスカートとは言え、明らかに騎乗する服装ではない。
「最高級のマットを敷いておりますから。それにスカートにも付与をかけていますの」
「そこは姫様仕様なんですね」
どうやら高級仕様のようだ。そんな会話をしながら、森を横目に平地を進んでいく。
旅団もそれなりに見られるようになっているし【結晶竜】のせいで滞っていた交易が活発になっているようだ。
日が高くなってくると、過ごしやすい温度になり風が心地よい。砂漠の旅よりずっと楽そうだ。
「見えましたわ!」
特に何事もなく砦に到着することができた。半分崩れた鉱山砦が日に照らされていた。
ハルカゼさんが一団に指示を出す。
「周囲を警戒しつつ、防御の陣に移行しろっ!」
客車を中心に、一団がまとまっていく。ナルミが僕等に予定を教えてくれた
「メレアが姫に変装して兵士や冒険者を遠目に労う。昼で、工事の行程の確認をする予定だ」
「それなら、僕はモーグ族達にあって来るよ」
「私も行きますわ」
「そうか、私はメレアについて砦の状況を【水晶の書庫】に記録しておく」
ミナ姫が蜥蜴から降りて、ファスと叶さんもメイドに蜥蜴を任せて歩きになる。
砦から冒険者や兵士が出て出迎えをしている一方で僕等は砦の中に入る。
内部は前に来た時に比べ、天井や壁が補強されており、人が過ごしやすいようにベッドなんかも多く運ばれていた。意外と風通しが良くて過ごしやすい。
ファスに頼んでモーグ族を見つけてもらおうと思ったが、モグ太が壁からぴょこんと顔を出して迎えてくれた。
「モグモっ!」
「モグ太」
グータッチで挨拶。ミナ姫もグータッチをしていた。
「オラは初めましてだべな」
「そっか、こっちは僕の仲間でトアだ。トアこっちはモグ太」
「モッモ」
「旦那様の三番奴隷のトアだべ。よろしくな」
トアが屈んで挨拶すると、モグ太は手を挙げて挨拶した。そして、僕とミナ姫の手を取って引っ張る。どこかに案内したいようだ。
されるがままに着いて行くと、モーグ族達が数匹、鉱石や岩を叩いて加工していた。
へぇ、器用なもんだな。
「モグモグ」
モグ太が部屋に置いてあるヘルメットを得意げに掲げる。
それは、紫色で薄く細部にまでこだわったヘルメットだった。
「へぇ、ちゃんとした造りだな」
「それは……ヴェノム・スコルピオの殻ですね。魔物の素材を加工する技術を持っているのですか」
ファスが興味深そうにヘルメットを観察する。
「そういえば、モグ太と出会った時にシンヤ殿がさしあげてましたわ」
「そういやそうだったな。どうしてこんなものを欲しがるのかと思ったけど、こんなことが出来るのか……しかもツルハシで」
どう考えても適さない工具なのだが、変な【スキル】でも持っているのだろうか。
モグ太の後ろでは白い毛が混じったいかにも老人っぽいモーグ族が、キランとサングラスを光らせて作業をしていた。手元にはヘルメットが積み上げられている。奥にはリザードマンの皮をなめしてて革の素材に加工までしていた。まさか、腹巻にでもするつもりなのだろうか?
「すごいね。知能が高いってのは見ればわかるけど、加工技術まであるんだ」
「旦那様、ちょっと思うんだけんど。旦那様の壊れた革鎧を修理できるんでねぇか?」
「モグモっ」
モグ太が反応してくれたので、アイテムボックスから無残に破れた革鎧を取り出す。モグ太に渡すと、そのまま後ろの白い毛のモーグ族に見せた。
「グモモ……グモグ」
「モグモッグ」
なんか会話しているのでフクちゃんに翻訳を頼む。
「形なら直せるけど、リザードマンよりも強い素材が欲しいって」
「それなら、剝ぎ取ったラミアの素材があります。囮とは言え、魔王種の素材と言ってよいらしいので、良いものではないでしょうか?」
「とはいってもファス、まだなめしをしてねぇべ。フクちゃん【劇薬毒生成】でなめし剤お願いできるだか?」
「余裕。砂漠で勉強した。半日でいける」
「グモモグ」
というわけで、鎧の修理をお願いすることにした。トアとフクちゃんで革をなめしてもらっている。
その間に僕とミナ姫、モグ太で別れの話をすることにした。ファスと叶さんは気を使って、作業を見ていてくれるようだ。
「今日は、砦でお仕事をして、明日の朝に出発しますの。ですから一旦お別れですわモグ太」
「モグモ……」
少し寂しそうにするモグ太をミナ姫が撫でる。
「砦の再建作業を視察しに定期的に来ますわ。論功行賞で私の立場が固まったのならモーグ族達の名誉も必ず保証いたしますわ。鉱山砦の聖獣として語り継ぎますの」
「モグ~?」
モグ太はピンと来ていないようだ。それでも嬉しそうに両手を上げる。
「モグ太、本当にありがとう。僕は……」
改めて感謝を伝えようとするが、モグ太がそれを止める。
そして拳を突き出してきた。拳を合わせ笑い合う。友達ってのはいいもんだな。
「よっし、今日はきっとトアが美味しいご飯を作ってくれるから楽しみにしとけよ」
「モグっ!」
砦の思い出話に花を咲かせると後ろからハルカゼさんがやって来た。
「姫様、お話し中の所申し訳ありませんが、砦の執務室の準備ができました。坑道のチェックはメレアではできませんので」
「チェ、ですわ。でもモーグ族のお仕事にも関係してますの。では、モグ太、シンヤ殿、ごきげんよう」
そう言ってミナさんは離れる。僕等もそろそろ戻ろうかと作業場に戻ると白髪のモーグ族が色々なサイズのツルハシで作業をしていた。周りでファス達も色々しているようだ。
「なぜ、ツルハシで? と言いたくなりますが、精緻な仕事です。とりあえず水ならばいくらでも用意できますよ。薬剤の乾燥もおまかせください」
「ムム、ボクもがんばる」
「【結晶糸】で補強できるからかなり強度あがるよね」
「めんどうくさいから、全部なめすだ。もっと大きな桶はないだか?」
なんの作業をしているのかさっぱりだが、順調なようだ。外ではまだ、メレアさんが労いを兵士達にしているようだし、僕もなんかするか。
「穴掘りとかあるなら手伝えるぞ」
「モグモング」
下の階に繋がる横穴へ行くと、周囲のモーグ族達が挨拶をしてくれた。というか皆モグ太の指示を聞いているようだ。
「おぉ、モグ太。すっかりリーダーじゃないか」
「モグっ」
フクちゃんがいないから何を言っているかわからないが、意気込みはわかる。父親を継ぐと言う意思を確かに感じるのだ。
「僕も負けてらんないな」
パーティーのリーダーとして、しっかりしないとな。そんなことを考えながら、夕ご飯の時間まで穴を掘り続ける。その夜はちょっとした宴会になり、果実酒もふるまわれた。
モーグ族達も護衛の冒険者も兵士もトアが協力して作ったご馳走に舌鼓を打ち、賑やかな夜を過ごす。
そして翌朝。徹夜で仕上げてくれた革鎧を受け取って。最後にモグ太を抱きしめる。
「僕等は友達だからな。何かあったら呼んでくれ、絶対に来るから」
「モグっ!」
拳を合わせて。モグ太と別れの挨拶をした。
※※※※※
真也と別れた後、モグ太がヘルメットをかぶり直しててモーグ族達に指示を出そうとした時。
ブゥンと音がして、紋章がモグ太が持つツルハシに浮かぶ。
「モグ?」
それは、爪と翼を組み合わせた真也の『紋』であったが、その意味を理解するものはここにいない。
『紋』はすぐに消え、モグ太は首を捻りつつも作業に戻ったのだった。
魔物によって加工される鎧……。次回を閑話にして、次章に繋ぎたいと思います。(予定は未定
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