第三百四十四話:森への旅
旅への出発の朝、いつもより早く起きて皆で準備する。
「……トア、起きろ」
まぁ、いつも通り約一名起きないんだけど。涎を出して気持ちよさそうに寝ているトアを揺すって起こす。
「わふ~、まだ、暗いべ」
「装備の最終点検をします。フクちゃんが防塵用の布を織ってくれているので、首に巻いていざとなったらマスク代わりにしましょう。もちろん砂漠仕様の防塵装備も準備します」
「大森林か……虫の魔物や植物にも注意しないとな」
ファスはエルフが好む貫頭衣にズボンを履き、靴の調子を確認していた。ローブを羽織り、フードを深くかぶっている。エルフの国にきてから見る機会が減ったが、本人的にはやはりこの姿の方が落ち着くようだ。
僕はフクちゃんが作ってくれた長袖のシャツに市場で買った革鎧と上からマントを装備する。
毒に耐性があるから動きやすさ優先の装備だ。一応ゴーグルを首から下げて、もしもの時は目を保護する予定だ。
「私もフード付きのローブだから、別に困らないんだよね。湿気対策は必要かもしれないけど」
叶さんはネズミ色のローブの上からベルトを着けてポーチを二つほどつけている。
髪はポニーテールにまとめており、冒険が楽しみでしょうがないといった様子で、装備の点検をしていた。
「……着替えたべ。ふぁぁあ」
大あくびをして犬歯を出すトアは、いつもの丈の短いジャケットにゴーグルを額に付けてフクちゃんのシャツを着ている。手斧を装備するためのベルトを腰に巻き、裾を紐で縛るタイプの丈夫そうなカーゴパンツを履いていた。靴もゴツく、しっかりと地面を踏みしめることを意識しているようだ。
「ん、マスター、みてみてー」
フクちゃんは今日はロングヘアを三つ編みにして、長手袋にミリタリー柄のメイド服という実用的なのかそうでないのかわからない服装だった。まぁ、フクちゃんは肉体強度が高いし、服装なんて自由自在だから問題ない。可愛いし、うん、可愛い。
「うん、可愛いぞフクちゃん」
「むふー」
撫でてあげると、目を細めて甘えてくれる。叶さんが後ろから抱き着こうとすると、フクちゃんは回避した。
「くぅ、昨日のぬいぐるみフクちゃんが欲しいよ」
「疲れるからヤダ」
とりあえず全員の装備が整ったな。全員が紬さん印の小さめのアイテムボックスを一つ装備しており、追加で丈夫なリュックを装備している。砂漠装備よりは通気性を高めにしている感じだな。
パンとスープの簡素な朝ごはんを済ませて、テントの撤収を皆で始めていると日が昇り始めてきた。
テントを畳んで、アイテムボックスに入れる。正直、テントを入れると容量はめちゃくちゃ圧迫されるんだよな。
「忘れ物はないな?」
「ありません。準備は万端です」
「霧がかかってるだ。今日は森の匂いが濃いべ」
「新しい冒険だねっ! 虫型の魔物が楽しみだよっ!」
「新しいワザ、試したい」
ファスがロッドをつき、トアが鼻を擦り尻尾を揺らす。叶さんが目を輝かせ、フクちゃんが無表情で不穏な事を言う。さぁ、行こうか。
朝露に濡れた道をザクザクと進み、本陣へ到着するとすでに騎乗蜥蜴が十頭近く準備され二匹の蜥蜴に引かれた客車が三台に、兵士の格好をしたメイド隊のエルフが二人ずつ直接蜥蜴に乗っていた。
「早かったなシンヤ、こちらも準備はできている……はずだったんだが、ちょっと厄介ごとでな」
女性の姿のナルミがゲンナリとした表情で寄って来た。その後ろにはなぜかメイド姿のミナ姫の姿が……えっ? なんでここにいるの?
「なんで、客車の中じゃなくてここにミナ姫がいるんですか?」
「私はミーナですわ。客車の中にメレア……姫様はいますの。私は【英雄】殿のお世話をするように仰せつかっているのです」
ムフンと鼻息を吐いて胸を張っている。……あぁ、いきなり面倒くさい。ファスがナルミを睨みつける。
「ご主人様は護衛の依頼は受けましたが……だからと言って、護衛対象が自らを危険にさらされては困ります」
「……私もそう思う。さっさと客車に入れミナ」
「ミーナですのっ! だってナルちゃんばかりズルいですわ。最近、テントでお仕事ばかりなのですから、シンヤ殿の近くで詩のネタを……遊び……楽しみたいですの!」
「ついに隠せなくなったな! 私は元々、見分を広めるのが役目だ。ええい、これまで引きこもりだったくせに急に出たがりになりおって」
「お仕事するよりずっと楽ですわ。蜥蜴にも乗れるようになりましたし、外にいますの~」
朝の内から褐色エルフとエルフの姫との口喧嘩を見せられる身にもなって欲しい。さらに後ろからハルカゼさんがやってきた。柄のない貫頭衣にズボン、上から革鎧を装備という旅用の格好だ。
「……というようなやり取りを昨晩からずっとしている。悪いが、姫様の面倒を見てくれ」
目線をそらしつつ、そんなことを言ってきた。どうしよう?
メンバーに聞いてみる。
「反対です。今、ミナ姫に何かあっては全てが瓦解します」
「オラは旦那様の判断に任せるだ」
「私は……ちょっとだけミナさん……ミーナさんの気持ちがわかるかな。危ないけれど外へ出たくなるよね」
叶さんは、ミナ姫に共感しているようだ。元の世界では優等生を、此方の世界では聖女としての振る舞いを強制されていた一面があったもんな。
だけどファスの言うことが正論だ。何かあってからじゃあ遅いんだよな。
悩んでいると、クイッと服を引っ張られる。フクちゃんが、ミナ姫を指さす。
「ダイジョブ、ボクが守る」
「フクちゃん! ありがとうございます! 聖女様も……」
「……フクちゃんが、他の人を……姫様は客車に入って安全に過ごしてください」
「さっきと言っていることが違いますわ!?」
普段フクちゃんに袖にされている叶さんが掌を返してしまった。まぁ、冗談だろうけど。
フクちゃんが言うなら、様子を見てみるか。
「わかりました。僕等に近い方が安全だとも言えますしね。ですけど危険だと判断したら指示には従ってください」
「もちろんですの。ありがとうございますわ。というわけで、私は【ビオテコ】に着くまではお付きのミーナです」
「ハァ、しょうがないか。ほら、私と一緒の蜥蜴に乗るぞ」
そう言って、二人乗り用の鞍がつけられた蜥蜴にナルミとミーナさんが乗り込む。もう一匹はハルカゼさんと別のメイドが乗るようだ。
「僕は歩きの方がいいんで、残った蜥蜴をあと二匹貸してください」
「一匹でいいべ。オラも歩きでいいだかんな。地面を歩いていた方がとっさに動けるだ」
「ボクも」
僕、トア、フクちゃんは歩きを選択。ファスと叶さんはハルカゼさんが用意してくれた蜥蜴に乗った。こうして、紆余曲折あったが王様の治療の為に【ビオテコ】へと出発したのだった。
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけたことが嬉しいです。感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






