第三百四十話:壊せたんだけど?
冒険者ギルドのテントは、ミナ姫のテントからすぐ近くにある。複数のテントがあり、外で机が並び冒険者達が活動をしている。
「活気があるなぁ」
「今は、撤収を終えた貴族達の護衛の任務が多いようですね。今回の一件で獣人や巨人族への依頼も増えているようです。後は、鉱山砦の護衛の依頼もあるようですが……B級以上ですか、手練れを集めているようですね。あれ、フクちゃん?」
(ネムイ……スコシネル)
ファスが遠目にある掲示板を読み取ってくれた。僕の視力では文字を読むのは不可能だな。
そして、ローブに隠れていたフクちゃんが眠っているようだ。珍しいな、叶さんが回復させていたはずだけど、蛇女との戦いの疲労があるのだろうか? ファスが杖をしまって布でフクちゃんを包んで両手で抱えた。赤ん坊を包んでいるようだな。
「ギルマスもあそこにいるべ」
サイゾウさんが、装飾の多い格好で指示を出しているのをトアが指さす。
「サイゾウさん。おはようございます」
「……こちらから行こうと思っていた所だ。おい、ここは任せるぞ。シンヤ殿、テントに案内しよう」
サイゾウさんがテントに案内してくれた。中は【拡張】の魔術が施されているわけでは無く、普通に狭い。地面に座る形式のようで、お茶を出されたので全員で受け取る。
「まずは、改めて【結晶竜】との戦いで勝利を収めてくれたこと、感謝いたす」
胡坐のままに手をついて礼をされる。
「頭を上げてください。依頼をこなしただけですし、僕等にとっても負けられない戦いでした」
「ファス嬢のことについて、すでにミナ姫と協力し情報を集めておる。【竜】に関係する情報ゆえに報酬の一部として、レイセンのことを伝えたが……」
「はい、確かにあの情報は僕等にとって大事な物でした。ファス、話していいか?」
「かまいませんが……すでにミナ姫から聞いているのでは?」
ファスが視線で問いかけると、サイゾウさんは頷いた。
「姫様から直接聞いたわけでは無いが、情報としてファス殿が【竜の呪い】に侵されていたことは知っていた。やはり……そうなるか」
「えぇ、ミナ姫も認めています。私に呪いを押し付けたエルフがおり、それは王族に関係する可能性が高いと」
サイゾウさんは眉間を揉んで、険しい表情になる。
「翠眼、その容姿、王族である可能性があるファス殿とその呪いを押し付けた存在。これはワシの手にはあまる問題だ。しかし、我らも冒険者だ。報酬は必ず払おう、引き続き【竜の後継】とファス殿の生まれについて調べようぞ」
「助かります。後は、ミナ姫にも話した【勇者】についてなんですけど」
「ワシとしてもそのことについて聞きたかったのだ。ナルミ嬢より情報は届けられているが、どうにも本人に聞いた方がしっくりくるでな」
と言われてので、宙野が襲ってきたところからのあらましを伝え、ここまで宙野を連れてきたことを話した。特に砦の護衛はしっかりとお願いしないとな。
「……砦の護衛に関しては、B級以上の信頼できるものに【洗脳】系対策の装備をギルドより貸し与えて護衛に当たらせる。しかし、王弟との争いになるとは……王弟は身をわきまえた方だと思っていたが、ミナ姫が継承権一位になってから、不穏な動きをしておる」
「不穏な動き?」
「盗賊ギルドと繋がっているという噂じゃ、カルドウスの影響を受けていたのならば理解できるが……気を付けよう。王の治療についてはよろしく頼む。まさか国の命運を背負わせることになるとはな。いやそれでこそ【死線の英雄】か」
「やめてください。サイゾウさんまで」
「何を謙遜することがある。ギルドでも広めておるところよ、それにしても伝説の【勇者】との戦いか、ミナ姫ならば吟遊詩人を使って広めそうじゃな」
「かっこよく歌って欲しいものです」
「いや、照れるから」
「しかし、シンヤ殿は【転移者】であるのに【竜の武具】を欲さんのか? それこそ【聖女】である叶嬢ならば装備もできるだろうが」
「私は装備はしたくないかなぁ……それにあれ一本一本が国宝なわけで、使っちゃったら【勇者】一行から奪ったのがわかって面倒だし。使われないために壊そうとしても、ぜんっぜん壊れないんだよね」
アマウントの白い槍は【浸蝕】を付与しながら数時間殴り続けて【竜の鉤爪】で両腕ボロボロにしてやっと壊せたからなぁ。
「当然である。【竜の武具】は壊すことはできん。錆びることも無く、例え刃こぼれしようとも修復される。だからこそ、重宝されているのだ」
……え? 皆で顔を見合わせる。
「いや、実は僕は前に――ムグッ」
叶さんに口を塞がれる。な、何だ?
「そうですよねー。だから、ミナ姫に真也君は【竜の武具】を預けたんだよね」
「そろそろ御暇しましょうか。砦の護衛を強化する件と情報提供の件は任せましたギルマス」
ファスが立ち上がり僕の腕を取る。
「む……心得た」
そのまま外にずるずると連れ出される。
「ぷはっ、どうしたんだ?」
叶さんが周囲を見渡しながら顔を寄せてくる。
「……【竜の武具】が世間一般で破壊不能って扱いなら、真也君の立ち場はマジでジョーカーだから。思えば花竜さんが、真也君なら壊せる的なことを言ったのをもっとちゃんと考えるべきだったよ。」
「その通りです。サイゾウは信頼できるギルドマスターですが、これは重要な情報です。できるだけ広めない方が良いでしょう」
「そうだべな。【転移者】……特に【勇者】の価値は【竜の武具】を使えるってのがかなり大きいだ。旦那様はその価値観を破壊できるだ。旦那様の存在は、家をあげて【転移者】を支援しているラポーネの貴族にとって危険視されるべ。そうなると、厄介なことになるだよ」
「確かにそうだな……」
強力な【クラス】に最強の武器を扱えるからこそ、貴族はこぞって【転移者】を召喚し、私財をなげうって支援していたのだ。その中でも【竜の武具】は特別だろう。その特別な壊れないはずの武器を壊せる奴がいたとしたら? どう思われるかは想像に難くない。
しかし疑問が残る。破壊不能なはずの【竜の武具】を僕は壊せる……なぜなんだ?
すみません。過去話で訂正があります。
『第三百三十一話:潜入……失敗?』に置いて、セルペンティヌの死体の回収する場面が消えていました。訂正し追加しています。
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