第三百三十七話:王様の治療へ
僕等のリアクションに立ち上がったミナ姫が無言で、部屋の隅にいってしゃがみ込んでしまった。
「グス……ご先祖様のことといえ、傷つきます」
ナルミが目線でどうにかしろと言ってくるので、とりあえず近づく。
「あー、まぁ、ミナ姫のせいじゃないんで、話を続けませんか?」
「……はいですわ」
トボトボと歩き、椅子に座り直す。
「さっきは頷いたけど、エルフがというよりこの件に関わった【人】達、全てが悪いよね。詳しいことはわからないけどさ。ファスさんもそんな顔しなくてもいいんじゃない? なんか、自分を責めてるようだよ」
叶さんがファスの顔を心配そうにのぞき込む。
「大丈夫ですカナエ……自分でも混乱していて……ご主人様、少し寄りかかってもよろしいですか?」
「もちろんだ。辛かったら休んでくれてもいいから」
「こうしていたいのです」
ファスは竜の呪いをエルフの王族に押し付けられた可能性も出てきている。エルフについての話を聞くのはしんどそうだ。ファスが寄って来て、頭を僕の肩に乗せる。
「話を続けるぞ。最初の【竜の武具】が【竜殺しの鎖】だった。鉱山砦で討伐された【腐黒竜】死後も強い呪いを放ち続けた。リヴィル王女はその土地から呪いが広がらない様にその地を【竜の鎖】で封印した。しかし、竜の死体の一部は封印に抗うように呪いを放ち続けた」
「……その話に出てくる死体の一部というのが【竜の瞳】ですか」
ファスが受けた【竜の呪い】を内包していたかもしれない遺物。十数年前に封印が解かれ、その後二つある眼球の内の一つはレイセンの元にいったってのがナナセさんから聞いた話だ。竜にまつわる封印は王族しかとけない……。細い線が繋がり始めていた。この話は今に……ファスに繋がっている。
「そうだ。土地に染み込んだ呪いは【竜の鎖】を使った儀式を王族が定期的にすることで抑えられるが、【竜の瞳】だけは荒ぶるままだった。リヴィル王女は瞳と土地を分けることで呪いの影響を少なくしようとしたのだ。ミナの奴がこの場に来たのも儀式の為だな」
ミナ姫が僕等を見る。その面影はやはりファスに似ている。
「その時に使われる聖句が先ほどシンヤ殿も口にしたものです。『私は竜の止まり木、どうか安らかに女神の詩を紡ぎ眠っておくれ』この言葉をリヴィル王女の血族は代々捧げ続けているのです。これが私達の知る【竜殺しの鎖】にまつわる話です」
ウィスプ達が小瓶の中に戻っていき、ミナ姫が椅子に座り直す。ファスは僕に頭を預けたままで少し辛そうにしていた。早く休ませてあげたい。とりあえず、ミナ姫にはお礼を言っておこう。
「話してくれてありがとうございます。砦では聖地に行くためにモーグ族達が穴掘りをさせられていました。カルドウスが【竜殺しの鎖】を狙っていたのは間違いないです」
「……使い手の【勇者】がこの国にいることもカルドウスが【竜殺しの鎖】を使用しようとしていたことを示唆しています。重ね重ねこのタイミングで【勇者】を捕えた意味は大きいですの、冒険者ギルドにお願いをして、できるだけ多くの護衛を鉱山砦にいるモーグ族にはつけておきますわ。そして、シンヤ殿にはお父様……現国王の治療をしていただきたいですの」
呪いの治療の件か、確かに一国の王が呪いに侵されている可能性があるなら対処しない方が不自然な話だ。砦のことや逃した【転移者】のことも気になるけど、優先順位がわからなくなりそうだ。
「王は今、ニグナウーズ国の第二都市である【ビオテコ】で療養をしている。王都にも近く、戦功を広めるにも都合が良い。元々、そろそろ拠点を移動させようとしたところだ。是非一緒に来てもらいたい。……あの街は色々面倒でな」
ナルミがうんざりしたような顔をしている。何かあるのか?
とりあえず、パーティーを見回す。
「僕は、宙野達のことと、モグ太のことさえちゃんとしてもらえれば行ってもいいと思う」
「私も移動することには賛成です。この戦場でできることは少ないです」
ファスも移動には賛成のようだ。
「私も移動したいかな……正直、翔太君とこれ以上近くにいたくないよ。その分、逃げ出さないようにはしてもらいたいけど……」
「というか、王様の治療なんて後回しにはできねぇべ。なんならオラ達だけでもすぐに移動してもいいんでねぇか。腰が軽いのが冒険者の特権だべ」
「どっちでもいい」
概ね皆移動には賛成のようだ。意見もまとまったし、ミナ姫に向き直る。
少し安心したのかミナ姫は息を吐いた。
「助かりますわ。では、【勇者】達の取り扱いや今後のことを考えて、明後日に出発しましょう。メレアそれでよろしいですわね?」
「かしこまりましたミナ姫。皆さんもありがとうございます」
さて、これから忙しくなりそうだ。
少しややこしくなりましたが、やることは論功行賞に向けて色々するだけです。
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