第三百十七話:やることやってます
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時は数十分ほど遡る。
【勇者】宙野は意気揚々と森を進んでいた。当初こそ【大洞穴】での人的被害が大きく、今後の行軍が不安視されていたが、蓋をあければエルフの貴族達は想像以上に宙野に協力的であった。本来時間のかかる大森林の移動だったが、ルイスの背後にいるセルペンティヌという毒婦の指示により、森の抜け道を使って移動することで宙野達は驚異的な速度で移動することができている。
さらに、宙野の自信を強めた要因がもう一つある。連れてきた【人形師】の【クラス】を持つ磨金が洗脳系の【スキル】を多く所持しており、道中の非協力的な陣営を洗脳することができたからだ。そこで宙野は貴族から興味深いアイテムを献上させていた。
「おい、例のダンジョントレジャーはどうなっている?」
宙野が騎乗蜥蜴に乗りながら後ろにいる教会騎士のルイスに声を掛ける。宙野とルイスは鞍を装備した騎乗蜥蜴に直接乗っているが他の転移者は後ろの【拡張】の魔術が施された客車部分に乗っている。
「【耐性付与】系の装備品を無力化する『略奪者の鏡』か、あまり使いすぎると壊れるらしいが……高級鑑定紙を見るとあと数回なら使えそうだ」
獣の手が割れた鏡を持っている奇妙なアイテムを取り出して、宙野に見せた後革袋にしまう。
「最優先で叶に使いたいが、吉井を殺す為の【竜殺しの鎖】がまだこちらにない。確実に居場所のわかるエルフの王女に使い、傀儡に据えて吉井を追い詰め、叶を救い出す。まだ使えるようならファスさんに使ってもいい。そして【竜殺しの鎖】を入手次第、奴隷となった叶を救い出し、奴を拷問して殺すっ!」
「【翠眼】か、伝説のエルフ……セルティがついて来てくれれば心強いのだが……」
ルイスはここ数週間傍らにいたシスターのことを考える。ルイスを惑わす毒婦は誘いを断り、ミナ姫に敵対する貴族の元へ残っていた。内心では叶を狙っており、美しく希少な【翠眼】であるファスを教会の上層部へ貢物にすることで、教会内での聖騎士の称号を得たいルイスとしては、どこかのタイミングで宙野を出し抜きたい。しかし、その為にはセルティの力が必要だと考えていた。
「俺には【カリスマ】もある。待っていろ吉井っ!」
そして、戦場についた【勇者】一行は、まっすぐに本陣のテントを目指す。そして、砂漠の時とは違いすぐに王女への謁見が許可されたのだった。やはり【勇者】はないがしろにできないだろうと、宙野はほくそ笑んだ。
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宙野が到着したという伝令を受け取って、待っているとハルカゼさんの部下のエルフがテントに入って来る。
「姫様【勇者】がお見えです。複数人の面会を要求してきたため、断ると三人だけ通して欲しいとのことです。白星教の騎士とラポーネ国でダンジョン攻略を続ける【転移者】だそうです」
「……通しなさい」
ミナ姫が一瞬こちらに視線を向ける。無言で頷き、簡素な玉座に座るミナ姫の横に立つ。
事前に叶さんに精神強化のバフをしてもらっているが、何が来るかわからない。
宙野と他に二名がテントのカーテンをくぐり姿を現す。そして僕と目が合った。
刹那の緊張の後、一瞬で宙野は激昂した。
「吉井ッ! 貴様、どうしてここにいる!」
当然丸腰かと思いきや、鎧の隙間から革袋を取り出しやがった。アイテムボックスか!
とっさに前に出ようとするが、それより先にファスの【恐怖】が場を支配した。この場の全員の動きが止まる。
「王女の御前ですよ」
「そうだね。まさか、この場で何かするつもりなのかな?」
叶さんも無表情に宙野を睨みつけ牽制する。しかし、宙野はそんな叶さんの怒りには気づきもせず、安堵の表情を浮かべた。
「叶、会いたかった。本当に……良かった元気そうで。前に見た時よりもさらに綺麗になっている。やはり君は俺に相応しい女性だ」
「あぁ、聖女様。このような場所でも変わらず……いいえ、さらに美しい」
宙野の後ろにいたのは、恋人の街で見たイケメン騎士様だった。確か、バルさんを襲った罪の責任を取るとかでラポーネ国の王都へ向かったんじゃないのか。
「会いたくないのが二人も……最悪だよ」
「ウップ、なんだべこの匂い!?」
ゲンナリする叶さんと鼻を抑えてポーションまで飲むトア。確かに少し甘い匂いがするが……気になるほどでもない。普段刺激の強い調味料を扱うトアがここまで反応するのはどうしてだ?
さらに、ルイスの横に並ぶのは見たことのない男だ。髪色が黒なので状況をみても【転移者】だろう。
「ウヒヒ、獣人がいるじゃねぇか、それもすっげぇ上玉。ありゃSSR確定だ。それと……【翠眼】のエルフ……こりゃあ、ちょっとできすぎだ。ほら、宙野」
下卑た笑顔を浮かべ、腹の肉でパンパンの軍服のような服装だった。そのまま、慣れた様子で跪く。
ルイスと宙野もそれにならった。
「姫様に免じて、この場は収めてやる。【勇者】の【クラス】と称号を持つ、宙野 翔太です。ミナ姫、本日は謁見の許可を賜り、感謝します」
血走った目で宙野が僕を見た後、ミナ姫に挨拶をする。……えぇ、誰がどう見てもこの一連の流れ、めっちゃ不敬だったじゃん。コイツ、相変わらずどんな面の皮してんだよ。流石にミナ姫も呆れているようだが、話を進めることにしたようだ。
「勇者様がこのような場所に何用でしょう? 戦争は終わり、今は【英雄】殿と復興に取り組んでいる最中なのです」
ミナ姫がそう言うと宙野は僕を指さした。
「本来ならば挨拶のみに留める予定でしたが……姫様にお伝えせねばならないことがあります。そこの男は、ラポーネでは犯罪者として扱われ、今も私の婚約者である【聖女】桜木 叶を洗脳して操っているのです。それだけではなく、奴が所有する全ての奴隷は【勇者】が倒した【竜王】の力を使い、卑劣にも我が物にしているのです。姫様この罪人をどうしてこの場に置かれるのですか? ただちに捕まえるべきなのです」
【竜人化】の影響か魔力を鋭敏に感じられる。今、宙野から何かの魔力の流れが起きているのがわかる。これって叶さんが言っていた【カリスマ】か? この場にいる人は全員が何かしらの【奴隷契約】をしており、さらに装備品で耐性を付与しているが、それでもいい気分じゃない。無理筋なのは理解した上で【スキル】でごり推そうとしているのか。
「誰が、誰の婚約者って?」
叶さんがもはや汚物を見るような目で宙野を見ている。怒りを通り過ぎて嫌悪感を持っているようだ。明らかに【聖女】がしてよい表情ではなかった。ファスとトアも怒りを隠そうはしていない。今にも一触即発の空気だった。
「ミナ姫、発言をしてもよろしいでしょうか?」
「……私もいいたいことがありますが、そうですね。まずはファスさんからどうぞですの」
ミナ姫が手で発言を促すと、ファス、トア、叶さんがこちらにやってくる。宙野の表情は固い、どうやら自分のスキルが通用していないことがわかったようだ。
「勘違いの【勇者】。わかりきったことを教えてあげましょう。私達は全員がご主人様を心から愛しています」
「それは、【竜の後継】とかいう洗脳なんだっ!」
「誰の入れ知恵か知りませんが、ならば状況鑑定でもなんでもすればよいでしょう。状態異常の【洗脳】ならばわかるはずです。もっとも、その必要が無いほど私達の意識がはっきりとしていることは見てわかるでしょう」
「グッ……」
ファスの反論に宙野は言葉を詰まらせる。そして叶さんが、一歩前に出た。
「本っ当に気持ち悪い! 幼馴染だったことすら恥ずかしい。スタンピードでは真也君やフクちゃんの働きを横取りして、空では鯨さんを攻撃して、ここまで追って来たと思ったら今度は婚約者なんて、どれだけ私を無視するのよ。ストーカー、変態、二度と関わらないで、前にも言ったでしょ、私はシンヤ君が好きなの。元の世界からずっと、ずっと大好きなの。アナタなんて異性として見たことすらない! 大っ嫌い!」
抑え込んでいたものが溢れ、涙を流しながら宙野に叫んで叶さんは僕に抱き着いた。
流石にショックを受けた様子だが、それでも宙野はしつこく食い下がる。
「叶っ、俺は君を助けたいんだ。その男の傍にいると何をされるかわからないぞ」
「宙野、もうやめろ。これ以上叶さんを傷つけるな、僕は洗脳なんかしていない。ファス達もだ。一緒に旅をして、皆で一緒にいたいだけだ」
「ふざけるな! 複数人の女性と関係を持つなんて不潔だっ! そんなこと許されるものかっ!」
「知ったことか、僕は皆が好きだ。前にも言ったはずだ、全員僕の女だ」
【竜の威厳】を発動させ、宙野を威圧する。宙野も存在感を増してこちらに向き合う。どうやら【勇者】にも威圧系の【スキル】はあるようだ。
「叶、聞いてくれ。もし、そこの男が君に乱暴を働いたと考えるだけで俺は胸が張り裂けそうになる。昔から清純だった君は知らないだろうけど、男は危険なんだっ!」
……んん゛!? ミナ姫やメイドまで含め、間抜けな静寂がテントを支配する。僕にしがみついていた叶さんが顔を上げてファスを見る。ファスも目をパチクリとさせていた。
「……もしかして、私達とご主人様が肉体関係を持っていないとでも?」
「いやいやファスさん。流石にこれだけ一緒にいて、好きだって伝え合っている相手がいるのに何もないわけないよ。真也君もハーレム宣言しているし」
「普通にやることやってるだ」
女性陣がうんうんと頷く、宙野は顔面蒼白となり僕をみる。
「あ、うん、全員を抱いているけど」
宙野と後ろのルイスの声にならない絶叫がテントに響いた。
まだまだ序盤。
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