第三十二話:冒険者ギルド
町を見学しながら、冒険者ギルドを目指す。それにしてもすごい屋台の数だ。縁日みたいだな。
食べ物屋の横にアクセサリーの店があるなど、まったく整理されてない乱雑な感じがグッとくる。
「見てると、なんか食べたくなるな」
「そうですね、卵と砂糖を焼いたお菓子、お肉を串に刺したものもあります」
(イイニオイ)
ここに来ても食欲に忠実な僕達だった。
「ご主人様、屋台も大事ですが、私のクラスを解放することもしたいのですが……」
「それもあったな、悟志と桜木さんに貴族の動きも伝えたいし、ギルドへ行きながらやりたいことをまとめよう」
というわけで、やることをまとめるとこうなる。
・ギルドへ行き、冒険者の登録。ついでに猿肉や皮を引き取ってもらう。
・宝石商へ行き宝石を売る。
・持っているスクロールと武器の鑑定をしてもらい、効果を確かめる。
・ファスのクラスを解放する。
・キズアトがいる宿屋に行く。
・悟志か桜木さんにコンタクトを取り貴族の動向に気を付けるように伝える。
こんなもんか、意外とやることは多いな。急がなくちゃな。
そうして、屋台の誘惑を振り切り(そもそもお金がないが)ギルドに着いた。ギルドは石組みの建物が複数くっついたようなそれなりに大きな建物だった。
正面から入るとその喧噪に圧倒される。あれだけ人がいた外以上の賑わいだ。なんかマグロの競りみたいなことも行われている。
『ゲンド鉱山への護衛だ。飯付きで受ける奴はいるか? 報酬は金貨2枚でるぞ、D級以上の奴が指名だ!!』
『狩猟依頼だ、できるだけ傷つけずにホーンラビットを狩ってほしい!!』
『この町へ来たバント伯爵一行の護衛だ。途中ダンジョンへ寄るので戦闘に自信のある冒険者を募集しているぞ』
といったように冒険者に向かって紙を振りかざして叫んでいる。壁際には掲示板があっていくつもの依頼が張り付けられている。
隣のホールは食事処になっているようで、飯をがっつく冒険者達の姿が見えた。2階に続く階段もあり上の様子はわからない。
中には小さな魔物を連れている人もいる。
「こりゃすごいな」
「はい、すごい熱気です。それに……」
「それに?」
「強い魔力を持った方が何人もいます。ご主人様、私なんだかとってもワクワクします」
(ツヨイナー、スゴイナー)
確かに、歩き方からして違う人が数人見受けられる。思わずニヤけてしまう。これからこの人達に混ざって研鑽できるのかと思うと気分の高揚が抑えられない。
「邪魔だ!」
入口から入ってすぐの場所に突っ立っていたために入ってきた人を妨げてしまったようだ。
「おっと、すみません」
「すみません? おめぇ見ない顔だな。新入りか」
そう言ったのは、ゴツイ体格に髭を蓄えたやたら厳ついおっさんだった。腰には顔に似合わない綺麗な意匠のロングソードが下げられている。
「はい、冒険者になろうと思ってやってきました。ヨシイと申します。こっちはファス、よろしくお願いします」
僕が頭を下げ、無言でファスも礼をする。
「ハッ、近頃じゃ珍しい、礼儀正しい奴だな。ただここじゃあそんな態度は舐められるぞ、気を付けるんだな。おい、ついてこい。受付まで案内してやるよ」
ポンっと頭を叩かれて先にいく。それに続くようにおっさんの仲間なのか30代くらいのやせ形の弓矢を背負った男と短髪に獣耳を生やした妙齢の女性が、僕の頭をポンポンと叩いておっさんについて行く。
「いててっ、ありがとうございます」
そう言ってついて行こうとすると、後ろからポンポンと頭を叩かれる。振り向くとファスが背伸びをして僕の頭をポンポンしていた。なんならフクちゃんもローブから出てきて僕の頭で跳ねている。
「……何してるんだ?」
「いえ、なんかこう、羨ましかったので」
(マスターノ、アタマ、タタキヤスイ)
なんだそりゃ、「おい!! 何してるんだ」おっと呼ばれてしまったので、小走りで髭のおっさんについていく。
受付は混んでいたが、窓口が多く、列はわりと早くはけていく。というか意外と皆綺麗に並ぶんだな。
おっさんの後ろについて並んでいるとすぐに受付まで来ることができた。どちらかというと可愛い系の受付嬢がおっさんに話しかける。
「ライノスさんお帰りなさい。首尾はどうでしたか?」
「上々だ、ほれ達成証明だ。それと、こいつらが冒険者登録したいそうだ」
「あら、新規登録ですか?」
髭のおっさんの名前はライノスというらしい。
「はい、今日から冒険者になろうと思って来ました。ヨシイと申します、こっちはファス、それでほら出ておいで、この子がフクといいます」
「従魔を連れているのですか!?」
受付嬢が驚いていた。ついでにおっさんたちも驚いたようで話しかけてくる。
「おいおい、【索敵】持ちの俺がまったくわからなかったぞ」
「ほう、ということは【隠密】いや【不可視】のスキルか?」
「かっわいいー、なにこれ!?」
ちょっと出てきてすぐにフクちゃんは引っ込んだ。やっぱり人見知りなんだな。それはともかく登録をしたいんだが。
「あの、登録を……」
「は、はい失礼しました。えーと、字は書けますか?」
「代筆でもいいですか?」
「勿論です」
「じゃあ、ファス頼む」
「はい、わかりました」
その様子を見ていた、髭のおっさん達は、
「じゃあな頑張れよ」
と言って、食事処の方へ行った。いい人達だったな。
ファスが手順に従い何か書いていく、僕は転移者の恩恵で文字はなんとなく読めるが、あくまでなんとなくなので書くのはファスに任せたほうがいいだろう。
受付嬢が細かに説明してくれたが、怪我したときの保険みたいなものを依頼料から引いたりするサービスがあるらしい。他にも細々説明された。魔物の素材を引き取ってもらうことはキズアトの説明通りここでできるらしい。各種鑑定もお金を払えばやってもらえるそうだ。便利だな冒険者ギルド。
「ヨシイさんの書類で必要なところはここまでです。ここからは任意で書いていただくことなのですね。クラスや自身の強みなどがあれば記入していただけると、他の方と連携をとる際など紹介しやすいのですが?」
おっと、クラスをいつ書き込むか不安だったのだけど、任意でいいのか、どうするかなぁ、もちろん【愚道者】は言えないけど。問題は【拳士】だよな。
「どう思うファス?」
「言ってしまっても問題ないのでは、世間の評価がどうであろうとご主人様のクラスに恥じるものは一切ありません」
フードで顔色はわからないが力強い眼でこちらを見ながら言ってきた。そうだな、これから冒険者になろうってやつが細かいことで悩むなんて男らしくない。
「じゃあ、書いてくれ」
カリカリと書いた、ファスの文字を見て受付嬢が、険しい顔をする。
「……【拳士】ですか、私個人としては神殿へ行って別のクラスを付け直すべきだと思いますが」
「すみません。このクラスで行くと決めているんです」
実際は転移者だからクラスの付け直しができないだけだけどな。でもたとえそれができたとしてもこの【拳士】で行くことを選択するだろう。
僕が元の世界で爺ちゃんにもらったものをこの世界で極めたいという思いがあった。
「そうですか、【拳士】のクラスでは他のパーティに入ったりすることは難しいかもしれませんがよろしいですか?」
「はい」
力強く答える。受付嬢は憐れむような目でこっちを見ていた。見てろよ、絶対評価を覆してやる。
「そこまで言うのなら仕方ありませんね。ではローブの貴方、ええとファスさんですね、貴方も書類を書いていただけますか? それと一応顔を見たいのでフードを外してもらえると助かります」
ファスがこっちを見てくる。まぁここは仕方ないだろう。頷くと、ファスがフードを取る。その長い耳が露わになると周囲からどよめきが起こった。
「エ、エルフ……しかも翠眼!? 大変失礼いたしました。フードを被っておられたので気づきませんでした。登録でしたら紹介状を出していただけたら不要ですので」
はい? 紹介状? そんなもんないぞ、エルフが特別な種族ってのはわかっていたが、ここまで大仰なリアクションを取られるもんなのか? 見るとファスも困惑しているようだった。
仕方ないので割って入る。
「あの、エルフだと何か問題があるのですか?」
「あ、貴方、従者なら先に連絡をしておいてください。こちらとしても準備というものがありますので」
なんだと、エルフが従者の場合は先に手続きが必要だったのか。
「すみません、なにぶん世間知らずなもので」
「世間知らずの人がどうして従者でいるのですか!? それよりもエルフの従者が【拳士】なんて非常識では、それにさきほど自分の主人を呼び捨てに——」
うん? あぁなるほど、僕の方が従者だと思っているのか。
「すみません、こちらの方は従者ではなく私のご主人様です」
「へっ?」
完全にフリーズした受付嬢にファスが追撃を喰らわす。
「ですから、私はこのヨシイ シンヤ様の一番奴隷です!!」
別に勘違いのままでも面白そうだから良かったんだけどな。その言葉を聞いた受付嬢はそのまま卒倒した。そしてその様子を見ていた周りが騒がしくなる。
『おいおい、エルフを奴隷にしているだと? どんな金持ちだよ』
『さっき聞いてたけどあいつ【拳士】らしいぞ?』
『嘘だろ? なんで【拳士】がエルフを奴隷として買えるんだよ!?』
『というか、あのエルフ翠眼だぞ!! しかもかなりの上物じゃねぇか』
お祭り騒ぎだ、どうすりゃいいんだ。とりあえずファスを守れるように背に隠す。フクちゃんもローブから出てもしもの状況に備える。
「ご主人様、どうしましょう?」
「どうするってもなぁ、最悪背負って逃げるから、覚悟しといてくれ」
(マスター、アイズ、アッタラ、ドクマク)
フクちゃんは毒液をまき散らす気のようだ。どうにかして穏便にこの場を切り抜けれないものか。
「テメェら何やってやがる!!」
野太い声が響き渡る。というか魔力を感じるぞ、何かのスキルか?
人をかき分け、ライノスさんとその仲間達、そしてやけに小さなお婆さんがやってきた。
「小人族だと思います」
ファスが耳打ちをしてくる、なるほどこれが小人族か体長は100㎝以下で腰が曲がっているのでさらに小さく見える。
「まったく、何があったのかと思えば、黒髪黒目の【拳士】に翠瞳のエルフとはねぇ。ともかくここじゃあ落ち着いて話もできないよ、上に言って話をしようかね」
そう言われ、僕らは周りから疑問や嫉妬(これは主に僕に)の視線を受けながらやたら貫禄のあるお婆さんに連れられ二階の部屋へと案内された。
おかしい、予定ならもうお婆ちゃんとの話の終わりまで進んでいるはずなのに……
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