第三百十三話:恩返しと本心
朝起きて皆でストレッチをした後に朝食を食べて屋台の準備をしていると、ファスがテントの入り口を見る。この反応は誰かが来たようだ。
「ご主人様、ナルミです」
ファスが言い終わる前にナルミが入って来る。女性の姿だが、服装はワンピースにズボンをはいているような恰好で男性でも着れそうなデザインである。
「失礼するぞ」
「おはよう、朝からどうしたんだ?」
「それはこちらの台詞だ。【勇者】が迫っているそうじゃないか、そしてミナを奴隷として仮契約したらしいな」
眦を吊り上げ、不機嫌そうに鼻を鳴らしている。
「そうだけど……」
「ナルミも【奴隷】として仮契約したいということですか?」
ファスさんから冷気を感じます。
「……【勇者】がこちらの想定以上の【洗脳】【魅了】系のスキルを保有している可能性がある以上、必要な措置と言わざるを得ない」
ファス、トア、叶さんがジト目でナルミを睨みつける。
「な、なんだ?」
「だったら、メレアさんやハルカゼさんみたいにミナ姫と契約すればいいんじゃないかなぁと思うんだけど」
「だべ」
「叶の言う通りです。これ以上ご主人様の奴隷を増やすことは反対です」
「イワクラは王族のご意見番だ。明確に下に付いてしまっては家の存在意義に関わる。……それとも何だ、あの泣き虫姫とは契約できて、私とはできないとでも言うつもりか?」
ズイっと顔を寄せてくる。僕よりも高い身長なので圧迫感が凄い。褐色の肌は恐ろしくきめ細やかでなんか甘い匂いがする。
「正直、仮とは言え【奴隷】にはしたくないかな。【勇者】に対抗する為とは言っても【眷属化】のこともあるから、ナルミのことは友達みたいに思ってるし」
「……ミナ姫から聞いている。【竜人の眷属】についても昨晩考えた結果だ。シンヤが私を同朋とするならば、契約をしてほしい。いいか、一度しか言わないぞ。ファスも聞け」
ナルミは膝をついて、僕の前に頭を垂れた。そして懐から契約紙を取り出して差し出す。
「この命は闘技場でお前に助けられたものだ。……一族の宝を取り返せたのもお前のおかげだ。感謝している。恩を返す為に身を捧げることは、今は寂れた水晶の書庫に眠るエルフの古い習わし。我らエルフは森の宝であり価値の象徴。そして、この国の危機はまだ去ってはいない。この国の為に英雄にこの身を捧ぐ栄誉を頂きたい」
誇り高いナルミの契約を希う言葉。ここまでされて断る気はなかった。
契約紙を受け取ろうとすると、ファスが一歩前に出る。
「ご主人様をニグナウーズ国の権力争いに利用するためにその身を差し出して奴隷になると言うのならば、考えを改めるべきです。ご主人様はそんなことをしなくても力を貸すでしょう。【奴隷】とはあくまで、ご主人様に殉じる覚悟があるものだけが受け取ることができます。【勇者】対策ならば、他にも方法があるでしょう。私の問いは一つであり、すでに聞いています」
「確かに、私はシンヤを利用するだろう。その対価にこの身を差し出すという意味がないとも言わない。……だが、私の答えもある。先の問いに答えよう。友としてシンヤを尊敬しているし必要ならば『女』として向き合う覚悟もしてきた。でなければ【奴隷】になるくらいならば耳を切り落として死を選ぶ。そもそも……砂漠で助けられた時から、私は身を捧げるつもりだったんだ。これが本心だ」
まぁ、闘技場から出てメイド服で待機していたけど……。
「それならそうと言えば良いのです。習わしだの持ち出すのはご主人様に対して不誠実です。……ご主人様、出過ぎたマネをしてすみませんでした」
ファスが向き直って謝って来る。他のメンバーもこの件に対してファスに任せているようだ。
「僕こそちゃんと確認するべきだった。ありがとうファス。気持ちはわかった、ナルミ、仮契約をしよう」
「あぁ、紙に血を垂らしてくれ」
「【商人】が必要なんじゃないのか?」
「必要ない、この契約紙は【紋章士】のツムギが作ったものだ。事前にもらっていたんだ」
なんで? とはもう聞けない。ナルミにも色々な葛藤や思いがあったことは今聞いた。事前に準備していたことはちょっとびっくりだけど。というか紬さんもそういうの教えてくれてもいいんじゃないかな。まさか他にも契約に関して何かしてないよな?
【手刀】で指先を切って、契約紙に垂らす。【商人】がいないと契約ができないのかと思ったのだが、ナルミが宣誓を行うと紋章が動き出した。ミナ姫の時と同じように、僕も宣誓するとナルミの掌に奴隷紋が浮かび上がった。
「ふむ……任意で出したり消したりはできるか。これで【洗脳】される危険はかなり減ったな。私は先に【勇者】の様子を探って来る」
「危なくないか? 単独行動はやめるべきだと思うけど」
宙野達は転移者の集団だ。ナルミが【変容】を使えると言っても、見破られる可能性だってある。
「そこまで接近するつもりはない、あくまで情報収集だ。行ってくる……ご主人様」
耳を赤く染めてナルミはテントを飛び出していった。ちょっとグッときてしまった。朝から心臓に悪いイベントだ。
「うーん、これで銀髪ダークエルフまで手中に収めてしまったと。多分【転移者】の中でぶっちぎりでハーレムを作ってるよね真也君」
「一度、奴隷で集まって色々話し合った方がいい気がするだ」
「そうですね。機会があれば、奴隷達で集まる場を作りましょう。しかし、今は【勇者】に備えることが先です」
「おにくー」
「……とりあえず、屋台をやろう。そうしよう!」
ファスと千早達、さらにミナ姫たちが会する状況は僕の胃に悪すぎる。今は戦功の主張をすることに意識を持っていこう。正直キャパオーバーとか言ってられない状況になってきている事実に胃がキリキリする思いなのだった。
ハーレムメンバーがまた一人……。
ブックマーク&評価ありがとうございます。ここまで読んでいただけことが嬉しいです。ついに日刊5位を取ることができました。ありがとうございます。
感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。






