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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第三章:交易の町編【料理人と恩師】

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第三十一話:合縁奇縁

 ファスのローブの中に隠れていたフクちゃんを呼び出し【回復泡】を出してもらうと、とりあえず獣人さんの傷に当てた。


「これでよし、とりあえずこれでゴブリンにやられた傷はすぐに治ると思います。他の傷については、時間をかける必要があるかもしれません、僕のスキルなら治せるかもしれませんが」

「フクちゃんの泡はすごいのですよ。疲れも取れるんです」


 いつもならここで「エッヘン」とか念話で言うはずだが、フクちゃんはすぐにファスのローブの中に隠れてしまった。意外と人見知りする性格なのか?


「他の傷はいいだ。もう体の一部みたいなもんだ、しかし従魔をお持ちだとはあなた様は一体……」


 なるほど、従魔ってのは普通の人間は持てないものなのか。まぁ本来は専門のスキルもあるみたいなことをファスが言ってたもんな。


「まぁ、そんなことはどうでもいいじゃありませんか。僕は吉井と申します。こっちはファス、ちなみにさっきの蜘蛛はフクと言います。名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ご主人様の一番奴隷をさせていただいております」

 

 ファスが一礼をする。相手の名前を聞くときはまず自分からだよな。


「そ、そんな畏まった言葉止めてほしいだ、オラ、そんな難しい言葉わかんねぇべ」


 耳をピコピコさせながら、オロオロしている獣人さん、傷に響くからおとなしくしてください。

 結局、普通の喋り方に戻し、再度名前を聞いてみると。


「オラはこの森をでてすぐの町で宿の手伝いをしているもんで、女将さんからはキズアトって呼ばれているだ」


 キズアトって、どうなんだそれ? 蔑称として使われてるんじゃないのか。


「えーと、キズアトさん——」

「キズアトでいいだよ。ヨシイ様はおかしな人だなぁ、オラみたいないっとう下のモンに、そんな風に接してくれる人初めてだ」


 横でファスがウンウンと頷いている。なんか僕が常識が無い人みたいじゃないか、まぁこの世界の常識なんて知らないのだけれど。


「様は止めてくれ呼び捨てでいいよ、僕が世間知らずなことは否定しないよ。そんなことよりキズアトはなんで死ぬつもりでこの森に来たんだ?」


 そう聞くとキズアトは引きつったような笑みを微かに浮かべて(顔当てで顔を隠しているから目しか見えないが)話し始めた。


「笑い話だよ、オラが働いている宿の看板料理は『サブサラル』っていう芋料理なんだけれど、その、オラが注文を間違えたらしくって、芋が仕入れ先から卸されなかったんだ。そんで女将さんがカンカンでなぁ、この森にある特別な芋だもんでそれを袋いっぱい取ってくるまで帰ってくるなって言われたんだべ」

「それのどこが笑い話なんだ?」

「オラは、獣人の癖に体が悪くって速く動けないんだ。この森は魔物がでるから、出会ったらどうすることもできずに殺されるしかねぇべ。つまり、芋なんてどうでもよくって、オラに死ねって意味だ」


 だからそれのどこが笑い話なんだよ。まるで全部諦めているようなそんなキズアトを見て自分でもよくわからないやるせない気持ちが湧き出てきた。だけどこの感情をキズアトにぶつけてもどうにもならない。


「……ひどい話だ。ようはその芋があればいいんだろ、探すの手伝うよ」


 なんせこっちにはファスがいるからな、【精霊眼】を使って探せばすぐだろう。


「というかご主人様、芋ってもしかして私たちが食べていたものじゃ……」

「あっ」


 完全に忘れてた。というわけで、袋からこの森で散々お世話になった芋をとりだす。


「それだべ!! なんでかこの森にしか生えていない芋で、冒険者に取ってもらうようお願いしているんだべ。お願いだ、どうか芋を分けてもらえねぇか、あとこれだけじゃ足りないから生えていた場所に案内してほしいだ」

「全部あげるよ。いいよな? ファス、フクちゃん」

「勿論です」

(イイヨー)


 フクちゃんがファスのローブから出てきて、キズアトの前まで近づいた。


(フク、デス、ヨロシク)


 チョンとぎこちなくお辞儀する。


「しゃ、喋る魔物だべか! お、驚いた。初めて見ただ。……オラはキズアトって呼ばれてるだ、この泡とっても具合がいいだ、ありがとうな」

(エッヘン)


 お、エッヘンが出た。どうやらキズアトに対して警戒心を緩めてくれたようだ。


「その袋いっぱいにすればいいなら、今持ってる分で十分あるぞ」

「いやいや、そんな小さい袋に入ってる分じゃ足りねぇべ」

「まぁ見てなって、ファス手伝ってくれ」

「はい、昨日いっぱい取りましたから余裕であるはずです」


 というわけで二人がかりで芋を取り出し、キズアトの持っていた袋に詰めていく。ほどなくして袋は一杯になった。というか僕らどんだけ芋取ってんだよ。


「すごいだ、それはもしかしてアイテムボックスだべか? それはとても高価なもんだ。おいそれと人に見せたらダメだべ、ヨシイはこの後町へ行くべか?」

「そのつもりだけど」

「だったら、町ではあまりアイテムボックスは使わないほうがいいべ。普段は普通の背負い鞄を使ったほうがいいと思うだ」


 なるほど、うーんそういった危機管理に意識がいかなかったな。治安のいい日本とここじゃあ常識が違うわけだ。


「申し訳ありません。私が気づくべきでした」


 ファスが謝ってきた。ファスも最近まで世俗と離れた生活なわけでこういったことには疎いのだろう。ここでキズアトと会えたのはもしかしたら僕達にとって幸運だったのかもしれないな。


「いやそれは仕方ないよ。でもそういうことも学ばないとな。キズアト、悪いけど僕らはわけあって町の常識に疎いんだ。少し質問してもいいか? あぁ芋は持つよ」

「オラに答えられることなら、何でも答えるだ」


 とうわけで森を出る途中で色々聞いてみる。というかキズアトの歩き方がおかしいな、足を引きずるようにしているし、いびつなほどに猫背だ。


「キズアトがいる町ってどんな町なんだ?」

「どんな町っていってもなぁ、この森を迂回して帝都へ行くために色んな隊商が通る場所にできた交易と宿場の町だべ。だから露店や護衛の為の冒険者ギルドもあるだ。この辺じゃあかなり大きい町だと思うだよ」


 へぇ、多分場所的にオークデンの領地かそこにかなり近い所だと思うがそんな町があったのか。


「冒険者ギルドか、そりゃいいな。商人が集まるってんならこの宝石や肉も買い取ってくれるかな?」

「だったら信用できる商人を紹介するべ、目利き料は取るがその分確かな査定をしてくれるだよ。ただ肉に関しては冒険者ギルドで卸した方が問題なく捌けるはずだ」

「多分私をさらった奴隷商人もその町の者だと思います」


 ファスがフクちゃんを抱きながらそう言った。じゃあ屋敷から近いのか、なんだよオークデンの領地じゃん。


「奴隷を扱っている商人もかなり多いべ。オラも奴隷商から今の宿に買われたクチだ」

「キズアトも奴隷なのか」

「そうだべ、顔の傷のせいで女としては売りもんにならんって言われてなぁ、戦闘奴隷として育てられたが、なぜか【料理人】のクラスしかでないもんで宿に売られただ」

「その怪我について聞いてもいいか?」

「あぁこれは、親から口減らしに売られた後に、戦闘奴隷になるための訓練をやってな、そこでつけられた傷だべ」


 まるで他人事のように、淡々とキズアトと呼ばれている女性は言葉を吐き出していた。


「なぁ、提案なんだが、その傷……」

「治さなくていいべ、今更女に戻ってどうなるってんだ? オラはこのままでいいべ」


 取り付く島もない、この話はこれで終わりだと言わんばかりの強い拒絶を感じた。


「そうか、わかった」

「ありがとうなヨシイ、助けてくれて嬉しかった。オラは今日のこと一生忘れねぇだ。死ぬまで大事な思い出として宝物にするだよ。さぁもうそろそろ森を抜けるだ」


 前を向くと木々の隙間から、川と平坦な道が見えた。


「確かにちょっと遠くに町が見えます。それに向かう隊商も見えます」


 ファスがそう言うがこっちにはちっとも見えない。

 しばらく道を行くと、いくつかの隊商が合流して渋滞を作っているのが僕にも見えてきた。すごいなまるでシンドバットの冒険のワンシーンみたいじゃないか。砂漠じゃなくて草原ではあるが。


 隊商に付き添うように歩くとやっと町が見えた。帝都のように町へ入るための審査は行われていないらしい。そのことをキズアトに聞くと。


「この町は先代の領主様のご意向で、自由に人が出入りできる場所になっているだ。その分冒険者ギルドや駐在の衛兵が見回って治安を維持してるだよ。ヨシイはこれからどうするだ? とりあえず宝石商と冒険者ギルドの場所は教えただが」


 なにをするにも先立つものは必要だよな。まずは金だ。


「まったくお金がないからな。目利き料すら払えやしない。とりあえず冒険者ギルドへ行ってこの猿肉や皮を売ってその後紹介してもらった宝石商へ行くよ。その後はキズアトの宿屋に行ってもいいか?」

「是非来てほしいだ。オラが腕によりをかけて『サブサラル』を作るだ」

「うん? キズアトが作るのか?」

「言ってなかっただか? オラは料理人だべ、じゃあなヨシイ。芋はここからはオラが運ぶだ、先に宿に戻って待ってるだよ」


 そう言ってキズアトは足を引きずるように歩き去っていった。さてさっきから静かなお二人に視線を向けるとこっちを見ていた。


「ご主人様……キズアトさんをこのままにしてもいいのでしょうか?」

(マスター、キズアト、カナシソウ)

「勿論このままで終わらせる気はないけど。ただし中途半端はしない、関わるなら全力で行くけど二人はいいのか?」


 この辺で聞いてしまうあたりが僕の弱い部分だよな。


「勿論です。なんだか彼女のことは他人事と思えません、私達が世間知らずのせいもあるでしょう。これからずっと人を助け続けることはできはしないでしょう。でもだからと言って今のこの気持ちを抑える必要はないと思います」

(マスター、キズアト、イイヤツ)


 合縁奇縁、ここで関わったことには意味があるのだろうか? まぁそれは振り返った時にわかることだ。


「よしっ!! じゃあまずは冒険者ギルドへ行くぞ、早く宿に行かなきゃな」

「はい!」

(オー)


キズアトの喋りかたがしっくりこなくて何度も書き直しました。

次回、冒険者ギルドです。

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― 新着の感想 ―
冒険者ギルト、テンプレあるのかな?あるよね? キズアトの名前も、治りますように。
[良い点] 普通は手を差し伸べる対象ではないんでしょうけど、ヨシイたちならその常識を覆してくれるのが楽しみですね! キズアト、そんな名前も早く治りますように
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