第三百四話:絆を繋ぎ結ぶ フクちゃんのステータス
ピョンとフクちゃんが、飛びついてくる。そのまま踏ん張ることもできたが、ソファーに倒れ込む。
40キロもなさそうな軽い体で細く長い手足が僕を掴む。
「マスター、ボクをみて」
「わかったから、動かないでくれ」
抱き着いてくるフクちゃんに鑑定紙を当てた。
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名前:フク
クラス▼
【オリジン・スパイダーLV.測定不能】
スキル▼
【捕食】▼
【暴食LV.1】【魔王の胃袋LV.1】【簒奪LV.測定不能】
【蜘蛛(魔王種)】▼
【猛毒牙LV.50】【劇薬毒生成LV.42】【美麗回復泡LV.46】【蜘蛛の巣LV.52】
【女王蜘蛛糸LV.72】【聖糸LV.54】【切断糸LV.40】【致命の一撃LV.33】【縫製LV.46】
【上級隠密LV.88】【無音移動LV.54】【魅了LV.66】【催淫LV.17】【女王の威厳LV.53】
【邪視LV.36】【高速移動LV.40】【精密動作LV.88】【危機察知LV.40】【空渡りLV.34】
【硬化LV.30】【跳躍LV.30】【砂渡りLV.30】【水渡りLV.30】
【沼渡りLV.30】【山渡りLV.30】【壁渡りLV.30】【森渡りLV.13】
【凶化LV.30】【部位再生LV.15】【穴掘りLV.30】【爪牙強化LV.1】
【結晶糸LV.1】
【原初】▼
【自在進化LV.88】【念話LV.66】【魔人変化LV.81】
【全耐性LV.45】【環境適応LV.測定不能】【上級従魔LV.66】【花竜の加護LV.不明】
【竜人との絆LV.測定不能】
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「おお、フクちゃんも【クラス】が測定不能だ」
「えっへん。ボク、すごい?」
胸を張るフクちゃんの頭を撫でる。
「凄いぞフクちゃん。」
レベルが100以上ということだ。リザードマンを倒しまくっていたからな。
ファス達も鑑定紙を覗き込む。
「スキルが上位のものに変わっていたり、消えているものもあるようです」
「【暴食】ってのは多分【大食】の変化だよね。【消化】が【魔王の胃袋】になってるし、消化力があがったのかな? 興味深いよ」
「リザードマン食べ過ぎたのー」
叶さんが目を輝かせてスキルを指摘し、フクちゃんがそれに応える。……砦で数トン単位のリザードマンを食べてるからなぁ。これ以上食べられないとか言ってたし、そのせいで強化されてしまったのか。
「順に見ていきましょう。【蜘蛛】のスキル系統で消えたスキルもあるようです」
「いらないからポイした」
「【簒奪】で得たスキルでいらないものは消えるんだべか。そういや【邪視】のスキルはファスも持っていたべな。どんなスキルなんだべ?」
「マスターこっちみて」
「うん?」
言われるがままにフクちゃんの眼を見る。次の瞬間、心臓をわし掴みにされたような感覚に襲われ動きを封じられる。
「グッ、なんのこれしき!」
息を吐いて、無理やり首を振って視線を切る。あ、危ない、一瞬呼吸すらできなかったぞ。
「おー、マスターすごーい」
「視線があった相手の動きを封じる【スキル】ですね。レベル差があればそのまま意識を失わせることができます。ただ……使いどころが難しくて私はあまり使いませんね。視線を合わせなくても対象の行動を制限できる【恐怖】の方が使い勝手が良いです」
「ボクも他のスキルのがいい」
「フクちゃんも【女王の威厳】があるもんね。じゃあ、合わせて使ったらいいんじゃない?」
「マスター?」
「待って待って、今試さなくてもいいんじゃないか? 他の項目を見てみよう【精密動作】がえげつないレベルの上がり方してるぞ」
修行で【スキル】の実験台にされるのはバッチ来いだが、何事にも準備というものがある。
目覚めたばかりで精神に負荷のかかる【スキル】は正直キツイ。ここは話題を変えよう。
「エッヘン、練習したの」
「その成果が新技だべな、結晶竜の鱗を切り通したのを見ただ」
「【不知火】って言ってたな。……派手でいいよな……」
青い炎が真一文字を結ぶ必殺の一撃はフクちゃんの神秘的な容姿も合わさってめちゃくちゃかっこいいのだ。ああいう技が欲しい人生だった。
「ご主人様の【ツルハシ】もカッコいいですよ。それにしてもフクちゃんも刃筋を立てる技を身に着けるとは、流石です」
「マスターががんばってるから、ボクもがんばったの」
「私達が今着ている服も、フリーマーケットで買った布をフクちゃんが加工したものだしね。生産系の部分も成長していて凄いよね」
「エッヘン。カナエ、ナデナデしていいよ」
「マジっ! やったー!」
褒められて嬉しかったのか、珍しく叶さんにナデナデの許可がおりた。
叶さんが至福の表情でフクちゃんを撫でる。
「他に新しい【スキル】はリザードマンの【スキル】か……最後に物騒なのがあるな」
「【結晶糸】ですね。フクちゃんこの【スキル】はどういうものですか?」
ファスが尋ねると叶さんに撫でられていたフクちゃんが、ファスの前にあやとりをするように両手を差し出して広げる、そこには数本の薄紫の糸が張られていた。
「崩れる前に結晶を齧ったら、ちょっとだけできるようになった」
「性質を確かめます。フクちゃんそのままでお願いします」
ファスが水球を掌からだして、糸に触れさせる。糸に触れた水球はファスの制御を離れて床にこぼれる。
「間違いありません。結晶竜の魔力を弾く性質を持った糸です」
「まだ、いっぱい作れない。練習するねー」
「……他のエルフが見たら、どんな反応するんだろ?」
叶さんがフクちゃんを撫でながら疑問を口にする。
「ただでさえ結晶竜はエルフ達にとってちょっとしたトラウマだべ。パニックになると思うだ」
「ボスのスキルを吸収するのって、ゲームでは良くあるけど目の前でされるとえげつないな」
僕の数少ない個性である魔術に強いという特性をフクちゃんも手に入れました。
流石フクちゃん……恐ろしい子。
「最後に【竜人との絆】ってのがあるな。レベルも測定不能だし、どんな効果なんだろう?」
「えーとね。……約束は継がれ、絆は繋がり結ばれる」
「えっ?」「フクちゃん」「どうしたべ」「雰囲気が……」
普段の舌足らずな口調が消えて、大人の女性のような落ち着いた調子でフクちゃんが声を紡ぐ。
これは、アマウントの街でフクちゃんが一瞬だけアラクネの姿になった時と同じ……。
「マスターは人と竜を結んだの。そしてボクはマスターと『私達』を繋げるの」
フクちゃんはそこで言葉切り、ボクを抱きしめて耳元で囁く。
「伝えたはずです。愛しいマスター『私達』との『絆』は誰にも解けない、解かせないと」
「フクちゃん……」
その言葉を受け取った瞬間、肩に乗る重さが増す。
「スピー……スピー……」
「寝ちゃったのか?」
どうやら、眠ってしまったようだ。涎が口元からこぼれている。
「ご主人様、今のは一体?」
「前にアマウントでデートをした時、フクちゃんが大人の姿になって似たようなことを言ったんだ。……ずっと一緒だって、そのことを疑わないで欲しいって言われた」
「フクちゃんはオラ達よりも色んなものが見えているし、感じているのかも知れねぇな。でも、その言葉には同意するだ」
「その通りです。私達とご主人様の絆は絶対です」
「だよね。なんたってフクちゃんが運命の糸を結んでくれるんだから。これはもう勝ち確ってやつだよね」
「ハハ、うん。僕もそう思うよ。フクちゃんがそう言うんならそれは絶対だ」
皆でフクちゃんの頭を撫でる。
「ムニャ……マスター、ずっといっしょなの……」
卵の時からずっと一緒の白く小さな少女は安心しきった表情でスヤスヤと眠るのだった。
少し意味深なフクちゃんでした。アマウントでのお話は第百七十一話になります。読み返すと、フクちゃんの台詞の感じ方が変わるかもしれません。
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