第三百一話:人間卒業、吉井 真也のステータス
鑑定紙を自分に当てて、文字が浮き出るそのわずかな時間。目を閉じ合掌して神仏に祈る。
ついでに、爺ちゃんとギースさんにもお願いしとくか。
「爺ちゃん、ギースさん。派手な技、派手な技、どうか派手なのお願いします」
「真也君の【スキル】って十分強力だと思うけど」
「パッシブ(常時発動)ばかりだから、生き物として強化されているようなもんだべ。いっそ開き直ってその方向でいいんでねぇか」
叶さんとトアが呆れているが、流石にそろそろ映えを意識したスキルが欲しい。
それがダメならヒットさんの【空打】のような【拳士】として選択肢が増えるような【スキル】でもいいです。炎のパンチとかならなお良し。十分に祈ってから、薄目を開けて鑑定紙を見る。
――――――――――――――――――――――――
名前:吉井 真也 (よしい しんや)
性別:男性 年齢:17
クラス▼
【拳士LV.92】
【愚道者LV.81】
スキル▼
【拳士】▼
【拳骨LV.88】【掴むLV.90】【ふんばりLV.91】
【手刀LV.93】【竜の威嚇LV.5】【空渡りLV.39】
【呪拳(鈍麻)LV.71】【呪拳(沈黙)Lv.61】【呪拳(浸蝕)Lv.56】
【呪鎧LV.5】
【愚道者】▼
【全武器装備不可LV.∞】【耐性経験値増加LV.81】【クラス・スキル経験値増加LV.68】
【吸呪LV.75】【吸傷LV.79】【自己解呪LV.80】【自己快癒LV.88】
【呼吸法LV.75】【眷属化Lv.50】【竜人変化LV.1】【白竜の祝福LV.不明】【花竜の加護LV.不明】
――――――――――――――――――――――――
……なんか変わってる?
「前と違う部分ってどれだ?」
「【拳士】の【スキル】としては【威圧】が消えて【竜の威嚇】と【呪鎧】が追加されています。【愚道者】は……【竜人変化】が新しく増えていますね。例によってお婆さんの家の本には載っていないスキルです」
ファスが答えてくれた。いよいよ『竜』の名前が付いたスキルが出てきたのか。……ちょっとかっこいいじゃん。ニヤニヤしちゃうぞ。折角ならファスみたいに口から火とか吐いてもいいんだけどな。
「ひとつずつ確認したいよね。レベル変化から見て【威圧】が【竜の威嚇】に変化しているっぽいね」
「フクちゃんの【女王の威厳】と似た名前だべな」
「マスターといっしょー」
「フクちゃんと一緒か、【威圧】が存在感を強めて注目を集めるスキルだから、その変化かな? いつから変化したのかわらないけど、ちょっとやってみるか」
「そうですね。この【スキル】ならば、物が壊れることもないでしょうし」
ファスのお許しが出たので、意識を集中させる。かつて頭にチンパン人形を付けてゴブリンの群れ相手に戦った時に学んだこと。己と仲間を鼓舞し、敵にとっての畏れとなる戦士の立ち振る舞い。
そして、ギースさんが示したくれた技に意識を乗せる技術としての【威圧】。今回の戦いでも【結晶竜】の戦い方から学ぶことも多かった。精神に呼応し魔力が【スキル】として顕現する。
空気が張りつめ、意識が体の境界線を越えて周囲の空間に染み込んでいく。
「マスター、いい感じ」
「ビリビリするよね。大きくて、揺らがない力がいるような、ファスさんの【恐怖】のようでもあるし、フクちゃんの【女王の威厳】にも似ているけど、そのどれでもない存在感だね。……うん、【結晶竜】と向かい合った感覚に少し似てるかも」
「同感だべ。『大きさ』と『重さ』を感じるだ。もしかするとこれが『翼のある竜』がかつて持っていた存在感なのかもしれねぇな」
「ただの【威圧】とは別物ですね。注目を集める【威圧】に対して、存在感を以て、周囲を支配するようです。私の【精霊眼】の視界にすら干渉しているようなので、何か特殊な性質があるのかもしれません」
ファスの眼で見るとやはり今までと違うようだ。といっても自分ではよくわかんない。
「【威圧】と特に使用感は変わらないけどな、ただ、叶さんが言ったように【結晶竜】の戦い方に影響を受けたってのはしっくりくるかも。攻撃的な感情を持てばまた違う感じになりそうだし」
ここから先は敵に対して使わないと違いはわからないだろう。【竜の威嚇】を解除する。
「次は【呪鎧】ですね。これは先の戦いでご主人様が【呪拳】を手甲に纏わせて刃を展開するように扱ったものではないかと予想します」
「やってみるか」
「室内で下手に呪いが発動したら悲惨だから、一応結界は張るね」
叶さんが僕の周りに光の壁を張る。さて、やってみるか。両腕から流れだす【呪拳】のオーラを手甲に纏わせるイメージ。頭の中でノイズが走る。精神に負荷がかかっているのか、やはりリスクはあるようだ。自分と向き合う勇気を持って、逃げずに負荷を受け入れる。
靄のような黒いオーラが手甲に集まり凝縮されて金属のような光沢を持つ。さらに胸や背中も同様にオーラが薄い皮鎧のような形になる。
「おぉ、カッコイイ!」
叶さんがパチパチと拍手をする。
「派手かな?」
「うーん、地味!」
ガックシ、フクちゃんに断言される。まぁ、色合いも黒だしね。
「それって形を変えられるだか?」
「意識して自在に変えるってのは無理だな。圧縮されているオーラを解放する時にちょっとだけ形を操作できる感じかな。レベルが上がれば、もっと色々できるかもしれない」
鎧になった呪いのオーラを、靄のような状態に戻すときに刃の形に変える程度が精一杯だ。
「うーん、鎧にも呪いの効果はあるんだか? 効果を知るためにも実験する必要があるだ。カナエ、結界を解いてオラを入れて欲しいだ」
「私も触れてみたいです」
どうやらトアとファスはこの【呪鎧】を触ってみたいようだ。
「そだね。もし呪いにかかったら、私が解呪するよ」
「まぁ僕も【解呪】できるけど、大丈夫か?」
「何事も挑戦だべ」
「この身で体感することは大事です。それに私達は普段の修行でご主人様の【呪拳】を受けていますしね。ご主人様のおかげで【耐性】スキルもありますし」
結界が解除され、二人がゆっくりと呪鎧となった手甲に触れる。
「グッ……これは予想以上です」「うん、無理だべ」
二人が膝を折って倒れ込む。
「うわっ、叶さん。頼む!」
「うん。【星解呪】」
青白い光が、二人に降り注ぐ。一応僕も【呪鎧】を解除して二人の呪いを引き受ける。
ほどなくして回復した二人が、座り直して感想を言い始める。
「ふぅ、助かりました。……【呪鎧】は見た目のままに呪いのオーラが凝縮された高濃度の状態のようです。あくまで私の体感ですが、通常【呪拳】による呪いの付与の数倍ほどの効果があります。素手で触れるのはもちろん、武器で攻撃されれば鎧に触れたその武器にすら呪いを付与できるかもしれません。攻防に置いて優秀で非常に悪意に満ちた技です。流石ご主人様です」
「一瞬で【鈍麻】の効果で何もできなくなっただ。【掴む】と合わされば、近づいただけで相手を封殺できるだ。他にも色々使い道がありそうだべ」
「嬉しくない評価だなぁ。強いんだろうけど……」
「今まで通りに流し込むタイプの【呪拳】との併用もできるんだよね? 防御面も強化されて敵にして見れば悪夢みたいな存在だよ。やったね真也君」
「だからなんで評価が悪役みたいなんだよっ!」
「いやだって高機動、高耐久に加えて常時回復や再生、それらを突破しても【呪鎧】によって攻撃した方が呪いを受けるとか……攻撃面では【結晶竜】みたいなカチカチの相手でも、掠り傷一つ負わせれば【浸蝕】で継続ダメージを与え続けるし……ゲームで言うなら、どう考えても主人公というより敵側の能力だよね」
「……反論できない」
事実を羅列されてしまえば、すごく……敵役です。見かけもそんな大きく変わるわけでもないし……地味かつ凶悪な方向に強化されているようだ。
「最後は【竜人化】ですね。これは似たスキルで言うと身体能力を向上させる【凶化】やトアの【獣化】に近い物でしょうか? そうであれば、ご主人様にしては珍しいアクティブタイプの【スキル】になりますね」
「違うよー」
ファスの予想に対してフクちゃんが答える。
「フクちゃんはわかるのか?」
「うん、ボクの【魔人変化】といっしょなの」
「えっ? じゃあフクちゃんが蜘蛛になるみたいに、真也君も竜になれるのっ!? 素敵っ!」
フクちゃんの言葉に叶さんが目を輝かせる。素敵って……。
「違う、ボクはもともと蜘蛛。マスターはもともと人なの。ボクは蜘蛛から魔人でもある蜘蛛になった。マスターは人から竜人になったの」
首を捻る。どういうことだ? 一方ファスは成る程と手を打っていた。
「なるほど、純粋に種族としての進化が【魔人変化】なのですね。であれば【獣化】のように一時的な変化ではなく、ご主人様は人族から竜人という未知の存在へ『変化』しつつあるということです」
ファスの言葉にトアと叶さんも納得したようだ。ちなみに僕はしていないぞ。
「前々から旦那様の異常な回復力には裏があると思っていただ、人間離れしていると思っていたが、それなら理解できるべ」
「膂力とかも、レベルこみで考えてもおかしかったもんね。覚える【スキル】も普通の【拳士】とは別系統だったし」
……えっ? ちょっと待って? 僕って人間じゃなくなってるの? まぁ、前々から自分の体について覚悟はしていたけど、こうして事実を突きつけられると流石に思うことはある。見かけとか変わったりして異形になってしまうとか、そういうのは流石に嫌だなぁ。
「えと、それって大丈夫なのか? 正直ちょっと怖いというか、自分がどうなるのか不安なんだけど」
混乱している僕を見て、ファスがそっと手を握ってくる。
「大丈夫ですご主人様。私の眼にはご主人様の体は非常に安定しているように見えます。姿が変わることはないでしょう。それに……もし、どのような姿になっても、どんな存在だったとしても、私の想いは変わりません」
「あはは……デリカシーが無くてゴメンね。でも私もファスさんと同じだよ。真也君が大好きって気持ちは絶対に変わらないから。むしろ、どんと来いって言うか。後で説明するけど、真也君が眠っている間に私達にも変化もあって、ある程度予想はしていたんだ。だから、真也君を一人にはしないからね」
「不安になるのはわかるだ。だけんども、オラ達は旦那様とずっと一緒だべ。だから皆で不安をわけあうだよ」
「ダイジョブ、マスター。ボクとおそろい」
皆にそう言われると、不思議とどうにかなるような気がしてくる。元々、覚悟はしていたことだ。
僕は弱いけれど、皆と一緒なら大丈夫だと思える。
「ありがとう皆」
ファスの手を握り返すと、心の不安を溶かしていく。
うん、落ち着いて来たぞ。……まぁ、それはそれとして。
もう、内面は諦めるから。せめて立ち振る舞いは人間っぽくしよう。ただでさえ【リトルオーガ】とか言われてるんだ。周囲に誤解を生まないように気を付けよう!
まだ、間に合う。エルフの国では真っ当な人間として頑張れば良いのだ。
心の中でそう誓うのだった。
こうして真也君は地味に強くなっていきます。真也君の明日はどこだ!
ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションがあがります。更新頑張ります。
感想&ご指摘いつも助かっています。感想が燃料です。一言でもいただけると嬉しいです。






