第二百九十八話:久しぶりに
ミナ姫と別れて、自分達のテントへの帰り道。せっかくなのでフリーマーケットを見て回ることにした。
「それにしても、色々あるなぁ。ここが戦場だったとは思えないよ」
「私も驚いています。売り物としては武器が多いですね。特に弓矢がたくさんあります。魔術の本があれば欲しいです」
「オラは食材だべな。虫系の食材はクセがあって調理が楽しいだ」
「私はお茶かな。真也君が寝ているうちにちょっとだけ見たんだけど、森の恵みがたくさんあって楽しいよ」
「ボクは色付けるやつが欲しい」
「染料か、あるかなぁ」
普通に進んでいるが、周囲の視線が凄い。まぁ、メイド姿のメンバーを連れていたらそうなるか。
「フフフ、メイドという明確な主従の関係をアピールできて、嬉しいです。たまにはご主人様も自覚を持つべきです」
ファスがいじわるな顔をしている。アルタリゴノの街で、主人扱いしたことをまだ根に持っているようだ。
「慣れないなぁ。あっ、皮鎧があるぞ。サイズが合いそうなのを一つ買おうかな」
先の戦いで鎧が壊れたからなぁ。お気に入りというか砂漠の職人製なので修理したいのだけど。
露天で比較的綺麗な鎧を一つ購入する。その後も色々と買い込んでテントに戻った。
一応僕等は特別待遇らしく、テントの周囲に柵が立てられて、見張りもついている。見張りのエルフさんに会釈をしてテントに戻った。
「すぐに飯の準備をしてくるだ。外で調理しているから、待ってるだよ」
「手伝います」
「私も食器運びと洗い物なら任せて」
「おなかへったー」
フクちゃんが座り込んで指先から糸を出して手遊びをしている。
ちなみに手伝いを申し出たのだが、普通に断られました。ほどなくして皿に盛られた料理が運ばれてくる。平たいナンのようなパンと、油で揚げた虫の幼虫、最後にカレーのような色合いのスープが出される。
「見たことない料理だな」
「『ヘバイ』っつうラポーネ国の南の方の料理のアレンジだべ。『ヘバイ』はクルミを使った料理だけんども、カミキギリっつう虫の幼虫が売られていたからこれにしただ。この虫はラポーネ国でもよく食べられていて油で揚げるとナッツみたいな味になるだよ。パンにチーズとコイツを乗せて、包んでスープに付けて食べるだ」
「東南アジアっぽい料理だよね。カミキギリだけ食べてもいい? ポリポリ……あっ、本当にクルミみたいな味がする。美味しいっ」
「どれどれ……確かにナッツ系の味ですね。これは手が止まりません。レモン水とよく合います」
「ボクもー」
「いや、パンに包んで食べて欲しいんだけども」
流石叶さん、虫食にビビる気配が全くない。まぁ、いまさらか。僕もカミキギリだけ食べようと手を伸ばすが、トアが涙目でこちら見るので言われた通りに食べてみることにする。パンを持ってみると、わりとモチモチしてよく伸びる。揚げた幼虫とチーズをパンに乗せて包んでスープに付けて大きく一口。
「……美味しい。脂分というか、不思議な旨味があるな。パンにも香草が練られてるのか」
「発酵させないパンだから、カミキギリの幼虫で旨味を足しているだよ。花油も入れてるだ」
幼虫の食感がパリッとしていてモチモチなパンに対するアクセントになっているし、香辛料の効いたスープと合わさってとても美味しい。あっという間に一枚食べてしまった。
「うんうん、旦那様はいい子だな。……他の皆はパンはいらねぇんだな」
犬耳をピンと立てて、パンを手元に寄せるトアにメンバーは降伏する。
「いります。ムグムグ、うん、美味しいですね」
「アハハ、ちゃんと食べるよ。ごめんねトアさん」
「マスター、食べさせてー」
「いいぞ」
甘えてくるフクちゃんに『ヘバイ』を食べさせる。なんか久しぶりだよな、こういうの。
「どうしたのですかご主人様?」
パンに包み切れないほどの具材を乗せながらファスがこちらを見ていた。
「どうしたって、何が?」
「いえ、笑っておられたので」
どうやら無意識に笑っていたようだ、気づかなかったな。
「久しぶりに皆とのんびりご飯が食べれて、嬉しかったんだと思う」
スルリと自然な言葉が口を出る。
「……そうですか。私もご主人様と食べるトアの料理が一番美味しいです」
「私もっ! 家族感あるよね。うーん、美味しい」
「マスターおかわりー」
「はいはい」
「野菜もあるからちゃんと食べるだ。スープの味を変えることもできるだよ」
こうして、久しぶりにパーティーでの食事を堪能したのだった。
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章のタイトルは仮です(おいっ
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