第三十話:夜空を見ながら
「うめー!!」
「お芋もお肉と合わせると、おいひいれす」
(ウーマーイーゾー)
というわけで夜は焼き肉パーティーだった。実際のところボス猿の肉は血抜きが不完全なため(内臓を取る際いくつかの臓器から血が出ていた)元々の味と相まってかなり獣臭かったが、そこは欠食児童もかくやという我々である。
河の中にあった、丸い大きな石をファスの火球で火を着けた焚火に置き、十分に熱した後にボス猿の肉を置いてじっくりと焼き食べた。
付け合わせは、またしても芋である。何か他に食べるものはないか探すと、またしてもあの赤い芋が生えていたので、ついでに焼き芋にしてみた。
というか現状の調理方法が焼くしかないというのは文明人(武器も持てない蛮族とか言ってはいけない)としていかがなものか。そうはいってもサバイバルの知識なんてあるはずもなく、実際焼いたら大概のものは食べられる。しかしそろそろ汁物が恋しくなってきたなぁ。
限界まで肉と芋を食べた後、フクちゃんが警戒の為に糸を周囲に張り、戦闘の疲れもあるので寝ることにした。
うーんなぜか眠れない。ファスとフクちゃんは寝たようだ。ゴロリと寝転び木々の切れ間の星を見る。そういえばこっちに来てから夜空を見るなんてことしてこなかったな。
起き上がり、二人を起こさないように近くの木に登る。【ふんばり】と【掴む】のおかげで自分が猿になったかと思うほどにスイスイと乗ることができた。枝を押しのけ夜空に顔を突き出した。
「うっは、こりゃすごいな」
どこまでも透き通った夜にこれでもかと星が飾られていた。一応都会っ子だった身としては感動ものだ。
(オツデスナー)
フクちゃんが横にいた。まぁバレるとは思ってた。
「フクちゃん、私を置いて行かないでください。こ、ここからどうやって登れば……」
ありゃ、ファスも起きたのか。少し降りて、途中まで登っていたファスを背負い登りなおした。
「寝てればよかったのに」
「寂しいじゃありませんか」
何を当然みたいに言っているんだ、少し嬉しいじゃないか。
「そうか、悪かったな」
「そうですよ、誘ってください」
(ソラ、ナガメルノ、ハジメテ)
「そうか、フクちゃんは生まれてすぐ牢屋でその後色々あったからなぁ。綺麗だろ」
(キレイ、マスタート、ファスト、ミレテ、ヨカッタ)
僕の肩に乗っかってスリスリと体を寄せてくる。
しばらく夜空をみてポツリと告げる。
「……なぁ、二人とも。これからどうしようか?」
「? 私はご主人様と一緒にいますよ」
(ボクモ)
「ありがとう、ってそういう話じゃなくて、森からでてどうするかって話だよ」
正直今までは周囲に流されて先のことなんて考える余裕なんてなかったからなぁ。
「ご主人様はどうしたいのですか?」
「そうさなぁ、どうしようかなぁ」
元の世界へ戻る気はない、かと言って貴族の下へ戻るのも抵抗がある。勇者の当て馬にされるのはこりごりだ。
「ファスとフクちゃんはどうしたい?」
「私は、ご主人様と一緒に旅がしたいです。美味しいもの食べて、たまにこうやって景色を眺めたりとか、本に載っていた場所にも行きたいですし」
「そりゃ、いいな。せっかく異世界に来たんだから色々見なきゃ損だよな」
「あとは、強くなりたいです。もう何もできないのは嫌です。ご主人様と一緒に強くなりたいです」
空を見上げながら静かにいうファスは綺麗だった。呪いから解かれて未来への希望を語るその輝きはかつて挫折した僕には眩しいほどだ。初めて会ったあの夜に僕を見つめて生きたいと言ったその瞬間から彼女はいつだって美しかった。
僕は立ち直れているのだろうか? 自分じゃあわからないや。
(ボクハ、マスターニ、ナデナデ、シテモライタイ)
「そんなのいつだってしてやるぞ」
優しくお腹を撫でてやる。子犬のようにフワフワな感触が気持ちいい。フクちゃんはフルフルと首(上半身?)を振った。
(ホメテ、モライタイノ、モット、ツヨクナル)
「二人して強くなられたら僕の立つ瀬がないな」
いや、マジで本気で鍛えないと置いていかれそうだ。それは嫌だな。
(アトハ、ヒミツ)
「秘密だと、フクちゃんが僕に……隠し事を」
あれ? なんだろう泣きそうだ。娘にあっち行ってと言われた父親はこんな気持ちなのか。
(スグニ、ワカル、タノシミニ、シテテネ)
「わかったよ、でもちゃんと話してくれよ」
「むぅ、フクちゃん。私が一番奴隷ですよ」
(ワカッテル、ファスガ、イチバン、ボクハ、ニバンテ)
「何の話してんだ?」
「秘密です」
(ヒミツ)
まぁ二人が楽しそうだからいいか。
「さぁ次はご主人様の番ですよ?」
「何が?」
(ヤリタイコトー)
あぁなるほど、僕だけ言ってないのか。うーん、素直に気持ちを言うのは照れ臭いもんだな。
「やっぱり、二人と色んなものを見たいな。そんで二人と旨い物を食べまくりたい。あぁあと勇者にリベンジしたいな。ダンジョン攻略とかも興味あるし、せっかくだから武道の練習を本気でやってもいいな。なんだ、僕も強くなりたかったのか」
思えば勇者に負けた時は本当に悔しかった。ギースさんから貰った手刀の型も全然使えなかった。
「お揃いですね」
(オナジー)
「そうだな、なんか言うこと言ったら眠たくなったよ。降りるか、よっと」
(ピョーン)
「えっ、ちょっと、私一人じゃ降りられませんよ!!」
涙目になったファスを回収して、寝転ぶ。具体的にどうするか決まらなかったがなんとなく方針は決まった気がする。
今度はすぐに眠りに落ちた。
翌日、川を辿り森を進む。ファスは大分体力がついたようで特に苦労した様子もなく歩いている。順調だと思っているとファスが警告を発する。
「ご主人様、しばらく先に魔物がいます。マドモンキー程の大きさですが魔力は少ないように思えます」
「具体的な距離は?」
「しっかりとはわかりませんが300メートルほど先です。数は10体ほどの群れのようです」
「迂回できそうか?」
「敵の索敵能力によると思います。遮蔽物がなければ姿の確認ができるのですが」
説明しよう、ファスさんは魔力を感知することにより直接視界に入らない存在も察知できるのだ。便利だなぁ。魔物じゃない動物などもわかるようです。
「むやみに殺生するのはよくないよな、迂回の方向で、見つかったら戦闘でいいかな」
「いえ、あの、すみません。ご主人様、訂正します。魔物の魔力に交じって人の魔力を確認しました」
「げっ、マジか」
「襲われているように思います!」
「先に行くわ、ファスはフクちゃんと来てくれ」
手甲を締め直し、全速力で川を辿る。クネクネ曲がる川を行くと先に生き物の姿を確認した。あまり大きくないな。130から140㎝くらいの体長で肌の色は緑、小さな棍棒をもっている子供というような感じだ、というかこれって。
「ゴブリンか」
勢いをつけた前蹴りで頸を蹴り抜く、相手の骨が折れる感触がした。
「「「「「ギギイィイギ」」」」」
他のゴブリンがこちらを見る。持った棒の先に布切れが散乱し茶髪にケモノ耳が生えた女性が倒れていた。胸が上下しているので死んではないようだ。【吸傷】をするのは二人が合流してからだな。
【呪拳:鈍麻】を発動する。ボス猿は呪いに耐性があったがゴブリンには有効だろう。
「「「「「ぎゃあああきゃあああああ」」」」」」
「うるせーよ」
一斉に向かってきたゴブリン達の先頭を固めた拳骨で殴打する。あっけない程に頭蓋が割れる。マドモンキー達よりだいぶ弱いな。連携もしてこず正面から向かってくるだけだ。
そのまま二体目、三体目と殴り殺す。敵わないと思ったのか他のゴブリンが逃げようとするが、他の仲間がいたりしたら厄介だ。背を向けた相手を【ハラワタ打ち】で仕留め、残りを引き崩しや入り身投げで転倒させる、呪いの効果か上手く動けないゴブリンを踏みつぶした。
マドモンキー達を狩りまくった成果がでたようだ、というか個の力でも大分弱いような気がするな。
「しまった。鑑定すればよかった。っとそれどころじゃない」
怪我人がいるんだった。
『ご主人様、大丈夫ですかぁ!』
少し遠くでファスの声が聞こえる。
「大丈夫だ、怪我人がいるからすぐに来てくれ」
すぐに合流し周囲の敵を確認する。【吸傷】で動けなくなってしまったら共倒れだからな。
フクちゃんはファスのローブに引っ付いてた。
「周囲に敵はいないように見えます」
「了解」
そう言いながら、獣人の女性に近寄り状態を確認する。
「おいおい……」
「ひ、ひどい」
体を守るようにうずくまったその腕や足は殴打の跡がある。しかし問題はそこではなかった。
その顔は大きな古傷がありまともな処置もされなかったのか傷が盛り上がり酷いものだった。
「とりあえず。体のダメージだな」
青くなった打撲痕に手を当て【吸傷】する。というか何だこれ、ファスの呪いの時みたいな量のダメージを感じるぞ。新しい傷だけではない、長い時間をかけ体に蓄積された、骨と臓器を歪めるほどのダメージを感じる。この場で一度にこれを引き受けるのは無理だ、それでもできるだけ引き受けよう。
深く息を吸って細く長く吐く。最近していなかった痛みに耐える呼吸だ。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「あぁ、レベルが上がったおかげかまだまだいけるぞ」
呪いの耐性よりも傷を引き受けるほうが容量はあるようだ。
新しいダメージはあらかた引き受けた。残りはこの体のダメージだ、気合入れていこう。体に残る深いダメージに手を伸ばそうとすると、獣人の意識が戻った。
「……ここは? オラは……ゴブリンに……」
「起きたか、もう大丈夫だぞ。今怪我を治してんだ」
「大丈夫ですか? 楽な姿勢をとりましょう」
「だ、大丈夫だ。怪我は……な、治ってるだ」
体を起こし、確認をしているようだ。いやいや、ここからが本番だから。
もう一度【吸傷】しようとすると、獣人の子は顔に手を当て何かを確認した。
「か、顔当てがないだ。オラ、あれがないと、み、見んでくれな」
「あー、そういや、布が散乱してたな。大丈夫だから、そう焦るな」
「そうですよ、私なんてもっと酷い顔でしたよ」
そう宥めても、パニックになって話を聴いてくれないので僕のシャツを破って渡すとそれを顔に巻いて、少し落ち着いた。
「ご、ごめんなさいだ。オラ、こんな顔だから。人様に見られるのが怖くって怖くって」
「わかります。すごくわかります」
ファスが頷いていた。なるほどなぁやっぱり顔って気になるよな。
「よしきた。体から治したほうがいいと思ってたけど顔の傷から治すか」
「治すって、そういや、ゴブリンに殴られた傷が治ってるだ。あなた様は神官様だべか?」
「いや、そういうわけじゃないけどな。ただ傷を引き受けるスキルがあるんだよ」
「はえ~なるほど、傷を引き受けるスキル……えっ、じゃあオラの傷は」
「僕が引き受けた。あぁでも大丈夫だ、自己回復のスキルもあるから」
うん、なんかこの子いい子っぽい。治してあげたいな。
「だ、ダメだ!! オラなんかの傷なんて引き受ける必要なんてねぇべ、どうせ、死ぬつもりでここにきたんだし」
それは聞き捨てならんぞ。
「死ぬつもりか、穏やかじゃないな。話を聴こうじゃないか」
死ぬつもりで森に入ったか……どこかで聞いたような話だな。
まずは名前を聞かなきゃな。
遅れてすみません。次回宿場町に行きます。
おっと私としたことが大事なことを忘れていました。新キャラの獣人ですが、犬の獣人です。高身長巨乳です。
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