第二百八十四話:戦場に現る
砦の内外で蹂躙が起きていた。砦の上層では蜘蛛の女王が巣を展開し、砦の外では氷華の魔女が白の樹海でリザードマンを飲み込んでいく。
そして、砦内の攻防も激化している。
「モグ太っ! この壁を壊せば、王族の通路に繋がりますわ。硬い岩盤ですが、皆で突破しますのっ! 他のモーグ族は結晶壁を避けて横穴を拡張し、瓦礫を結晶竜に落とすのですわっ! トアさんは上層への退路を確保してくださいまし。次の横穴への移動も選択肢にいれて動きを指揮します」
「任せるだっ。皆には指一本触れさせねぇべ」
「微力ながら、お力添えをいたします」
横穴へ隠れていたリザードマンが、結晶竜を援護しようとやってくるが狭い通路の為に数の利を活かせず、トアの手斧とメレアの衝撃波で捌かれていく。
「モグモッ」
「「「モグゥ!」」」
モーグ族達が穴を掘り進めて、瓦礫をまた一つ落とす。
「ギィ……ギィガァアアアアアアアアアアア!!」
結晶竜は怒り狂っていた。体に纏わりついていた黒い呪いは勢いを失っている。
この無敵の身体には傷一つついていない。しかし、確かに鈍い痛みが体の奥底に響いていた。
それ自体は喜ばしいことだ。やはり彼奴は王たる自分の宿敵であった。しかし、妨害されている現状を受け入れるのは屈辱だ。指示を受けたはずの群れは役に立っておらず、降り注ぐ瓦礫は煩わしい。
「ギガアアアアアアアアアアア!」
一声上げた結晶竜はその巨大な腕を砦の壁に突き刺す。
すると、電気が通ったように紫の光が増していく。壁を登り、砦中の結晶が明滅を激しくさせた。
砦内の振動が激しくなりミーナ達も異変に気付く。
「なんだべっ!?」
「結晶竜が魔力を流しています。何かするつもりです」
リザードマンを相手しながら、周囲を観察するトアとメレアの後ろでミーナは砦を駆ける魔力の流れを見つめて、その表情を引きつらせた。
「……光の流れに法則がありますの。まさかっ!? モーグ族の方々、急いでくさだいましっ! 結晶竜はこの吹き抜けそのものを崩すつもりですっ! 鉱山砦としての原型が残る前方部分へ移動しないと、全員生き埋めになりますわっ!」
「モグウゥ!?」
「自分の群れもお構いなしだべか。今から通路を登って上層から前方への避難は間に合わないだな」
「王族の通路は強固な造りになっているはずです。この横穴を掘りぬいて通路まで進むしか道はありません」
メレアの言葉を聞いたトアはすぐに意識を集中して、フクへと現状を伝える。
「フクちゃんっ! 聞こえるだかっ? 砦後方の吹き抜けが崩れるだ。上層部分の人達も砦の前方か外へ避難するだっ!」
トアが言葉と一緒に【念話】を飛ばすとすぐに返答が帰って来た。
(聞いてる。冒険者にも伝えた。ボクはそっちへ移動してる)
「上層の冒険者達にも伝えただ。オラ達も急いで避難するだよ」
瓦礫を落とされることが屈辱ならば、いっそ自分から砦ごと破壊して全てを巻き込む。
それが結晶竜の答えだった。自分も飲み込まれるが、例え山が崩れようともこの身体に傷はつかない。瓦礫をかき分けて宿敵を追いかけよう。
通路が崩れ、横穴も崩壊していく。その中で全てのモーグ族達がツルハシで穴をほり瓦礫を運び出す。
一方で横穴の外ではリザードマン達が自分達がどうなろうとも知ったことではないと、穴へ押し寄せてくる。
「「グルァアアアルルルル」」
槍も捨て、その身一つで飛び掛かって来る様子はこれまでになく鬼気迫っていた。
「チィ、邪魔をするんじゃねぇだ! 【飛竜斧】っ!」
トアは身体能力を向上させる【獣化】を発動。全力の投擲は暴風を纏いリザードマンをミンチにしていく。
「メレアっ、一旦こっちに戻りなさい。掘った瓦礫を魔術で穴の外へ飛ばすのです」
「かしこまりましたミナ様。トア様、ここは任せます」
メレアがスカートの裾を持って横穴の奥に進み、溜まっていく瓦礫を穴の外へ飛ばしていく。
その横では数匹のモーグ族が糸玉になった真也を持ち上げて運び。残りは全員で穴掘りを進めていく。
「おまたせー」
ほどなくして、フクが一行に合流。トアと二人でリザードマンを殲滅するも、砦の壁が大きく崩れ通路も底へ落ちていく。
「フクちゃん。糸で横穴の補強してくださいましっ。モグ太っ、もうひと踏ん張りですっ!」
「あいあいさー」
「モグゥウウウウウウウ!」
「急ぐだっ。もう持たないべっ!」
吹き抜けは原型を失い横穴も巻き込こんで、蟻地獄のように周囲を巻き込んで崩壊していく。
崖が迫っており、後方数メートルといった所で、モグ太のツルハシが壁を貫通した。
「モグゥウウウウ!」
「全員飛び込みますわぁああああああああああああ」
「間に合いません。……モーグ族を押し込みます。【衝波】」
「「モキャアアアアアア!?」」
「旦那様っ、投げるだよぉおおおおお!」
「わー。すごーい」
メレアが衝撃破で群れを無理やり通路へ押し飛ばし、怪我人であるはずの真也はトアに放り投げられ、フクはどこか楽しそうに通路に飛び込む。
元々、無理やり変形させていた構造を結晶で維持していた砦の後方部分は、轟音と共に崩れ、建物としての原型の残る前方部分を残して崩壊していく。
そして崩れた結晶が再び集まり土台として新たに形を作っていく。
外と繋がった瓦礫の山を強く踏みしめ、結晶竜が戦場に姿を現した。
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