第二百七十八話:敗北の1ラウンド
開手の構えから、腕をたたんで拳を握る構えに変える。重心を爪先に乗せてすぐに動けるように膝を曲げた。正直に告白しよう、めっちゃコワイ。
挨拶代わりの吠え声の大きさだけでも、結晶竜の強さがわかる。これほど緊張したのはいつ以来か……。多分、いや、確実に僕よりつよいなコイツ。
「フクちゃんっ! 皆とモーグ族を頼むっ! 上層のエルフも助けないとっ!」
「いや、マスターといる」
「なんでもするから……頼むよフクちゃん。お願いだ……」
「……すぐに戻る。マスター、死んだらコロス」
「絶対に生き延びるっ。約束だっ!」
フクちゃんが大蜘蛛の姿に変わり、ミーナさん達を糸で吊り上げる。
「ダメ……逃げるのですっ! 放しなさいフクちゃん、ダメですっ! 死んでしまいます。シンヤ殿、シンヤ殿っ! 戦ってはダメなのです!」
「モグモォオオオオオオオオオオオオ」
ミーナさんとモグ太が縛られながら暴れている。二人は結晶竜に砦を襲われた時にこの場にいて、仲間を置いて離れている。その時のことを思い出しているのかもしれない。
「必ず生きて帰ります! 待っててください!」
「ミナ様とモグ太様は……私が抑えます」
「メレア……やめっ……」
メレアさんが掌から蔓を出してフクちゃんの糸に追加してミーナさんとモグ太をフクちゃんに固定する。そのままフクちゃんが八本の足でモーグ族がいた横穴に消えて行った。
「……待っててくれたのか?」
結晶竜は真っすぐにこちらを睨みつけている。無視されるものと思っていたが、どうやら敵として見ていてくれるようだ。ならば、僕が引きつけてその隙に皆を脱出させる。
……上層にはまだ石になったエルフ達もいる。この広場で釘付けにしてやる。
呼吸にすら気を遣う、意識を研ぎ澄ませ後の先を取るために脱力を意識する。
「ギィイオオオオオ」
結晶を踏みながら巨体が一歩前に踏み出した。と思ったら、そのまま体を回転させる。
背ビレのような背中の結晶が見えたと思ったら、地面から巨大な尻尾が持ち上げられた。
「やっばっ!?」
僕視点では側面からの不意打ちだった。飛び上がれば軌道を修正される。
ギリギリで受ける。……目の前には剣山のような結晶の鱗を纏う尻尾が視界一杯に広がる。
……これを受けるのか。死の予感が時間を圧縮する。
【ふんばり】では潰されて串刺しだ。窮地にとった手段は『諸手取り』一番近い結晶を取って膝を抜いて脱力。【空渡り】を発動させて、力の向き……『刃筋』に体を乗せて尻尾の軌道に合わせて自分から吹っ飛ばされる。
ピンボールのように、広場の壁に向かう。当然壁にも結晶だ。足先を当てて【ふんばり】で体を固定してギリギリで止まる。
「ハァ…ハァ…今ので、二回は死ねたぞ……」
風船鯨での修行がなければ、尻尾で串刺しか壁に飛ばされて串刺しだ。あの尻尾はヤバすぎる。
紙一重の受けが何度も成功するとは思えない。
「受けきれない……か」
ならばやることは一つ。
「推して参る!」
活路は刃の下にある。攻めるしか道は無い。壁を蹴って、広間の壁を垂走る。時間制限のある【空渡り】を使って着地の隙は晒せない。
【ふんばり】で壁を移動しながら【空渡り】は飛び石のように合間に使う。
この広間ならば動き回って注意を引ける。フクちゃんならば、絶対にモグ太達を安全な場所に連れて行ってくれる。だから、僕はここでコイツを引きとどめる。
幸い、速度はこちらの方が上だ。結晶竜の背後壁に回り、思いっきり壁を蹴るっ!
「ヌゥウウウウウウウウウウウウ」
ツルハシ振りで習得した『刃筋』を立てた。手刀をうなじに振り下ろす。
ミシリとひび割れる音。……砕けたのは僕の右腕だった。
「ギィオオオオオオオオオオオオオオオオ」
「チィ!」
骨折の痛みに怯む暇なんて無い、すぐに首を回して噛みついてくる。肩を蹴って宙返り。
歯で留め金を噛んで手甲を締めることでギブスのように固定する。治るまで数分はかかるか。
「今のでもダメか……」
渾身の手刀だった。実際、紫鱗種の鱗は貫けたはずだ。結晶壁だって今の手刀ならば砕けただろう。
つまり、結晶竜の鱗はさらに固いってことだ。……ならば次の手だ。左の拳を強く握った。
壁に立つ僕に結晶竜の尾が振り下ろされる。回避しながら、地面に降りる。結晶柱の間を【流歩】で移動しながら、股の間に入り込む。関節部分は鱗が薄いだろうという予想だ。
下から股間に打ち上げる形で拳を叩き込む。
「ハラワタ打ちぃいいいいいいいいいいいい」
【掴む】を最大限に展開して最も深くに衝撃を叩き込む。一瞬、結晶竜の動きが止まる。
いつものような内臓を潰すような感触は無く、ひたすら固い塊がそこにあった。
……内部まで……固いのか。
「ギィ?」
下を覗き込む結晶竜は紫の瞳を細める。その感情は読み取れない。そしてその両手を地面に突き刺した。体重で潰す気だ。
「上等ぉおおおおおおお」
掌底でそのまま殴り上げる。一瞬拮抗するも、質量に耐え切れずそのまま潰される。
い、息ができない。そのまま目の前の結晶が波打つ。……嘘だろ。
「ギィガアアアアアアアア!!!!」
結晶の柱が生えてくる。吊り天井の槍衾のようだ。
「それ、生やせるのかよっ!」
変化の為の隙間に入り込む。転がりながら這うように、ギリギリで脱出。
転がって振り返ると、ブレイクダンスのように背を回す結晶竜の尻尾の横殴りが飛んでくる。
ギリギリで結晶の先端は逸らすが、背後に跳ぶこともできずそのもまま殴られる。
「ガァっ……ブフゥ」
アバラが何本か砕ける。内臓がひしゃげて血が鼻と口から流れ出た。【掴む】と【ふんばり】で地面にしがみついて壁との激突を止める。
不味い、止まったら受けれない。立て、立て、走れ。しかし、足に力が入らない。
見ると……太ももの一部が抉れていた。
結晶竜が蜥蜴のように這って近寄って来る。回復は……間に合わない。
片足に重心を乗せる。激痛は頭痛に変わり危険信号を鳴らす、ここで諦めたならギースさんに笑われる。足が折れようとも、腕を砕かれようとも、戦えるように鍛えてもらったはずだ。
「僕はっ! ギース・グラヴォが弟子、吉井 真也だっ!」
【呼吸】を発動し、体幹を揃える。振り下ろされる前の手のその爪の先に前髪を触らせるほどにギリギリで躱す。衝撃で吹っ飛ばされるが生きている。
ミーナさんとモグ太はこの化け物に襲われても、再びこの砦に来たのだ。
仲間を見捨ててしまったと自らを責めて、救うために恐怖に耐えてこの場所に来た。その二人に同じような思いをさせるわけにいかない。ファス、フクちゃん、トア、叶さんの姿も浮かぶ。ここで死んだら、皆に殺されるぜ。アイテムボックスからポーションを取り出し一口飲んで残りを傷口に掛ける。
メレアさんから引き受けた呪いが傷口からジクジクと染み出てくる。それが血なのか魔力なのか判断もできない。ただ熱い。抉れた太ももの傷は塞がった。折れた腕の骨も……繋がった。
攻め手は効かない、受けは無い。
だけど生きている。僕等は死にたくないんだ。そうだろファス?
あぁ、会いたいな。絶対に生きて会うんだ。
全身から洩れた血と呪いが体に張りついてくる。
心臓がバクバクと動いて指先まで熱を伝える。一ラウンドはそっちの勝ちでいい。
だけど、手札は見たぞ。必ず攻略の糸口を見つけてやる。
「【呪拳】」
両の拳に呪いを乗せて再び結晶竜に向かって、構え直す。
さぁ、第二ラウンドといこうか。
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