第二百七十五話:再会する二人
砂漠の地下で子供達から呪いを引き受けたことがあった。詳しく覚えていないが、その時にも似たような夢を見た気がする。霧に飲まれたかのような中で、翼を持った竜の影が形を変えながら投影されているのだ。徐々に記憶が鮮明になっていく、そうだ、どうしてか忘れていた。砂漠ではこの影達が語り掛けてきたんだ。
『……吾輩の呪詛の成れの果てが、矮小な人間とは……この牙が届くのであれば女神の喉笛を引きちぎるものを……』
耳障りな棘を持つような男性の声が響く、こっちも何か喋りたいが口は動かない。自分の身体すらあやふやで実体がないようだ。
これは夢なのだろう。しかし、今の状況を鑑みるに重要なことなのだ。この国に来た本来の目的、ファスの生まれに関することと僕が【竜の後継】と呼ばれたこと。そのことに関係していることは明らかだ。なんとか問いかけられないかと、身もだえする内にも影は形を変えていく。丸みを帯びた羽毛を思わせる影の形。
『わらわの祝福は馴染んだようですね。そして、私の『子』の祝福も感じます。【花竜】の……あの子の優しい香り……』
その姿は見えないが、老成された優し気な女性の声が響く。
そして影は形を変える。それまでで一番大きな翼の形、熱を帯びた低い男性の声。
『我らの声が聞こえているのだろう。この土地の呪詛……それを受けるに足る器となっている。白竜姫の読みは正しい。我らの意図しない新たな可能性が芽吹きつつある。……腐黒竜よ、かつての貴様の土地をこのままにしておいてよいのか?』
影が変わり、棘の生えた長い首と頭部が僕の目の前で口を開く。
『吾輩の『祝福』は、忌々しくも賢者の血族に受け継がれている。……今更興味など無い。……が、吾輩の縄張りで蜥蜴ごときが『竜』を冠することは、確かに不快ではある……か』
チロチロと舌を出し、影が僕を挑発しているようだ。そしておそらくだが影の主はニタリと笑った。
『……よかろう。貴様を試してやる。我が『呪詛』を飲み干して見せよ』
影がより大きく口を開け、僕を飲み込んだ。
「――シンヤ殿、起きてくださいまし。シンヤ殿っ!」
「マスター。起きる」
「モグゥ、モグッ」
激しく体を揺すぶられている。バチンバチンと両の頬を叩かれた所で、激しく咳き込んだ。
「ガハッ、ゼェ、ハァ……い、痛い」
「お、起きましたわ。グスッ、もうダメかと……あんな大量の触手が体に入って……ふぇえええええええええん」
「ん、マスターはダイジョブ。ミーナ、うるさい」
「モグヌヌヌ」
涙と鼻水でグチャグチャのミーナさんに抱き着かれる。もうめちゃくちゃだ。なにか夢を見ていたようだ。夢の内容はうっすらと輪郭があるが、内容を詳しく思い出せない。何かに試されるとか? そんな感じだったような。頭を振るが、どうにもぼやける。呪いを引き受けた影響だろうか。
「って、呪い!? ミーナさんとメレアさんは大丈夫なんですか?」
ミーナさんを引き離して、周囲を観察する。壁には倒れた監督と呼ばれたエルフ、そしてミーナさんの後ろにメレアさんが横になっていた。
「私は大丈夫ですの。あのメレアからでたあの触手は私には触れていません。しかし、メレアの意識が戻りませんの……このまま二人共倒れたままだと思って……グスッ、でもメレアの呼吸は落ち着いていますわ。顔色もどんどんよくなっていますの。問題なのは貴方です、今にも死にそうな血色で息だってあんなに細くなって……」
「慣れたもんです。メレアさんの様子を見ましょう」
「絶対に大丈夫じゃないですわっ!?」
ファスの呪いを引き受けた時に比べれば軽いもんだ。額に触れて【吸呪】をしてみるが、手ごたえがない。どうやらあの気味の悪い呪いはなくなったようだ。ということは……。【吸傷】で疲労を引き受ける。
「……マスター」
フクちゃんにジト目で睨まれる。しかし、ここでメレアさんの意識が回復することは大事だし、多少ダメージを引き受けても仕方がないと思うんですよ。
「仕方ないだろフクちゃん。止められてもこればっかりはやるぞ」
「ファスに言うから」
「……なんでもするからそれだけは、許してください」
白旗を上げる。また無茶をしてダメージの引き受けをしたとファスにバレれば、地獄の修行に移行してしまう。とか言いながらメレアさんの身体に残るダメージを引き受けると、微かに呼吸が乱れて瞼が動いた。すぐにミーナさんが駆け寄る。
「メレアっ。起きて、私です。ミナです、貴女を助けに来ましたの」
メレアさんの頭を膝にのせて、髪を撫でる。ゆっくりとメレアさんの瞼が開いた。
「ミナ様……どうしてここに……」
「あぁ、メレア。私の大事なお友達……会いたかった」
ポタポタと水滴が落ちる。下から涙が掬い上げられ、頬に手が置かれた。
「また泣いておられるのですか……ほら、涙を拭いて」
「あ、貴方も泣いていますわ。メレア、メレア……」
起き上がった二人のエルフは深き抱き合い再会を喜ぶ……。
「マスター、なんで泣いてるの?」
「……こういうの弱いんだよ」
「モグ……」
状況はまだまだ油断ならないが、せめてこの一瞬だけは二人の邪魔はしなくてもいいだろう。
夢のことははっきりと思い出せない真也君です。
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