第二百七十三話:奇妙な頭痛
横穴の奥では喋るリザードマンがモーグ族達に穴を掘らせているらしい。
「……リザードマンって喋ったりします?」
とりあえずミーナさんに聞いてみる。もしかしたら、僕が知らないだけかも。
「そんなわけないですわっ。一般的な『ヒト』の言葉は話しません。独自の文化や言語のようなものはあるようですが、複雑なことはできないはずですの」
首を振って否定される。そりゃそうか、そんな頭が良さそうなリザードマンがもっといるのならこんな戦争にはならないはずだ。
「ですよね。となると変異した魔物か、砂漠の時のように人間が変化したものか。どちらにせよ、そのリザードマンが『監督』と呼ばれていることは間違いなさそうだな。モグ太は砦にいた時に会ったことはあるか?」
「モグヌイ」
「知らないって」
モグ太も知らないと首を振る。後から来たか、変異したのか……。
「一度方針を話し合いましょう。砦の大まかな侵入経路は把握しました。このまま撤退して、冒険者ギルドの応援を待つこともできます。って自分で言ってなんですけど、無理ですね」
こんな話をしている後ろでモーグ族達は、鞭の音に怯え穴を掘らされている。
ミーナさんの友達も目と鼻の先にいるのだ。このまま手ぶらで帰るなんてありえない。
「そうですわ。恐ろしいですが、拷問の指示が送られる程に敵は焦っていますの、メレアやモーグ族達には時間がありませんわ」
「モグムっ」
「全部、コロス」
満場一致だ。冒険者達の応援を待たずに救出作戦を行うこととなった。
「じゃあ、決まりですね。奥の『監督』が現場を仕切っているのなら、メレアさんのことも知っているはずです。頭を押さえればモーグ族達をつれて隠し通路まで行けるかも。最後に道順を確認しましょう」
「侵入用の地図は、ハルカゼに渡しましたが、頭にはバッチリ入っていますわ」
「ボクの糸もある」
「モグノ、ムムヌゥ」
フクちゃんは歩いて来た道の全てに糸を張ってくれている。マッピングが得意なミーナさんもいるし、モグ太も胸を叩いている。土地勘があるモーグ族ならば問題はないだろう。
……むしろ僕が一番迷いそうじゃないか? 地面に石で道順を書いて、最後に確認する。
「じゃあ、奥に行きましょう。何があるかわからないけど、基本的に僕が前衛でフクちゃんは二人を守ってくれ」
「イエス、マスター」
軽い調子でフクちゃんが了承する。しかし、その言葉とは裏腹にフクちゃんの集中が研ぎ澄まされていくのがわかる。
流石フクちゃん……恐ろしい子。岩壁を伝いながら時折、二人を持ち上げて壁を移動しつつ奥へ向かう。道幅は徐々に狭くなっていくが、穴掘りの途中で掘るのを止めた場所や砕かれた岩が積み重なっている場所も多く、なんとか隠れて進めている。いったいどこまで続いているんだ?
「何か聞こえますわ……男性の声ですの」
「僕にもわかります。フクちゃん、監督がいる場所に近いのか?」
「もうすぐ、ん、向こうから来た」
「全員伏せてっ!」
小声で指示を出す。足音とダミ声が大きくなった。
「また、結晶壁だっ! いったいいつになったら聖地にたどり着ける。忌々しい……別のルートを探さなきゃならん。なぜ【神官】である私がこんなことを……これから姫への儀式で手一杯だと言うのに。今日は止めだ、肉と酒を出せ、毛むくじゃら共は砕いた岩を運び出せっ!」
ゴニョゴニョと聞き取りづらいがずっと文句を言っているようだ。どうやらこの先の道で行き詰まったらしい。ただ、聞き捨てならないことを最後に言ったぞ。
「今、姫の儀式といいましたの」
「僕にも聞こえました。つけて行けば、メレアさんに会えるかも」
偶然だけど、これで囚われのモーグ族とメレアさんの居場所がわかる。つい拳を握ってしまう。
穴掘りから始めてようやくここまで来た。隠れていた瓦礫から慎重に顔を出して『監督』を確認する。
「まったく、何も上手く行かない……」
そこにいたのは、見た目が違うリザードマンだった。まず小柄だ。身長は170㎝ほど、良く知るリザードマンのように前傾ではなく背筋を伸ばして歩いている。ズングリムックリと言った印象だ。正直あんまり強そうじゃない。
監督はそのまま、横穴の入り口付近のエルフと合流して話を始める。
「左周りは全部結晶だ。今日は城伯から指示はあったか?」
問いかけにエルフの男が答える。
「いいえ、監督。上で何かあったようです。さっきからリザードマン達が叫んでいます」
「ん? 待ってろ。【解除】」
「「!?」」
僕等は息を飲む、それまでリザードマンだった監督の姿がエルフに変わったのだ。
壮齢のエルフだ。短髪で顔には深い皺が刻まれている。エルフにしてはやや筋肉質な体つきだな。
姿がかわるから、ゆったりした服を着ているのか。
「フゥ……やっと戻れた」
「やっぱり、エルフの姿の方が楽なんですかい? リザードマンと話すのなら【解除】しない方がいいのでは?」
「俺は蜥蜴の仲間じゃない。まぁ魔物姿の方が爽快だがな。ただ、お前らが飯に見える」
「そりゃおっかない。俺達も早いとこ【カルドウスの加護】ってのが欲しいもんです」
「なに、すぐさ。蜥蜴と話してくる」
エルフの姿になった監督が、城伯が持っていたものと同じ懐中時計のような呪具を取り出して手に持つ。何をしているんだ?
横穴から出て、呪具を構えているとリザードマン達が寄って来た。どうやらあの呪具を使って意思疎通をしているようだ。何を話しているかはわからないが、その表情が赤く染まっていく。すぐに横穴まで戻って来た。
「おい、全員。武器を持て、侵入者だ。城伯がやられたらしいぞっ!」
「城伯がっ! どうするんですかい!」
「馬鹿野郎っ! 【蛇姫】が【勇者】を連れて来る前に成果を上げないと、俺達は終わりだ……姫の元へ行くぞ、もう一度儀式をしてみる。どうにかしてダンジョン化を達成する。多少強引な手段も使わざるをえん」
ミーナさんと目を合わす。姫の替え玉になっているメレアさんの場所へ行くようだ。
チャンスだ。このまま、囚われたミーナさんの友達を助けよう。
全員とアイコンタクトをして、移動しはじめるエルフについて行こうとするが、足が止まる。
「あれ?」
後ろ髪を引かれるといった表現が正しいのか……横穴の奥から何かに呼ばれた気がするのだ。
そして、自分はそれに答えようとしている?
『………………』
頭の中で何かが蠢くのを感じる。怒り? 悲しみ? 自分でもわからない微かな感情が微かな頭痛となって何かを訴えてくる。
「シンヤ殿? 大丈夫ですの?」
「えっ、あぁ。はい、すみません」
頭を振る。違和感は消失し奇妙な感覚も消えた。何だったんだ?
後ろを振り向けど何もわからない。首を振って気持ちをリセットする。今は囚われた人の救出が優先だ。
そろそろ、物語が動き出します。ファス達もしっかり書いていきたいですね。
更新頻度があがらなくて申し訳ないです。
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