第二十七話:新技?
腹が減っては戦はできぬ。というわけで、燃えそうな枯れ木を適当に集めてみた。無論芋を焼くためにだ。
「じゃあ、ファス頼む」
「はい、……スゥウウウ」
ファスが思いっきり息を吸って、ホッペを膨らませた。なんかワクワクするな。
「息吹!!」
と叫んだだけでフーと息が出た。
「……不発だな」
「おかしいです。確かに技名を言っているのに」
「あのボス猿に向かって火球を出すときはスキル名は言ったのか?」
確か【空刃】のようなアクティブなスキルは発動に名称を言う必要があったはずだが、あの時はそんな声聞こえなかったな。
「いえ、言ってないと思います。となるとパッシブのスキルなのでしょうか? そんな感じはしないのですが」
「確か叫んでたよなガオーって」
二人で首をかしげていると葉っぱを組み合わせて謎のオブジェを作っていたフクちゃんが寄ってきて言った。
(アノワザ、ボクトオナジ)
フクちゃんと同じ?
「つまり、魔物のスキル発動と同じってことか、竜魔法というくらいだからそういうこともあるのかもな」
「だとすれば、スキル名を言う代わりにあの咆哮が必要なわけですね、わかりました。コホン……スゥウウウ、がおー」
両手を前に突き出して、「がおー」と叫び続けるファス。何この可愛い生き物。
結局のところファスが火を吹くことはできず。ボリボリと生の芋を食べることになった。食べられないことはないが味は良くない、侘しい気持ちだ。
個人的にはファスが可愛かったので問題ないが、またファスが凹み始めたので、三人で芋を食べながら意見を出し合うことにする。
「ボリ……ボリ……フクちゃんはいつもスキルを使うときどんな感じなんだ?」
(ウーン、ヤルゾー、ッテカンジ)
芋を齧りながらそう言ってくれた。気持ちが大事なのか。その方向でアドバイスしてみた。
「なるほど、つまりあの時の気持ちを思い出して、やってみればよいのですね……」
ファスは齧っていた芋を脇に置いて、目を閉じて瞑想をしているようだ。
芋を食べながら見ていると、何かブツブツと言い始めた。
しばらく、ブツブツと何かを言っていたかと思うと魔力が高まっていくのを感じた。
「ファス、大丈夫か? ちょ、なんか怖いんだが」
目を閉じブツブツ言いながら魔力を高めていくファスさん。話しかけるが集中しているのかまったく反応が返ってこない。
(イイカンジー)
言ってる場合か。高まる魔力に危険を感じ、芋を離さないフクちゃんを抱え上げ少し距離をとる。
「ガァアア!」
短い吠え声とともに黒い火球がファスから吐き出された。俺の方に向かって。
「そんな気がしてたわ!!」
安定と安心の横っ飛びで回避。正直この異世界に来て一番成長した技術だと思う。【横っ飛び】とかいうスキルがないのが悔やまれる。前回り受け身をとって立ち上がる(フクちゃんは抱えたまま)。火球が進んだ方向をみるとそれなりに太めの生木が完全に折られていた。幸い炎上はしていないが大した威力だ。
対象に衝突し、爆発する火球か。
「だ、大丈夫ですか!?」
「なんとかな、距離を取っておいてよかった。とりあえず使い方はわかったな」
(スゴーイ、キレイ)
フクちゃんが興奮してファスに飛び移る。そのまま頭までよじ登っていた。
「ありがとうございます、フクちゃん。でも魔力の消費が激しいので乱発はできませんね。せいぜい4、5発が限界だと思います。もちろん鍛錬で魔力の総量を増やせば別ですが、これは威力の調整が必要ですね」
「鍛えるって言っても。流石にこのセーフティゾーンに籠るのも限界があるからな。なるべく早くダンジョンマスターとかいうやつを倒して、このダンジョンから脱出したいな」
「このダンジョンはご主人様の召喚に前後して生まれた、比較的新しいダンジョンなのでまだそれほどボスは強くないはずです。というかあの大きな猿の魔物がボスなのではないでしょうか?」
(ボクモ、ソウオモウ)
やっぱりそうか、ということはここはもうダンジョン最奥の安全地帯ってわけだ。ゲームでよくあるボス前の安全地帯みたいなもんか。
「じゃあ、あのボス猿攻略に向けて作戦を立てるぞ。……ただ、流石に今日は疲れすぎたから休んでからな」
勇者に足場の悪いダンジョンにあのボス猿と連続してがっつり体力を削られてしまった。ファスとフクちゃんも相当疲れている。ここは無理せずゆっくりと休むべきだろう。
結局その日は芋を食べて(ファスの火球は危ないので使わず生で食べた)倒れるように寝た。
次の日、フクちゃんの泡ベッドのおかげでだいぶ回復した体をチェックがてら型稽古をしてみようとすると。
「私にも、基本から教えてください!」
と強く言われたので、前回結局できなかった受け身を教えることにした。
「はい、丸まってー、自分のヘソを見ながら後ろに倒れるー。両手で地面を叩く、すぐ起きる。これの繰り返しだ」
「は、はい」
「後ろ受け身は絶対の基本の一つだからな、それが終わったら、横受け身、前受け身だ。前回り受け身や後ろ回り受け身は今やっている受け身ができてからだな」
「はい、頑張ります」
うーん、重要だが地味ゆえに一番楽しくない受け身の稽古のはずだが、ファスは楽しくてしょうがないというように真剣に取り組んでいた。
(コンナ、カンジ?)
ファスを真似してフクちゃんも受け身をしている、といっても蜘蛛の体なのでコロコロ転がっているだけだ。
そういえば、受け身の稽古なんて真剣にやったのっていつが最後だ? 爺ちゃんも受け身が一番大事だって言ってたなぁ。
というわけで久しぶりに、たっぷりと時間をかけて受け身の稽古をする。
受け身の稽古で疲れたファスは木陰で休憩させ、取り(相手を掴む技)の稽古や打ち技の型を行いながら考え事をこなす。
内容は自分の火力不足についてだ。火力(ダメージ量)という点ではファスの【息吹】やフクちゃんの毒があるが、格闘の経験がないファスに無理をさせたくはないし、フクちゃんはダンジョンでは呪い状態になるため長時間戦えない。当然あてにはするが、僕自身も相手にダメージを与える選択肢が必要だ。
どうしたもんかな、あのボス猿は一回首の急所を思い切り蹴りつけても大したダメージにはなっていなかった。あの巨体を投げる技術は今の僕にはない。やはりフクちゃんとファスに攻撃はまかせて僕はタンクとしていくのがいいな。
打ち技の型が終わり、次は【ふんばり】を使った運足を行う。前後に動きながら手で捌きの動きをする、この動きはギースさんの剣を捌く為のもので【掴む】と【拳骨】を発動させながら攻撃をそらすものだ。
「あの、ご主人様、よろしいですか?」
木陰で休んでいたファスが寄ってきた。
「どうした?」
「あの、ご主人様は今、三つのスキルを同時に意識して操作していますよね?」
「そうだな、といっても常時発動のスキルの強弱を操作しているだけだけど」
「同時に複数のスキルを使っているせいか、強弱のタイミングと体の動きが違和感がありますが、三つのスキルを同時に使うのは本当にすごいことだと思います。さすがご主人様です」
「うっ、確かに。動きに意識が追いついてないけど、なかなか難しいんだよ」
痛いところを突いてくる。確かにわずかにずれるんだよな、特に一番強弱の調整がシビアな【掴む】は一瞬だけ強めて攻撃を掴んでそらし、体勢が崩れる前に離れなければならない為に強弱や範囲の調整が難しいのだ。つまり連続で攻撃が来ると、音ゲーの高速部分のようになりタイミングを間違えて防御を失敗してしまうことがある。勇者の【空刃】が捌ききれなくなったのもそういう理由だしな。
「【掴む】のスキルの範囲はどこまでですか?」
「えーと、最初は手の平だけだったんだが、レベルが上がって今は上腕まで発動できるな」
「掴める範囲は?」
「皮膚からせいぜい10センチくらいかな?」
何が言いたいんだ?
「あの、ご主人様。前々から疑問だったのですが、相手を攻撃するときに【掴む】を発動させることは難しいのでしょうか?
【ふんばり】【拳骨】【掴む】を同時に操作して防御しているなら、攻撃も使えると思ったのですが」
「そりゃあ、あれだよ……どうなるんだろ?」
そういや試したことなかったな。【掴む】は基本的に投げ技と防御にしか使う発想がなかった。
とりあえず近くの、木で実験してみる。
息を深く吸い集中。目を閉じて合掌、開手を中段へ。【拳骨】を発動し体の強度を上げる、後ろ足から【ふんばり】を効かせて踏み込む。
拳が当たる瞬間に【掴む】を全開で発動。
その時の感触をなんと言ったらいいか、一言でいうなら『深い』だった。打ち込んだ力も拳から返ってくる反動も全て掴んで木の幹の中に深く入っていき突き抜けるような、中で炸裂させるような、そんな感触。
ファスの火球のような派手な爆発音はない。ただミシミシと静かに内部を砕く音が拳から伝わってきた。
「ご主人様?」
「見てみろファス」
拳から伝わる感触と音に集中していたせいで、完全に停止していた僕を心配してフクちゃんを抱えたファスが話しかけてきた。
幹から拳を離した、その表面は少し砕けているだけだったが、その上に回し蹴りをする。芯を砕かれた木は殴った場所を中心に折れゆっくりと倒れた。
うん、ファスの火球に比べれば地味だろう。勇者のような強いスキルでもない、でもこれは僕がこの世界にきて積み重ねた努力の結晶。
拳を上に突き上げる、こんなポーズとったの小学校の運動会で一番を取った時以来だ。
「アッハッハ。やったぞ!! ありがとう、ファスのおかげだ」
「はい、すごいです。魔力の操作も完璧でした」
(マスター、エライ)
この技がボス猿に通用するかはわからないが、とりあえずこれでファスとフクちゃんそして僕に攻撃の選択肢が揃った。
……と思っていたのだが。
例:1
「ああああああ、また失敗したああああ」
「今のは、【拳骨】が弱くてはじかれましたね」
例:2
「あれ? 感触が違う」
「多分、【掴む】のタイミングが早かったですね。ただ幹を掴んだだけです」
例:3
「へぶぅ」
「【ふんばり】が遅かったです。滑って激突ですね」
この技(名前はまだない)三つのスキルをシビアなタイミングで発動させる必要があり、結局その日は丸一日スキルのタイミングをファスに見て調整してもらうだけで過ぎてしまった。
ちなみにファスさんは僕に指導しながら【息吹】に使う魔力の制御を完成させ、おかげで晩飯は焼き芋を食べることができましたとさ。
主人公にようやく攻撃の技ができたようです。
当てにならない次回予告です。
次回、ボス猿と戦闘します。
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