第二百六十四話:穴掘る英雄
この状況で戦闘は避けたい。
「一旦隠れますフクちゃん。錠前の固定できるか」
「わかった」
ミーナさんとモグ太を抱えて飛び上がる。フクちゃんが糸で扉が開かないように固定して。ハルカゼさんを抱えて僕に糸を伸ばす、掴んで、一気に引き上げた。
ほどなくしてリザードマンが四頭、牢屋の前に立って中を確認した。残された三人のエルフを見て、踵を返し、詰所へ戻っていく。天井で安堵の息を吐いた後、ゆっくりと降りた。三人のエルフに話を聞く。
「先程のリザードマン達はいつも見張りでいたリザードマンです。砦に吠え声がしてどこかにいったのですが、戻ってきたのでしょう」
移動が不安なエルフ達を連れて、牢屋を出て天井を移動するしかないな。
「マスター、あれ見て」
「ん? うえぇ!?」
牢屋の上に空いた通気口から、うっすらと緑の煙が出ていた。幸いリザードマンは気にしていないが、なんだあれ?
「『痺電蟲』の死骸を焼いた煙だ。リザードマンには効果は薄いが他の生き物ならば一吸いで体の自由が奪われる。通気口を移動していることがバレたな。城伯以外に裏切者は私は見なかったが、他にリザードマンに指示している者がいるのか。地下で儀式を行っている連中かもしれない」
ハルカゼさんが忌々しそうに歯を食いしばる。
「でしたら、正面突破です。詰所のリザードマンを倒して、正規の通路から王族が使う隠し通路まで行けば下層まで一気に行けます!」
「ミナ……ミーナ様。砦にはリザードマンは百体以上はいるでしょう。流石に同時には相手できません。どうすれば……」
不安そうにエルフ達が顔を合わせている。だけど、策ならある。
モグ太を見ると、僕と同じ答えなのか凛々しくこっちを見ていた。
二人で頷いて、一歩前へ出る。
「僕等の出番だな。ミーナさん、その王族の通路に合流できる方角はわかりますか?」
「っ!! そうですわ、その手がありましたの……こっちです。この壁を100mほど掘れば、合流できます!」
アイテムボックスからツルハシを取り出して肩に担ぐ。
「行くぞっ。モグ太! フクちゃんは見張りを頼む。必要があれば、毒で行動不能にして欲しい。応援にだけ注意してくれ」
「了解、マスター。がんばってね」
「モグッ!」
一人と一匹でツルハシを構える。幸い、砦中が大騒ぎなので音は問題ないだろう。
「待て、穴を掘る気か? 無茶苦茶だ。ここは牢屋だ。特に固い岩や鉱石で囲まれている。さらに結晶に変異した部分だって多分にある。穴を掘ってもそこに当たれば突破するのは不可能だ!」
ハルカゼさんが僕等を止めるが、その横で何故かミーナさんが勝ち誇った顔で胸を張っている。
「ハルカゼ。言いましたよね。私達は穴を掘って侵入したのです」
「ですが、この場所は前面の中でも特に結晶化の影響を受けているのです。結晶化した場所を回避して穴を掘り進めるのは無理なのです」
「私達が侵入したのは、砦の背面ですわ。結晶化された壁しかない場所ですの」
「へ!? そんな馬鹿な!!」
「シンヤ殿、モグ太。見せておやりなさい。私達に突破できない壁はないことをっ!」
かっこよく手を振って、指示されてしまった。アラホラサッサーとか答えてしまいそうだ。
ま、じゃあ……見せてやりますか。再度ツルハシを振りかぶり、叩きつけた。
通常の掘り方ではない、一心不乱、鍛えた一撃にて一気に岩盤を砕く。【掴む】で広範囲を掴んで破片を後ろに移動させる。
「モグっ!!」
モグ太もツルハシを掘って岩を砕いていく。
「さぁ、やりますわよ。シンヤ殿、カゴを出してくださいまし」
ミーナさんにフクちゃんが編み込んだカゴを渡すと、破片を入れてさらに運び出していく。
「この速度は……ミーナ様。そのようなことは私がやります。お前達何を見ている、さっさと手伝え」
「「「はい」」」
「待つのです。皆、疲れているのでしょう、まずは休むのです。水筒と食料を渡しますわ、干し肉なので消化に悪いですけれど、水でふやかしてゆっくりと食べるのです。一定間隔でポーションを飲めば大分回復できますの」
「しかし、このような雑事を任せるわけには」
「何を言っているのです。これは私の唯一の役目なのです。今まで何もかもを任せていたこの私の、初めてのお仕事ですの」
「ミーナ様……」
ハルカゼさんを含むメイドエルフ達が休憩している間、見張りをしながらフクちゃんが通路を補強し、穴を隠蔽できるように粘着質のある糸で幕を作り破片をくっつけることでカモフラージュした。一度工程が固まれば後は掘りまくるだけだ。
「モグゥウウウウウ」
「オラオラオラオラ」
ある程度通路が進めば、音を気にせず掘り進められる。二時間ほどガンガン、ゴンゴンと掘り進めていくと、不意にツルハシが弾かれた。40mほど進んだくらいだが、どうやら結晶壁にぶち当たったらしい。だけど、やることは変わらない。
「あっ、二人共。ちょっと待つのです。皆、こちらへ来てくださいまし」
勢いをつけようとすると、破片を運んでいたミーナさんが休憩中のエルフメイド達を呼んでしまった。
リザードマンはフクちゃんが見張っているだろうけど、怪しまれないようにこっちには来てほしくないんだけど。
「結晶壁。やはり……」
エルフメイドが紫の結晶を見て、絶望的な表情を浮かべるが、ミーナさんは腕を組んでニヤニヤしている。えと、掘ればいいんだよな?
ツルハシを構え、集中。握るツルハシに熱が通るように。己に向かい合い、力を真っすぐに練り上げる。
「応ッ!」
「モグッ!」
重たい氷が砕けるような音がして、結晶壁が数センチ砕ける。
後ろでメイドエルフ達が息を飲んだ音が聞こえた。
構わず、再度構え、より深くツルハシを突き刺す。
「本当に、結晶壁を砕いているのか……信じられない」
「す、すごい」「わぁ、凄い筋肉」「ほわぁ」
「見ましたか。凄いでしょう! 皆、この光景を覚えておくのです。全てが終わった暁には吟遊詩人に詩を作ってもらい、このことを国民に知らしめるのです。私は絵も描くつもりですの」
ミーナさんが両腕をブンブンと振りながら力説していた。何、アホなこと言ってんだ。
「いいから、破片を運んでください!」
「ピィ、わ、わかりましたですの。皆は牢屋に戻るのです」
というわけで、その日は結晶壁のせいで掘り切ることができず、通路を70mほど掘ったところで一度休憩をはさんだのだった。
死線、リトルオーガ、宴会芸人、盗賊、穴掘り職人:new
これでも主人公なんすよ。
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