第二百五十八話:砦に蔓延る悪意
制圧した解体場で一息ついた後。入り口から周囲を覗くと、上に吊り橋が見える。
【結晶竜】が通るために吹き抜けになった砦の後ろ側は、唯一包囲されていない砦の外側から食料や物資が運ばれているようだ。壁沿いにせり出した通路や吊り橋は砦の前面に通じているのだろう。
「おおよそは描き上げました」
ミーナさんとモグ太は先程まで僕とフクちゃん相手に震えていたが、すぐに立て直して外観と内部の情報を擦り合わせて地図を作っている。
「よし、じゃあ移動しよう。この場所はフクちゃんが掃除してくれたけど、他のリザードマン達が来る前には動きたい。向こう岸まで移動して、吊り橋の陰に隠れるように上に昇ろう」
「モグッ」
「どうやって向こう岸までいくのです?」
「僕とフクちゃんは少しなら空中を移動できるから、普通に二人を背負って移動できます」
「そう言えば、森を移動するときに飛んでいたような……驚きを通り越して呆れますわ」
嘆息するミーナさんを抱きかかえ、モグ太を背負って【空渡り】で解体場から吹き抜けを飛び越して向かいの通路へ着地。
「よし、後は上の様子が分かればいいけど……」
「ボクがいく、マスターは待ってて」
フクちゃんが子蜘蛛の姿になって壁を登っていく。吊り橋が続く通路に何体リザードマンがいるのかわからないのが怖いな。まぁ、フクちゃんなら大丈夫か。
(いいよー)
念話が飛んできたので、二人を背負って壁を登る。【ふんばり】と【掴む】のレベルも上がっているので、歩くように壁を登れるぜ。
「虫か蜥蜴のようですわ」
「モグ~」
「せめて、猿くらいにしてくれません?」
向かいにもリザードマンの影がないことを確認して通路に入ると、三体の通常種ではあるが武器を持ったリザードマンが泡を吹いて倒れていた。
「いただきまーす」
少女姿になって、掃除機のごとくリザードマンをズゴゴゴと食べていくフクちゃん。本当に物理法則どうなってんだろ?
……なんだろう、彼女だけでこの砦落とせそうな気がする。
「ケプっ、お腹いっぱい」
「流石に限界か。ここからは僕の【鈍麻】で思考を鈍らせながら進むか。紫鱗種には呪いの効果が薄いから、そこは避けて進もう」
「……冒険者というよりは暗殺者の方が向いていますの。それはそうとして、やはりここからは通路の拡張が行われているだけですわ。これなら、大体の場所はわかりますわ。牢は正面の城壁に繋がる通路の下にあります。人質の位置が分かれば、脱出ルートも考えることができます」
俄然やる気をだしたミーナさんが案内をしてくれる。ところどころリザードマンがいたが、天井を這いまわったり、【鈍麻】で思考力を奪って通り抜ける。吹き抜けになっている場所と違って通路も原型が残っているので、大きな体躯である紫鱗種はいないようだ。
客間、武器庫、指令室、詰所、貴族が止まるような豪奢な部屋もあるな。この辺の部屋は綺麗なままになっている。エルフの建築らしく簡素で木材が多く使われているようだ。
虫を使った明かりもあるし、このまま人も住めそうな印象である。
「おかしいですわ」
リザードマンを避けて通路を進んでいるとミーナさんが首を傾げていた。
「何がです?」
「いくらなんでも綺麗すぎですの。人型とはいえ、所詮は魔物。リザードマンにここまで施設を管理することはできませんわ。普通は砦の後ろ側のように、壁にでも穴を掘ると思いますわ。これではまるで……エルフがそのまま使っているような……」
「誰か、いるよー」
「っと、天井に昇ろう」
ミーナさんとモグ太を抱えて天井にへばりつく。ちなみにフクちゃんは裸足で逆さまに立っています。ちょっとホラーな光景だな。天井はかなり高いので、下からは意識しないと気づかれないだろう。
通路の先からリザードマンとは違う靴の音、それに怒鳴り声が聞こえてきた。
「まだ【結晶竜】はダンジョンマスターになることはできんのか! 日に日に押されておるのだぞ。件の勇者もたどり着くというのに……冒険者ギルドに潜り込ませている『蛇の使い』は来れんのか?」
「A級冒険者の行方を探るために、今はエン・アルボソに潜伏しているようです。件の冒険者はそこを経由したとのことです」
向かってくるのは、金の刺繍がほどこされた衣装を着た老齢のエルフ。
その後ろにフード付きのローブを来た小柄の者だ。声は男性のものだがどこか掠れているし、種族はわからない。
「……あの男、嘘ですわ……」
ミーナさんが青ざめた表情で口元を抑える。目線で続きを促すと、耳打ちをしてきた。
「この砦の城伯ですわ。てっきり囚われているとばかり……。あの痴れ者っ、リザードマンと通じていたのですのね。……こんな…こんな屈辱、ありませんわ」
唇を噛み、悔しさに震えている。涙が一滴落ちるが、手のひらで受け止めた。
「涙を落とさないでください。……砦が落ちたのも納得だ」
リザードマンがどうやって砦に入り込んだ答えは単純だった。
砦の管理者が手引きしたということだ。それに、冒険者が待機しているエン・アルボソに潜伏している?
【アルタ・リゴノ】でカルドウスの手先を殺した奴と同一犯か?
くっそ、ファス達とタイミングを合わせて砦を奇襲しようにもスパイがわからないと身動き取れないぞ。
「とりあえず、あの城伯をつけましょう。何かわかるかもしれません」
全員で頷き。城伯をつけることにした。
やっと、物語が進んできました。真也君はもはや壁をG並みに移動することができます。
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